04 勇者と聖剣
「光の鎖」
呪文を詠唱し、聖剣にぶら下がってないほうの手から光魔法を発動、 魔力を鎖状に構成し、ミモザ目掛けて射出した。
「対して威力のなさそうな光魔法にしか見えぬ」
「あまり油断しない方がいいぞ」
軽口のようだが、二人とも探りを入れあっている。
どういう種類の魔法をどういう意図で出しているのか、一見わかりづらい魔法を出したからな。
ミモザは大鎌ではじこうとしたが、何かを感じたようで大鎌を引っ込め、向かってくる光の鎖を黒翼をはためかせてかわした。
「ふふふ、大方、鎖でわらわの大鎌を巻き取ろうとしたのであろう?
それくらいお見通しなのだ」
光の鎖はミモザの横を通り抜け、柱に突き刺さった。
「ミモザ、やはり引っかかってはくれないか。
だが、まだまだだ!」
オレは光の鎖を左手でミモザ目掛けて数発放つ。
「時間稼ぎのつもりなのか?
こんなもの!
わらわが先ほど難なくかわしたのが見えなかったのか」
ミモザは冷静に上下左右に浮遊して、危なげなく光の鎖をかわし続けた。
オレはさらに数発光の鎖を放つが、それもミモザは最小限の動きでかわした。
「魔力の無駄だぞ、テオ」
ミモザは深紅の大鎌を上段に構えた。
「そろそろ、わらわの本気を見せようか」
「ははは、それは困る」
オレは深呼吸をした。
今から、魔王を倒すために。
「場が整ったぞ、ミモザ。
お前が本気とやらを出す前に倒すのがオレのシナリオだ」
「場だと……そうか。
先ほどの魔法は攻撃魔法ではなかったのだな」
ミモザはあたりを見渡す。
「すべて鎖を柱に結び付けておったのか。
翼をもたぬそなたが奈落に対抗するための、これがそなたの足場か、テオ」
ミモザの質問に答えず、オレは力を込めて天井から聖剣を引き抜いた。
天井から光の鎖へ着地し、ミモザ目掛けて光る鎖の上を疾走する。
後ずさるミモザの近くの柱目掛けて再び光の鎖を穿ち、魔力で鎖を巻き取って一気にミモザとの距離を詰める。
その勢いに任せてミモザに飛び掛かり、肩口目掛けて斬撃を繰り出す。
「はああああっ!」
「くっ……」
間近に迫ったオレを目掛けてミモザは大鎌を振るが、懐まで潜り込まれた状態では、取り回しやすさで剣の方が分がある。
斬撃を途中で止め、オレは大鎌を難なく体さばきで躱すと、すぐにミモザ目掛けて斬りかかった。
「ぅくっ……」
ミモザは左翼を斬りつけられ、切り離された黒翼の一部が奈落へと落ちていった。
「今だッ!」
一旦、張り巡らされた光の鎖に着地したオレは、追い打ちをかけるべく飛び上がって苦痛に顔を歪めるミモザ向かって斬り上げた。
ギィィィン
辛うじて大鎌で受け止めたミモザは渾身の力を込め、オレを吹っ飛ばすと距離をとるため後退した。
吹っ飛ばされたオレは空中で回転して、光の鎖の上へ着地する。
ニヤリと笑うと左手に力を込め、ミモザを取り囲む光の鎖へ貯めておいた魔力を一斉に発動させた。
小さな稲妻が今にもミモザに襲い掛かろうとバチバチと音を立てている。
「光の鎖に魔族に効く光魔法を収束させたものだ。
ミモザ、たとえお前であっても痛いどころじゃすまないぞ」
「フフフ、よく考えてあるな。
この光鎖は、そなたの足場であり、わらわへの檻か」
「ふん、オレには翼がないんでね。
お前にも不自由な思いをしてもらいたくてな」
顔をしかめるミモザであったが、瞳は輝きを増しており口角は上がったままだ。
よっぽど、オレとの戦いが楽しいのだろう。
「これで終わりだ」
オレは鎖から鎖へ跳躍し距離を詰めると、聖剣を振りかぶり、ミモザ目掛けて突撃した。
詠唱を終えていたミモザは、オレへ目掛けて闇魔法を放つ。
直撃を避けるため、俺は足を止めた。
オレとミモザの間には、闇魔法で作られた黒い棺がたちはだかっており、棺の頭部には瞳を閉じた少女の顔が描かれていた。
「食い破れ、鋼鉄の処女!」
ミモザの号令によって突如、黒い棺は裂け、中から飛び出した無数の影がオレを襲った。
床を奈落と化した影に触れられてしまえば、一瞬でオレも消されてしまうだろう。
「はああああああ!」
オレはとっさに聖剣を光の鎖に突き立て、鎖から光魔法を吸収して盾とした。
無数の影は光の魔力によってかき消されていくが、黒い棺からは、無数に影が飛び出していて、オレの方が先に魔力が尽きそうだった。
魔力を補充するため、あたりに展開していた光の鎖を巻き取る。
その光鎖を聖剣に巻き付け、巨大な光の剣を作り上げた。
その光の剣を上空へ放り投げたオレは、空高く舞い上がって光の剣を握りしめると、急降下。
黒い棺ごと、ミモザへ必殺の一撃を放つ。
「闇を斬り裂け、聖光十字!」
「……くっ……」
強い光があたりを包み込むと、黒い棺は消え、ミモザは衝撃波で吹っとんだのか、翼を折られ壁にめり込んでいた。
「はあ、はあ」
何とか柱にしがみついたオレは、息は上がっているが、まだ気は抜けない。
相変わらず床は奈落のままだから、壁か、柱にしがみつかなければならないのだから。




