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34 元勇者、ハメた奴を爆破する

「ウフフフフ、切り札がバレてしまっては仕方ありませんねえ」


 ヒューゴーはオレの方に向き直り、どっかりと座った。


「もう、私のできることは残っておりません。

 さあ、私の首をはねてください」


 ヒューゴーは魔導士たちを抑えられ、ギルも倒されて、抵抗する気を失ったようだ。


「……そうだな、殺す前にお前の知ってることを話してもらおうか」

「いいですよ、何のことですか」

「嫌に素直だな」

「ウフフフフ、もうすぐ殺されるのですから意地を張っていても仕方がないですからねえ」


 ヒューゴーは余裕のある微笑みを浮かべている。

 ……何かまだ手を残してそうだが……油断だけはしないようにしよう。


「ホワイト公の真意を確認したい」

「では、話してあげましょうか。

 ホワイト公がどんなにあなたを嫌っているのかを」

「お前の曇り眼鏡をかぶせた話は信用ならない。

 オレの質問に端的に答えろ」

「あらら、残念。

 私の口上で、テオさんを感動の嵐に包んであげましたのに」

「無駄口を叩くな」


 ヒューゴーはやれやれと両手をあげた。


「勇者会議の昼食中、お前はペルルノワールでホワイト公と何を話した?」

「何をって、それは教えられませんねえ。

 ホワイト公に怒られてしまいます。

 あの方は恐ろしい人ですから」


 ヒューゴーがオレの質問に正直に答えるはずがない。

 ただ、ヒューゴーもホワイト公がオレと面会すらしていないとは知らなかったのだろう。


「そうか、ホワイト公はオレの意見に反対するため、勇者たちを口説いて回ったのか」

「……」

「答えろ」


 ヒューゴーは口をつぐんだまま、話そうとしはしなかった。

 何か企んでやがるな。

 手と足の動きを確認する。

 手足で魔法陣を描いた様子はない。


 何か仕掛けられているか、周りを見渡した。

 クソ、何を仕掛けているって言うんだ。

 

 オレはヒューゴーの周囲を切り刻んだ。


「何をした、ヒューゴー!」

「……」

 

 ヒューゴーは無言で自身の耳を指さした。

 耳からぶら下がっているイヤリングには、丁寧に装飾が施され、赤い大きな宝玉が埋め込まれていた。


 「イフリートの護宝石」。

 炎を吸収し、持つ者の炎耐性を最大にしてくれるという宝玉だ。

 オレが火炎竜を倒した時に、シアドステラへ持ち帰ったものだ。


 そうか、ヒューゴーが自分の魔法をはねされたとき、やけどを負わなかったのも、護宝石の効果か。


 突如ヒューゴーが口を開けると、口の中から魔法陣が光を発していた。


「まさか、舌で魔法陣を描いたのか!」

「そうれ!」


 ヒューゴーの舌から魔力が射出された。


「ひゃははははは、油断しましたねえ、テオさん!

 舌で書いた魔法陣でも、切り札の爆炎魔石を起動させることぐらいできるんですよねえ!」


 ヒューゴーは自分の作戦通りに進んで愉悦の表情を浮かべていた。


「この距離だとお前も巻き添えを食うぞ」

「何のためのイフリートの護宝石だと思ってるんです?

 テオさんは致命傷を負うでしょうが、護宝石に守られた私は平気ですからねえ」

 

 ヒューゴーは自分の護宝石を奪われないようにしっかりと守った。


「ウフフフ、今から私の護宝石を奪おうとしても無駄ですよ、もう爆破する時間ですから、ほら、3、2、1……」


 あたりには静寂が訪れた。


「あ、あれ?

 爆発しません!」


 特大の爆炎魔石は、うんともすんとも言っていなかった。


「な、なぜなんですか!

 私は、確かに爆炎魔石を起動させる魔法を唱えましたのに」

「あたりをじーっとよく見てみろよ。

 お前の魔力が乱反射してるぜ」

「な、なにを馬鹿なことを……

 これは!」


 ヒューゴーは唖然としていた。


「私の周りを、さっきの魔力が反射している。

 何ですか、これは!」

「ようやく、気づいたか。

 爆炎魔石を起動させるわけないだろ。

 お前はオレの魔法≪光の牢獄(ライトニングジェイル)≫で四角い箱に囚われてるんだよ」

「ば、ばかな!」

 

 立ち上がろうとヒューゴーは頭を抑えてまた座り込んだ。


「何かにぶつかって、た、立ち上がれない!

 まさか、私が舌で魔法陣を描いていたことに気づいていたというのですか?」

「いや、それは気づかなかった。ただ、何かしてくることはわかってたから、念のため≪光の牢獄(ライトニングジェイル)≫をかけておいた。

 お前が何か魔法を使ったとしても、すべてこの牢獄内で反射するだけだ」

「いつのまに……」

「さっき、剣でお前の周りを闇雲に斬ってただろ?

 あのときだよ」

「ただ、腹いせに斬っていたのではなかったのですね」

「まあな。

 一つ、聞かせろよ。

 オレがシアドステラに献上した物品をどうしてお前が持っている?

 そうだ、お前がさっき使っていたその杖もその服も……オレがダンジョンから持ち帰ったものだよな?」

「ウフフフ、あなただけですよ。

 決まり通り、ダンジョンから持ち帰ったものを献上していたのは。

 他の勇者たちはすべて腹の中に納めていましたよ?」

「それは知ってる。

 だがな、なぜお前が持ってるかって聞いているんだ」

「簡単なことです。

 ホワイト公から買いました」

「なんだと?」


 自分の中からふつふつと怒りがわいてくるのが分かった。


「ねえ、テオさん。

 そんな怒らないでくださいよ、そうだ。

 すべてホワイト公が悪いんですから」

「何のことだ?」


 うまく行けば、助かるかもしれないと思ったのか、ヒューゴーは笑みを浮かべて嬉々としていた。


「あのお方はね、テオさんのおかげで魔王軍まで攻め入れたことをすべて自分の手柄にしていました。

 そして、テオさんから献上させた品物を、王や要人に送り、残りは我々や商人に高額で売っていたんですよ」

「オレは持ち帰った品物は、すべて復興のために使われると聞いていたぞ」

「ふふふ、そしてテオさんの戦功と、鹵獲品や取得物でどんどんと力を蓄えていったのです。なんせ、勇者隊の鹵獲品の半分以上がテオ隊が手に入れたものなんですからね」


 ヒューゴーは朗々と話し出した。

 先ほどは、話を渋っていたくせに。


「ですがね、民衆は愚かではなかった。

 国中の盗賊をせん滅し、魔王軍を破竹の勢いで攻めあがるシアドステラ軍の中で、誰が本当の英雄かをわかっていました。

 私腹を肥やさず、宝物を王国へ献上し、平民と貴族の階級の差をなくそうとしていた英雄テオ。

 そして、このまま魔王を倒せば、民衆はだれを王に臨むと思いますか?

 今の王の子はいまだ小さく、後見にはホワイト公が就くと目されています

 わかりますね、テオさん。

 あなたはホワイト公の邪魔者だったのですよ」


 心底、動揺してしまった。

 ホワイト公に裏切られたと、初めてオレは思ったのだ。


 オレの案をつぶされ、魔王軍へスパイとして贈られた時も、ヒューゴーやライオネルのことは許せなかったが、ホワイト公からの命に背いた罰を受けるのはある意味当然だと思っていた。

 筆頭勇者に命じてくれたホワイト公へ、魔王ミモザの首を差し出すことが、オレの使命であったはずだから。


 オレは一時期、ホワイト公に心酔していた。

 平民であるオレの身分にかかわらずオレを重用し、前例破りの大抜擢で筆頭勇者にしてくれたのは、ホワイト公だった。

 二人きりでご飯に誘われた時には、二人で理想国家を語り合ったものだ。

 

「オレはホワイト公に利用されていたのだな」

「ええ、それはもう。

 間違いありません。

 私と同じように、ホワイト公に利用されていたのです。

 さあ、テオさん。

 私と手を組みましょう。

 ホワイト公を打ち倒せるのは、私とあなたしかいないのですから」


 オレは≪光の牢獄(ライトニングジェイル)≫を解いた。


「立てよ」

「テ、テオさん!」


 ヒューゴーは、立ち上がり嬉しそうに走り寄ってきた。


「まあ、待てよ。

 とりあえず、ピアスと杖……あとその服返せよ」

「テ、テオさん?」

「元はオレがダンジョンで手に入れたものだよな?」

「は、はい……」


 ヒューゴーはいそいそとピアス、杖、そして着ていた服を脱いでオレに渡してきた。


「じゃあ、こっち来いよ」

「は、はい」


 ヒューゴーはオレの言う通りてくてくとついて来た。


光の鎖(ラインニングチェーン)


「ぎゃああああ!」


 ヒューゴーは光の鎖に巻き取られて魔導士と同じように爆炎魔石へぐるぐる巻きにされた。


「な、何をするんです!」

「テオ・リンドールは、ホワイト公の指示に従い、ヒューゴーの支援を行った。

 だが、ヒューゴーは牙爪隊の攻撃を受け、気絶。

 魔導士ともども縛り上げられたヒューゴーは、誇りと共に自爆を選んだ」

「な、何を言ってるんです!」

「ホワイト公に目にもの見せてやるためには、まだまだスパイの振りをする必要があるんでね。

 ヒューゴー、お前はオレのシナリオに利用させてもらうぞ」

「ふ、ふざけないでください!

 それにテオさん、あなたには爆炎魔石に起動はできませんよね?

 さ、さっさとバカなことはやめて私を解きなさい」

「できるぞ?

 たしか、こう……だよな」


 オレは剣で空中に魔法陣を描いた。


「な、なぜあなたがその魔法陣を知ってるのです!」

「さっき、ヒューゴーが口を開けたとき魔法陣が見えただんだ。

 残念だったな、オレは魔法陣くらい一回見たら覚えられるんでね」


 ヒューゴーの顔が引きつった。


「え、えっと……脅しですよね?

 テオさん、あなたも爆撃を受けますよ?」

「……これでいいんだよな?」


 「イフリートの護宝石」を右耳につけた。

 さて、オレの本気が伝わったと思うけど?


「い、いやだ、やめてください、テオさん、テオさん!」

「お前が遊びながら殺した獣人たちも、そう命乞いしてただろ?」


 左手で風の魔法陣を描いて、くくりつけられた者たちごと、天井を突き破って遥か高くに飛ばす。


「た、助けてくださああああああい」


 ヒューン。


 上空に飛んだ爆炎魔石を、起動魔法が追っかけていく。


 ドオオオオオオオオン!


 ものすごい音で、大爆発が起こり、血肉や魔石のかけらが流星のように飛び散っていた。


「終わったぞ、エミネ」

「むにゃ……テオ……頑張って」


 はは、エミネ。

 お前寝てるのかよ。

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