33 元勇者、光魔法で無双する
「エミネ、お前は眼をつぶってくれればいい」
「え?」
オレはエミネに近づくと耳打ちをした。
「オレに任せてくれたらいいから」
「ひぁう。
うう……だから、あたしは耳は弱いって言ってるでしょ……」
「はは、悪い」
「でも……分かったわ。
テオが任せろって言ったときは、ちゃんと大丈夫なのよね。
あたし、テオのこと信じてるから」
エミネもオレに耳打ちをしてきた。
「言うとおりにするわ」
エミネは文字通り目をつぶった。
「みなさん、テオに向かって魔法を放ちなさい」
「え?
でも、街の監視と破壊をしなくては。
あと少しで獣人の集団を罠にハメれるのです!」
ヒューゴーの部下の魔導士はギラギラとした瞳で、罠で獣人を殺すゲームを楽しんでいた。
「そんなの後です。
モタモタしてると、テオに殺されますよ!」
「いや、でも……ぎあああああ」
タタ……スパン。
モタモタしている魔導士を走って近づき袈裟斬りにした。
「い、いつの間に、ここまで来たのです!」
ヒューゴーはすぐ隣の魔導士を斬られて慌てていた。
「く、くそ!」
ヒューゴーは細剣を抜き放った。
「み、みなさん。
私が時間を稼いでいるうちに、皆で一斉攻撃するのです!」
魔法陣にいた魔導士たちは慌てて杖を持ち、オレに向かって一斉に魔法を唱えだした。
魔法陣が二つあるから、近づいて一つ潰している間に、片方から魔法を食らってしまいそうだな。
エセルが気絶している今、オレをテオ·リンドールだと知らないものはいない。
思う存分、光魔法で暴れてやろう。
≪光の鎖≫
オレは手早く呪文を詠唱し、両手の10の指から光の鎖を飛ばす。
うなりを上げて飛んでいく鎖は、魔道士たちの魔法の詠唱が完成する前に魔導士たちの体を縛り上げた。
「「ぐぐ、ぐああああ!」」
「お前ら、ちょっと大人しくしてろよ!」
オレは気絶した魔導士たちを白布の下へ飛ばし、特大の魔石に光の鎖でくくりつけた。
「な、何をやっているのです!
その魔石に攻撃したらゆうば……」
ヒューゴーはなにか言葉を言いかけて、慌てて口をつぐんだ。
「ゆうば……その次の言葉はなんだよ、ヒューゴー」
「う、うるさいですよ!
そんなことより、エミネさん!
テオが裏切りました!
さあ、テオをさっさと攻撃しなさい、それがあなたの仕事でしょうが!」
「え?
今、何か起こってるっていうの?
私は知らないわ」
「エミネさん、あなたの姉はヒューゴー公の庇護下にあるんですよ。
それを忘れたって言うんですか。
さあ、テオを攻撃なさい。
透明になれるあなたであれば、さすがのテオさんだって警戒せずにはいられませんからね」
「ヒューゴー。
あなたは騒ぎ立てるけど、私には何も起こってないようにしか感じないわね」
「何言ってるんです、あなたの眼には呪いがかかってるんですよ、見たものすべてをヒューゴー様に報告させられてしまう。
さあ、今のうちであれば、私が許してあげますから、裏切者のテオを殺しなさい。
エミネさん!」
「ふふふふ、呪いの眼ね。
なんて言う厄介な呪いをかけられたものだって思ったけど……。
ヒューゴー、私はさっきから言っているでしょ?
私は何も見てないわ」
「ふざけないでください!」
怒ったヒューゴーはエミネに歩み寄った。
そこで初めてヒューゴーはエミネの表情をまじまじと見た。
「……眼をつぶっているですって?
エミネさん、あなたね、そんな方法でホワイト公と私を欺けると思ってるんですか!
でも、そうですか。
あなたが目をつぶるなら、私にも考えがありますよ。
私の魔法に焼かれながら、いつまで目をつぶっていられますかねえ?」
ヒューゴーは細剣で空中に魔法陣を描き、エミネに向かって炎魔法を唱えた。
「死になさい、エミネさん!」
≪火爆破≫
今にも爆発しそうな火球がエミネに向かっていく。
≪光の幕≫
エミネの前に光の幕を発動させた。
術者の魔力によって、魔法を軽減させたり、反射したりできる。
もちろん、ヒューゴーの魔法なんてはね返すぞ!
エミネめがけて飛んでいった火球は光の幕にあたると、勢いよく跳ね返りヒューゴーにぶち当たった。
ドガーン!
「ぐぎゃああああああ!」
ヒューゴーは爆発に晒されたが、光の幕に守られたエミネには傷一つなかった。
「大爆発してるのに、目を開けないなんて偉いぞ」
「うん、あたしテオのこと信じるって言ったでしょ」
「ありがとう」
「……もう少しだよね、頑張って」
「ああ、任せろ」
さて、そろそろヒューゴーにはけじめをつけさせてもらおうか。
「立てよ、ヒューゴー。
地面に寝ころんだまま串刺しにされたいなら、オレは別にかまわないけどな」
ヒューゴーはじりじりと後退しながら、ゆっくりと立ち上がった。
あれ、ヒューゴーが爆破魔法を食らったのにやけどになってない。
エミネに使った魔法は脅しのつもりだったのか?
それにしては、派手な爆破音がしたが……
「……ギル、何してるんですか。
あなたは私が雇った傭兵でしょう?
さあ、テオと戦うのです!」
ヒューゴーはヒステリックに叫んだ。
「……マジか。
ははは、オレの雇い主はひどいもんだぜ。
元筆頭勇者のテオと、1対1で戦えって命じやがる」
「やめといたほうがいいぞ、勝ち目はない」
「そうだろうな。
ただな、オレは傭兵だからよ。
自分で戦う相手を選べねえ。
死ぬときは死ぬんだ。
死んだら、割に合わない仕事だったなって笑うだけだ」
ギルは大剣を振りかぶった。
「それに1対1でテオにやられたってんなら、あの世で自慢できるってもんだ」
「やれやれ見た目に見合わず真面目な傭兵だ……わかった。
来いよ」
「ははは、胸借りるぜ、元筆頭勇者!」
ギルは跳躍して斬りかかってきた。
剣を足運びのみで回避すると、ギルの突撃の威力を生かしてカウンター。
掌で顎を突き上げ、脳天に衝撃を与える。
「ぐあ!
ぐ、ぐううう……」
ギルはぐらぐらする頭を支えきれず、膝から崩れ落ちた。
「……ははは、強いな。
魔法どころか、剣すら使わせていないのに、負けるとはな。
斬れよ、オレは負けたんだ」
「お前はエセルを斬らなかった。
だから、オレも斬らない」
「ははは、勝ち目がない相手でも戦わないとよ。
獣人の子どもに笑われるからなあ」
浅黒い皴の入った顔で、ギルは笑った。
「ぐ……あら、もう座ってもいられねえや」
「脳を揺らしてるからな。
起き上がれなくなるはずだ。
しばらく寝てろ」
「……へへへ、そうさせてもらうぜ。
テオの旦那」
地面に突っ伏したギルを置いて、ヒューゴーの方へ向かう。
「鎖が外れない、外れて!
外れてください!
あなたたち、呑気に気絶してる場合じゃありませんよ!」
ヒューゴーは魔石にくくりつけられている魔導士の鎖を解こうとしてるようだ。
「お前の力じゃ外れないぞ」
オレは≪光の鎖≫から電撃を発生させた。
「「ぎゃあああああああ!」」
ヒューゴーと魔導士たちすべてに電撃が走った。
「あ、ヒューゴーだけに攻撃しようと思ってたのにな。
鎖がつながってること忘れてた」
「何するんです、誘爆したらどうするんですか!
……あ」
ヒューゴーは露骨にしまったという顔をした。
「そうか、こいつがお前の切り札だな」
特大の魔石は赤い光りを放ち続けていた。




