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31 爆炎の勇者、味方ごと爆破する

 手錠をはめられたまま、ヒューゴーと話をつづけた。


「ふん、お前が仕組んだことだろうが」

「あれ、テオさん。

 あなたの人望のなさを、すべて私に転嫁するつもりですか」


 ヒューゴーは、オレを挑発するように笑っていた。


「まあ、今のキミはホワイト公のただの駒です。

 いじめるのは、やめてあげましょうか。

 そして、そのホワイト公から、君は私を支援するように申しつかったはずです。

 違いますか、テオ」

「……」

「へ・ん・じ・は?

 あらら、平民って人種は、返事もできないのですか?」


 正直、いますぐに息の根止めてやりたいが……

 エミネのことが頭に浮かんだ。

 ……今は我慢するしかない。


「ふう……そうだ。

 オレはホワイト公から、お前の支援をするよう言われている」

「ウフフフ、はい。

 よろしい。

 あー、せいせいします。

 クルトの街攻略にあたって、テオさんと組まされてから、ほんっとイライラしてたんですよね。

 テオさんが私に向かって偉そうに、命令するから。

 これからは、私があなたに命令しますからねえ。

 ウフフフフ、何をしてもらいましょうかねえ」


 心底嬉しそうにヒューゴーは笑顔を浮かべていた。


「何ですか、その目は、反抗的ですよお、テオさん。

 あ、そうそう、私ホワイト公から伝言をもらってまして」

「もったいぶるなよ、早く話せ」

「はいはい、話してあげましょうね。

 ホリン村の皆さんは元気にしているようだ、と伝えてくれと言われました」


 ……どうして、ホワイト公は、わざわざオレの生まれ故郷の話をする?


「ウフフフフ、いやあ、ホワイト公は、さすが政治の荒波に揉まれながら、大臣まで至った方のことだけはありますね。

 テオさんのことをよーくご存じでいらっしゃる。

 あなたに対する重しは一つだけではありませんよ?」


 ……あえて、名前を出したってことは、裏切ったらどうなるかってことを暗に伝えてきたってことか。


「ホリン村に何かしてみろ、必ず報いを受けさせるぞ」

「何ですか、その目。

 テオさん、あなた立場わかってますか?」

「立場なんか関係ない。

 お前とホワイト公の首の話だろ」

「ウフフフフ、あら怖い怖い。

 でもね、結局手を出さないってことは、あなたにも守るものがあるってことですよ」

「……」


 剣の柄から手をおろす。

 怒りのままにヒューゴーを斬れば、それこそホリン村に危害が加わるのは目に見えている。

 ここは我慢だ。

 

「さて、テオさん。

 私、今から仕事に戻りますから、そこで見ていてください。

 あなたに手伝って貰わなくても、クルトの街くらい守ってみせますから。

 門を破られたからと行って、我がシアドステラ軍が敗れたわけではありません」

 

 そういってヒューゴーは、巨大な白布の前へ戻った。

 水晶玉を使い、街のあちこちを監視しているのか。

 その両端に大きな魔法陣が二つ。

 その上に杖を持った魔導士が集まっていて、議論を交わしていた。


 白布にシアドステラ軍ヒューゴー隊と、魔王軍牙爪隊の交戦が映し出された。

 城門近くの広場のようだ。

 槍兵や魔獣、獣人や弓兵が入り乱れている。

 やや、牙爪隊が優勢か。

 

 魔導士たちがヒューゴーを呼び、短く話を交わした後、ヒューゴーは頷き、魔導士たちは魔法陣を作動させた。


 広場を紅炎が包み込み、映し出された戦場はあっという間に瓦礫の山と変わった。


「ヒューゴーお前……」

「あら、テオさん。

 私の素敵な戦術に何か意見でも?

 劣勢の戦場を私の采配一つで、五分まで戻してみせましたのに」


 ヒューゴーの笑顔に背筋が冷たくなる。


「味方ごと、爆弾でせん滅したのか」

「ウフフフフ、せっかくの防衛線です。

 地の利を生かすとはこういうことでしょう?

 何を甘いことを言ってるんですか。

 あとね、ただの爆弾ではありません。

 炎魔法を増幅し、魔法石に注ぎ込んだ爆弾のようなもの。

 威力はもはや究極魔法に近しい私の発明ですよ。

 爆炎魔石と呼んでくださいね」


 白布に、赤獅子将軍ナシル・バクラム達と、ティムール隊長が映し出される。

 獣人・魔獣たちとシアドステラ兵が入り乱れて戦っていた。

 圧倒的な戦闘力を持つナシル、ティムールの両名に、集団戦術で挑むシアドステラ兵、統率は取れているが、徐々に戦線が後退していく。


「ウフフフフ、テオさん。

 赤獅子将軍ナシル・バクラムさんたちは、首長の屋敷に私がいると思って懸命に戦っているのです。

 そして、うちの皆さんも、首長の屋敷の指令室に私がいると思って懸命に戦ってくれているのです」


 ヒューゴーは今日一番の笑顔を見せた。


「ああ、我がヒューゴー隊の皆さんは、奮戦しましたが、ぐいぐいと押されていますねえ。

 仕方ないか、ナシルさんは強いですからねえ」

「おい、やめろ!」


 スパイ先の上司だとはいえ、ティムール隊長は立派な人物だった。

 ヒューゴーの罠でやられていい人じゃない。


「やりますよ、皆さん。

 最大級の火力を今、この瞬間のため準備していたのですから。

 爆ぜなさい、爆炎魔石!」

「やめろ、ヒューゴー!」


 ヒューゴーが杖を振ると、二つの魔法陣がうなりをあげた。


 ≪紅炎の牢獄(クリムゾン・ジェイル)


 映像を映し出す白布を真っ赤に染めるほどの炎が、ナシル、ティムールの両名、牙爪隊、シアドステラ軍のすべてを包み込んでいく。

 爆発とともに、建物は瓦礫し、黒焦げになった者たちが散らばっていた。

 炎は勢いを増し、首長の屋敷は延々と燃え続けていく。


 この状況では生存者は期待できないだろう。


「……外道が」

「ああ、テオさん。

 手錠を外すなら、戦闘の意志ありとみなしますからね。

 ホリン村の皆さんの顔、覚えていますよねえ」

「……っ」

「ウフフフ、さあ後は魔導士の皆さんの仕事です。

 各所の獣人たちを一匹残らず潰してあげなさいね」

「「はい、仰せのとおりに」」


 魔導士たちはまるでゲームでもしているかのように、画面に映し出される獣人たちを爆破していく。


「くははは、物陰に獣人だ、爆発しろ!」

「あ、こっちにもいたなあ……ヒヒヒ、死ねや獣どもが」


 魔導士たちは、次々に生き残った獣人たちを爆破していく。

 街中に無数に小型の爆炎魔石が仕込まれているようだ。


 唇をかみ続けているからか、口の中から血の味がする。


「ヒューゴー!

 お前のしたことで、シアドステラと魔王軍はさらに憎みあうぞ。

 戦場は相手の命を奪うためのより悲惨なものとなる。

 これは、戦争を終わらせるための戦いじゃない、ただの殺戮だ!」

「ウフフフフ、愚かなことを言いますね。

 私の魔法ですべての魔王軍幹部を殺戮し、魔族・竜族を消せば戦いは終わりますよ。

 私は優しいから、獣人は生かしてあげましょうかね。

 ただし、若い女に限りますが」


「ヒューゴー様!」


 鍛えた体の剣士が、エミネと口論しながら入ってきた。


「どうしました、ギル」

「こ、この獣人女が侵入してた」

「だから、私はシアドステラ所属だって言ってるでしょ!」


 エミネは、ギルと呼ばれた剣士につかまれた腕を払い、こちらに来た。


「テオ」

「エミネか」

「ああ、ギル。

 あなたには話してませんでしたね。

 その獣人の女は、テオの監視役ですよ。

 私がここに呼んだんです、排除しなくて大丈夫ですよ」

「……悪かったな」

「腕つかまないでよ、痛かったわ」

「……失礼した」


 ギルは一礼して、ヒューゴーの隣に控えた。

 護衛役ってところか。

 なかなかの腕前に見える。


「……街中、炎に包まれてるわね」


 エミネは、白布に映し出される街の惨状に目を潜めた。


「ウフフフ、紅炎が舞い上がって美しいでしょう?

 赤く照らし出されたクルトの街は、まるで私のように美しいでしょう?」


 長身痩躯のヒューゴーは、多少神経質そうに見えるが、顔の作り自体は冷たさを感じるが、顔かたちは悪くはない。


「ヒューゴー。

 私は、アンタの顔と表情が世界一醜く見えるわ」


 エミネが吐き捨てた。

 にじみ出る内面の狂気が、ヒューゴーの表情にはいつも浮かんでいる。

 見るものの背中をぞっとさせるほどの表情の醜悪さが、この男にはあるのだ。


「ご冗談を。

 私のように美しい男のことを醜いなんて、冗談にもほどがありますよ、ウフフフフ」


 ヒューゴーはエミネの体をなめるように見た。


「少し、テオさんが羨ましいですね。

 エミネさんと二人で魔王軍に潜入してたなんて。

 エミネさんは、性格はよくないですが美貌とスタイルは……くくく、たまらないものがありますからね」

「……黙って」


 エミネはそう言うと、、ヒューゴーから距離を取った。


「1,2の3!」


 ここを襲撃されると思わなかったヒューゴーの胸目掛けて、獣人が猛スピードで近づき、槍を一直線に突き出した。


「ひ、ひいいいいいいいい」


 ヒューゴーは慌てふためいたが、とっさのことで、武器を携帯せず反撃も防御もできなかった。


「下がれ!」


 ギルは素早く反応し、その槍を剣で受け流すと、返す刀で獣人に袈裟切りを仕掛ける。


「うわわわ」


 獣人はしゃがんで交わすと、バク転してギルと距離を取った。


「ウフフフ、助かりましたよ、ギル」

「下がってろ、かなり素早いぞ」



 ギルに言われる通り、ヒューゴーはその獣人から距離を取った。


「というか、エミネさんあなた尾行されてましたね」

「え?

 私?」

「へへ、あたり。

 お姉さん流行りの石鹸の匂いがするからさ、尾行してきたんだよ」

「あ……そうか、盲点だったわ」


 いや、匂いに気を付けるのは基本じゃないか?

 やっぱりエミネは潜入工作に慣れてないんじゃないだろうか。


「へへ、いい匂いだったけどね」


 ん?

 この声聞き覚えがあるぞ。


「お前……エセルじゃないか!」

「リン、良かった。

 手錠をかけられてるけど、拷問されたりはしてないみたいだね」

「何で一人で来るんだよ、危ないだろ」

「リンは今日初陣でしょ?

 目の前で捕まったから、心配だったんだ。

 だから、助けに来た」

「お前……」

「後輩がピンチの時には助けに来るよ。

 だって、ボクはリンの先輩だからね!」

 

 エセルは腰に手を当て、精一杯胸を張っていた。

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