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30 リン、助けに行くよ(エセル視点)

 ドカッ


 後頭部に一撃を受けた。

 不意の一撃で地面に叩きつけられたけど、意識をギリギリ失わずにすんだみたいだ。

 

 誰が攻撃したの?

 見回しても誰もいない。

 恐ろしいほどの速さで一撃を加えてヒットアンドアウェイをしたってこと?

 

 そうだ、アイカさんは大丈夫かな……ボクの隣にいたアイカさんは完全に地面に突っ伏してしまっている。

 ピクピクと痙攣し、意識を飛ばしてしまっているみたいだ。

 

 なんてこった、ボクは幸い一撃で意識を失わずにすんだけど、襲撃してきたヤツの情報一つつかめないなんて……


 何か手がかりはあるかな。

 この匂い……これ、石鹸の匂いだ。

 最近どこかで嗅いだような……これ、最近流行りの女の子が使っている石鹸だ。


 近くに誰もいないってことは、ボクたちを襲ったのは、女の子だってこと?

 

 情報としては、今それだけしかないんだ。

 わずかな手がかりかもしれないけど、しっかりこの匂いを覚えておこう。

 必ず、やり返してやるんだからね。


 痛みを感じながら、ボクは体を起こす。

 

 アイカさん、アイカさん……

 揺すってみても、起きる気配がない。

 アイカさんの手首に手を当てる。

 良かった、ちゃんと脈はある。


「おい、お前ら!」


 後ろから声がした。

 振り返ると……良かった、獣人だ。

 獣人の集団がボクたちに声をかけてくれた。


「大丈夫か」

「うん、何とか」

「このネーちゃんも……息はあるみたいだな」


 良かった、アイカさんを任せても大丈夫そうだ。


 ボクは胸元に忍ばせていた、紙に絵を描いた。

 ボクは文字が書けないからね。


 大きなワニと捕まったリン。

 そして、リンを追っかけるボクだ。

 きっとこれを見たアイカさんは、ティムール隊長を呼びに行ってくれるはず。

 ボクはアイカさんの手に、絵を描いた紙を握らせた。


「頭を殴られて気絶したけど、外傷はないみたい。

 アイカさんをよろしくね」

「おいおい、小僧。

 お前も伸びてたんじゃないか。

 無理に立ち上がるな、もう少し寝とけばいい」


 それでも、ボクは起きなきゃならないんだ。

 だって、ボクの後輩のリンがさらわれたんだから。


 あ……この匂い。

 少し先から、さっきの石鹸の匂いが漂って来た。

 

 匂いの元に近寄るべく立ち上がり、ボクは慎重に近づいていく。


 十分、近づいたところで匂いの元に視線を送る。


 匂いの元は、金色の髪の獣人の女の人だ。

 その女の人は辺りの視線に目を配りながら、足早に前へと進んでいく。

 ひときわ目を引く美貌だけど、にやけた顔で話しかけてくる獣人の男たちには一切、愛想を振りまかない。


 でも、この人普通の人とは違う。

 視線の動かし方で分かった。

 誰かを探しているわけじゃなく、誰かに追われていないか、確認しながら歩いているように見えた。


 ……音もなくボクたちを攻撃した割には、歩き方に隙がある……

 でも、手がかりはこの女の人しかない。

 

 あまりボクは尾行なんてしたことないけど、きっとこの女の人がリンの行方を知っているような気がするんだ。

 

 気を付けるべきは匂いだよね。

 あの女の人は、耳の形からするとたぶん人狼だから、ボクと同じくらいに鼻がいいはず。

 でも、幸い今はあちらこちらに獣人がいて、ボクの匂いは紛れてしまうはず。

 あの女の人がさせている石鹸の匂いは、若い女の人しかしないから……そこに勝ち目があるかもしれない。

 ボクたち牙爪隊に獣人の女の人はあまりいないからね。


 足早に前へ歩いていく女の人をなるべく音もなく、尾行していく。

 ……一人で尾行すると、隊長から怒られるかな。


 ボクは初陣の時、一人で敵陣深く突っ込んだことがあった。

 そのせいでやられそうになったときに、ティムール隊長が助けてくれたんだ。

 あの時、ボクは心の底から安心したんだ。

 

 ねえ、リン。

 リンはボクを騎兵から助けてくれたから、君が強いってこと、ボクは知ってるよ。

 

 でもね、捕まったリンは、今とても怖い思いをしてると思う。

 だから、ボクは助けに行くよ。

 だって、ボクはリンの先輩だからね。


 なんとか勘づかれずに尾行を続けていると、女の人はとある建物の中に入った。

 

 有名な建物だ。

 劇場型レストラン「ペルルノワール」。

 きっと、この中にリンが捕まっているんだ。


 ボクは、こっそりとトイレの小窓を割り、「ペルルノワール」へ侵入した。

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