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28 元勇者さらわれる

「うおおおおおおおお!」


 ティムール隊長の咆哮が街中に響き渡る。


 バキバキバキバキ


 もの凄い音がして、ティムール隊長と獣人たちがクルトの街へなだれ込む。

 俺が物見の塔にいる軍師気取りを倒したので、城門破壊がスムーズに行われたようだ。


「があああああああああ!」


 反対側からも物凄い咆哮、あの声には聞き覚えがある。

 赤獅子将軍ナシル・バクラム。


 咆哮の後、同じく城門が破られる音とともに獣人や魔獣がなだれ込んだ。

 

 つまり、クルトの街は2方向から侵入を許したことになる。

 指揮官としては、この状況下では撤退が最善手か。

 防戦は、増援が来ることが織り込み済みの場合だが……


 あちこちに砲撃や、爆発音、咆哮や剣戟の音が響き渡る。

 乱戦が始まったってことだ。


「そろそろ、オレも隊に戻らないと疑われてしまうぞ」

《それはそうだけど……ヒューゴーがテオを呼んでる。

 大きな時計台の側に来いってさ》


 高台にいるオレと地上にいるエミネ。

 距離が離れているけど、指輪とイヤリングの魔法で遠隔でも話すことができる。


「時計台……あれか。

 ちょうど高台にいたから分かったよ。

 街の中央だな」

《テオをさらう手はずを取ってるから、抵抗せずに従えってさ》

「……とりあえず、隊に戻る」

《テオ、ちゃんと命令には従ってよ。あたし、できればテオを殺したくない》


 いつもの軽口とは違う、エミネの真剣な声。


「嬉しいこと言ってくれる」

「茶化さないでよ」

「はは、悪い」


 上空から戦況を確認、ティムール隊の位置を確認する。

 ティムール隊長と、エセルは問題ない、元気いっぱいだな。

 斧と槍で敵をぶっ飛ばしている。


 アイカは、怪我をした獣人の手当てをしていた。

 ……後ろ!


 後ろに迫る槍兵にアイカは気づいてないようだ。


光の鎖(ライトニングチェーン)


 アイカの近くの民家へ突き刺し、巻き取って素早く接近、アイカの背後にいる槍兵を剣で……いや、剣はだめだ。

 オレは猫魔導士キャットメイジだからな。


風の爪(ウインドクロウ)


 剣の代わりに風の爪(ウインドクロウ)で敵を裁断する。


「ひぎぃいいいいい!」


 急いでたから容赦なく斬ったが許してくれ。

 細切れになった槍兵から飛び散る血を避けて、アイカの元へ。


「大丈夫か?」

「リン!」


 アイカはオレに飛びついて来た。


「アイカ、どうしたの?」

「私と同じように、エセルもそんな風に助けたの?」

「うん……」

「魔導士なんだから、無茶しないで」


 アイカはオレにぎゅっとしてきた。


「遠くから魔法で攻撃したらいいじゃない」

「それだと、外したらアイカがケガする。

 敵に攻撃を当てるつもりだったけど、もしはずれてもアイカが傷つかないようにって思って、アイカと敵の間に割って入ったんだ」

「……リンのバカ」


 ……ん?

 急にぽわっとアイカからいい匂いがしてきた。

 顔を見れば妖艶な表情を浮かべており、自然と体から誘惑魔法を放出しているようだ。

 

「そんな一生懸命守ってくれたら、女の子は勘違いする」

「アイカ、落ち着け」


 ぎゅっと抱き着いて来るアイカからスポンと下から抜けて脱出。

 飛びのいて距離を取った。

 ちょっと我を失っていたように見えたアイカだったが、首を振り、冷静さをとり戻したようだ。


「あ……尻尾がぐるぐるしてる……わー、自分でも知らない間にリンを誘惑しそうになっちゃった」

「あのさ、アイカはサキュバスなんだから気を付けてよ。

 オレだってあの距離から誘惑されたら魅了されちゃうよ」

「ごめん、リンに守ってもらえて嬉しくて」


 オレだってあの距離から誘惑魔法をくらったことは初めてだったけど……魔王ミモザから食らった誘惑魔法に比べればなんてことなかったな。


 さて、オレもアイカも落ち着いたかな。


「けが人の回復は終わった?」

「うん。

 魔法はかけ終わって経過を見てたから、もう大丈夫だと思う」


 獣人の集団が近くに来たため、このけが人を任せることにするか。

 ティムール隊だと明かして、けが人を任せた後、アイカと二人でエセルを追いかけた。


「こっちにいるの?」

「さっき、空から見たからね」


 オレは風魔法で空を飛び、もう一度エセルの位置を確認して、すぐに元に戻った。


「うん、あってる」

「えっと、風魔法ってそんな簡単に空飛べるの?

 私の翼より、すっごい早く飛んでるんだけど……」

「うーん、オレ炎魔法とか使えないんだよ。

 風魔法が一番得意だから」


 オレはアイカに一つだけ嘘をついた。

 一番得意なのは光魔法なんだ。


「ふふ、そっか。

 私、光属性以外は全部使えるんだけど、攻撃魔法は威力が出なくて……だから回復と補助魔法をいっぱい覚えた」

「サキュバスは攻撃魔法が得意な種族だけど、そういうことなのか」

「うん、サキュバスの回復魔法使いは珍しいよ」

「リン、アイカさん!」


 先の方で戦っているエセルは、オレたちを見つけて手を振ってきた。


「二人とも遅いよ、隊長はズンズン先へ行っちゃった」

「悪い」

「けが人の手当をしてたら、襲われた」

「ええっ!

 アイカさん大丈夫なの?」

「うん。

 リンが助けてくれたから」


 あれ、アイカってこんな風に笑うんだっけ。

 ちょっと表情が変わった気がする。


「ふーん」


 エセルがジトーっとした目でオレとアイカを見てきた。


「なんだかアイカさん、顔赤いよ」

「うん、問題ないよ」


 アイカはオレを見て微笑んだ。


「リン、アイカさんに変なことしてないよね?」

「知らない」

「知らなーい」

「ちょっとふたりともふざけないでよ」


 オレがエセルをからかうとアイカものってきた。

 ケラケラ笑うアイカが楽しそうなので、まあいいや。


 そろそろ、大時計前に差し掛かるな。


 アイカ。

 エセル。

 

 短い間だったけど、お前たちと一緒で楽しかった。

 できれば無事でいてくれ。


《テオ、聞こえる? 前に見える剣士たちが、テオをさらう段取りになってる。そいつのとこに行って》


 エミネからイヤリングを通じて連絡が来た。


「わかった。二人を傷つけないでくれ」


《リン、優しいわね。わかったわ。二人は私が抑える。殺させはしないから》

「助かるよ」


 頼んだぞ、エミネ。


「獣人がさらわれてる!」


 そう叫んだオレは前方の敵を追って全速力で走り出す。


「リン!」

「一人で行っちゃだめ!」


 エセルとアイカがついて来れない速度で走っていく。


「リン、魔導士のくせに早すぎるよ!」

「行かないで、リン!」


 あっという間に二人を引き離し、剣士の前に来た。

 魔法を詠唱し、イヤリングに手を当て、目くばせする。

 

 にやっと笑った剣士は、咳ばらいを一つ。

 

 オレは誰にでもかわせるように≪風の爪(ウインドクロウ)》で攻撃した。

 剣士はオレの攻撃をかわして、ボディに一撃。

 正直いたくもかゆくもないが、やられてやろう。


「ぐわ、やられたあ」


 棒読みで倒れたオレを、剣士が担ぎ上げた。


砂煙(サンドスモーク)


 剣士の連れの魔導士が唱えた魔法でオレたちは、砂に包まれた。


「「リン!」」


 アイカとエセルは叫びながらオレを追いかけてきた。が――


 ドン、ドカ


 アイカとエセルは不意に後ろから攻撃を食らった。

 

「「ぐ……」」


 あたりには誰もいないが、アイカとリンは誰かに殴られて地面に突っ伏した。

 エミネ。

 二人を頼んだぞ。

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