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27 元勇者クルトの街へ突入する

「爆弾……どこに仕掛けたのかなんてオレは知らんぞ」


 どこに仕掛けた知らない……爆弾については知ってる奴の話しぶりだな。

 知らない奴は爆弾なんてしらないと答えるはずだ。

 少なくとも、ヒューゴーの情報を何かしら持ってるはずだ。

 とりあえず……黙らせるか。


 

 ボディに一撃。


「げふう……」


 ピクピクしている指揮官を荷物置き場にぶち込む。


「そいつ、縛っておいてくれ」


 荷物置き場からガサゴソ音がしてるからエミネが縛ってくれるだろうな。

 オレはとりあえず、魔動車を反転させ、元来た道を戻っていく。


 あそこに見えるデッカイのは、ティムール隊長だな。


 止め方に不安があったから、だいぶ離れたところで止め始め、もたもたしていたが、何とか隊長にぶつかる前に停車してくれた。


「リン、どうしたの?

 心配したよ?

 止めてたところにいないからさ。

 大人しか運転しちゃいけないんだよ?」


 エセルが得意げにオレを叱ってきた。


「運転したくてしたわけじゃない」


 オレが好奇心で運転してるってエセルに思われるは癪だから、さっと後部座席に移動した。


「オレが着替えてるときに魔動車が盗まれかけた。

 今、犯人を縛って荷物置き場に寝せてある」

「何だと!」


 ティムール隊長が、荷物置き場を確認する。


「さっき馬上にいた指揮官じゃないか!

 でかしたぞ、リン!」

「何か知ってるかもしれません」

「ぐははは、後で取り調べだな」


 魔動車に皆が乗り込んだのを確認し、クルトの街へ走らせる。

 途中、牙爪隊が解放した獣人の男たちが見えた。

 横を通り過ぎるとき、彼らは拍手と共に、歌を持って迎えてくれた。

 激しい応援歌チャント

 牙爪隊をたたえる歌だ。


「彼らも戦いに行くんですね」

「あいつらもワシらに続く。

 街に取り残された獣人もおるからな、肉親を助けたいと思う気持ちはわかる。

 誰にも止められんよ」


 ★☆

 

 魔動車でクルトの街に近づいたオレたちは、堂々と城門から侵攻する。

 ティムール隊のオレたち4人の後ろで、獣人の男たちが時折、咆哮をあげ、いつでも突撃してやるぞって構えだ。


 大きく息を吸い込み、ティムール隊長が降伏勧告を行う。


「クルトの街を支配する爆炎の勇者、ヒューゴー・フレアウッドよ!」


 街中を揺るがすような声量で、ティムール隊長は演説を始めた。

 この声量は到底、人間には真似できそうにもないな。


「今すぐこの街を解放し、我々に明け渡せ!

 そうすれば、全ての兵士、住民の安全は約束しよう。

 我が魔王軍牙爪隊に降伏せよ!

 ヒューゴー、指揮官たるお前の命も私が保障しよう。

 牙爪隊特攻隊長ティムール・ゾルタンの名に懸けて、今の約束を反故にしないことを誓う。

 素直に負けを認め、降伏しろ、ヒューゴー!」


 ドオオオオオン!


 演説の終わったティムール隊長を目掛け、投石器から大岩が飛んできた。


 エセルとアイカ、オレは投石がこちらに向かってくるのを知り、後ろに下がったが、ティムール隊長はその場から一歩たりとも動かない。


「ティムール隊長、大丈夫ですか?」

「知れたことッ!」


 ああ、そうか。

 避けれないわけじゃないんだな。


 大岩が空中にある間に魔法で撃墜できると思ったが、余計なお世話か。


「「あ、あぶない!」」


 大岩が隊長に近づくにつれ獣人たちは騒ぎ立てるが、アイカとエセルはさして騒ぎ立てはしない。


「ハアアアア!」


 隊長は戦斧をかついだまま飛び上がると、上空で大岩を殴打。


 ドゴオオオオン!


 見事、大岩をばらばらに砕いて見せた。


 地上の牙爪隊は拍手喝采だが、城壁上のシアドステラ守備隊は恐怖で叫び声をあげた。


「くそお、弓隊、一斉に放て!」


 城壁から声がした。

 城壁全体から一斉に弓が放たれる。


「突っ込め、立ち止まってると弓の的になるぞ!」

「「オオオオオオオ!」」


 ティムール隊含め、獣人たちも一斉に突撃していく。


「ほら、リン。

 急ぐよ!」


 成り行きを見守っていたオレの背中をアイカがぐいぐいと押してくる。


「え?

 だれも弓対策しないの?」

「弓対策は、突っ込め!

 牙爪隊はみんなそうしてる」


 アイカは何でそんなに自慢げな顔なんだ。

 エセルもなぜか胸を張っている。


「うわあ、脳筋だな」


 ティムール隊は慣れてるのかもしれないが、後ろの獣人たちは1~2割は死ぬだろうな。

 死なれても夢見が悪いので、弓矢対策に風魔法を放った。


 ≪風の幕ウインドカーテン

 

 城壁からすぐの場所に風魔法を発動。

 矢は勢いを失い、ボトボトと下に落ちた。

 オレはわりと風魔法は得意なんだ。


「「な、何だと!」」


 城壁上の兵士たちは慌てふためいた。


「気をつけろ、風使いの上位魔導士か賢者がいるぞ!」


 残念、初級の猫魔導士キャットメイジでした。


「ぐははははは、風も味方しておるぞ。

 突撃だ、野郎ども!」

「「オオオオオオオオ!」」


 ティムール隊長筆頭に、城門へ襲い掛かる。

 

「ねえ、リン。

 今、手が光ってたけど……まさか、今の魔法リンが使ったの?」

「いや、自分の周りに風魔法を使っただけだ。

 さすがに、あんな大きな魔法、オレには無理だ」

「ふーん、騎馬兵や指揮官を平気で倒してるリンにも無理か」


 あれ、何その目。

 ちょっとアイカに疑われているような気がする。


「今だ、突撃してきた奴らを囲め!」


 城門近くの草むらを利用し、待ち伏せた兵たちがオレ達に襲い掛かってきた。

 100を超える数で、ティムール隊長と言えど、一気に打開できるような数ではないようだ。

 槍兵、弓兵、魔導士……兵種もバランスよく、城壁の上の兵士たちと合わせれば、かなりの脅威になっていたはずだ。


「むむむ」


 戦斧を振り回すティム―ル隊長には魔法兵の集中攻撃。

 エセルとアイカには弓兵の射撃、獣人には手練れの槍兵が攻撃する。


 考えられた戦法だ。

 個では勝てないティムール隊には数の力で防戦一方にさせ、逆に烏合の衆の獣人たちに対しては、隙を見せたものから確殺していく。


「ぐは……」

「くっ、迂闊に突撃できないな」


 突出した獣人から集中攻撃を受けて絶命していくため、獣人たちに躊躇が生まれ、士気が大きく下がっている。


「隊長、手ごわいね」

「むう、こうも魔法で狙われると守るので手いっぱいだな。

 攻勢に転じるのも、獣人たちを守ってやるのも難しいぞ。

 動き回ってこちらの陣形を変えてもすぐ対応しおる……」


 ティムール隊長もエセルも打開策を見出だせない状況だ。


 目立ちたくはないが、獣人たちが狩られていくのを見たくはないな。


 左手に魔力を集中、目立つのは気にせず魔力を高める。


「リン、すごい魔力」


 アイカはオレの手に集められた魔力の大きさに気づき、目をぱちくりさせた。


 あちゃー。

 少しだけ、アイカを見くびってたな。

 魔力の大きさを見分けられる力は、備わってないと思っていたんだが。


「仕方ない、行くぞ」


 オレは風魔法を地面に向けて放ち、誰の眼にも止まらない速度で移動する。


「あれ、リン。

 リンどこ?」


 アイカがオレを探しているが、相手しているうちにも死人が出るからな。

 無視しよう。


 あそこが、一番高いところだな。


 城壁一番高くにある物見の塔へ。


「魔法隊、右。

 弓矢隊、左!」


 左手指の指輪に話しかけ、指揮をとっている上等な服の優男。

 右手に持つ鉄の拡声器で城門近くまで、細かな指示を飛ばしていた。

 城壁の上にいるからか、鎧すら着ずに軍師面してやがる。


「お前が、城壁の指揮をしてるのか」

「誰だ、お前。

 まさか……その顔、勇者テオか?」


 黒のローブを着てるから、猫耳が見えず、テオだとばれてしまったのだろうか。

 ……この優男、見たことあるな。

 ヒューゴーの部下だ。


 優男といった風貌だが、嬉々として捕虜にした獣人を処刑していたっけ。

 オレが見つけた時はやめさせたが、随分不満そうにしていた。


「ヒューゴーの部下だな」

「……ヒューゴー様、テ……」


 ヒュン


 優男が指輪に向かって話しかけたのを見逃さず、抜刀して首を落とす。


「こういう時に魔法より先に剣が出ちゃうのが元勇者の癖だよな、猫魔導士ならピンチの時には魔法を唱えろよってね」


 ピ、ピ。


 ん?

 死体から音が鳴ってるのかと思ったが、オレのイヤリングが鳴っていた。


「エミネか」

「あ、テオ。

 ……今どこにいるのよ、風の音がすごいわね」

「城壁の上だからな」

「はあ?

 城壁の上なんて冗談いわないで。

 まさか、テオ。

 アンタ、城壁の上に登って指揮官ぶったおしたりしないでよね?


 エミネの勘がすごいな。

 ただ、もう遅いんだけど……

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