25 元勇者、ネコ族メイドと再会する
初級職の猫魔導士でありながら、オレが騎馬兵達を剣で斬ったことに、エセルが驚いていた。
「いや、移動には魔法を使ったよ?
こうやって、後ろに風魔法を出してすっごい速さで突っ込んだんだ」
「自分の体を吹っ飛ばすくらいの魔法が使えるなら、騎馬兵にそのまま魔法を当てればいいんじゃないの?」
うわあ、やばい。
エセルは納得できてないみたいだ。
「そしたら、エセルに当たっちゃうだろ!」
「え?
ははは、何だ。
そっか!」
エセルはオレの説明に納得したようだ。
「そっか、リンが風魔法を攻撃に使うと、ボクに魔法が当たっちゃうかもしれないから、とっさに自分に魔法をかけてボクを助けてくれたってこと?」
「そ、そうだ!
エセルに風魔法が当たると危ないからな」
確かに習いたての魔導士は命中させるのが難しい。
とっさに言ったでまかせだが、エセルは納得がいったようだ。
「はははは、だからってさ。
突っ込んでこないでよ、リン。
魔導士なんだから、突っ込んでどうするのさ」
「いや、エセルが心配だったから」
エセルは腕で顔をぬぐった。
「初陣で、命中率が悪いのを心配するほど戦に慣れてないのに、リンはボクを守ろうとしてくれたんだね……」
エセルは戦いに慣れてない初陣のオレが、必死で先輩を守ってくれたっていうシチュエーションに感極まっているようだ。
嘘をついているようで、少し心が痛い。
だって、オレ元勇者だからめちゃくちゃ戦いに慣れてるもんな。
「ありがとう、リン。
今度は、ボクがリンを助けに行くからね!」
エセルはぎゅっとオレの手を握った。
……エセルは、オレに先輩面する厄介なイヌキッズだが……純粋なところがあるから、どうも嫌いになれないんだよな。
「きゃああ」
遠くから悲鳴が聞こえた。
「エセル、一人で平気か」
「うん、ちょっと疲れただけ。
自分の身くらい守れるよ。
リン、助けに行ってあげて」
騎馬兵に追われて足が限界なエセルを置いて、悲鳴が聞こえた方に向かった。
「ひへへへ、この戦いは負けそうだからな。
敗走する前にせっかくだから、いい思いさせてもらうぞ、ひひひひ」
「や、やめて……」
街道から随分離れた場所でシアドステラ兵が、獣人の女を襲っていた。
ティムール隊の攻撃で敗色濃厚だと悟った兵士は、半裸の獣人の女の子に下劣な欲望をぶつけようとしていた。
「あのさ、負けると決まっていてもさ。
上官や仲間を助けにいくとかさ、そういう考えはないのかな?」
オレは今にも欲望を満たそうと腰のベルトに手をかけている兵士に尋ねた。
「けはは、馬鹿じゃねえのか。
仲間とか上官とか助けに行ってどうなるんだよ。
そもそもオレたちは気にった獣人女を捕まえていいって言うから、従軍してるんだぜ?
だから負けそうっていうならよ。
とりあえず、スッキリして帰りてえじゃねえか。
わかるだろ?」
「そうだな、分かるけど」
「へへへ、お前もわかるんじゃねえか」
「分かりたくねえ!」
「え?」
剣を使うのももったいないので、鉄拳でぶっ飛ばす。
「ぎゃああああ」
「大丈夫か?」
オレは、服をずたずたに切り裂かれた獣人の女の子に、手を差し出した。
もちろん、顔は女の子の方は向けてない。
服をずたぼろに切り裂かれていたからな。
「テオ様!」
「へ?」
その女の子は飛び起きたと思ったら、オレに飛びついて来た。
「やっぱりテオ様だー、ふふふ」
「いや、ちょっと待って…えっと」
「もう、忘れたの?
ペルルノワールで赤梨あーんした仲じゃない」
「あーんなんてしてない。
そうか、シャオファンか」
「あったりー」
ネコ族のメイド、シャオファンはオレにぎゅーっとしてくる。
顔に猫耳があたってくすぐったい。
尻尾をぶんぶんと振り回し、ご機嫌のようだ。
「無事だから良かったけど、くっつきすぎだぞ?」
「あのねえ、テオ様。
女の子は助けてくれた男の子に弱いんだよ?
テオ様はめちゃくちゃかっこいい助け方したんだから、観念して私にぎゅっとされてるといいよ」
よくわかない理屈でシャオファンはオレにずっとくっついている。
「前が見えねえってば」
「見えるでしょ?胸が」
「ふざけんな」
オレがシャオファンにまとわりつかれていると、後ろから声がした。
「テ、テオがいるだと!」
エセルとティムール隊長がオレの側に来ていた。
さっきシャオファンがテオ様って叫んだからな。
「テ、テオなんていない……」
オレが答えると、シャオファンがしゃべりだした。
「何言ってるの、テオ様。
ここにいるでしょ?」
「ち、ちが……」
シャオファンが抱き着いている中、エセルと目が合った。
「勇者テオがいるって聞いたから来たのにさ。
リンがいちゃいちゃしてるだけじゃないか」
「うむむむ、そういえばリン。
お主、よく見ればテオに似ているような……」
「似てない、似てないですってば隊長!」
オレはシャオファンに目くばせをした。
シャオファンはピンと来たのか、オレの肩をひっかいた。
「いて」
「もう、テオなんてすぐ倒すなんて言って……助けに来るのが遅いよ……私、怒ってるんだよ?」
お、シャオファンは客商売だけあって勘がいいな。
ぱちんとウインクをしてくれた。
オレもできるだけ、情報をシャオファンに与えつつ、この場を乗り切るとしよう。
「すまんな、オレはリン・テオドール。
ネコ族の男、魔王軍牙爪隊の新人の猫魔導士のリンだ」
ちょっと説明くさいかな。
「お前を勇者テオから守るといいながら、つらい思いをさせたな。
シャオファン」
オレは目くばせをする。
今は勇者テオじゃないんだ、伝わってくれ、頼む!
「……ううん、いいよ。
リン」
よし、シャオファンもオレの芝居に付き合ってくれるようだ。
「私、同じ村の幼馴染で恋人のリンと離れ離れで寂しかった。
でも、私がピンチの時に来てくれて嬉しかったよ。
ねえ、リン。
私をあの時みたいに……可愛がって?」
伝わりすぎだ、馬鹿野郎。
名演技過ぎるだろ、この流れだとオレからぎゅっと抱きしめないとおかしな流れだろうがッ!
「シャオファン、会いたかった」
いや、別にオレはシャオファンにそこまでの思い入れはないんだが……
「リン、私リンのこと、大好き」
おい、シャオファンそこまでの迫真の演技してくれって頼んだ覚えはないぞ。
くそ、情熱的に抱き着くな。
……ふざけんな、いい匂いがするぞ。
「ねえ、隊長。
リンって彼女がいたはずのに、他の女の子とめちゃくちゃ仲いいよね?
それっていいの?
浮気じゃないの?」
「……お前も大人になればわかるぞ、ぐはははは」
「え?
わかんないよー」
ティムール隊長は、エセルを連れてオレから離れていった。
オレと目が合った隊長は親指をびしっとあげて、オレに笑いかけてくれた。
「ああ……絶対誤解された。
オレ彼女持ちなのに、元彼女と会って燃え上がった奴って思われてる絶対」
シャオファンはオレに抱きつきながら耳打ちをした。
「テオ様、会いたかったよ?」
……ああ、頭痛い。
勇者テオだってばれなかったのはいいけど、めちゃくちゃ女遊びの激しい奴って思われてしまったような?
「……シャオファン。
オレは理由があってリン・テオドールという名前で魔王軍に潜入してる」
「そうなんだ。
でも、テオ様がクルトの街を離れてから大変だったんだよ?
ヒューゴーが獣人をすべて奴隷にしようと、捕まえ始めたの」
「あいつ……」
「……ねえ、テオ様。
私の村の仲間も捕まっちゃったと思う。
助けられないかな?」
「……オレはシアドステラから派遣されて魔王軍に潜入してるんだぞ」
「お願い、テオ様」
シャオファンはすがるような目でオレを見た。
オレが初めて攻略した街、クルト。
どの種族も奴隷にしない、シアドステラ支配下のあり方を見せられるはずだった。
オレにもっと力があれば……シャオファンも仲間たちも襲われずに済んだんだ。
「約束はできない」
「テオ様、ありがとう」
シャオファンはもっと力を込めてぎゅっとオレに抱き着いて来た。
オレは約束はできないと言っただけなんだけど……




