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22 牙爪隊出陣

 二日目の朝礼。

 アイカ、エセル、オレの順で並び、ティムール隊長に敬礼。

 ティムール隊長は覚悟を決めた顔で、開かれた紙を読む。


「奪われたクルトの街を取り戻す」


 アイカ、エセルの体がビクンと動いた。


「魔王ミモザ様からの命令だ。

 出立は明日。

 我らは一番槍を務めるだろう、本日は存分に体を休め、明日からの戦に備えるように」

「「はいッ!」」

「いい返事だ、それでは解散!」

「はッ!」


 ティムール隊長、アイカ、エセルはすぐに歩き出した。


「……何ボーっとしてるのさ、リン」

「あ、ああ」

「明日から戦争だよ、準備しろってさ。

 すぐに帰ってもいいし、訓練したっていい。

 飲みに行く人だっているよ」

「そうか、じゃあオレも帰るよ」


 オレは家へ向かって歩き出す。

 とすると、自動的にエセルについていくような形になる。

 どの道、出口は一緒だからな。


「ねえ、リン」

「何だよ、エセル」

「リンにとっては、初陣になるわけなんだけど、不安はないの?」

「あるよ、ないと言ったらウソになるな」


 最も、戦闘が怖いとかじゃなくて、勇者だとばれないように戦闘するのが不安だな。

 試験のときは何も考えずに戦ったら、どうやら強すぎたらしく変な言い訳をすることになってしまったからな。


「そうなんだね、ボクも初陣のときはそうだったよ、怖くてね。

 前日の夜、震えて眠れなかったんだ」


 自分の弱みを見せて、オレを安心させようとでもいうのだろうか。


「その時は、ボク、だれかと話したいって思ったんだよね。

 ねえ、リン良かったらだけど、ご飯食べがてら飲みにでも行かない?」


 たぶん、エセルはこの隊の先輩だから、初陣のオレを気遣ってくれたんだろう。


「……うーん」


 ただ、戦闘ってなるとオレの動き方についてエミネと打ち合わせをしておくべきだろうな。


「こら、エセル。

 野暮なこと言わない」


 少し先を歩いているアイカがオレたちの話を聞き、話に入ってきた。


「え?

 アイカさん、野暮ってどうゆうことなの?」

「戦いに行く最後の夜、彼女と過ごしたいはず」

「え?彼女?」

「そうだよね、リン」


 アイカはオレの肩に手を置きながら、ニヤニヤ笑っている。


「アイカ、お前、メルテムから話を聞いたんだな?」

「可愛い彼女って聞いた」

「ったく、言いふらしてるんじゃないぞ……」

「え?

 アイカさんの冗談とかじゃなくて、リンって彼女がいるの?」


 ……エミネが墓穴を掘るからこんなことになるんだぞ。

 ただ、オオカミの姉とネコの弟なんて嘘ついたから、もう訂正のしようがないな……


「そうだ、一応な」

「うわー、ショック。

 リン手が早いよ。

 先輩の僕でも彼女がいないんだよ?

 リンの方が年も下なのにさ」

「いや、絶対オレの方がエセルより大人っぽいね」


 イヌ族は40歳で大人だろ?

 人間は16歳から大人なんだ。

 エセル(22)の方がオレ(18)より年上だからって、子どもに先輩扱いされたくないね。


「こら、リン。

 キミ、生意気だよ?」


 エセルはぷんぷんと怒り出した。


「ふふふ、私にも今度紹介してね。

 エセル、暇なら訓練付き合って」

「あ、わかりました。

 リン、今度僕にも紹介してよね」

「はいはい、今度な」


 エセルとアイカと別れ、うちへ帰った。


 ★☆


 オレを出迎えてくれたのはエミネだけでなく、銀色に輝く指輪とイヤリング。


「メルテムから聞いたわよ。

 テオ、明日からクルトの街へ遠征でしょ」

「ああ。

 それにしても何だこれ?

 指輪とイヤリング?

 つい最近彼氏彼女になったのに、オレ、とうとうエミネと婚約することになったのか?」


 オレは嫌味ったらしくエミネに言った。


「違うわよ……これは連絡用の魔道具。」

「へー。

 見たことないな。

 どうやって使うんだ?」

「そうね、説明するから身につけてくれる?」

「ああ」


 オレが戸惑っている間に、エミネはささっとつけ終わっていた。


「ん、装飾品ってどうつけるんだ?」

「え?

 つけたことないの?」

「男ってあまりこういうのつけないよ」

「もう……しょうがないわね。

 左手出して」


 左手を出すと、エミネがオレの手を握り、指輪をつけてくれた。

 右手は手持無沙汰なので、エミネの肉球をぷにぷにする。

 エミネの手は肉球がぷにっとして触ると楽しい。


「あのね、肉球触らないでってば」

「落ち着く」

「私は落ち着かなくなるのよ!」


 エミネは顔を真っ赤にして怒り出した。


「ったく……次はイヤリングね。

 片耳だけでいいから」


 エミネはオレの耳にイヤリングをつけようと、近づいて来た。

 正直、吐息がかかるような距離なので、なんとなく落ち着かない。


「……石鹸の匂いがする」

「仕方ないじゃない、さっきまでお風呂に入ってたんだから!」

「まだ夕方だぞ」

「あのねえ、誰のためにあたしが早く風呂入ったと思ってるのよ。

 テオがイヤリングつけられなかったら、あたしがつけてあげるしかないでしょ!」


 エミネは顔を真っ赤にして怒っているが、どうやらオレがイヤリングつけられないことを見越して、自分でつけてあげるために風呂に入っていたらしい。

 

「エミネ、お前ポンコツだがいい奴だな」

「ポンコツは余計でしょ!」


 そうこう言いながらも、エミネはオレにイヤリングをつけ終わった。

 エミネはスパイとしては割とポンコツなんだが、生活力はあるんだよな。

 オレに近づくときに気にして風呂に入るあたりとても女の子らしいしな。

 キッチンに置かれている鍋からいい匂いがしてきているし。

 エミネが作ってくれたんだろう。


「指輪に触ってから話しかけると、あっちに声が飛ぶ。

 イヤリングに触るとあっちからの声が聞こえる。

 ほら、テオ。

 右耳のイヤリングに触って」


 オレが右耳のイヤリングに触れたのを確認して、エミネが自分の左手の指輪に触れ小声で話しかけた。


「ばーか」

「いや、聞こえたけどさ。

 ばーか、ってお前ちっちゃい子かよ!」


 子どもの悪口じゃないんだからさ。


「聞こえたらならいいじゃない。

 戦闘に入ったら、あたしも四六時中テオの側にいるってわけにもいかないわ。

 だから、この指輪とイヤリングでやり取りするわよ」

「使い方はわかったが……なあ、エミネ。

 オレはスパイとして魔王軍に属している。

 この戦いで、オレは何をすればいいんだ?」

「指令が出てない間は、目立たないように魔王軍兵士をこなしてて」

「……こなす、か」


 こなすってのが案外一番難しいんだよな。


「エミネ、お前はどうするんだ?」

「あたしはテオの監視役だから、どこにでもついていくわよ」


 ポンコツだから忘れそうになるが、エミネはオレの監視役だ。

 そして、オレがシアドステラに反逆したときの暗殺者を兼ねている。


「裸でか?」

「し、仕方ないでしょ。

 服着てると透明になれないんだから」

「動揺するなよ」

「わかってるわよ、あの時はテオが悪いんでしょ。

 変なとこ触るから!」


 エミネは透明人間と人狼のハーフだから透明になることができるが、動揺すると元に戻ってしまうんだ。


 ピ、ピ


「エミネの耳のイヤリングが光ったぞ」

「……連絡ね。

 テオ、ちょっとこっち来ないでね」


 エミネは魔道具で誰かと連絡を取っているのだろう。

 オレに聞かれたくないのか、玄関まで言って話している。


「……はい、わかりました」


 エミネは、連絡を終えたようで右耳から手を離した。

 心なしか、表情が暗く沈んだように見える。


「テオに指令よ」

「……何だって?」

「『クルトの街に入ったら、牙爪隊を抜け、ヒューゴーの指揮下に入れ。

 万が一、勇者隊が敗北してクルトの街が奪還されようものなら、ヒューゴーにすべて街をすべて爆破するよう作戦を指示してある。

 そのヒューゴーの作戦の支援を行うように』……ですって」

「敗北時に爆破しろってことは、クルトの街にいる、人間、亜人、獣人すべてをまきこんで爆破しろってことか」


 エミネは頷いた。


反吐へどが出るな」

「あたしもそう思うわ」

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