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22-0 魔王軍の侵攻(魔王視点)

「テ、テオが勇者をクビになっただと?」


 わらわの元へ届いた情報に耳を疑った。


「カ、カアカア!」

「こら、急ぎの内容だからってミモザ様にカラス語で話してるんじゃねえぞ」


 定例の魔王軍幹部会議に、急ぎの知らせをカラス兵が持ってきた。

 わらわの剣幕に恐れをなしたのか、追加説明をカラス語で行ってしまった部下を、銀翼将軍エルトゥールがたしなめた。


「す、すいません」

「まあよい。

 しかし、テオをスパイに寄越したことも驚いたが、まさかテオをクビにするとは……」


 その場にいる将軍たちも呆気に取られていた。


「……魔王軍の将軍級と一対一で相手できるのは、テオの奴しかいねえっていうのに……」


 エルトゥールが呆れたようにつぶやいた。


「ふふ、エルトゥールはテオと戦って、強くて逃げ出した、からね。

 テオびいきなのよね」


 精霊将軍ミレイは懐かしむようにクスクスと笑い出した。


「ミレイ将軍、ずっと前の話、オレがひよっこの時のこと、蒸し返さねえでもらえますかね。

 おりゃあ、もう征空隊を率いる将軍なんだ。

 今の発言、侮辱ととらえてもいいんですよ」


 エルトゥールがミレイに食って掛かる。


「違う。

 エルトゥールは強くなったなーって話。

 あのひよこさんが、もう将軍なんて」

「アンタねえ!」


 ミレイとしてはからかうつもりではないのだろうが、エルトゥールからすれば、将軍なのに子ども扱いされてとあっては、侮辱されたと思うのも当然か。


「精霊将軍ミレイ殿」


 赤獅子将軍ナシルが二人の間に割って入った。


「あら、ナシルさん」

「数千年を生きるミレイ殿からすれば、ワシもエルトゥールも子どもに見えるのでしょうな。

 しかし、ワシもそろそろ肩や腰に無理が来る歳……ワシも子ども扱いは少々辛いものがある」


 ナシルの冗談めかした物言いに、その場の皆が笑った。


「ワシもエルトゥールも一軍を率いる身、魔王軍の将軍職の末席を温めております。

 だから、ワシやエルトゥールを子ども扱いせんでください。

 ワシにもエルトゥールにも部下がおります。

 その部下たちに少しは格好よく見せたい日もたまにはありますからね」

「ふふ、確かにナシル子どもじゃない。

 ナシル、エルトゥール。

 子ども扱い、ごめん。

 つい……」


 ミレイは頭を下げた。


「いや、そこまでしてくれなくていいんすけどね」


 エルトゥールからミレイに食って掛かったとはいえ、素直に謝られてしまうと上げた拳の振り下ろし先が見つからないらしい。

 

「いや、すいません。

 ミモザ様、オレのプライドのために時間使ってしまって……ナシル将軍も、すいませんでした」


 直情的な男であるが、すぐに謝れるフットワークの軽さをわらわは評価しているのだ。


「かまわぬ」

「オレが言いたかったのは、テオをクビにするなんて人間軍は何考えてるんだってことなんですけど……でも、今わかったような気がして」

「……話してみろ」


 エルトゥールは直情的なタイプであるが、直観的な判断には目を見張るのがある。


「テオは勇者隊随一の戦力でしたけどね……テオだけが特別でしてね」


 少しだけ、嬉しそうに語るエルトゥール。

 テオと一緒に戦ったからだろうか。

 刃を交えたものにしか、わからないこともあるのだ。


「亜人、獣人の村を襲ったことなど一度たりともなかった。

 女をさらうことだってしなかった。

 そもそもですけどね、幼かったオレが逃げられたのだって……きっと相手がテオだったから逃げられたと思うんですよ。

 その時ですけど、テオの横薙ぎ一閃で、その時のうちの部隊は壊滅したんです。

 そこら中に倒れてるオレたちの処分で勇者隊はもめていた。

 テオと、他の勇者が言い争っているようでした。

 ……その隙にオレは逃げられたんですが……

 たぶん、他の勇者は倒れているオレ達を殺すつもりだった。

 それに反対したのが、テオだったんです」


 エルトゥールはナシルとミレイに目を向けた。


「ミレイ将軍に悪気はないのはわかってた。

 でもそれでも、オレはカーっと来ちまって拳を振り上げた……ナシル将軍にとりなしてもらっちまって情けねえ。

 ミレイ将軍もすぐ謝ってくれた。

 オレは、ナシル将軍にもミレイ将軍にも、借りが出来たと思ってる」

「がははは、そう思ってくれるならば、お前は見込みのある男だ。

 エルトゥール将軍」


 ナシルは豪快に笑った。


「ただ、これは二人がうまく収めてくれただけで、皆が皆、そうできるとはオレは思わねえんすよ」


 エルトゥールの言いたいことが、この場にいる将軍たちには伝わったようだ。


「内部抗争か……くくく、それが本当なら勇者部隊はこれ以上なく弱体しているのではないか?」

「ミモザ様。

 僭越ながら、オレもそう思うんすよ」


 パカラパカラと、ひづめを鳴らしながらケンタウロスが駆け込んできた。


「報告、報告です!

 急ぎの内容です!」

「申してみよ」

「「はい!」」


 わらわの返答に、ケンタウロスと駆け寄ったナシル将軍がひざまずいて答えた。


「前線拠点、クルトの街の周辺の獣人の村が勇者たちに襲われています!」

「その勇者の名は?」

「はい。

 爆炎の勇者、ヒューゴー・フレアウッドではないかと」

「チッ、ヒューゴーか」


 ナシルが、ヒューゴーの名を聞いて顔をしかめた。

 あ奴と戦うと、獣人、亜人の人さらいが多く発生すると聞くからな。


「先の戦いでは、テオ達と協力し、クルトの街攻略に加わっていたはずだ」

「テオという重しが外れて、やりたいようにやり始めたか、外道め。

 エルトゥール。

 テオが内部闘争で権力を失ったというお前の見立てはかなり的を射ている、とわらわは思うぞ」

「そのようですね、テオがいりゃあ、獣人の村は襲わせねえと思うんです」


 エルトゥールは大きくうなずいた。


「ミモザ様、ワシの牙爪隊には獣人も多くいます。

 クルトの街周辺の村を守りに行かせてください!」


 ナシルは大声で叫び、額を床にこすりつけた。


「くくく、ナシル。

 わらわは守るだけでは物足りぬぞ」

「と、言いますと……」


 わらわは立ち上がり、大鎌を床に突き立てた。


「周辺の村を防衛した後、クルトの街を攻略する!」


 わらわの発言に、幹部たちが身震いをした。


「どの道さらわれた者たちは、クルトにいったん集められる。

 皆のもの、できるな?」

「「ははー!」」


 将軍たちがひざまずき、大きな声で了承した。


「赤獅子将軍ナシル・バクラム。

 お前の隊が最もクルトに近い。

 周辺の村を解放し、クルトの街へなだれ込め」

「御意」


 ナシルは合掌して立ち上がった。


「操魂将軍カルリ・シオマネ。

 クルトを包囲し、敗残兵が周りの村を襲わないよう、敗残兵を借りつくせ」


 カルリは無言でうなずいた。


「銀翼将軍エルトゥール。

 空から、テオの見張りを行え。

 テオの部隊も戦闘に巻き込まれるだろう、空からテオの監視を行え」

「わかりました!」


 エルトゥールは空中で一回転しながら返事をした。


「ルナラ、ミレイはクルトの街以外に気を配れ。

 テオ離脱の影響は、わらわの見立てではクルトの街だけにとどまらぬぞ」

「「はい」」」


 二人は静かに返事をした。


「クルトの街攻略作戦。

 ナシルを主攻、カルリをその補佐として魔王ミモザが命ずる。

 奪われた土地を、仲間を、誇りを取り戻せ。

 確実に戦果をわらわの前に掲げて見せろ。

 できるな?」

「「はい!」」


 将軍たちの宣言が、魔王城を揺らした。

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