21-2その頃ジャック達は(ジャック視点)
「いや、ほらエディ隊長、先行きましょ、明るくて気持ちいいなあ。
ほら、早く早く」
「……そ、そうですね。
早く行きましょうか」
はあ、ブチ切れそうだったエディもようやくちょっとは理性を取り戻してくれたな。
お、前方にモンスターの群れだ。
「さあ、皆さん。
前からゴブリンの群れですよ、5人ほどですからささっと倒してくださいね」
そういうと、エディは洞窟の端の岩に腰かけた。
そうだな、これくらいの敵、オレ達でやるしかないよな。
ミリア、アイリーン。
「ジャックさん、油断はしないでくださいよ」
エディが心配しているが、相手はゴブリンだ。
まあ、何とかなるだろ。
「やるしかないか」
「行きますわ!」
「行くよー」
オレを先頭にゴブリンに近づくが、感づかれてしまった。
「ギギィ」
ゴブリンも陣形を作って対応してくるようだ。
「行くぞ、お前ら!」
オレは叫びながらゴブリンへ突撃、ミリアとアイリーンは詠唱を始めた。
「ギギィ」
「ギ、ギギィ」
ゴブリンたちはオレに向かって何かを投射してきた。
「へ、盾で防いで見せるぜ!」
何個も投げられたものはどうやらツボ。
盾とぶつかってカチャリと割れ、中から飛び出して来たぬめぬめとした液体がオレにべっとりとかかった。
「な、なんだこれ?」
「黄色いですね……
ジャックさん、油かもしれない!
気を付けて」
奥の方にいたゴブリンの矢の先がメラメラと燃えている。
「ミリアさん、水魔法か風魔法使えますか」
エディの質問にミリアが答えた。
「使えるわ。
でも、今はだめよ。
詠唱中だから」
「いや、まだ魔法陣書きあがってないじゃないですか、そこからぐいっと違う魔法に変えれば……」
「何おっしゃってるんですか、魔法はイメージ、途中から変えるなんてそんなことしたら威力が弱まりますわ」
ミリアはエディの意見に耳をかさず、魔法陣を書き続けていく。
随分、大きな魔法陣だな。
「ミリアさん、ちなみに何を唱えてるんですか?」
「火炎系魔法最高呪文、深紅の爆炎ですわ」
「何考えてるんだ、ジャックさん油浴びてるんですよ!
引火してしまいますってば!」
「だって、詠唱する前は油浴びてませんでしたもの」
ミリアは平然と言い放つ。
臨機応変という言葉など、ミリアの辞書には存在しない。
「そもそもそんな大魔法使う必要あるんですか?
ゴブリンですよ、≪炎の矢≫とかでいいですって!」
エディの説得にもミリアは全然耳を貸そうとしなかった。
「≪炎の矢≫は、命中率に不安がありますわ。
前衛の方がたくさんいてくれないと落ち着いて撃てませんもの」
ミリアは地面に特大の魔法陣を書いた。
「完成ですわ!」
ミリアは魔法陣の傍らに立ち、詠唱を始めた。
≪炎の精霊よ、罪深い彼らに灼熱の業火を浴びせ、新生の転機を与えよ!深紅の爆炎
魔法陣から特大の火炎が炎を巻いて、ゴブリンたちへ向かう。
「ジャックさん、伏せろ!」
「うううわあああ」
「あれ、ちょっとかすりそうですわね」
「あっさりと言うな、死ぬだろうが!」
オレは他人事みたいなミリアに大声で叫んだ。
≪風の剣よ。有形も無形も、すべて我が手で切り開け!風裂!≫
エディが剣に風魔法を纏わせ、剣技とともにミリアの魔法を斬った。
オレの頭のすぐ上を斬撃が飛んでいき、オレはぎりぎりで消し炭にならなくて済んだ。
ゴブリンのいた場所にはぽっかりと特大の穴が開いていた。
「ハア……ハア……」
「いやー、怖かったですねぇ。
危なかったですよぉ」
アイリーンはいつものように、自分だけ入れる大きさの最高の防御魔法≪五重の塔≫を形成し、いざというときに備えていた。
「アイリーンさん、これ一人用ですか」
「そうなんですよぉ。
一人分じゃないと、≪五重の塔≫は使えないんですよ。
でも、すごいと思いません?
この魔法、光魔法の最高級の防御魔法なんですよ!」
アイリーンは
「へー、それを一人で使ってたんですか。
ジャックさんが燃えそうになってて、ボクが一人でなんとかしようと必死になってるときに」
エディの瞳にはもう光なんてものはなく、ただただ冷たい視線だけが、オレ達を見据えていた。
「クビですよ」
「「え?」」
エディはオレを指さした。
「クビですよ、アンタたちは。
ジャックは借金だらけのくず。
おまけに油断するなって言ってるのに、突っ込んでゴブリンに油かけられるマヌケ。
ミリアは、ボクの魔法をテオくんと比べる失礼な女で、魔法の詠唱でも融通の利かない自己中心的な変人。
アイリーンは、仲間のピンチに何もしようとせず、自分だけの防御結界にいる自己中心的な最低の女」
「ボクのパーティーに君たちはいらない」
ゴゴゴゴゴ。
ぽっかりと空いた穴から、大きな音がする。
「あーあ、ダンジョンででかい魔法使うからこんなことになるんですよ」
エディは吐き捨てるように言った。
「早く逃げないと死にますよ、みなさん」
「エ、エディはどうするんだよ、一緒に何とかしてくれよ!」
オレはエディに頭を下げた。
「はは、嫌ですよ。
どうせ、ボクの力をあてにしてるんでしょうけど……」
穴から溶岩がせりあがってきた。
≪偉大なる逃避行≫
エディは離脱呪文を唱えた。
「じゃあね、後で見に来た時に、骨が見つかれば埋めてあげますから」
「は、薄情者!」
エディは魔法でビュンと飛んで行った。
「ジャック、私たちはどうするんですかぁ」
「は、走れ!オレらは走るしかないんだ!」
オレたちは、わき目もふらず入口を目指して走り出した。
「うわー、助けてくださいよ、テオー」
「……エディさんはどうして帰ったんでしょうか?」
「うるさい、いまはとにかく走れ!」
オレたちが今、出来ることは全力で走ることだけだ。




