表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/44

14 元勇者は魔王から監視されている。(魔王視点)

 ここは魔王の間。

 先日、わらわとテオの激闘があった場所だ。

 わらわ達魔王軍は優秀な大工をたくさん抱えているので、部屋中が奈落になったところで、すぐ治せるのだ。

 何たって魔族の大工は人間の大工と違って、腕が八本あるからな。


 今日は月に一回行われる魔王会議の日。

 魔王軍の5部隊を率いる5人の将軍たちが一堂に会す日なのだ。


 牙爪隊、赤獅子将軍ナシル・バクラム。

 炎を司り、獣人や魔獣を率いる獅子面の巨躯の獣人。


 水龍隊、海龍将軍ルナラ・アシュター。

 水を司り、水棲生物を率いる氷龍だ。

 今は龍人化しているため、わらわよりも小さいがな。


 影棲隊、操魂将軍カルリ・シオマネ。

 闇を司り、不死生物アンデッドと悪魔を率いる死霊術師ネクロマンサーだ。

 いつも仮面をつけているから、本当の顔はわらわすら知らない。


 魔精隊、精霊将軍ミレイ・フラマ。

 土を司り、植物や妖精を率い、精霊を使役する古代種エンシェントエルフだ。

 何千年と生きているらしい。


 征空隊、銀翼将軍エルトゥール・シャヒン。

 風を司り、魔鳥や翼竜を率いる鳥人と龍のドラゴンハーフ。

 ルナラと同じく人化できるから、今は人型をとっている。


「それでは、お集りの魔王軍五大将軍の皆さま、ただいまより魔王会議を始めます!」


 司会はわらわの筆頭執事のダークエルフ、リフ・ブロンザイトが執り行う。


「フフ、先日のわらわと勇者テオとの戦闘についてだが……」

「その度は、魔王城に侵入を許し、申し訳ございません!」


 赤獅子将軍ナシル・バクラムは座席から飛び降り、額を床にこすりつけた。


「いや、そんなことはどうでもよいのだ。

 そなたを責めたりはせぬ。

 皆に、わらわがいかに勇者テオと戦ったか見せようと思ってな」

「……それはとても気になりますわ。

 強大な魔力を持つミモザ様に、どのようにして勇者テオが対抗したのでしょうか」


 海龍将軍ルナラ・アシュターは話が気になったのか、ふわふわと浮遊しわらわに近寄ってきた。

 他の幹部も随分、テオについては気になっているようだ。

 ぐっと体を前にして、わらわの話を待っている。


「フフフ。

 皆、気になっているようだから、話してやるのだ。

 今から私がそのときの記憶を水晶玉で映してやろう」


 わらわは水晶玉を魔力で呼び寄せ、水晶玉の光を白壁に向かって放射。

 あの日の様子が映し出される。

 

「じっくり見せてやりたいとこなのだが……時間もないしな。

 早送り……っと。

 お、そろそろだ。

 ここからが面白いのだ。

 わらわが魔王の間を奈落にし、テオが光の鎖を放ってからが、本当の勝負なのだ」


 水晶玉はわらわとテオの戦いを映し出す。


「ほ、報告です!」


 黒カラスの鳥人がバタバタと飛んできた。


「どうしたのだ、今からがいいところなのに……そんなに急ぐことか?」

「……おい、どうしたんだ?

 魔王ミモザ様に、どうしても伝えなきゃなんねえような、やべえことなんだろうな?」


 部下である黒カラスに銀翼将軍エルトゥール・シャヒンが駆け寄った。


「もちろんです!」

「わかった」


 エルトゥールは跪き、頭を下げたまま話しだした。 


「ミモザ様、俺の部下に報告させてもいいですか。

 もし、ミモザ様のお耳に入れるまでもねえ、くだらねえことだったら……オレとこいつここで腹斬って死にますから」


 銀翼将軍エルトゥールはやることがいちいち大げさだが、部下の面倒見の良い奴だ。


「フフ、そこまでせずとも良い。

 二人とも顔をあげよ。

 さあ、話してみろ」

「「ありがたき幸せ!」」


 エルトゥールは部下と二人で立ち上がると、部下の背を叩き、気合を入れた。


「おら、行け」

「は、はい! 報告します!

 勇者テオが、我が国に侵入したとのことです!」

「「な、何ぃいい!」」


 その場にいた皆が立ち上がった。


「それは確かな情報か、確かめたのであろうな?」


 わらわはジロリと黒カラスをにらんだ。


「は!

 国境をまたぎ入国する馬車をチェックしていたところ、勇者テオらしき人物を発見したため尾行しておりました。

 しばらくつけていたところ、テオは獣人の少女と二人でファラスの街へ侵入しました。

 その後、街中で聖剣を振り回していましたので、確かかと」

「がはは、さすがに勇者テオでも街中で聖剣を振り回しはせんだろう。

 他人の空似じゃないのか?」

 

 赤獅子将軍ナシルは大きな口をあけて笑った


「これがその映像です」


 黒ガラスが握った水晶玉を、精霊将軍ミレイ・フラマが取った。


「ミモザ様に、写してもらうわけに行かない。

 私やる」

「ミレイ将軍、助かるぜ」


 銀翼将軍エルトゥールはミレイに頭を下げた。


 精霊将軍ミレイは鮮やかな手つきで、魔法陣を描き、水晶玉から映像を投射した。

 そこには、ファラスの街へ入った後、聖剣をすごい速さで振り回し、小石を斬っている勇者テオが映っていた。


「ふ、ふざけるな!

 牙爪隊本拠地、城塞都市ファラスに忍び込み、おまけに真っ昼間に聖剣を振り回すだとおおお!

 な、なめやがってえええ!」


 赤獅子将軍ナシルは自分が率いる牙爪隊のおひざ元、城塞都市ファラスでの出来事に憤慨しているようだな。


「んー、やっぱりあれは聖剣だ。

 柄に聖龍の彫刻が見えるから間違いねえ。

 聖剣持ってるってことは、あれは勇者テオだわ。

 へへ、お前なかなかやるじゃねえか」

「あ、ありがとうございます!カカ」


 銀翼将軍エルトゥールは黒ガラスの背中をバシバシ叩いているが、黒ガラスは褒められてうれしいのか、思わず笑いがこぼれている。


「しかし、テオは何のために侵入して来たって言うんだ?」


 エルトゥールは首を傾げた。


「わらわたちすべてを一人で倒しに来た……というほど、テオは自信過剰ではない。

 以前の戦いは、勇者隊それぞれが魔王軍各拠点を攻撃したから、出陣したお前たちが魔王城から出払っていたときがあった。

 その隙を見逃さずに勇者テオ隊が進軍してきて、わらわとようやく戦えた、というわけだ」


 皆がうなづいている。


「テオもここにいる将軍たちを、すべて一人で相手しようとは考えてないと思うのだ。

 わからぬ。

 テオはなぜファラスに来たんだ?

 筆頭勇者自ら偵察に来ただけとも思えぬが……」

「ご報告です!」


 ケンタウロスが猛スピードで走ってきた。


「何だ、お前。

 ミモザ様の御前であるぞ。

 急ぎの報告か?」


 赤獅子将軍ナシルが部下であるケンタウロスの元へ駆け寄った。


「は、はい……」

「……嫌な予感がするな。

 報告を許す」

「「ははー」」


 ナシルとケンタウロスがわらわに向かって平伏した。

 ケンタウロスは水晶玉を持っていた。


「ここにその映像があります」

「貸して」


 精霊将軍ミレイが、水晶玉から映像を投射した。


 そこには、ネコ族の少年が映っていた。

 

「すごく美形の少年だな。

 わらわは、こういう顔がもしかしたら好きなのかもな」

「へ、うらやましいな。

 このネコ族の少年、ミモザ様に気に入られるとはよ」


 銀翼将軍エルトゥールはすねているようだ。


 その映像に映るネコ族の少年は、受付を済ませ、剣技試験でゴーレムをあっさりと倒した。


「「はあ?」」


 皆が口をぱっくり開けていた。


「あのゴーレム、エレメンタルゴーレムだぞ?

 魔法ならいざ知らず、

 剣技の試験で倒せるわけがない!」


 赤獅子将軍ナシルは、部下のエレメンタルゴーレムが倒されたことにえらく動揺していた。

 

 さらに続いて、ネコ族の少年は魔法試験を受け、大岩をいとも簡単に切り裂いていた。


「「強すぎる!」」


 あまりのことにみなが騒いだ。

 さらにその後、そのネコ族の少年に叫んでいる獣人の少女が映し出された。


《スパイだから、目立ったらダメでしょ!もう、テオのばか!》


「「テオ? ……ああ!」」


 みな、ネコ族の少年の正体に気づいたようだ。

 

「な、なぜテオが牙爪隊の試験を受けに来ている?」


 赤獅子将軍ナシルは自分の部隊の試験に、勇者テオが現れたことに慌てふためいていた。


「ちょっと巻き戻しできるか。

 この少女の発言をもう一回聞きたいのだ」

「わかった」


 わらわの頼みに、精霊将軍ミレイが答えてくれた。

 少女が叫ぶ映像がもう一度流れる。


《スパイだから、目立っちゃダメでしょ》


 やはりか。


「勇者テオはスパイとして魔王軍に来たのだ」

「「ええええええ!」」


 皆が飛び上がって驚いた。


「しかし、人間たちは愚か者ばかりか?

 世界一有名な人間を、筆頭勇者をスパイにするとはどういうことだ?」


 ナシルは首を傾げるが、誰も答えなど持ち合わせていない。


「「……さあ?」」


 わらわ達魔王軍はテオがスパイに来たことに対して、ああでもないこうでもないと議論を交わしていたのだが……結局、何のために来ているのかわからなかった。


「よし、これからスパイとして潜り込んだ勇者テオを監視し、その目的を明らかにする。

 これはこの場にいるものの守秘事項とする。

 良いな。

 親兄弟にさえ、言ってはならぬぞ」

「「ははー」」


 皆がひざまずいて魔王会議は終わった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ