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13 元勇者の魔王軍入隊試験(魔法)

「「はああああああ? ゴ、ゴメスがやられた!

  な、何が起こった?」」


 観客席からどよめきが巻き起こった。

 何がってオレがゴーレム倒しただけだけど……

 三角帽子をかぶったエルフの女性が慌てふためいて、走ってきた。


「わー―――――!

 ゴ、ゴメス!

 なにがあったんです?」

「いや、オレが倒したけど」

「冗談やめて、魔王軍の将軍だって物理で倒すのは難しいんですから」

「へー、そういうものか」

「ちょ、ちょっとこら、核を返しなさい!」

「核は傷付けてないって」


 オレはゴメスの「核」をその三角帽子に渡した。

 たぶん、魔術師なんだろうけど。


「なあ、乾いてるだけだから、核を元の場所に戻して水かけてたら明日には戻るってば」

「いやー、ゴメスが倒されるなんて、何が起こったの?」


 魔術師はオレの話を全く聞かず、慌てた様子で治癒魔法をかけ続けいていた。


「ゴーレムに治癒魔法は効果が薄いってば。

 ったく、聞いてないな……」


 会場はずっと騒然としたままだった。


「なあ、オレ次の魔法試験に行っていいのか?」


 周りはガヤガヤしていて、オレなんかに構っている暇はないようだった。


「あっちの黄色い屋根の小屋が魔法試験の本部かな……」


 とりあえず、オレは黄色い屋根の小屋に急いだ。


「誰もいないのか?」


 誰か返事しろよ。

 見渡すと、魔法試験の本部だろう場所の奥には耳が尖がって褐色な美形の男が一人。

 燕尾服だろう礼服を着ているから、立場は高いのだろうか。

 神経質そうな顔つきだな。

 まあ、褐色だしダークエルフだろ。

 まつ毛長いな。


「…誰だ? 私は今、忙しいんだ。

 何者かがこの試験場に攻撃してきたらしくてな……まさか壊されるとは」


 ダークエルフは座ったまま、犬でも追い払うように手を振ると、魔法を使って部下と交信していた。

 へー、攻撃があったのか。

 シアドステラの攻撃かな。

 それにしても何が壊されたんだろ?


「オレさ、魔法の試験受けたいんだけど……」

「ああ……まだ試験を受け終わっていないのか」


 ダークエルフが机の上にあった紙に息を吹きかけると、たちまち紙は鳥の形になって浮かび上がった。

 

「式神か。

 なかなかやるな」

「なかなかやるなってお前、試験を受けに来たくせに私のこと知らないのか?

 やれやれ。

 牙爪隊、魔術補佐官ディーター・リーラ。

 普段は赤獅子将軍ナシル・バクラム様の魔術補佐を務めている。

 今は、ちょっと、取り込んでいてな。

 ほら、その鳥についていけ。

 ついていった先に大岩があるから、少しでも岩を欠けさせることができたら、合格だ。

 終わったらかけた石を持ってこい」


 ≪ピピピィ≫


 式神は本当の鳥の様に可愛く鳴くと、オレを案内してくれた。


 式神に導かれて歩いていくと、並みの人間を遥かに上回る大岩。


 10数人の受験者が大岩へ代わる代わる攻撃魔法を放っていた。


火球(ファイアーボール)

氷の矢(アイスアロー)

岩石弾(ストーンバレット)


 大岩は受験生の集中砲火を受けてもびくともしていない。

 魔法攻撃していた受験生は、大岩の硬さに思わず愚痴を言った。


「はあ……はあ……。

 なあ、この大岩さあ、本当に壊れるのかよ?」

「知らねえよ、でも……もう魔力が尽きるぜ……」


 あたりには受験生が折り重なるように倒れていた。

 どうも外傷はなさそうだから、魔法力が尽きたんだろう。


「こいつを壊せってことか?」


 ≪ピピィ≫


 オレが式神に聞いてみると、鳴いた。

 頷いているような気がする。


「はは、そういうことみたいだな」


 何人かまだやる気のありそうな受験生も、休憩していたので近づいて岩の様子を見てみることにする。

 右手で魔法陣を展開、宝箱などにかける分析(アナライズ)をかけてみる。

 おー、保護魔法をかけてあるな。

 分析(アナライズ)対策だろうけど……

 まあ、魔力の出力をあげればいいだけだ。


 オレは右手に魔力を集め、保護魔法を解除。

 岩石の状態を分析(アナライズ)して読み取った。

 

 ……どうやら、ただの岩でなく、魔法で強化してあるようだ。

 オレは勇者だが、攻撃でも、回復でもない魔法は割となんでも使えるぞ。

 勇者パーティーを組んでいた魔導士ミリア聖者アイリーンはこういった技術系の魔法は嫌いだったからな。


「んー、弱い魔法だと壊すの難しそうだな。

 魔法防御かけてあるし、熱も打撃も斬撃も防御を上げてある。

 さっきのダークエルフか?

 大した魔導士だな」


 オレが大岩にかかっている防御魔法に感心していると、どうやら受験生らしい褐色の獣人がオレに声をかけてきた。

 

「おい、お前。

 分析(アナライズ)が得意なようだ。

 見させてもらったぞ」

「ああ」

「どうだった?

 俺も分析(アナライズ)をかけてみたが、拒否された。

 多分、保護魔法だな。

 ディーター様の保護魔法と考える」

「情報は読み取れたぞ」


 褐色の獣人は驚いていた。


「本当か?

 俺は拒絶されたが……」

「まあ、魔力不足だろ」

「……その可能性も高いか。

 ある程度魔法を放った後で埒が明かないから、分析(アナライズ)したからな。

 ここまで硬いのであれば、お前みたいにしっかり分析(アナライズ)したのちに、攻撃魔法をつかうべきだったな」


 アナライズも魔法力を使うから、結果論に過ぎないけどな。


「ただ、あまり調べた意味はなかったな」

「どういうことだ?

 ……せっかくだから、教えてくれ。

 ただ、他の奴らには内緒にするべきだろうな」

「……都合のいい奴だな。

 まあいい。

 一つ貸しだぞ」

「……ふふん、いいだろう」


 オレも魔王軍に忍び込むなら協力者がいた方が都合がいいからな。


「俺はイスマイル・アスラン。

 ヒョウ族の出だ」

「テ……えっと、オレはリン・テオドール」

「なあ、リン。

 早速教えてくれるか。

 分析(アナライズ)の結果を」

「……弱点はない。

 ただ、無効もない。

 かなり硬い。

 ただ、魔法防御が高いから、魔法試験じゃなければ、本来斬り倒した方がいいんだろうな」

「そうだったか、では各自得意な魔法で攻撃するほかないってことだな」


 イスマイルは、オレから情報を聞くと大岩から離れてどっかりと座った。


「どうしたんだ?」

「……リンの話を聞いたが、もう少し様子を見るべきだと思ったからな」

「……ハイエナか。

 他の奴らの攻撃で弱ったところを狙う気だな」

「はは、存分に笑うがいい。

 俺は絶対に牙爪隊へ入らせてもらう」 

 

 イスマイルの選択もある意味現実的だと思う。

 ある程度のダメージが入れば、壊れるだろうから、それをじっと待てばいい。

 ただ、それは他の受験者がずっと攻撃し続けなければいけないわけだが……


 どうやら、他の受験者もイスマイルと同じ企みらしい。

 どっかりと座り、少しでも魔力が回復するように努めているようだ。


「じゃあ、オレやるぞ」

「できれば、俺のためにダメージをたっぷり与えてくれ」


 軽口を叩くイスマイルだが、オレが魔法陣を展開しだすと、食い入るように見ていた。


 受験者はみなオレに注目していた。

 観客からの拍手も飛んできた。

 せっかくだから、頑張るか。


「行くぞ」


 オレは左手で風魔法を展開、大岩をぐんっと高く持ち上げた。


「「はあ?」」

「どうなってる?あの重さの大岩を持ち上げたぞ!」


 受験生はざわめき、イスマイルは興奮して立ち上がった。

 観客は呆然とした後、一斉に拍手を始めた。


「持ち上げておかないと、あたりで倒れてる奴らを傷つけそうだからな」


 オレは持ち上げた大岩にジャンプして風魔法をぶつける。


風の爪ウインドクロウ


 右手から発生した風魔法の斬撃で大岩が6つになった。


「「え?」」

「おい、リン。

 お前、豆腐のように大岩を斬るんだな!」


 ますますざわめきは大きくなっていく。


「そういえば、さっきのダークエルフ、ディーターって言ってたか。

 大岩のかけらを持ってこいって言ってたな……もう少し小さくしとくか」


 スパスパスパ。

 もう一度風の爪ウインドクロウ


 風魔法の初歩術だが、魔導師には人気のない魔法だ。

 射程がないからな。


「こんなもんだろ」


 オレは小さくなったかけらを一つだけ手に持った。


「さて、後の岩のかけらは散らかしても良くないし、くっつけとくか」


 拾った大岩のかけらをポケットに入れ、他のかけらを風魔法で操作し、くっつけて元の場所に戻しておいた。


「「も、戻ってる!」」

「オレは幻を見たのか?」


 受験生は眼をこすりながら、大岩に近づいていく。

 観客は何があったかわからず、きょとんとしていた。


「な、何してるのよ!」


 観客席にひときわ大きな声で叫んでる奴がいた。

 金髪で黒いローブに寝癖。


「何だ、エミネか。

 何してるって入隊試験してるに決まってるだろ?

 大岩壊したら合格だって言ってたからな」

「壊したらいいだけなのに、大岩持ち上げて、刻んで、くっつけるって……アンタばかじゃないの!

 アンタスパイなんだから、目立ったらダメでしょ!

 もう、テオのばか!」


 エミネは怒っているようで、観客席中に響き渡るような声で叫んだ。


「「スパイ?」」

「「テオ?……まさか」」


 あたりはざわざわしだした。


「声が大きいぞ、エミネ」

「あ……」


 エミネはどうやら自分がとても大きな声でスパイと叫んでしまったことに気づいたようだ。

 ついでに言うとオレの名前まで叫びやがって。


「ばかはお前だ」

「う!……うぐ……ぅぅぅぅ」


 エミネはオレに言い返したくてたまらないようだが、目立つわけにはいかずにぷるぷると震えていた。


「あたし……ば、ばかじゃないもん」


 おい、こら、泣くな。


 観客もひそひそオレ達のこと指さすんじゃないよ。

 オレ、そんなに悪くないからね?

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