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12 元勇者の魔王軍入隊試験(剣技)

 会場に入ったオレは、その大きさに驚いていた。

 ここ、闘技場なのか?

 中央の舞台を取り囲むように、ぐるりと客席がしつらえてある。

 観客席にはお客が入っているし、家族連れの姿も見える。

 右手に果実水、左手には何やらお菓子を持っているドワーフの子どももいた。

 魔王軍の入隊試験なんだよな?

 どうやらファラスの街の楽しいイベントみたいになっているんだけど……


 オレはこれから試験の説明を受けるみたいだけど、受付が早かった奴らは、すでに入隊試験を受けているようだ。

 武器のぶつかり合う音があちらこちらからしているし、呪文の詠唱音や作動音も聞こえてきた。

 時折、観客席から歓声も上がっている。

 この熱気は嫌いではないけど。


「198番の方、青い小屋までお越しください」


 オレの太ももから198という数字が青白く浮かび上がってる。

 魔法を使った呼び出しの合図だろう。

 試験を受けるものは額や頬、肩など他から見やすい場所に番号を印字されるらしい。

 オレには、太ももに印字されている。

 ……正直、恥ずかしい。


 とりあえず、呼び出された場所に向かう。

 水着みたいな格好をした女性が手招きしてくれた。

 頭に角があるし、黒い尻尾がくるくると伸びてるからサキュバスなんだろうか。

 昼だからなのか、動作が緩慢だしな。

 目もトロンと眠そうだ。

 サキュバスは夜行性なんだよな。

 

「……武器は支給品を使うよ。

 今、お持ちの剣を預かるね。

 次は剣技の試験。

 あっちにゴーレムいるから、そっち行ってね」


 しゃべり方はカタコトではあるが、慣れた手つきで、オレに鉄の剣を渡し、腰にさげてあった聖剣を受け取った。


「うわ、お、重い。

 何これ、あ、熱い……わわわ」

「早く手放した方がいいよ」

「うん……ここで預かってる」


 聖剣をその場に置き、やけどをしたかのように手に息を吹きかけていた。

 やっぱり悪魔系なのかな。

 聖剣って光魔法を帯びてるから、耐性が低いとかなりダメージを受けてしまうけど……


「ねえ」

「なに?」


 行こうとしたところで声をかけられたので、振り返った。


「この剣重かった……キミすごいね。

頑張って」


 さっきのサキュバス?の女性はどうやら応援してくれたようだ。

 両手を軽く、ぐっと握って頑張れってポーズをしてくれた。

 ……嬉しいもんだな。


「わかった、頑張ってくるよ」


 オレは拳を突き上げて、剣技試験へ出向く。


「ぐああああああ!」


 剣技試験場へ近づくと、ふっとばされた男がオレの隣を通り過ぎた。


「あらら、大丈夫か?」


 ふと周りを見れば、武装した男たちが所せましと倒れている。


「……うう……」

「生きてるのか?

 こいつら」


 オレが近づいて来たのを見て、ゴーレムが手を振ってくれた。


「198番ダナ。

 我、剣技ノ試験官ヲ務めるゴーレムダ」

「おー、珍しい。

 エレメンタルゴーレムか」

「そうダ。

 エレメンタルゴーレムハ、珍しいダロ」

 

 ゴーレムは自分のことを知っている者に会えて嬉しいようだ。

 手に握った大剣をぐるぐると振り回している。

 ゴーレムとは一般に土でできた、自動駆動のモンスターをさすが、その中でも二種類いる。

 魔法使いの道具としてのゴーレムと、命を持つものととして、精霊に近い存在のゴーレムだ。後者をエレメンタルゴーレムと言う。


 見分け方は二つ。

 しゃべるか、知能を持つか。

 オレの目の前に剣を持って立っているのはそのエレメンタルゴーレムだ。

 もちろん、知能を持つため、通常のゴーレムより何倍も強い。


「我を倒せバ、合格ダ。

 しかし、我を倒したものハ、いないんダ。

 だから、我の攻撃に1分耐えていれバ、合格トする。

 まあ、耐えていられる奴モ少ないガ。

 準備が出来たラ、始めるゾ」

 

 ゴーレムは右手で大剣を振り上げ頭上に構えた。


「じゃあ、オレも準備するぞ」


 オレは右手を頭上に掲げ、風の魔法陣を展開、魔力を右手に貯め始めた。


「「こらこらこらこら!」」


 観客や周りで見ていた他の受験者が騒ぎ出した。


「あのナ、剣術試験だゾ」


 ゴーレムは呆れたように両手を挙げた。


「魔法は反則だゾ。

 入口の掲示板ニ、剣術試験二ついてノ注意事項あったダロ」

「……そうか、すまん。

 慌ててきたから見てなかった」


 オレはしっかりとストーンゴーレムに誤った。


「いや、不正だぞ!不正不正!」


 それでも、一部の観客は納得していなかった。


「まあ、待て。

 みんな、強いものガ見たくてここに来てるんダロ。

 こいつ、ネコ族の少年だガ、たぶん強いゾ。

 それでも、我ガ勝つ。

 だから、反則ハ許してやれ。

 こいつハ、我ガぶちのめすカラ」


 ストーンゴーレムの名セリフに会場が大いに沸いた。


 こいつ、この会場の試験官に慣れているのか、めちゃくちゃエンターテイナーだな。

 観客の心をつかむ方法を心得ているようだ。

 それにしても、観客全員が、オレとゴーレムの試合を見守っているようだな。

 あたりを見回すと、どうやらオレを残して試験はもう終わっているようだった。


「お前、めちゃくちゃ人気だな」

「我ハ、エレメンタルゴーレム。

 名前はゴメス。

 戦っていくうち二、みんなガ、ゴメスという名前をくれタ。

 さあ、勝負」

「行くぞ、ゴメス!」


 オレはゴメスに向かって疾走。

 ゴメスは正確にオレの進行方向を見定め、先読みして剣を振るった。

 図体の大きいゴーレムであるが、知能を駆使して戦うタイプのようだ。


 オレはゴメスの剣を交わし、その大きな肩に乗った。


「な、何だト?」

「魔法が使えれば、楽なんだけどな。

 魔法が使えないなら、剣で魔法の効果を起こせばいいだけだ!」


 オレはゴメスの体を飛び回りながら、剣を振るった。


「風葬!」


 何千という斬撃と剣圧を加え、大きな竜巻を発生させた。

 風魔法の代わりとしては割とうまくいったんじゃないか?


「ぐ、ぐううううううう」


 ゴメスは竜巻に巻き込まれると膝をつき、その巨体を後方に投げ出した。

 辺りには、泥水が飛び散っている。

 成功したようだな。

 結局ゴーレムって土だから、乾けば駆動系に異常が出るんだよな。

 竜巻でからっからに乾かしてやった。

 

 ズズー―――ン。


「さて、と」


 オレは仰向けに倒れたゴメスの体の中央に飛び乗り、十字に斬って「核」を取り出した。


「どうだ、ゴメス。

 オレの勝ちだろ」

「ま、参っタ。

 強いナ。

 198番、名前を教えてくれ」

「テ……いや、違う。

 リン・テオドールだ」

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