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白き嫋(たお)やかなる夏の少女  作者: シン之助
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第7話 入学式

名門高校「王閨高校」に無事入学した浅野翔は、同時に入学する予定だった牧野薫が不在のまま入学式に臨むことになった。果たしてそこに待ち受けるものは・・・。

「じゃあ行ってくるね」


袖を通したばかりの真新しい制服を着て、なんとなく気恥ずかしくなりながら、俺はふと玄関を振り返る。


「お前もなんだか立派になったわね」


お袋がとしみじみと言えば、珍しく親父まで出てきて


「俺たちも式が始まるまでにはいくつもりだから。しっかりな」


と送り出してくれる。

 郊外の我が家から王閨大学付属高校まで約1時間、慣れない満員電車に押しつぶされそうになりながら、何とか高校の入り口にたどり着くことが出来た。驚いたのは校門前の自動車の多さ。中からフォーマルな格好をした保護者と思われる中年の男女と俺と同じような王閨高校の制服を着た新入生が降りては校門の中に消えていった。国産車等一台もない。どれも高そうな自動車の列を眩しそうに見つめながら俺は場違い感をひしひしと感じていた。


(牧野が居てくれたら・・・)


 価値観を共有するような友人と会えるのであろうか?詮方ないこととはいえ、俺を場違いなこんな場所に引き摺り出した牧野を少し恨んだ。


「王閨大学付属王閨高等学校 入学式」


と巨大な立て看板が掲げられた校門をくぐる。事前に送られてきた案内文や地図、受付用紙などをカバンから出して、入学式が行われる講堂に向かう。すでに、面接試験の時に構内は探索済みなので、迷うことなくたどり着くことが出来る。もっとも校内には校門から講堂まで着飾った両親や記念写真を撮る親子が、ぞろぞろと居た。その列をたどっていくだけでも十分到達できたには違いない。


「あれあれ…浅間君じゃない?それじゃあ受かったの?入学おめでとう!」


くるり先輩こと友田由香さんだった。心から嬉しそうに俺を上から下まで見渡すと


「フムッ」


といって真顔に戻ると


「はいこれ。剣道部の入部申込書よ」

「えっ?」


友田先輩がさも当たり前のように俺にその紙を押し付ける。


「まだ入部するなんて言ってないんですけど…」


と言い終わらないうちに、


「丁度いいわ。あなたも勧誘を手伝って」

「えっ?はぁ?…」


 俺は友田先輩に強引に腕を取られると、各運動部が新入生勧誘のためにチラシを配っている一角に連れていかれ、一緒に勧誘のチラシを配るはめになった。俺が差し出すチラシを受け取る新入生はほとんど居なかったが、友田先輩はその持ち前の強引さととびぬけた明るさで、てきぱきとチラシを渡すことに成功していた。よく見るとその足さばきは、決して進路を妨げることはないが、しっかりと目の前にチラシが来るように計算されつくされた間合いと動作だった。それも動体予測が正確で、絶対にぶつからずかつ優雅な身体さばきなのだ。


(この人はマネージャーだけでなく、きっと剣道をやっている。それも凄い)


 俺はすぐにそのことに気づいた。さっそく同様の動きを試みてみたが、友田先輩のようにはいかなかった。が、しばらくすると俺のチラシを受け取ってくれる新入生がちらほらと現れだした。


「おっ。コツをつかんできたな~。その調子その調子!」


 俺はおだてられながら、何とか友田先輩の動きをトレースし太刀筋を見切ろうとしていた。フト気が付くと、入学式開始5分前になっていた。


「先輩、俺は式があるので行かないと」

「あら御免なさい。こっちが近道」


 俺の腕を再びとると、友田先輩は裏手の道から回り込んで、高校レベルとは思えない、瀟洒で威厳のある講堂のすぐ前まで案内してくれた。


「じゃあ、放課後に剣道場で会おうね!バイバイ」


 ツトツトと元来た道を帰って行ってしまった。きっとこの先輩にはしばらく振り回されそうだな…などと思いながら、事前に指定されたクラスの番号が掲げられている一角に向かって歩き出した。保護者席の方を振り返るとお袋と親父が端の方に座っていた。金持ちそうな保護者の群れの中にいる庶民として最大限の威厳を取り繕うとしているようだったけど、失敗しているようだった。


(がんばれ親父!)


 俺は同情しながら、手を振ろうとして止めてしまった。俺も同様なのだ・・・。

入学式もこれまた豪勢な来賓がわんさかといらっしゃっているようだったが、俺が知っているのはせいぜいテレビによく出てくるタレント議員くらいだった。きっとこいつもこの高校のOBか何かなのだろう。ただ内容はごくつまらない。校長の挨拶や来賓挨拶、校歌斉唱とか国歌斉唱とか・・・・。新入生席に端から座らされた俺たちは、隣のやつの名前も、それどころかクラスメイトなのかどうかも分からず、漫然と入学式行事がこなされていった。

 ひたすらつまらなかった入学式が終ると、中学からの在校生はぞろぞろと各自で教室へ、保護者の方々は家路に戻って行ってしまったが、高校からの入学組はその場に残され、生徒会主導の「歓迎会」が続いて挙行された。司会進行役も生徒に変わる。


「これより、生徒会主催による新入生歓迎会を行います。新入生諸君は前方中央の席に集まってください。」


と生徒会役員と思われる女生徒から指示を受ける。高校生からの入学組は3クラス、約100名程度だ。中学からの入学組が6クラス、200名と聞いているので、入学式からは3分の1に減ってしまって、講堂はパラパラと寂しい感じになっている。俺たちはもぞもぞと後ろの席からやや前方の方に移動しかけていた。さすがに真ん前中央に行くようなやつは見当たらない。ちゃっかり抜け出してさぼろうとするものも居るようだ。


「生徒会?関係ねえよ。下らねえ行事に付き合う必要はないよな」


 そう言いながら、エスケープ組が講堂後方の出入り口へ進んでいく。その時だった。黒い長ランを着た一団が外から入ってくると講堂入り口を塞ぐように整列した。どうやらこの高校の応援団のようだ。さぼりを決めた連中が血相を変えて逆戻りしてくる。


「校歌斉唱」


 司会進行役の女生徒がそう厳かに言うと、ずらっと並んだ応援団員たちが高らかに王閨高校校歌を斉唱し始める。


 ♪♪今ここぞよと3本の。つがえし矢に込められた。改革の潮高らかに♪♪

 ダン!ダン!


という大太鼓のリズムに合わせ、低い声でがなり立てるように歌われるその歌を俺たちは唖然として聞いていた。その時であった。


「新入生諸君。声が出ていない!」


 応援団長と目される中央に立った人物が、睨みつけるように新入生を叱咤する。


「お前、校歌を覚えてきたか?」

「いや、まさか入学式からこんなに歌わされるとは」


 声が出ていないと言われても歌詞が分からないのだ。結局、新入生のほとんどは口をパクパクするだけで校歌斉唱は終わった。


「続いて生徒会長挨拶」


 そう司会進行が言った時だった。


「新入生諸君の歌声が聞き取れませんでした。「斉唱」とは皆で歌う事。もう一度、校歌斉唱を」


と司会進行役に釘をさす人物が現れた。多分生徒会長だろう。遠目でよくわからないが凛とした女性の声が、前の方から聞こえる。声を発した主は講堂の演台に上り、睥睨するように俺たちを見つめていた。


******************

 その後、新入生全員から歌声が聞かれるようになるまで、20回以上も「校歌斉唱」をやらされた。後で知ったことだがこれが王閨高校の伝統であった。否が応でも校歌を入学式の初日から覚え込まされてしまう。


「生徒会長の挨拶が始まりますので、前方中央に集まってください」


 司会進行役がそうアナウンスするのが合図だったのだろう、入り口を塞いでいた応援団が威圧するように縦一列になって前方に移動する。俺たちは押されるように前方の席に移らねばならなかった。結局ほぼ全員が真ん中前方席に移っていた。


「生徒会長挨拶」


 仕切り直すように司会進行役が宣言する。講堂の袖から演壇に上がってくる女性にその場にいた新入生全ての視線が集中する。ざわついていた場の雰囲気が一気にピンと張り詰める。皆その美貌に、そして、その凛とした佇まいに見惚れたように押し黙った。俺は思わず言葉を失った。

そこには「冬の少女」が立っていた。

 特別奨学生試験の時に廊下で出会った女性「冬の少女」を俺は目の前にしていた。


「ようこそ王閨高校へ」


 俺たちを睥睨するように見つめていた件の生徒会長は、その人間離れした美貌にふさわしい威厳を示しながら俺たちを見つめ続けていた。


「生徒会長の高坂玲子です」


-----------------------------------------------------------------

 非凡な外見とは裏腹に、その内容はごく普通の、生徒会長としての通り一遍の挨拶であった。多分、話す台本を指導部の先生から渡されていて、その内容を暗記して繰り返しているだけなのだろう。しかし、丸暗記とは思わせない流れるような話しぶり、良く通る明瞭な声音が見事で、俺たち新入生は思わず聞き入ってしまっていた。話が締めくくられ、一礼して演壇から彼女が去る段になっても、俺たちはホケーッと聞き入っていた。誰かが思い出したように拍手をし始めると、我に返った一同が割れるような拍手を惜しみなく降り注いでいた。


 こうして俺の王閨高校初日が始まった。


久しぶりの連載再開・・・週一更新を目指しますが、バンク無しでどこまで続けられるかな??

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