第15話 再会
神楽舞の舞台で浅間翔が観客席に見たのは「白き夏の少女」にそっくりな美少女だった。だがその少女は暗黒の衣を纏う冷酷無比な計算高い女・・・。目の前で外国人とのキスを見せつけられた翔は不思議な動揺を覚えるのだった・・・。
浅間翔:主人公・王閨高校1年特・第128期特待生
浅間瞳:翔の妹
牧野薫:翔の親友
千葉丈太郎:翔の同級生・王閨高校1年・第128期特待生
高坂玲子:黒き少女・生徒会長・高坂家胞衣
三園木香:暗黒の少女・三園木家胞衣
三園木玄随:三坂財閥総帥・三園木香
坂巻竜頭:三坂財閥創始者・明治維新の英雄
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翌朝、目覚めた俺は千葉道場の朝練には間に合わない時刻に目を覚ました。朝日はとっくに上っている。昨夜はなかなか寝付かれなかったためずいぶん寝坊したようだ。そして今日が日曜であるのを思い出し、ホッとしながら、もそもそと寝床から起き上がった。
(代わりに柊道場に行って汗を流すか・・・)
師匠一家が引越した後も、新宮司である森永さんの計らいで細々と剣道は続けていた。師匠の後釜の森永宮司は剣道をする人ではなかったが、氏子の方々の集会場として剣道場を活用しながら、近隣の剣道少年にも快く道場を開放してくれていたのだ。週一回ではあるが、地元の剣道家を招いて小学生数名が、剣道を習いに来ている。剣道場を使わせてもらっている俺も、小学生の指導をボランティアで手伝いながら、空いている時間は練習をさせてもらっている。どうせ夕方には桜木さんから呼び出しを食らって神楽舞の特訓をさせられることになる・・・。
防具一式を抱えて出かけようとしたところで、妹の瞳が血相を変えて俺のところにやってきた。
「お兄ちゃん・・・なんだかSNSですごい話題になってるよ」
そう言ってスマホの画面を俺に向ける。
「げ!なんだよこれ?」
腐女子連中が撮ったと思われるSNSの投稿写真がいつの間にか独り歩きして、勝手な注釈がバンバンと付いて悪意あるまとめサイトにデカデカと載っているのだ。
【カーネルフェラー財閥 御曹司の災難】
【お坊ちゃま 神道の神からお叱り】
【新たな日米摩擦の始まりか?】
俺とマイケルの睨み合いや、腕をつかみあっている写真があちこちにアップされていた。だが、三園木香とのキスシーンはなぜか一切アップされていない。三坂財閥が裏から手をまわしたのは明白だった。
「ちきしょう・・・あのキスシーンを隠ぺいするために、こっちの写真をクローズアップしてきたな」
「いわゆるミスリードってやつね」
瞳がしたり顔で言う。俺はギクッとしながら瞳を見直す。
「瞳・・・昨夜のこと知ってるのか?」
「だいたいわ・・・友達にも牧野さんのファンは多いから。いやが上にもお兄ちゃんの情報もいろいろ入ってくるのよ」
「その腐女・・・ファンの方々は・・・今では俺のファンじゃないの?」
「はあ?・・・何訳の分かんないこと言ってるのよ。牧野さんとお兄ちゃんを同格で扱うこと自体、牧野さんへの冒涜よ」
ジトっとした目で俺をにらみつける。
(分かったからその目やめて・・・)
俺は心でそう叫びながら、SNSの画面に再び見入る。やはりどのアングルも精査されたように三園木香の顔は映っていない。
「お前、王閨高校剣道部の道場破りでは飽き足らず、国際問題まで引き起こそうってんじゃないだろうね?」
それを聞きつけたお袋までがそう言って俺をジト目してくる。
「いや~いくら何でもあれくらいでは・・・腕をへし折った訳でもないんだから」
俺が安心させるように言うと隣から親父が真顔で付け足す。
「だがな・・・これでカーネルフェラー財閥系の会社へは就職できないぞ・・翔」
「今のところ外資系は興味ないんで大丈夫です」
「甘いな・・・系列企業は日本にもいっぱいあるし、カーネルフェラー系の会社と取引しているところなら、そこも危ないぞ・・・」
「それって10社や20社ぐらいだよね?」
「いや・・・上場企業の1/10位かな」
「ええっ!」
俺が驚いていると、
「翔・・・今からでも遅くないわ・・・謝っておいで」
そのやり取りを聞いていたお袋が血相を変えて言い始めた。
「高校から連絡が来なければ良いけど」
瞳が横から余計な心配を煽るようなことを言う。親父もやや心配顔だ。
「それはないよ・・・実名も出てないし、ドーランの白粉ですぐには俺って分からないよ」
俺は力なく反論する他ない・・・。
「「この生意気な神楽舞のアルバイトの特定求む・・」なんてのも有るわよ兄ちゃん」
瞳がさらに恐ろしいサイトを見つけ出す。
「おいおい・・・一般人だぜ俺・・・」
何だか旗色が悪すぎるので、朝飯も食わずに・・・(とっくに片づけられていたからだけど・・・)家を飛び出すように柊木神社に向かっていた。
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柊木神社の前まで来ると、境内の入り口近くにめちゃくちゃ高そうな黒塗りの高級自動車が止まっている。国産車だが、最高級クラスのフラッグシップカーであることはその威容から明白だった。手入れが行き届きピカピカに輝いている。それもそのはず、正装をした運転手が羽ブラシで埃一つつかないよう、ピカピカのボディをさらに磨きをかけている。
(この車は確か・・・)
この車や運転手には見覚えがあった。そう・・・三坂財閥総帥・三園木玄随の社用車だ。よく考えれば三園木香は三園木玄随の娘・・・。
(もしかすると昨日のことで森永宮司に迷惑が掛かっているかもしれない・・・)
俺は急いで社務所の方に駆け出していった。
「キャッ・・・」
丁度、社務所の前の角のところで俺は危うく人とぶつかりそうになった。しかし、その瞬間、二人は一瞬の間に互いに衝突回避動作を行っていた。俺はなぜか左に回り込み、その人影はそれを見越したかのように右側に回避していた。こんなことができるのは・・・こんなに俺の動作を予見できるのは・・・この世でたった一人しかいない。
「牧野!」
「浅間!」
懐かしいその後ろ姿がそこにあった。振り返った牧野はニコニコと微笑みを浮かべ、感慨深げであった。朝の光を全身に背負ったように、牧野は逆光の中で白く輝いて見えた。
「浅間~・・・会いたかったよ!」
そう言った牧野は、今にも泣きだしそうなほど、心底嬉しそうにそう言った。
「なんだよ・・・連絡くらいしてくれればよかったのに」
俺もすねたような声でそう言い返すので精いっぱいだった。なんだか目頭が熱くなって涙目になっているのが自分でも分かった。昨夜のことがなかったら、きっとここまで感情的になっていなかったかもしれない。
「ごめん、ごめん・・・スマホの切り替えやLANの引っ越しで連絡を取る環境が整わなくて」
だが俺はその言葉では納得できなかった。森永宮司は確か・・・
【それが・・・二人とも伊勢神宮は1月かそこらで引き払っていると・・・。こちらの問い
合わせにあちらの神官さんも困惑気味だったよ・・・】
そう言っていた。
「本当にそれだけか?」
俺のもの問いたげな視線を察して牧野の表情が曇る。
「・・・・・・・・・」
「三園木香と関係があるんじゃないか?」
俺がそう言った途端、牧野がハッとして息を呑む。
「三園木香を・・・知ってるんだな?」
「ああっ・・・昨夜会ったんだ」
「・・・・・・・・」
牧野の目が泳ぐ。どこまで話したらいいのか迷いあぐねている様子だ。俺が三園木香から何を聞いて、何を知っているのか?・・・明らかな逡巡と迷いが牧野には見受けられた。
「そのうち・・・本当のことを全て話すよ。だけど、君と同じように僕にも話してはいけないことがいくつもあるんだ」
そう言って探るように俺をじっと見つめた。
「蒔苗とか胞衣とか・・・そう言ったことか?王閨学園や三坂財閥にかかわる・・・」
俺がそう口に出した途端、牧野が俺の口先に人差し指を一本たてた。
「しっ!・・・君も秘匿契約書にサインしたはずだ。軽々に口に出してはいけない」
「・・・・分かったよ・・・でも、なんで君はそこまで王閨学園のことを知っているんだ?師匠・・・君の父親・牧野周作と三園木玄随にはどんな関係があるんだ?なんであんな大物がこんな小さな神社に来て・・・」
俺は一気にまくしたてるようにそう聞いていた。
「君も随分いろいろと情報を集めたようだね」
牧野が苦笑いしながら、俺と向き直っていた。
「今話せること・・・出来るだけ話すよ。でもその前に・・・そんな下らないことに時間を使う前に、君と真剣に向き合いたい。どうだい?道場はまだあるんだよな。一緒に汗を流さないか?」
俺も同じ思いだった。牧野と再会できたこと、それが今の俺にとって一番大事なことだ。丁度、柊道場は使われていない時間だ。きっと森永宮司も許してくれるだろう。
「おう!それじゃあ一丁お手合わせ願おうか?俺はなんだかんだ言って、道場破りをあれからもう一回してしまったんだ。」
「聞いているよ・・・あの千葉道場で跡取りの若先生と同等にやりあったって」
「ええっ?・・・つい一昨日のことだよ?」
「SNSに上がっていたよ・・・お弟子が上げたやつさ。そのお弟子さんは若先生が勝ったって書き込んでいたけど・・・動画を見る限り、君はあのツキを見事に外しているよ」
そう言って嬉しそうに俺の手をしみじみと見ながらそっと握った。
「高校生になって、一回り大きくなったな」
なんだかんだと、牧野は俺のことを忘れてはいなかったようだ。
「さあ、今度は僕にもその技の切れを見せてくれよ!」
俺たちはそのまま道場に向かって走り出していた。
次回は3か月後・・・と言いつつ2週間後にアップです! たまたま、あっちの小説と同じタイトルになると思って・・・短い奴をば・・・。(という訳でタイトルは元に戻しました 再開→再会 2022・12・31)




