表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白き嫋(たお)やかなる夏の少女  作者: シン之助
14/15

第14話 暗黒の美少女 2/2

柊木神社の神楽舞のアルバイトに駆り出された浅間翔は、観客席の一番後ろに「白き夏の少女」を目撃する。果たしてその少女は?・・・・

------------------------------------------------------------

浅間翔:主人公・王閨高校1年特・第128期特待生

牧野薫:翔の親友

千葉丈太郎:翔の同級生・王閨高校1年・第128期特待生

桜木瑞穂:柊木神社 巫女頭

木乃葉美紀:柊木神社 アルバイト巫女・ヤオイの女子大生

森永宮司:柊木神社宮司

高坂玲子:黒き少女・生徒会長・高坂家「胞衣」

マイケル・カーネルフェラー:カーネルフェラー財閥御曹司

三園木香:三園木家「胞衣」

-----------------------------------------------------------------

 そして・・・人垣の割れた先に・・・「白き夏の少女」がまるで奇跡のように佇んでいた・・・。


 だが、浮かび上がったそのシルエットは「白」とは程遠い、黒・・・いや暗黒に近い色だった。もう夕方にさしかかり夜の帳が下り始めていた。夏にはまだ早すぎる4月の曇り空、夕日も浮かんでいない曇天だからかもしれない。黒を基調としたその服装のせいだったかもしれない。あの時あった高坂玲子と同じようだった・・・。二人は似ている。だが俺にはさらに深い黒、絶望的な闇の黒さ感じた。なぜだか分からない。だが、その黒は冷たさと悲しさを伴う「暗黒」のように思われた。


 その少女は、一瞬驚いたような表情を浮かべたものの、すぐに値踏みするようにその目を眇めると、感情のない冷徹な表情に戻っていった。その美しすぎる顔立ちが浮かべる怜悧な表情は黒い服装をさらに黒く、暗黒のように際立たせていった。


「失礼します。もしかするとあなたは・・・三園木香さんではないですか?」


 丈太郎が慇懃な様子で、三園木香に声をかける。走ってきたせいでぜいぜいとまだ息が上がっている。そんな俺たちをまるで虫けらでも見るように尊大な目で見返だけで、三園木香は何も言おうとはしない。


「申し遅れました。僕たちは王閨高校の新入生です。千葉丈太郎と申します」


 やっと気づいた丈太郎がまずそう言って、大人に対するように丁寧にお辞儀をする。同級生に対する自己紹介とはとても思えない、ほぼ直角の最敬礼だった。続いて俺ももたつきながら自己紹介をしていた。


「同じく、浅間翔です」


 反して俺は軽く黙礼するだけに留めた。まだ俺は神楽舞の舞台衣装を着けている。神の代わりに人々に寿ぎを伝え、人々の願いを神に伝える使者・・・それが俺の役割・・・その衣装・・・。賓客に挨拶をする舞台俳優のようにはいかない。遠巻きにしていた腐女子たちが一斉にシャッターを切り始める。


「何・・・あの女・・・偉そう」

「浅間君負けないで」


 周りの腐女子連中が訳の分からないことを勝手に口走りながら、それでもシャッターを押し続けているのに混じって、英語なまりの日本語がそれに混じった。


「おおっ・・・これが神楽舞の巫女ですね。素晴らしい」

 "Oh...He is the miko of the kagura dance. Wonderful."


 よく見ると三園木香の後ろの方に居た白人が珍しそうに俺にカメラをむけて、シャッターを押している。身長は優に180cm以上・・・立派な体躯をみると何らかのスポーツをやっているようにも見受けられる。


「巫女は女だけ・・・男は巫女にはなれないのよ」

 "No, only a woman can be a miko... a man cannot be a miko."

 

 白き少女・・・いや・・・三園木香は透き通るような声でそう言っていた。


「では彼は神官ですか? 」"So is he a priest?"

「神官?いえ・・・ただのアルバイトだと思うわ。へたくそな踊りを見れば直ぐに分かるわ。女方との絡みなど最悪だったわ」

"A priest? No... just a part-time job, I guess. You can tell by his bad dancing. And his interactions with the actresses were the worst."


 そう言って俺を再び見下す様に見つめる。その涼やかな声は吐き捨てられるように語られ、明らかな侮蔑が色濃く滲んでいる。


「確かに私は三園木香・・・あなた・・・牧野薫ではなかったのね・・・とんだ時間の無駄だったわ」


 冷たい声でその女は言った。


「牧野のことを知っているのですか?」

「ええ・・・私の「蒔苗」になる予定の男だったのだから」

「・・・!・・・」


 三園木香はいとも簡単にそう言ってのけた。俺はただ驚きながら、真意を測りかねて三園木香を凝視する他なかった。


「直前で逃げ出したのよ。どんな男かと思って見に来たのだけれど・・・くだらないものを見せられてしまったわ」


 そう言って再び俺を睨みつける。プライドを傷つけられたせいだろうか。その怒りの矛先はこの神社の関係者すべてに向けられているのか様だった。

 確かに牧野の神がかった神楽舞に俺は遠く及ばない。そう・・・俺はいつも牧野に遠く及ばない。いつも・・・いつも・・・。俺は三園木香が言う侮辱を甘んじて受けざるを得なかった。俺は初めて三園木香から視線を外し、俯いてしまっていた。だが何も知らぬ千葉丈太郎は勝手が違ったようだ。三園木のボディーガード然としている白人青年に向かって、英語で話しかける。


“Excuse me, can you tell me who you are?”


 だが、その青年は苦笑交じりでほぼ完ぺきな日本語で答え始めた。


「Oh・・・大変失礼しました。そちらの神楽舞ボーイに見惚れてしまって。私はマイケル・カーネルフェラーといいます。現在、香とアメリカのハーバール大学の付属高校に通っています。秋から香と一緒に皆様と同じ王閨高校に通うことになります。よろしくお願いします」


ニコニコと微笑みながら手を差し出してきた。


(いま・・・香って名前で呼んでいたよな・・・)

(こいつが丈太郎の言っていたWASP(ワスプ)野郎だ・・・)


 俺と丈太郎は一瞬顔を見合わせた後、マイケルが握手を求めて来たことにやっと気が付いた。

 何だかムカついていた。何だか馴れ馴れしい。余裕さえ感じるその微笑みを俺はなぜだか不快に感じていた。それは丈太郎も一緒だったのだろう。丈太郎は差し出された手を挑戦に応えるようにギュッと握り返していた。きっと丈太郎は握力勝負を仕掛けたに違いない。身長180cm以上はある白人の一回り以上大きな手を必要以上に力いっぱい握りしめている。マイケルは一瞬驚いた顔を浮かべたが、やがて余裕の笑みを浮かべながらやはり強力な握力で握り返したようだ。たがいに苦笑いを浮かべながら離された手は、どちらも真っ赤になっていた。


(あなたが三園木香の連れて来た蒔苗ですね)


 俺はそう聞きたくなるのをぐっと我慢しながら、目の前のハンサムな白人青年と軽く握手を交わした。その目は自信に溢れ、このような場面すらも楽しんでいるような余裕が感じられた。ふと三園木香を見ると、馬鹿な真似をする男たちを心底軽蔑しているような表情しか浮かべていない。だが俺は牧野と三園木香の関係がどうしても気になって仕方がなかった。


(本当にただ見に来ただけだろうか?こんな小さな都市近郊の神社にわざわざ財閥の御曹司を連れてまで、やってくるだろうか?)


 俺は伏し目がちになりそうな自分を何とか抑えて、目の前の美少女に聞いていた。


「俺も牧野を探しているんです。ここまで探しに来るってことはあなたも、まだ牧野のことが気になっているのでしょ?・・・」


 俺はマイケルに失礼だと思いながらも三園木にそう聞かざるを得なかった。牧野の事が気になって仕方がなかった。俺は三園木香を正面から見据えて睨みつけていたかもしれない。

だがその俺の問いに、三園木香は嘲笑を浮かべながらこう言った。


「フッ・・・何か勘違いしているようね。もう牧野薫のことなどどうでもいい。彼の失踪のおかげで・・・牧野薫以上のものを手に入れた。だから・・・私は牧野にこれを見せつけるためにやってきたの!」


 まるで俺に挑みかかる様に暗黒の美少女はそう言うと、真っ赤な手を痛そうにさすっている白人の青年の背中に腕を回し、その可憐な唇を白人青年の唇に重ねていった。


「オオオオッ」

「ヒャー凄―い!」

「うわぁあああああ」

「大胆~っ」


 どよめきがあちこちで湧き上がっていた。俺たちを取り巻いていた腐女子たちが、絶世の美女と王子様のような金髪の青年のその行為に歓声を上げ、一斉にカメラを向け始める。マイケルは余裕の表情を浮かべながら優雅なしぐさでその抱擁を受け入れ、衆人環視の前でさらに熱烈なフレンチキスを交わしていった。俺は・・・多分丈太郎も・・・ただ茫然とその姿を見入って瞬き一つすることができなかった。たっぷり1分間以上、二人は見せつけるように俺たちの前でキスをし続けた。



「やめろ!」



・・・気づくと俺は思わずそう叫んでいた。


不思議な感情だった・・・

俺は・・・なんだか悔しくて・・・

その場にいたたまれない思いで・・・

なぜだか分からない・・・

でも悲しい・・・

悔しくて悲しかった・・・。


 その1分が俺には何分にも何時間にも感じられた。まるで永遠に続くように・・・きっと涙目になっていたに違いない。


「はん?・・・あなた何様のおつもり?」


 やっと唇を離した三園木香はさも軽蔑した顔で俺を振り返ると、見下すようにそう言った。その目は俺を揶揄するようにも、俺を弄んでいるようにも感じた。いや、それ以上だ。俺を・・・いや牧野の親友としての俺を試している・・・。

 ならば応えなければいけない。牧野に代わって・・・言わなければならない。


「ここはアメリカじゃない。神聖な神社の境内だ。そんなことをする場所じゃない!今の俺は神の使いだ!」


 俺はそういうと、三園木香の背中に回されているマイケルの腕をつかむと捩じ上げていた。マイケルがすかさず俺の腕をつかみ返す。再び力勝負になった。


オオッ・・・!


 俺たちの異常な雰囲気に気づいた腐女子が、シャッターを押す手を止めて固唾をのんで見つめ始める。屈強な外国人と神楽舞の衣装を着けた貧弱な日本人のガチのタイマン・・・。


 金髪の王子様 対 自称神様の代理


 万力のような大きな手で挟み込まれて上腕が押しつぶされそうになるのを、筋肉を最大限に緊張させてやり過ごす。悲鳴を上げそうになりながら、こちらも力をさらに込めていく・・・。


「グェッ」


 悲鳴を上げたのはマイケルの方だった。痛そうに三園木香に回していた手を下しながら、俺の腕を掴んでいたもう片方の手を離した。俺はマイケルの腕が美田園香から離れるまで握り続けていた。


ウオオッ!


 どっちに着こうかと迷っていた連中も「自称神様の代理」の勝利に歓声を上げる。


「日本の剣道を甘く見るな」


 丈太郎が俺に乗っかる様に言った。それが引き金だったのだろう、俺たちを取り巻いていた腐女子が賛同するように拍手を送り始める。マイクルに向かっておと言うよりは高慢ちきな三園木香のあまりに不遜な態度に辟易していたのかもしれない。


パチパチパチパチ・・・・


 もうカメラを構えている者はいなかった。俺達と一緒になってなぜか金髪の王子様を睨みつけている。


「若様を侮辱する女は許さないわ」

「神様の使いを侮辱するな」

「嫉妬に狂う浅間君も素敵!」


 牧野を馬鹿にされたから?BLヤオイ姉さんたちの妄想?・・・きっと三園木香のあまりにも高飛車な態度に一泡吹かせたかったのだろう。


 クツッ・・・


 初めて三園木香から尊大な態度が消えていた。空気が変わったのに気が付いたのだろう。俺に怒りの目を向けるマイケルを後ろに引き下がらせながら、吐き捨てるように言った。


「今のこと・・・なかったことにしてあげるわ。カーネルフェラー財閥の御曹司への暴力行為、それだけでも国際問題になりかねない。その代わり、牧野薫に伝えておきなさい。もうあなたは用無しだって・・・。あなたは牧野薫と近い関係にあるようだから、しっかりと伝えておくのよ・・・」


 暗黒の美少女はそう言い残すと、WASPの青年を後ろに従えながら神社から立ち去って行った。


ワーーッ・・・・パチパチパチパチ・・・・


 三園木香とマイケル・カーネルフェラーが柊木神社の鳥居をくぐったのを見届けて、その場にいた人々が俺に向かって割れんばかりの拍手を送ってくれた。


「なんだかスッとしちゃった」

「あんなタカビーな女に若様がとられなくてよかったわ」

「愛国心に燃える浅間君も素敵~」


 あとはもう訳が分からなくなっていた。集まった腐女子連中にもみくちゃにされながら、丈太郎と二人、何とか社務所に取って返すことが出来た。気が付くと巫女舞の衣装が所々がほつれ、一部破けていたり、紐が外れていたりした。


「お主らな~、ただでさえパニックを誘導しておきながら、神社内で淫行行為や暴力行為を働いていたそうじゃないか?」


 怒髪天を抜くとは今の桜木さんの表情の事だろう。恐ろしさを通り越して何も言い返すことが出来ない。


「いえ淫行行為は・・・あちらだけが行ったことで俺たちは何も・・・」


 桜木さんの恐ろしさを知らぬ丈太郎が口ごもりながらそう言い訳を返したが、かえって仇となって振り返ってきた。


「神楽舞の衣装を着た者が暴力など在りえん事だと言っているのだ!巫女舞の衣装の修繕代・・・お主のアルバイト代で賄わせてもらうからな!・・・しばらくはタダ働きになるからそう肝に免じよ!」


 結局、俺にとばっちりがバッチリと飛来した・・・。これでしばらくは神楽舞をタダで踊り続ける事になる・・・。その後も俺たちは桜木さんから大目玉を小一時間ほど食らい続けた。


「まあまあ、桜木君・・・今日のところはその辺にして・・・」


 森永宮司が取りなすようにそう言うと、桜木さんの耳元でそっと言った。


「どうやら三坂財閥がかかわっているらしい。御前のお耳にも入れておくが、非はこちらにはないから・・・」

「三坂財閥が?」


 桜木さんは怪訝な表情を浮かべながら、急に帰って良いと俺たちを解放してくれた。


「神楽舞をこれ以上馬鹿にされんよう、明日から猛特訓だぞ」


 そう言い残して・・・。


 「黒の少女」と「暗黒の少女」・・・三坂財閥の闇は意外に深いのかもしれない。俺はなんとなく自分が蒔苗の補欠の補欠だと言われて何の実感も湧かなかったが、今や何となくホッとする思いだった。


「お前の親友の牧野ってやつが逃げ出すのも無理はないのかもな?」


 丈太郎もそんな事を言った。俺もそう思っていた。


「とりあえず俺は帰る。一人になって良く考えてみたいんだ」


 剽軽な笑顔をやや曇らせながら丈太郎はそう言って神社の前で駅のほうに歩いていった。


 (「白き夏の少女」・・・あれは本当に三園木香だったのだろうか・・・)


 クタクタになって家に戻り、一人、寝床についても俺はなかなか寝付くことができなかった。


 (牧野・・・お前が居てくれたら・・・どこ行っちまったんだ?)


Pixivの方の小説再開のためこちらは暫く休載します。3か月後ぐらいにまた連載再開です。その間、宜しければ感想やレビューをお寄せください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ