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白き嫋(たお)やかなる夏の少女  作者: シン之助
13/15

第13話 暗黒の美少女 1/2

千葉道場での朝練を早々に終えた翔は、柊木神社の神楽舞のアルバイトに駆り出されていた。牧野薫に代わって神楽舞の相手を務めるのは巫女頭の桜木瑞穂。ツンデレな桜木さんとの奇妙な神楽舞が開始される・・・

 神楽舞が厳かに始まった。境内に集まった観客は牧野が居たときに比べて半分以下だったが、それでも俺にとっては十分すぎるくらいの人数に感じられた。新宮司の森永さんもまんざらではない様子だ。


「若様~っ」


という間違った歓声が時たま上がる。桜木さんは牧野ほどではないが、30代とは思えぬ引き締まった身体を持ち、動きもきびきびとしてスキがなかった。女形の白い化粧をしてみれば牧野とパッと見はあまり変わらない。ただし、牧野のような神がかった舞のキレや、思わず見惚れてしまうような「見栄」は演じられてはいない。


「浅野死ね!」


というヤジはさすがになくなっていたが、カメラ娘達はまだまだ活発で、何を勘違いしているのか桜木さんや俺すら撮影しようとしていた。


「おい・・・話が違うじゃないか・・・浅野・・・お前にもファンがいるぞ!」


 朝稽古が終わり、昼過ぎになって様子を見に来た千葉丈太郎が舞台袖で出番を待つ俺に向かって非難がましくそう言った。確かに丈太郎が指さす先には能楽堂の前でひしめく女子の姿があった。


「あの中の一人でもいいから・・・名前と電話番号を教えてもらえ!」


「だから・・・あれはみんな牧野のファンだって・・・。「若様~」とか吠えてるだろ」

「あっ・・・」


「そうだよ・・・牧野はこの神社の神主の息子だったんだ。ちょっと神がかった感じの美少年で・・・俺達なんかとは月と(すっぽん)なんだよ・・・」

「そうか?・・・でも「浅野~っ」って言ってるぞ・・・あの娘」


「ああっ・・・あれな・・・あいつらにとって俺は暗殺対象なんだよ」

「あっ?暗殺??」


「そう俺と牧野が親友ってだけで許せないんだよ・・・あの猛烈ファンの女子たちにとっては・・・」

「へぇ・・・お前も救われん奴だな・・・」


「そう・・・超美男子を親友に持つと・・・周りの女の子は皆持っていかれる運命なんだよ」

「ああっ・・・お前とんだ災難だったんあだなぁ・・モテない歴=実年齢ってやつだな」


「お前は良いよな・・・美人の母ちゃんに、立派な姉貴、超可愛いに妹・・・花に囲まれて暮らしてるようなもんだろ?」

「あん?・・・性格がよければその通りさ・・・」


「性格悪いのか?・・・」

「母さんはともかく・・・姉は理に敏過ぎて、妹は末っ子のわがまま放題だ・・・二人とも良いのは外っ面だけだぞ」


「そんなもんかな?」

「酷いもんだ・・・絶対に騙されるな・・・」

「肝に銘じておくよ・・・」


 桜木さんはあえてそんな面を表に出してる・・・なぜなんだろう?・・・俺はそう考えながら、じっと桜木さんの舞を見た。舞の序盤・・・静かな振り付けは桜木さんには物足りない・・・。笙の音がひときわ高く鳴り響いた。いよいよ俺の出番だ。


「じゃあ行ってくる」


 俺は丈太郎に一声かけると、女子の黄色い声援が立ち込める能楽堂に躍り出ていった。


----------

「浅野君~❤」

「キャッーッ」


 浅野が能楽堂に出た途端・・・カメラを構えた女子連が歓声を上げながら一斉にシャッターを切り始める。


「なんだ・・・浅野のやつ、しっかりモテてるじゃないか・・・」


 千葉丈太郎は思わず、浅野の言葉とは裏腹に相当数の女子が浅野目当てに来ていることにすぐ気が付き愚痴をこぼしていた。


(お前・・・単なる嫌味なモテモテ野郎なのか?鈍感な無自覚野郎なのか?)


 すぐに後者なのだろうと思った。それも相当な朴念仁・・・きっとその親友だった牧野というやつの影響だろう。そんな神がかった美男子が身近にいれば、女子もうかつには近寄れない、ましてやその隣にいる男にまで気を回す奴はいなくなる・・・。


(その神がかりイケメンがいなくなったら・・・。その隣にいた奴がやっと注目を浴び始める・・・)


 丈太郎は、ふと新たな親友の整った顔立ちを見つめた。


(お前も・・・俺とは違ったものを十分背負わされているのかもしれんな・・・)


「キャッー浅野様~❤」 「こっち向いてーッ❤」


(絶対に教えてやらんけどな・・・モテ期に入ってるなんて・・・)


--------------

 雅楽の色調が変わり、俺の出番になった。最初の出だしが肝心・・・これは剣道も一緒だ。俺は覚悟を決めた。


ダン!


 気合で空気を切り裂くように能楽堂の床を大きく踏み鳴らす。その途端、あたりの空気が一変し、場面が凍結したように全てが停止する。その緊張に合わせるように音楽が止み、場面が極限まで緊張し始める。あれだけ騒いでいた牧野ファンの腐女子たちも、シーンと静まり返り、俺の舞に一斉に注目が集まる。静々と桜木さん演じる女神に近づき、寄り添うように勇者の鈴を打ち鳴らす。始めは驚き、恥じらいの表情を浮かべていた女神も、やがて勇者の踊りに惹かれはじめ、互いに舞を踊り始める。止んでいたしょう·篳篥ひちりき·龍笛りゅうてき高麗笛こまぶえ・・・雅楽の楽器が一斉になり始め、舞台が一斉に動き出す。ひたすら女神を請い求める勇者と、人間を試すように余裕で躱していく女神。つかずはなれず・・・微妙な間合いが繰り返され、動きは徐々に早まっていく。やがて勇者と女神が交互に情熱的な踊りを展開し始め、踊りはクライマックスを迎えていく・・・。


 牧野と初めて踊った時、俺は全く余裕が無くて何をどう踊ったのかさっぱり覚えていなかった。ただ牧野の顔をずっと見つめ、全てを任せるように踊っていた。そう・・・俺はまるで牧野に踊らされているように全てを奴に預けていた。だが今回は違う。桜木さんはまだ自分の事だけで手いっぱいで、俺をうまくリードする事も、ましてや舞台をコントロールする事もまだまだ出来ていない。ましてやにわか仕込みの俺の踊りなど目も当てられない出来だったに違いない。

 ただ、練習の時はあれほど嫌がっていた桜木さんだったが、さすがに本番では役になりきっている。うっとりとした表情を浮かべて俺の手を握り締め、心なしか顔をやや赤く上気さている。その表情に俺は思わず引き込まれそうになって、そっと視線を外した。


「!!!・・・・」


 その瞬間・・・俺は射るような鋭い視線を感じた。観客席の後方から、その視線は俺を焼き尽くすように鋭く放射されている。だがそれは一瞬の出来事で、すぐに感じなくなってしまった。だが確かに感じた事だった。それからの俺の踊りはメロメロだった。観客席の後方にどうしても視線が行ってしまう。桜木さんは相変わらず、手が触れる度、視線を交わす度・・・惚けた様に俺を見つめている。だがその度に俺は目を眇めてその視線の主を探し回った。そして・・・最後の決めのポーズをとった時・・・俺は見つけた。


「白き夏の少女」


 その美少女そっくりの女性が、観客席の最後列で俺に視線を注ぎ瞬き一つしていない。俺は丁度桜木さんの半身を胸に抱きながら、颯爽と決めのポーズをとり続けなければならなかった。だが、


ワッーッ


という歓声が観客席から一斉に上がって、幕が閉じていくその刹那、俺はその女性の姿を追い続け幕が完全に下りて見えなくなってしまうまで釘付けになっていた。


「これいつまで抱いておる!この変態!」


 桜木さんにそう叱責されて初めて、俺は我に返っていた。


「あっ・・・すみません」


 俺はそう言って桜木さんの背中に回していた腕を離すと、ゆっくりと抱擁を解いていった。桜木さんの顔はまだ紅潮し、その言葉とは裏腹に嫌そうな顔はしていない。穏やかな顔を俺に向けながら、しばらく踊りの余韻をかみしめているようだった。


「いや~なかなか良かったよ、桜木君、浅間君」


 森永宮司が舞台袖から現れて俺たちを丁寧にねぎらう。外ではまだキャーキャーと腐女子連中が騒ぎたて、興奮冷めやらない様子だった。


「浅野君大人気じゃないの!これでSNSの評価は鰻登りね。早速今夜の踊りの様子もアップしなきゃ・・・」


 いつの間に着替えたのか、普段着姿の木乃葉さんがスマホ片手に俺たちを熱心に撮影している。多分特等席・・・関係者しか入れない舞台袖で・・・。だが、俺はそれどころではなかった。「白き夏の少女」を確認するため、幕間から外の様子をうかがう・・・。


「浅野君だ!・・・こっち向いて!・・・キャッーあさの!!」


 浅野暗殺隊が目ざとく俺を見つけて、ここぞとばかりに俺を脅してくる。もはや舞台の前はパニック寸前で、「白き夏の少女」を見つけるどころではなかった。


「浅野君・・・今はここでじっとしていなさい。しばらくは動けんだろう」


 森永宮司がそう言って外に出ようとする俺を押しとどめようとする。


「違いますよ・・・桜木さんが若様と思われてるだけですよ!俺は大丈夫・・・ちょっと探している人が見つかって・・・」

「お主・・・本気か?世迷言はそれまでにして、言われた通りじっとしておれ。これ以上、混乱を大きくするな」


 今度は桜木さんが俺の腕をつかんで外に出させてくれない。


「あっ・・・そのポーズもいいかも・・・いただき!萌えるわ~っ」


 なぜだかウルウルした目を浮かべながら木ノ葉さんがスマホのカメラを向け、「もっとくっついて」などと言いながら俺たちをさらに何枚か撮り始める。


「もうやめて・・・恥ずかしいから・・・」


 桜木さんが柄にもなくそう照れながら・・・まんざらでもなさそう・・・。こうして俺達は小一時間ほど舞台裏で人が引けるのを待つことにした。


「いつもこんな感じなのか?」


 舞台袖で呆気にとられていた丈太郎が呆れ顔で俺に近づいてくる。


「いや・・・牧野のころに比べればましな方だな。まったく、桜木さんと牧野の違いも判らんのだから・・・腐女子の連中は・・・」

「・・・・お前・・・何もわかってないんだな?」

「はぁ?」


 だが俺の怪訝な顔に丈太郎は何も答えずに、じっと俺の目を見て言った。


「お前・・・一番最後の決めのポーズの時に、何かを凝視していただろ?」


 さすが剣道家の息子だ。動体視力や観測眼・・・特に視線の先を追い次の動きに備える技を剣道をやっているものなら日常的に鍛えている。


「ああっ・・・良く気が付いたな」


 俺がそう言うと丈太郎がおかしなことを言いはじめた。


「お前も三園木香を見たんだな?」

「え?・・・みそのぎかおる?・・・」


 俺は一瞬その言葉の意味をとりはかねていた。やがてそれが「三園木香」だと気づく。俺の表情が変わるのをまって丈太郎が続ける。


「観客席の一番後ろ・・・まるでモデルか女優のように一際目立っていた。そいつさ」

「ああ・・・確かに居た・・・彼女が三園木香だというのか?」


「俺も数回しか会っていない。それも遠くから見た程度で話をしたことすらない。だが、それが「胞衣」であるとすれば、目に焼き付けておくことくらいしてもいいだろ?」


 俺は居てもたってもいられなくなった。「白き夏の少女」に会える・・・・。


「丈太郎!いくぞ」

「おう!」


 それは丈太郎も一緒だったのだろう、俺たち二人は舞台の袖から抜け出すと、能楽堂を飛び出していた。


「まだ舞台の外に出てはならん!」


 桜木さんの叱責する声を後ろに聞きながら、俺たち二人は一目散に観客席後方に向かって駆け出していた。


「キャッーッ浅野様❤」

「浅野君~❤」

「あ❤さ❤の~~❤」


 観客席に躍り出た俺たちは、まだ興奮冷めやらぬ女性客にあっという間に取り囲まれてしまう。だが、どうせ俺のファンなど居やしない。俺が牧野でないと知ればすぐに散っていく・・・はずだった。しかし、「浅野」と聞きつけたファン・・・いや暗殺隊が俺たちを取り囲むように殺到し始める。その時、俺はもしかするととんだパニックを引き起こしていたかもしれない。だが、運よく俺たちは一定空間をおいて遠巻きに囲まれただけで、将棋倒しを引き起こすような事は起きなかった。牧野の時のような集客量ではなかったのも幸いした。まるで聖書にかかれたモーゼの十戒の紅海のように、俺たちの駆け出す先で人垣が二つに割れ、行く先を次々と開けてくれる。


「浅野君~❤」

「頑張って浅野君~~❤」


 暗殺隊にしては拍子抜けなことを言いながら、俺は時々肩をたたかれるくらいで前に進むことが出来た。そして・・・人垣の割れた先に・・・

 「白き夏の少女」

がまるで奇跡のように佇んでいた・・・。

桜木さんとの神楽舞を何とかこなした浅間翔。舞の最後に見たのは「白き夏の少女」だった。果たしてその真相は?・・・・次回「暗黒の少女・2/2」をお楽しみに。

2022/12/07 何カ所か文章の修正を行いました。

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