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白き嫋(たお)やかなる夏の少女  作者: シン之助
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第12話 腐女子

牧野の消息が付かないまま、浅間翔は柊木神社の神楽舞の手伝いに・・・。

「あの~いちいち俺が手をつなぐ度に、いやそうに顔をしかめるのやめてくれます?」


 牧野の代わりに、女形を演じる羽目になったのは巫女頭の桜木瑞穂さんだった。複雑な動きがもとめられ女形は、にわか仕込みの俺では不可能に近かった。


「気を付けてはいるんだが・・・・ああっ虫唾が走る!」


 最初に俺が触ったとき、桜木さんは触られた途端に俺の手をたたき落そうとまでしていた。このくらいの嫌われ様は、まあ許容範囲だろう。この「好き嫌い」の激しさがなければ、この人は随分と美人で良い人なのに・・・。よほど俺は生理的に受け付けん顔をしているんだなと、ある意味感心していた。


「ちょっと休憩にしよう。お茶も用意しているから・・・」


 柊木神社の新しい神主になった森永宮司が、神楽舞に参加しているメンバ-にお茶菓子をふるまってくれた。その日、俺は千葉道場の朝稽古に少し参加しただけで、早々に柊木神社の神楽舞の練習に駆り出されていたので、もう2時間近くも踊りっぱなしだった。大都市の郊外にあるこの神社でも、森に囲まれているせいか朝方は霊験あらたかな新鮮な空気にあふれて、とても気持ちがいい。俺は思いっきり深呼吸しながら、森永宮司に勧められたお茶をすすっていた。神主が変わっても、巫女頭の桜木さんも、アルバイト巫女の方々もほぼ同じメンツがそろって、しばらくは王閨高校の様子を根掘り葉掘りいろいろと聞かれたりした。


「あ・さ・ま君・・・超お久しぶり~っ・・・また浅間君の神楽舞が見られるなんて幸せだな~っ・・・」


 そう言ってデレデレ・ツトツトと近づいてきたのは、言わずと知れた腐女子大生・木乃葉美紀さんだった。ぺたりと俺のすぐ脇に座って、俺の顔を覗き込むように見つめてくる。BLオタクで腐女子中の腐女子である木乃葉さんは、異様に距離感が近すぎるので要注意だ。


「あの・・・俺の顔に何かついてますか?」

「えへへっ・・・牧野君がいなくなって、寂しがっているかなっ~と思って」


 そう言いながらさらに間合いを詰めてくる。なんとなく香水のいい匂いが漂ってくる。そのうえ木乃葉さんの目が妙に潤んでいる。


(やばいです・・・やっぱりこの人・・・きっと妄想のBLに入ってますよ・・・)


 俺はじりじりと後退しながら、話をそらそうと躍起になっていた。


「あっ~・・・桜木さんは、師匠がいなくなっても・・・あんな感じなのですか?森永宮司の前でも・・・」


 桜木さんは能楽堂の舞台の俺らから見ると反対側・・・極力、距離のあるところに座っている。まあ俺など見たくもないのだろう・・・。


「えへへっ・・・あんなことばかり言ってるけど、浅間君が来るって聞いた途端、桜木さん大喜びしてガッツポーズまで取っていたのよ」


 木乃葉さんはこっそりと耳打ちするように俺に囁く。もう距離が近い・・・近すぎる。だが俺はその意外過ぎる言葉に思わず目が点になる。


「えっ?・・・信じられないな・・・」

「じゃあ教えてあげるけど、浅間君の受験日に桜木さん・・・お百度踏んでいたんだから」

「えええええっっ・・・」

「素直じゃないっていうか・・・ツンデレもいいところよね。口止めされてたけど言っちゃった。きっとうっかり手をつないで、顔が赤くなるところを浅間君には知られたくないのよ」


 そう言って今度は桜木さんに潤んだ目を向ける。桜木さんといえば、涼やかな顔をしながら境内のご神木の一本をぼっと見つめている。俺はますます桜木さんって人が分からなくなって、首をひねっていると、木乃葉さんがいたずらな目を向けていきなり俺に抱き着いてきた。


「ああぁっん❤・・・駄目よ~っ❤浅間くうぅん!」

「なっ・・・」


 木乃葉さんの柔らかな胸が俺の肩にあたり、長い髪の毛が俺の顔に垂れかかる・・・


「この痴れ者!」


 だが次の瞬間・・・まるで瞬間移動したのかと思われる速さで、桜木さんの回し蹴りが俺の背中を蹴り上げていた。


ドガッ


 俺はもんどりうって倒れながら、それでも木乃葉さんを押しつぶさないように手で庇う様な防御姿勢を取っていた。


「酷いですよ・・・抱きついて来たのは木乃葉さんですよ・・・」


 肩越しにそう答えたものの桜木さんは許してくれそうにもない。俺の庇うような姿勢は・・・木乃葉さんを押し倒しているようにも・・・確かに見える!


「ええぃ・・・早く離れんか!」


 しかも木乃葉さんはちゃっかり俺に抱きついて離れようとしない。


「ご・・・誤解です・・・」


 説得力がないのは自分でも分かっていた・・・二発目の蹴りを受ける前に、抱きつく腐女子をひっぺがすと、何とか引き離す事に成功していた。


「酷い・・・酷い・・・浅間くうぅん・・・」


 それでもじゃれつこうとする腐女子を桜木さんがあきれ顔で見つめると、プイと元居た場所に行ってしまった。


「桜木さん・・・素直じゃないな~」


木乃葉さんがその様子を見てやっと俺から離れてくれる。


「俺で遊ぶの止めてくれます?」


 ゼイゼイと息を荒げて怒り心頭の桜木さんと、その反応を面白そうに見ながら「テヘペロ」している木乃葉さん・・・今日は大変な一日になりそうな予感がしていた・・・


 しかし、お陰でその後からは桜木さんの様子も変化していた。俺が触れても嫌な顔を露骨にすることは無くなっていた。距離を詰めて踊る場面になっても、嫌悪感も露わに顔を反らす事もない。お陰でかなり踊りやすくなっていた。


「やっぱ良いわ~っ・・・若様の神がかった踊りとは言い難いけど、これもこれで良いわよね」


 そう言ったのは腐女子ではなく、ベテラン巫女アルバイターの幸田忍さんだった。


「うむ・・・様になってきた。これで行けるかもしれないね」


 ベテランにそう言われて、森永宮司もホッとしているようだった。


「朝早くからだから、お腹空いたんじゃない?」


 気が付くともう昼近くになっていた。声をかけてくれたのは最年長のベテラン巫女・主婦でもある宮崎美沙さんだった。その手にはお盆に乗った何十個もあるお握りと香の物が置かれていた。


グッ~


それを見た途端、俺のお腹が鳴っていた。朝の8時からずっと踊り続けだった。


「さすが王閨高校の生徒・・・お腹のなる音も何だか立派ね」


宮崎さんがそう言ってお握りを一つ手渡ししてくれた。


「おいしそうですね!・・・早速いただきます!」

「ダメだ!・・・食事の前は手を洗ってこい!」


 大きく口を開けてぱくつこうとした俺の機先を制して桜木さんにダメ出しを食らう。


「ヘィヘィ・・・」


 桜木さんはどうやら元の状態に戻っているようだ。俺はホッとしながら、洗面所に向かおうとすると、木乃葉さんはどこから取り出したのか、1台のカメラを構えてなぜか俺を撮りまくる。


「木乃葉さん?・・・練習の時から写真を撮るのもやめてくれます?気が散るから」

「牧野君を失った浅間君と、その後を追う巫女頭のツンデレ・・・萌えるわ」


「違う!」


思わず二人同時にそう叫んでいた。


「ええっ~っ・・・だって、浅野派に報告しなければ・・・きっと「いいね」の数うなぎ上りよ」

Pixivのイラスト&漫画の方に時間を取られてこちらがほとんど進みませんでした。次回もほとんど進まないか、アップできないか・・・気長にお待ちください。ただ次回のタイトルは決まってます。「暗黒の美少女・三園木香」です。

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