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白き嫋(たお)やかなる夏の少女  作者: シン之助
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第1話 身分違いの受験校

瑞々しい高校時代の「キュン」となるような小説を書いてみようと思いました。


「どうわぁああ」


 俺はあるものに見とれて蹴躓(つまず)き、思わずこけそうになった。それは半年前の真夏のある昼下がり、受験勉強に飽きた俺はPSPの新作をぶら下げて悪友の牧野の家に向かう途中だった。

 あるものとは?・・・・つばの広の白い帽子と、純白のロングワンピース、白いハイソックスを(まと)った色白の美少女だった。

 ある「人」ではなく、ある「もの」と言ったのは、その少女が人類を超越しているような神がかった美しさだったからだ。後光が射すというかオーラに溢れているというか、「女神」のような超越的な何かを強烈に放っていた。とにかく不思議な感覚・・・・。きっと「神」を見たらそのような反応を人類はするのだろう・・・というような、ちょっとみっともないほど原始的な、たぶん呆けたような反応をしてしまった。とにかく俺は、その美貌に見とれてけつまずき、危うくぶっ倒れそうになるという無様な醜態をその場で晒した。まあしょうがない。神がかり的な美貌に遭遇してしまったのだから・・・。

 その美少女はそんな俺に一瞬驚いたような表情を浮かべた後、伏し目がちにツト俺の横を通り過ぎて行った。口元を抑えていたので、きっと笑われたのかもしれない・・・。

 つばひろの帽子からのぞく整った顔立ちと、切れ長の目。すっと通った目鼻立ちに透けるような白い肌・・・。石鹸のような微かな香水の匂いを残して、その女性が角を曲がり、視界から消えていった。視界から消えても、俺はその後ろ姿を追うように、しばらくその角をぼぅっと眺めていた。きっとそれは数秒だったのかもしれないが、俺にはその出会いが何分・・・いや、何時間にも感じられた。

 その時は夏休みも中盤に差し掛かり、受験勉強にも飽き飽きした昼下がりのだったから、多分結構な暑さだったと思う。なのに・・・蒸し暑かったとか、だるかったとか、全く記憶にない。夏の陽射しに照らされた彼女の純白さが、ただスウッーと俺の全身を貫いて、鮮烈なる凛とした印象を残していった。

だから、彼女のイメージは「白」。夏の爽快な白、いや「純白」であった。


「お前ってさ、その話をする時はいつも目を細めて話すのな・・・」


 悪友の牧野が揶揄するように俺をからかう。


「いやっ・・・つい、あの時の日差しというか、その美女の神々しさというか・・・」


 俺は確かに目を細めていた。言われて初めて気が付いた。その時のまばゆい印象が脳内でフラッシュバックするのだろうか?


「えへへっ?一目ぼれか?」

「いや・・何かこう、もっと霊的なというか、魂というか・・・。もしかするとお前のところの神社の氏神様かなんかじゃないのか?」

「馬鹿言え。うちは天照大野神じゃなくてスサノオウノ命だ。もっと猛々しいだよ!」


 そう言うと、ぽんと手刀を俺の頭に打ち込んだ。俺はいつもの癖で軽くその手刀を交わして牧野の胴を手刀で返した。


「げほぉ。おいおい・・・」


 俺たち二人は小学生からの親友だ。牧野のうちは、神主の一家。俺のうちと牧野のうちは隣同士だ。境内だの鎮守の森的な空間などを挟むと割後離れているが、それでも同年輩の子供が周りには俺と牧野以外いなかったので、自然と仲良くなっていた。牧野の家、柊木神社はこの辺では比較的大きな神社で、初もうで客などで盆暮れはごった返しているが、普段は閑静なたたずまいを残している。牧野の親父さんはこの神社の神主であるだけでなく、剣道家でもあった。柊木神社には境内の横に、古ぼけて、こぢんまりとはしているが格式だけは高そうな剣道場がある。俺たちは小さいころからそこで剣道を習っていたので、俺にとっては牧野の親父さんは師匠でもあるのだ。だから、今でも牧野の親父さんは師匠と呼ばせてもらっている。


 謎の美少女との遭遇からもう半年が過ぎた。もう11月も末の肌寒い季節がやってきていた。それ以降その美少女とは会っていない。先日の日曜日にお袋が冬物をどたどたと出し、俺のコートも陰干しされている。都内と言ってもこの辺はまだ緑も多く、それなりに季節感もある。あと2か月もすれば高校受験が始まる。放課後の部活動は禁止されているので、授業が終わると牧野と俺はプラプラと帰宅の途についていた。


「いよいよ受験か・・・・」


 俺たちの心もこの冬空のようにくぐもっていた。


「一丁、軽く汗を流しますか?」


 と、珍しく牧野から稽古のお誘いが来た。何となくむしゃくしゃしていたので、その誘いに乗った。


「ただし、今日は神楽舞があるから30分だけな」


 一人っ子の牧野はいずれ神主を継ぐのだろう、時々神主の格好をして師匠と祈祷をしたり、神楽舞と呼ばれる踊りを参拝客に披露したりしている。牧野は男の俺から見ても色白の美男子なので、アルバイトをしている巫女さん連中からはほぼアイドル扱いをうけている。「若神主」などと地元の檀家の人からも呼ばれているので、巫女さんたちは「若神主様」を縮めて「ワカ様」とあだ名していた。

 牧野が神楽舞を踊るときは、割合遠方の方からもファンが駆けつけてくるらしい。キャーキャー黄色い歓声を上げながら、美男子然とした牧野の装束姿を撮影して、満足そうに帰っていく。おみくじやお守りの売り上げやお賽銭の額が急に跳ね上がるので、師匠もまんざらでもないらしい。


「よし、じゃあ30分だけ」


 丁度いいかもしれない。それ以上やると疲れて、勉強する気がなくなる。牧野との乱稽古はまさに一騎打ちの真剣勝負が続く。お互い、子供のころから同じ師匠について、剣道の指導を受けてきた。手筋は似ているし、手の内も読めている。それだけに気が抜けない。さっと胴着に着替える。二人して道場に入り正対した時、いきなり師匠が入ってきていた。さすがに道場に入るときは礼を怠らなかったが、珍しく神主の格好のままだ。


「薫、すぐに着替えてくれ。今日はお客さんが多くて神楽舞を1時間早める」

「え~せっかく胴着に着替えたのに」

「良いじゃないか。みんなお前が目当てなんだから」


 道場では絶対見せない親子の会話がなされていることに、急に気づいた師匠が咳払いする。取り繕ったように


「とりあえず、すぐに着替えなおして始めるぞ!」


------------------------

 今日は柊木神社十一月の例大祭の日に当たるので、七五三の客を含めて多くの参拝客が出ていた。ふと気づいたのだが、牧野の装束姿を見るのは久しぶりだ。俺はあんまりそんな事に興味がないので、ここのところ見ていなかった。

 雅楽独特の(しょう)篳篥(ひちりき)の音が始まると、ざわついていた場内がしんと静まる。タンタンときらびやかな装束をつけた若様が入ってくると、皆の視線をくぎ付けにした。そこには普段知っている牧野とは全く別人の牧野がそこにいた。小学生の頃はかわいいおしゃまな男の子・・・と言った感じだったのが、急に大人びた感じだ。すうっと背筋を伸ばしてたたずんでいる牧野を見ると、その美男子然とした風貌と相まって確かに神がかって見えた。

 何気なく牧野を見ていると、しきりにデジカメで牧野の姿を収めている女子の一群の一人がこちらにカメラを向けた。ぴかりとフラッシュが光った。その女子とふと目が合ったが、そそくさと女子の一群に紛れて分からなくなってしまった。

 踊りを終えた牧野が、ふと俺を見つけてあどけない表情で寄ってくる。なんかさわやかな笑顔を向けて、


「何だ、浅間も見てたのか?」

「ああっ・・・お前の神楽舞を見るの、しばらくぶりだったんでちょっと立ち寄ったんだけどな」


「なんで胴着のままなんだ」

「着替えるの面倒だし、稽古の続きを今からやれないか?」


 受験勉強につかれていたせいもある。


「おぅ・・着替えが終わったら俺もすぐに行くよ」

「お前相変わらず凄い人気な・・・」


 その時、俺が嫉妬交じりにそう言うと、牧野がきょとんとして


「お前気付いてないのか?」

「ぇ何が?」

「まあいいや」


 牧野は首を振りながら、ぷいと横を向いて着替えに行ってしまった。いったいあれは何だ。


------------------------------

 牧野薫は浅間のこういう鈍感なところが羨ましかった。牧野を撮るふりをしてこっそり浅間の写真を撮っている女子に少なからず出会っているからだ。今日も木陰に隠れてこっそり話し合っている追っかけの女子のひそひそ噺をこっそり聴いてしまった。


「やっぱり浅野君も来てた。」

「しかも剣道着~♡」


「超美男子の牧野様の影に隠れて目立たないけど、彼氏にするには十分かっこいいよね」

「そうっ。だって手が届きそう。超絶的な美男子の牧野様より、身近でライバルの少なそうな浅間君は「お手頃感」あるわ~」


「でも、浅間君にそろそろライバルが出てきたわょ」

「え?」


「ほら・・・牧野様を撮るふりして、ちゃっかり浅間君の写真も撮っている娘を見たわ!」

「デジカメだとその辺バレバレよね」


「しっかりフラッシュまで使って・・・もうバレバレ」

「気づかれちゃうじゃないの!」


「そう、確実にファンがついているわよ」

「割合と隠れファンが多いのよね。そうそう、遠くで見て楽しいアイドルと身近な彼氏。その違い・・・」


------------------------------

 もう夕方近くなっていた。暖房も何もない柊木道場は日が陰るとこの時期は急に冷え込む。牧野が道場に現れたころにはすでに息が白くなっていた。牧野も踊りを終えた後なので、ウォームアップは万全だった。


「おう、早かったじゃないか」

「うん、今日はギャラリーが少なかったからな」


 牧野は当たり前のように言ってのける。こんな事を言っても嫌味に聞こえないのが、こいつの良いところだ。こいつは過大評価も過小評価もしない正直な男だ。きっとそうだったのだろう、と安心して思える。二人で防具をつけると、何時ものように道場の中央に向かう。もう辺りは暗くなってきている。柊木道場は照明もたいしたことがないし、受験勉強も大詰めなので、稽古に時間はさけない。いきなり乱稽古に持ち込む。牧野ものそのつもりだったのだろう、文句も言わずに俺についてくる。この時ばかりは流石の俺も厳かな気分になる。

 妙な嫉妬心は失せ、勝負のことのみ・・・と言う訳にもいかず

 コンチキショウ一人でモテやがって

とばかりに、俺は牧野にいきなり打ち込みにかかる。だが、牧野も慣れたもので、俺の打ち込みをヒラリヒラリと軽妙にかわし、有効な打突を正確に返してくる。「動」の俺と「静」の牧野、ここでも対照的な二人がそれぞれの持ち味を生かした剣さばきで接戦が続く。俺はこの緊迫感が心地よい。緊迫した間合いが続く。


「メーン、面~ん」


 一瞬のスキが出来たのだろう、ふとした瞬間に牧野の打突がオレの面を襲う。


 「しまった」


 一本取られた。見事な面だ。お返しとばかりに俺は凄まじい打ち込みを加えるが、牧野は優雅にそれをこなし、全く相手にしない。


「浅間の攻撃は時々一本調子だからな」


 師匠の言葉が心をよぎる。俺はふと動きを止め牧野に正対する。虚を突かれた牧野の足が止まる。緊迫した一瞬の間合い。二人が同時に振りかぶり、瞬時の相面になった。俺の切っ先が一瞬早く、牧野の面を深く痛打する。悔しそうな牧野の表情。


 「キャーッ」


 道場の影から黄色い歓声が上がる。どうやら牧野のファンがこの場所まで来て、覗き見観戦していたらしい。今の打突は素人目には単なる相打ちからの牧野の一本に見えたのだろう。雌雄を決して別れた俺たちを見て、勝負がついたのは分かったようだ。


「ウオホォン」


 その後ろから神主の仕事を終えた師匠が現れ、いかめしく咳払いする。カメラを抱えた数人の女子が、そそくさとその場を走り去っていくのが見える


「どうやら君達のファンが覗き見していたようだな」

「君達というより牧野のファンですがね・・・」

「いや・・君のファンもいるようだが・・・」


 師匠はモテない俺を慰めてくれているようだ。そんなやり取りを聞いて、牧野がおかしそうに笑う。


「実際君たちの乱稽古は、荒々しい剣舞を見ているようだ。太刀筋が多彩で緩急があり、確かに見ていて楽しい。女子供がほっとかないのもわかる気もするな。まるで野武士のダンスのような感じだからな」


 師匠の言葉は褒めているのか貶しているのかわからない。


「では基本形から、打ち込みだ」


 こうして俺たちは日がドップリと暮れるまで、師匠に絞られ続けた。


---------------

 白の女神に遭遇してから半年が経った。その後その美少女には会えていない。やはりあれは幻だったのだろうか?彼女を目撃した正にその場所で、俺はふと彼女が消えた角を振り返ると、もう夕方だというのに、やはり目を細めてしまった。冬空にドップリと暮れかかった夕空は、やけに赤く感じられた。とても寒々として、思わず身震いしてしまう。


「ところで。お前はどこが第一志望だっけ?」


 別れ際に、牧野が思い出したように尋ねた。


「えっ・・・。都立西だよ。ダメだったら海城かな。この前話したろ?」


 それを聞いて、牧野がおもい詰めたように下を向き、おもむろにこう切り出した。


「王閨学院に行かないか?」

「はぁ?王閨といえば、上流階級が行く高校じゃないか?大学ならいざ知らず、俺なんか無理・・・ていうかそんな金はうちには無いし・・・お前は王閨を目指していたんだっけ?」

「ああぁ。神主になるためには、バリバリの仏教系か、都内だと上流階級を集めたあそこしかないんだ。」


 やはり、牧野は実家を継ぐのか・・・。


「偏差値的にも無理だよ。それに家柄だって見るっていうし。俺みたいな庶民が行く高校じゃないよ」

「僕もああいう上流階級的雰囲気は嫌なんだ。だから、お前が居てくれたら助かるのにな?」

「おいおい・・・」


 普段、俺に頼み事などしない牧野が、今日は珍しく食い下がった。だが、無い袖は振れない。普通のサラリーマン一家のうちでは、王閨学院大学付属高校の学費を工面してくれるとは思えなかった。ましてや国立か公立以外の大学以外の学費は工面してやれない、大学に行きたければ、勉強せい、と既に釘を刺されている。

 そんなやり取りをしているところに、牧野の親父さんが通りかかった。


「おう?浅間君じゃないか。どうした?えっ?王閨学院?君も行くのか?」


 野良仕事をしていたのか神主というよりは、作業服を着た用務員の小父さんのような恰好をしていた。


「君は、どうしても県立高校に行きたいのかな?」

「いえ・・・どうしてでも、ではないです。でも、王閨はちょっと・・・」


「学業は薫と、同じぐらいできると聞いておるが?」

「成績ではなくて・・・あの、お金が・・・」


「金?ああっ・・・学費か。じゃあ行くといい。いや、そんなに心配しなくても何とかなるかもしれん」

「えっ?」


 たったそれだけだった。親父さんは、フムと小首をかしげると、考え込むように社務所の方に行ってしまった。

 いあや・・・あのそんなに、簡単に安請け合いしていんですか?大学4年間つきの高校3年間ですけど・・・。数百万ですぜ・・・。

 牧野の方に顔を向けると、満面の笑顔を向けて見返してくる。


「えっ?」


 お前・・・今のやり取り、不自然でしょ?俺の一生の問題だよ。数百万。もしかすると一千万越えの問題ですよ。


「あの?学費を貸してくれるの?その手の話は・・・もう良いから。奨学金とかの借金はやだよ」

「多分そうじゃない・・・。きっと、君は三坂財閥からお金をもらえると思う」

「えぇ?ミサカ?・・・三坂ってあの三坂物産とか三坂重工とかのあの三坂かい?」


 だが、牧野はその質問には応えようともせずに、


「浅間が王閨に行くなら、とっても嬉しいな」


 そう独り言を言いながら自分のうち、つまり神社の奥の住居棟の方に行ってしまった。とりあえず俺は訳も分からず、その場にぽつんと取り残されていた。


----------------

 腹も減ったのでうちに帰る。うちに着くと親父も帰っており、珍しく一家団欒となった。


「おれが今から王閨高校に行くって言ったらどうする?」


 夕食が終わり、さてこれからお片付け、お前は勉強の続きをしなさいっ・・・て言われた時に、さりげなく母とでもなく父とでもなく、何気に話しかけた。


「ぇえ?・・・いや学費が・・・なんか足りないよ。大学ならいざ知らず、高校からって・・・」


 自分のサラリーの無さを非難されているとでも思ったのか、なんかつっけんどんだ。


「お前、あそこは上流階級が行く高校なんだよ。うちはそんな目出度(めでた)い家系じゃないよ」


目出度(めでた)いって」お袋さん、それはないよね。まあ、親父となんか結婚したんだからお袋の家系も知れたもんだけど・・・。


「いや~っ、牧野が一緒に行きたいって、誘われただけだよ。もちろん、そんなの行くつもりないから」


 親父もお袋も、心底安心したような表情になり、そそくさと後片付けや新聞読みに逃げていってしまった。


「あぅ~お兄ちゃんが王閨って格好いいかも?私もそんなすごい高校行ってみたい!」


 2歳違いの妹の瞳が、目を輝かせてお袋と親父を見やる。


「ほらほら、お前がバカなこと言うから、瞳まで夢のようなことを・・・」


 最後はお袋に睨まれ、今度は俺が逃げるように勉強部屋に向かった。


--------------

 それから2日位いたった朝、俺はいつものように牧野の家に・・・と言うか神社の鳥居の下に向かう。そこがオレたちの登校時の待ち合わせ場所なのだ。今日は珍しく牧野が先に来ていた。小学校1年生の時からだからもうかれこれ9年近くもこうしている。いつの間にか俺が先に来て、牧野に待たされることが多くなり、今はそれが常態化していた。ところが、今日は牧野が先に来ており、ニコニコしながら俺を手招きした。そして、A4ぐらいの大きさのやや大きめの封筒を俺に見せた。


「王閨義塾大学付属高校 特別奨学生入試願書・・・・」


 おいおい。本当に受けさせるつもりか?


「ほら見て。特別奨学生なら学費は3年間全額免除だよ。」


 牧野がのほほんと、一通の書類を取り出した。


「あぁ・・、そんなの受からないつぅの。王閨の特待生枠って、開成や灘並みに難しいらしいじゃん」

「でも受けてみないと分からないよ。受かれば儲けものじゃん?」


と言っても、受験料もかかるし・・・


「おい・・・高校の入試に5万円だと」

「5万円で全額チャラなんだから、安いもんじゃない?」

「そりゃ受かればそうだけど、今の俺の学力じゃ到底無理だよ。ドブに捨てるようなもんだよ」


と不平をこぼして絶句した。だが、普段あっさりしている牧野が、手を合わせてお願いする。


「僕の小遣いからお金は出すから。とりあえず受験して!」


 こいつは何でそんなに俺と王閨に行きたいのだろう。9年間も一緒に来たのだから、まあ腐れ縁という奴だろう。


「しょうがない・・・」


 うちの家計から見れば受験料5万円は痛い出費だが、牧野からお金をせびる訳にもいかない。幸い、受験日が他の高校と大幅に違うため、併願は十分可能だ。受験料5万円をお袋にお願いするのは気が引けるが、お袋は牧野に対してとても甘い。きっと出してくれるだろう。俺は男の友情を取り敢えず取ることにした。


「受験してみようかな。でも、特奨で受からなかったら、それで諦めてくれよ」

「分かった。僕の我儘に付きあわせて申し訳ない。」


 何時もの牧野らしくなく、真顔で返された。何か気恥ずかしかった。ただ受験するだけなのに、感謝されてしまった。


 「おっ?もうこんな時間だ。遅刻するぞ」


 恥ずかしさを紛らわせるため俺は走りだした。


第2話に続く・・・

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