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俺の血の味で盛り上がるお巡りさんと吸血鬼(疑問型)


 

 警察の制服というと青色なイメージがあるが、目の前お巡りさんは半袖に白シャツの夏服。


 だが各部に主張する菊紋は間違いなく本物のお巡りさんだろう。


 腰にピストル提げてるし。


 しかも、表情や口調から察するに、こっちに不信感を抱いているお巡りさんだった。


 ベンチの脇まで近づいてくると、不信感バリバリな声色で質問をしてきた。


「ここで何してるの?」


「何って、休憩です」


「こんな時間に?」


「どんな時間でも疲労を感じたら、でしょう。かなり長時間運転してたんで」


「長距離ってどれくらい?」


 俺はざっと数百キロだと答えた。


 県を複数またいだからなぁ。


「ETCカードのログでも見ればわかると思いますけど。ちなみに目的地は実家です。降り口のインターはこの先の県境のところです」


 運転免許証を見せながら、お巡りさんに嘘は言ってないですよとアピールする。


「まぁいいだろう。それで、君の隣に座っている彼女だが」


 お巡りさんは胡散臭げな目で俺と外人娘を交互に見た。


「ちょっと、様子がおかしくないか?」


 確かに、今の外人娘の表情はどう見ても普通じゃない。


 むしろ薬とかなんかやばげなものをキめたような顔にしか見えない。


 おまけに格好も格好だから余計に怪しく見える。


 とりあえずすっとぼけてみてお巡りさんの反応をうかがう。


「お巡りさん、見てたでしょ。よっぽどまずかったのかな、やっぱり」


「何の話だ。こちらがパーキングエリアに入ってきて君たちを見つけたときは二人ともこちらに背中を向けていたから何をやっていたのかなんてわからないんだが」


「そうなんすか。いや、こいつ俺がベンチのささくれが刺さったこの右手の人差し指ね。ちょっと血がついてるとこ。それをこいつが俺の右手をこう、両手で包み込んで、なんかこう、癒してくれたわけですよ。でね、こいつ自分の手のひらについた俺の血を、こうペロっと舐めたんですよ。そしたらこうなっちゃったんですよ」


 相変わらず同じ表情のまま微動だにしていない外人娘。


 前衛芸術っぽい。


「だから、そんなにまずかったのかな俺の血はって思ってたとこなんですけど。タバコも吸わないし酒も普段はビールを二日に一缶くらいしか空けないんですけどね」


「血を舐めたくらいでこんな顔を?君、それは」


 お巡りさんの言葉の途中で、外人娘の様子が変わった。


 なんか子犬みたいにプルプル震えだした。


 表情が表情だからなんかホラー映画のワンシーンにしか見えやしない。


 正直怖い。


 ホラーフラグ立っちゃった感じ。


 お巡りさんもドン引きな感じだ。


 うかつに手の出しようもないから見守るしかない。


 しかし外人娘がより悲惨に、プルプルがガクガクになりだし、ブォーンとかフォーンとか声になってないような声を発しだした。


 なんかモウこのまま何か別次元の存在(もちろん闇属性)になっちゃいそうな勢いだった。


「君、おい、大丈夫か。声は聞こえているかい?」


 果敢にも話しかけるお巡りさん。


 ホラー映画ならこの人まっさきに殺られてるよきっと。


 これで俺が主人公なら俺は生き残り逃走するルートだけどオープニングシーンのパンチを効かせるためのやられ要員だとしたらデッドエンド確定じゃないか。


 しかし外人娘は一向にガクガクが収まらないため、お巡りさんは無線に手を伸ばそうとした。


 あーあ、これで足止め決定だよ。


 正直、それをどこか望んでいるかのような自分がいる。


 と、前触れもなく外人娘が停止した。


「………………まっず」


「やっぱりまずかったんだ!」


 溜め具合がちょっとショックだった。


 いやいや、そうじゃない。


 ショックだけどそこじゃない。


 今こいつ、しゃべった。


 いやそれは驚くとこじゃないが、日本語だったような。


 それとも俺が知らない外国語には溜めてから放つ『まっず』という単語があるかもしれない。


 国旗もわからないようなお国の言葉で『まっず』はデリシャスとかおかわりとかこのくず虫が!とかそんな方向の言葉かもしれない。


「き、君、大丈夫なのかい?」


 外人娘は少し固まった後、流暢な日本語でしゃべりだした。


「………………はい、大丈夫です」


「何か飲まされたり注射されたりとかされなかった?」


 おい、なんで全部外人娘受身系で質問する。


 まるで俺が何か怪しげなもんを飲ませたかなんかしたかのようじゃないか。


 いやしたんだけど。


 いやいやあれはこの外人娘が自分から舐めたのだから俺はあくまで被害者、でもないが加害者?ではもちろんないから被疑者、なんだろうけどこのお巡りさんからしたら。


 でもやっぱり何もしてないから関係者ってとこが妥当な線じゃなかろうか。


「………………大丈夫です、何もされてません」


 流暢に、そしてなぜか間をおいてからきっぱりと日本語で答える外人娘。


「じゃあ、なんであんな……具合の悪そうな表情をしていたのかな」


 かなーりオブラートに包んだ表現をしましたねお巡りさん。


「………………総介の血がとてもまずかったから」


「ちょ、おまっ」


 とてもとか強調されるとかなりショックだった。


 いやいや、そうじゃない。


 ショックだけどそこじゃない。


 何でこいつ、俺の名を知ってる?


『黙ってて!』


 口を開こうとした俺の頭の中に、唐突に外人娘の声がスパークした。


「?!?!?!」


 しかし、不思議なことに外人娘は声には出していない。

 一瞬出したんじゃないかとも疑ったが、お巡りさんが何の反応もしていない。

 このシチュエーションで『黙ってて』なんて発言を不審に思わないわけがない。


 もし聞こえていたなら今頃何を黙っていなきゃならんのだとか問いつめられていたろうが、お巡りさんは外人娘に「そこまでまずかったの?苦い?しょっぱい?」とか別方向の質問してるし。


 いや、このお巡りさんちょっと変わってるよね。


「とにかく、これでわかりましたよねお巡りさん。俺たち別に何か怪しいことしてたわけじゃないってこと」


 いつまでも俺の血のテイストトークを続ける二人を制するようにお巡りさんに確認する。


「ん、ま、まあそうみたいだね」


 お巡りさんはちょっと決まり悪げだ。


 ちょうど無線に何か連絡があったらしく、異常なしといった事を返答して苦笑いを浮かべた。


「とにかく、あと少しとは言え運転には十分気をつけてね。一時間ほど前にもこの先のジャンクションから少し行ったところにあるトンネルで、逆車線側だけど大きな事故があったばかりだし、いつ何が起こるかわからないもんだしね」


 お邪魔して悪かったね、と言って少し変わったお巡りさんは去っていった。





 お巡りさんが去った後、なんとなく二人の間に沈黙が降りてきた。


 さて、どうしたもんかねぇ。


 さきほどつぶやいた言葉を、今度は頭の中でつぶやく。


 目の前の外人娘はというと、お巡りさんと応対していた時とくらべ幾分不安げな顔をして俺を見ている。


「とりあえず、名前は?」


 あれやこれやと悩んだ俺は、結局当たり障りのない質問から入った。


 何せ怒涛の展開に混乱中な俺の頭では色々聞きたい事が多すぎて、あれこれ聞いたってきちんと理解できなさそうだ。


 だからまずはわかりやすい所から会話を始めて、徐々に情報を整理していかなければならないかなぁ、などと長々考えた挙句の質問がこれだった。


 もっと気の利いたこと聞けよと自分の会話スキルの低さにセルフ突っ込み。


 その間無言で待たされ、相変わらず不安そうにしていた外人娘はやっぱり間を置いてからちょっとだけ拍子抜けしたような、安心したような顔をした。


「………………アリアンナ」


「じゃあ、あだ名はあーちゃんで」


 俺の発言の後、一呼吸おいてから外人娘は不安げな瞳の中に珍獣(ツチノコとか)でも見たかのような驚きの色を浮かべる。


 いや、そんな目で見られるのも心外なんですが。


 しかし、この会話の中に間を置く感じは、やっぱり日本語のネイティブな会話に慣れていないっぽい。


 発音や文法はネイティブ並だが、多分一度頭の中で自国語で翻訳してからしゃべっているのだろう。


 だから、俺もできるだけゆっくりとしたタイミングで質問を続ける。


「じゃあ、あーちゃん、君はなんで裸足でベンチに寝てたの」


「………………わからない。最初から裸足だったから」


「最初からって、いつが最初なのかわからないんだが」


「………………起きてから」


「じゃあなんでサービスエリアなんかで寝てたんだ?」


「………………起きてから、よくわからないまま歩いて、ここについたの。でもまだ眠くって」


「ベンチで寝落ちしたと。つか最初に起きた場所はどこ?」


「………………わからない。あんまりよく覚えてない」


 寝ぼけるにもほどがあるっつーか夢遊病かってくらいじゃないと普通サービスエリアに歩いてたどり着かない。


 つかまず高速道路に出ない。


 高速道路は徒歩はダメ、絶対。


 ここはETC出入り口なんてとてもじゃないけど存在しない小さなパーキングエリアだ。


 しかもまわりに人家のない山の中だから、やろうと思えばどこからでも入ってはこられる。


 それまでの移動手段がよくわからないが、ヒッチハイカーだという線ならば説明がつきそうだ。


 乗って来た車に置き去りにされたってのが一番妥当な答えだろう。


 それをそのまま聞いてみたが、あーちゃんは即座に(といってもやっぱり一呼吸をいてだが)否定してきた。


 やっぱり寝ぼけて歩いてきたとしか答えない。

 

 どうにも怪しい。

 

 でも嘘をついているようにも見えない。


「じゃあそうだな。家はどこだ?」


「………………………………あっち」


 長く溜めた後外人娘が指差した先は、人気のない山中しか見えなかった。


「山の中に住んでるのか?」


「………………違うよ。ずっとあっちの海の向こうの高い山と山の間」


「いや、そりゃお前さんの故郷だろう。今現在住んでいる家のところだよ」


「………………あっち」


 再び同じ方向を指すあーちゃん。


「すまん俺が悪かった。今現在お前さんが寝泊りしているところはどこなんだ?」


「………………どこだろう?」


 コテンと首をかしげるあーちゃん。


「すまん本当に俺が悪かったからこの話題は忘れよう」


 じゃないと話が進まない。


「それで、一番気になってたんだけど、どうして俺の名前を知ってたんだ。俺はお前さんとは初対面だと思うんだが」

 

 俺の周りに外人の友人も知り合いもいないしな。


 あーちゃんはちょっと躊躇したが、意を決したかのような表情になって答えた。


「………………えーと。それは、その、血が、教えてくれたんだよ」


 あーちゃんは俺の右手を指差した。


 血はもうすっかり止まってかさぶたになりはじめている。


「血が?」


 意味がわからない。


「………………まずかった」


「失礼だなっ!つーか血に美味い不味いなんてあるの?」


「………………血が美味しいとかないと思う」


「それだったらいちいち不味いとか言わんでもええわい!」


「………………寝起きだったからつい本音が」

 

 いやもう、どうでもいいからブラッドテイストトークは。


「とにかく、血が教えるってことの意味を解説してくれよ」


「………………血を、舐めると、その人のことが色々わかるの」


「わかるってどうして?つか色々ってどういう事が?」


 あーちゃんは人差し指をあごのあたりに添えながら「うーん」という声が聞こえそうなポーズと表情で考え出した。


 かわいいです。美少女がやると絵になるね。


「………………血はその人の記憶と、その人のお母さんとお父さんと、その両方のご先祖様の記録、DNA?が入ってて、私は血を舐めるとそれが見える体質」


 とりあえずこんな感じだと思う的な顔で説明するあーちゃん。


 いや、さらっと説明したけどなんかすげーこと言ってないかこの外人娘。


「俺のフルネームは?」


「………………霜谷総介」


「俺が小学生5年生の時の最初の席で後ろの席に座っていた友達の名前とそいつにつけたあだ名は?」


 あーちゃんはこめかみに人差し指を当てて考え込む仕種をすると、思い当たったかのようなリアクションで返答した。


「…………………………………鈴木平助。あだ名はすっぺー」


「大学で同じクラスの中津川さんと一緒に受けた言語学の授業で取り組んだ論文テーマは?また俺の中津川さんに対する第一印象は?」


「………………………………テーマは『方言の伝播と現代での普及』、第一印象はバッ○ァローマン?」


「俺が小学生の時に神社の裏手の木の下に埋めたタイムカプセルの中身は?」


「………………………………駄菓子屋で買ったラムネのお菓子のふたの裏にある当たりの金券二百円分?」


「全部正解だ」


 調べればすぐにわかることと調べても中々わからないことと俺しか知らないであろうことを交えて質問してみたが、どれも正解だった。


 もちろんこれでいきなり全部を信じたわけじゃないが、少なくともペテン師って感じでもないし、積極的に疑う理由もない。


 もう少し色々話してみないことにはなー。


「じゃあ今度はあーちゃんに関する質問だ」


 あーちゃんはこくりとうなずいた。


「まず、君はどこの出身なんだ。日本生まれじゃないみたいだけど国名は?地方は?西欧?北欧?東欧?はたまた北米?南米?」 


 あーちゃんはまたもやうーんという感じに首を捻ってから、たぶん東欧と答えた。


 たぶん、という部分に少し引っかかったが、東欧、西欧なんてのは明確に分かれてるようなものなのかは俺も分かってないし。


「君の家族はいまどこだ。連絡は取れるのか?」


「………………無理。今が現在(いま)なら、みんな、もう、亡くなってる」


「あ、その、ごめん。無神経な質問して」


 今がイマって意味がわからなかったが、気にしていないとばかりに首を降るあーちゃんの表情は嘘をついているようには見えない。


 俺にはできない表情だな。


「………………総介は知らなくて当たり前なんだから、いいよ。それに」


 覚悟はしていたことだからと、あーちゃんは消え入るような声でつぶやいた。


「えー、じゃあ、あれだ、あーちゃんは今いくつなんだ」


 重くなってしまった場を紛らわそうと、とりあえず別の質問をしてみることにした。


 正直女の子に対していきなり聞くような質問ではないことは百も承知だが、さっきのお巡りさんじゃないが成人と未成年のペアはあまりよく見られない。


 それに実際のところどうも外国の娘さんは見た目が派手なせいか実年齢がよくわからない。


「………………年齢。年齢は、眠りにつく前は十八だったけど」


「十八かぁ。いや俺はもう少し下かもと思ってたよ」


「………………生まれてからの年月なら、もっと上」


「じゃあ十八じゃないじゃん!」


「………………えと、永い間寝てたから」


「え、もしかしてあれか、事故かなんかで意識不明とかでずっと入院してたとかそんなヘビーな感じ?」


「………………事故じゃないよ。それに意識不明とかじゃなくて、単に寝てただけ」


「えぇ!お前さんもしかして一週間とか一ヶ月とか一年とか寝て過ごせる人なの?」


「………………うぅん、違うよ」


「だよなぁ人間どんなにがんばっても二十四時間くらいしかぶっ通しで寝れないよなぁ」


「………………たぶん五百年くらい寝た」


「寝すぎだー!」

 

 いやいやそうじゃない。


 寝すぎだけどそこじゃない。


 つまりこいつ、自分は五百十八歳だと言いよるんですか?


「え、ばーさん?いや違う不老不死?」


「………………ばーさんはひどい。でも不老不死でもないよ」


「じゃあなんなんだお前さん」


「………………え、とヴァンパイア(吸血鬼)?」


「なぜに疑問型」




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