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RISING OF UNDER SUNS  作者: 照屋 太陽
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目覚めろ、太陽

プロローグ。本編の前日譚。


目覚めろ、太陽。


プロローグ


目が覚めた。

覚醒したというわけではない。長年の夢から覚めたというべきか。悪夢から目を背けていたというべきか。


今しがた現実だと理解したが。


目の前の光景は地獄だった。

夏は大勢の人で賑わうマイアミのビーチが突如としてその様を変えている。白い砂浜は血液が染み入ることで錆色に変わり、鉄の香りが潮風に混ざることで鼻を突くのだ。嫌でも物々しさを感じる。


海の向こう、黄金の朝焼けとは対照的だ。


血潮の正体は我々の「敵」に対抗するため全世界から集められた屈指の精鋭達のものだ。そして彼らは皆、砂浜の上で撃たれ、刺され、潰され、人の形を留めない。


南の方角から叫び声が聞こえる。あれは、アレッタ・ジンクスの声か。


昔の記憶がふとよみがえる。


アレッタはコスタリカ出身のESP能力を持つ兵士だ。

ESPとは要するに透視やサイコキネシスといった力を操る超能力者のことである。

熱帯の気候に似合う小麦色の肌にブロンドの髪を短く揃えて一見、活発な性格のようにも見える彼女。しかし、その第一印象に反して非常に暗い過去を背負っている。


彼女の力は他の兵士にはない唯一無二の力だ。物体を捉え、操り、時には圧力をかけすり潰す。人知を越えた力。


だが生まれ育った集落では彼女を異端のものとして迫害し、小さな社会の中で孤立させていた。


次第に村人から虐待を受ける。


それでも彼女は反撃をしなかった。いや、するなどという考えは持ち合わせていない。


自分は悪魔、村の人間が口々に言う。自分の力が他者を傷つけ人を殺める。徹底的にそう教え込まれたのだ。


彼女は誰一人だって傷つけたことはないのに。


ただ、それを信じた少女は誰も傷つけないよう自然と自身の感情を殺していく。


「心が無ければ、悲しくも怒れることもない」


ーー誰も傷つけないための言い訳ーー


人をいたわる心があるからこそ、心を閉ざしたのだ。


もう一度言おう、小麦の肌にブロンドの髪の毛。活発そうな少女。

しかし、その表情や仕草は無機質で、淡々と生きていくだけの機能が備わったロボットのようだった。


ある日から彼女はFBIの監視下に置かれることとなった。


当時、PMC(国に属さない民間の軍事会社)に所属していた私はFBIからの依頼により小隊を編成。集落まで同行することとなり、そこでアレッタと出会ったのだ。


第一印象は先程述べた通り、無機質だ。

しかしその身体には数多の傷が目立ち、腕や足の至るところが腫れ上がっている。集落での暴力によるものだ。皮肉にもその傷によって人間なのだと実感させられる。


そう、彼女は人間なのだ。


例え超常的な力を持ってしてでもそれは揺るぎない。


戦場でさえルールが存在する。降伏すれば捕虜となり身柄を拘束し、戦いが終わるまでの間は人間として最低限の扱いを受ける。

だが彼女は降伏をしようとも救われることはない。この地では人間として扱われることがないのだ。


見過ごせるわけない。

私は兵士として、アレッタを会社で保護することにした。

彼女を監視する目的かつ、FBIに逐一状況を報告できるというメリットを提示したのだ。

幸い、村八分を受けていた彼女を引き留める者は誰一人いなかった。


暫くは部屋に籠る彼女だったが、私の会社には似た境遇の兵士が多く在籍している。打ち解けるには時間が掛かったがそれでも「人」に成るのには十分な環境だった。


つい1ヶ月前のこと、初めてだった。アレッタが私に笑顔を向けたのは。



そして現在。




笑顔を見せた少女が、遠くもない距離で慟哭する。




悲しみか痛みか、分からないがこれも初めて聞く声だ。


兵士としてこの戦いに参加する、と言った彼女を連れてきた。

仲間の為に「敵」を打ち倒したい。その意思を示してきた。本当に心強かった。


身体の何倍もある岩を砕き、海をも割ることができる。そんな彼女が味方につけば。


あの子は強い。間違いなかった。




だが「敵」は想像を越えて強大だった。



大地が揺れた。悲鳴は途絶えた。

一瞬にして彼女は「敵」の兵器に押し潰されたのだ。


後で知ったが、彼女はずっと仲間を庇っていたのだという。

他の兵士が逃げ切った後に、力尽きたのだ。


最後まで彼女は、優しき心の持ち主だった。




足元にロケットペンダントが転がる。飛んで、跳ねて、砂浜に半分埋まる形で着地する。


これは、ダグラスの物か、家族写真が納められている。


ダグラス・ロック。何の力も持たないが、射撃の腕は確かだ。


この男を語る上で外せないのはトークの才能だろうか。彼のジョークに何度笑わせられたか。


そうだ、アレッタが笑顔を見せたのもこの男の話によるものだった。


嘘か誠か、冗談をふんだんに織り混ぜた小話が彼の得意分野だ。

一番面白かったのは酔っぱらってカンボジアの首都プノンペンからバンコクまで行き、ニューハーフを抱いた話か、距離にして約700キロ。その間の記憶は無いらしい。どこまで真実なのかはわからない。


話題は尽きず、会う度に口を開く彼はコメディアンになるのが夢だったらしい。私は難しい話じゃないと思う。


ダグラスは三人家族で、息子と娘がいる。休暇に入ると会社にみんなで遊びにくる。ますますいい父親だ。


そんなダグラスの頭がペンダントの向こう十ヤードに転がっている。




なあ、子どもになんて説明すりゃいいんだ。




この戦いにおいて、自分の率いる部隊は壊滅。

ESP能力者はほぼ殺され他の小隊の生存は確認できず、募ったPMCからの連絡も途絶えた。


この戦場にルールは存在しない。降伏すらも許されない。


目の前を「敵」の兵器が通りすぎる。私には目もくれない。奴らは能力者を探しているのだ。




1990年8月23日。この日を境に全世界は変わった。


観測史上最大の流星が地球に接近し、全世界を覆う怪波が発生した。

怪波の影響を強く受けた一部の人間は第六感が目覚め、新たな力を手に入れることとなる。


「物体を操る」「体躯の変化」「超回復」その力は多岐にわたる。


現代において、その異常な力を持った人間は「臨界種」と呼ばれる。


アレッタも、私の会社に所属する兵士の半数も、その「臨界種」と呼ばれる人間だ


「臨界種」とされた人間は国連から管理される。そこに人権など皆無に等しく、迫害の対象ともされる。都市に住めば人は寄り付かず、店での買い物は拒まれ、人として扱われない。


故に彼等は陰で生きてきた。


この戦いは「臨界種」と呼ばれる人間を解放し、人としての権利を取り戻すために、PMCや協力的な人間を仲間に迎え起こした蜂起だ。


勝てると思っていた。彼等の自由を勝ち取ることができると思っていた。


しかし、今では夢の話だ。


最強の超能力者は科学に殺された。

腕利きの兵士は死体になった。


その事実が、私を夢から覚ました。


最初から勝てるはずなど無かったのだ。




なにせ「敵」は、全人類なのだから。




私は地獄の真ん中で、太平洋に目をやった。

太陽を拝むのはこれが最後になるかもしれない。



2020年8月23日。今日はキング牧師の演説の日だ。


長編初投稿です。よろしくお願いします。

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