表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
輪廻  作者: 代田さん
第二章 友達
98/203

5月16日 2

「マジですごかったんだって!」


 中休み。クラスの女子を自分の席の周りに集めて興奮したようにまくしたてているのは、三須である。


「紺野くんぶっちぎりで、超カッコよかったし。あれはマジで眼福」


 三須の正面に座り、机にひじをついてその話を聞いていた原田は、うらやましそうにため息をついた。


「いいなあ。あたしも立候補すればよかったかな」


「いやいや。百メートル十八秒代じゃん、香澄」


「まーね」


 苦笑して見せると、原田は急に声をひそめた。


「そういえばさ。村上さん、どんな感じ?」


「へ? どうって、別に……がんばってるよ」


「あたし、村上さんが立候補したとき、マジで驚いたんだよね。だって、あの子文化部だし、目立つこととかやりたがらないタイプじゃん」


「確かに……」


 三須はちらりと、自分の席で静かに楽譜に目を通している出流を見やった。


「あたしは絶対、何かあるとふんだんだけど」


「何かって?」


「寺崎だって、寺崎」


 三須は目をまん丸くして原田を見て、それからぷっと吹き出した。


「いや、まさか」


 原田はため息をついてみせる。


「マジで三須ちゃんそーいういの鈍いし。寺崎って、他のクラスの子からはそれなりに高評価なんだよ。中身はあんなんでおちゃらけてるけど、見た感じはそれなりにいけてるし」


「マジで?」


 目を丸くして三須が出流に目を向けた時だった。

 後ろ扉から、隣のクラスの石塚があわただしく駆け込んできたのだ。手には、なにやら雑誌のような物を持っている。


「ねえねえ、三須ちゃん。ちょっとこれ見て!」


 石塚はまっすぐ三須に駆けよると、周囲の人垣を強引にかき分け、手にしていた雑誌を机の上に広げた。


「これ、あんたが気に入ってる子じゃない?」


 三須はいぶかしげに雑誌に目を落とした。そこには大きく、『謎の男子高校生』の文字が躍っている。


「なんかこの間の土曜日、渋谷で車が暴走する事件があったらしいんだけど、その時、突っ込んでくる車を素手でとめたとんでもない高校生がいたっていう情報があって。SNSにその話題が流れてたのは知ってたんだけど、携帯でその子の写真を撮ってた人がいたんだって。その写真見て、あたしマジでびっくりしたんだけど……」


 石塚は早口でまくし立てながら、雑誌の写真を何度も指さしている。眉根を寄せながら三須もそれに目をやり……その目を大きく見開いた。

 カフェの店先で、アイスコーヒー片手に穏やかに笑っているその男は、画像が荒く分かりにくいとはいえ、確かに三須のお気に入り……紺野秀明にしか見えなかったのだ。



☆☆☆  



 寺崎と紺野は無言で額を寄せあって、じっと机に広げられた雑誌に目を落としている。


「ね、そうでしょ」


 寺崎は横目でちらっと紺野を見やった。紺野もいくぶん困ったような表情で寺崎を見やる。


「何かの間違いじゃねえか?」


 寺崎はため息混じりにそう言うと、のぞき込んでいた雑誌から面倒くさそうに体を起こした。


「間違いって?」


「俺たちは確かに土曜日、渋谷に行ったよ。でも、そんな事故は知らねえし、そこに書いてあるようなことには一切関わってねえ」


 わざとらしくため息をつくと、肩をすくめる。


「情報が錯綜さくそうしてんだよ。その写真はもしかしたら紺野かもしんねえけど、紺野は車止めるなんてことやってねえし。その写真は、ただカフェでなんか飲んでるだけじゃねえか。事故とのつながりが一切ない」


「ホントに?」


 三須は紺野の顔をじっとのぞき込んだ。紺野はどぎまぎしたように目を泳がせながらも、必死でうなずいてみせる。


「なあんだ。残念。うちの学校から有名人が出るかもって思ったのに」


 そう言うともう一度手にした雑誌に目を向け、しげしげとその写真を眺めやる。


「でもさ、紺野くんて、雑誌とか載っても全然見劣りしないね。何か、芸能人みたい」


 そう言うと、にっこり笑ってその雑誌を抱きしめた。


「あたしもあとでこの雑誌買おうっと。間違いでも何でも、うちの学校の、しかも紺野くんが載ってるんだから」


 軽い足取りで隣のクラスに雑誌を返しに行く三須の後ろ姿を見送りながら、寺崎と紺野は同時に深いため息をついた。


「ヤバいな」


「……はい」


 紺野の顔は、こころもち青ざめているようだった。


「な、だから言ったろ。ああいうメディア類は怖えんだよ。加えて、今はネットがある。ウワサはあっという間に広がっちまうんだから」


 腰に手を当てると、寺崎はもう一度はあっと大きなため息をついた。


「とにかく、何言われてもしらをきりとおすしかねえな。SNSのぞくのも精神衛生上悪いからしばらくやめよっと。俺も八時に寝ようかな」


 紺野は寺崎を見上げると、すまなそうに頭を下げる。


「すみません。ご迷惑をおかけして……」


 寺崎は苦笑めいた笑みを浮かべると、人差し指で紺野の額をつんと小突いた。


「いまさら何言ってんだよ。いつものことだろ」


 その時はまだ寺崎も、そこまで大変なことになるとは予想していなかったのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ