6月22日 10
紺野の力は、九十八パーセントまで上昇していた。
白い輝きの中心に座って静かに目を閉じていた紺野は、転移反応と、急激な赤い気の高まりを感じて、はっと目を開いた。
――あれは。
思わず立ちあがってあたりを見回すと、二百メートルほど離れたところに誰かが倒れているのが目に入った。赤い輝きを放つその人影の方に、紺野は脈が速まるのを感じつつ、よろめく足を踏みしめて歩み寄る。
距離が近づいてくるにつれて、徐々にその姿が明らかになってくる。ふわっとした透け感のあるワンピースを着て、淡い色のカーディガンを羽織り、白い短めの靴下をはいている。肩くらいまでの茶色い髪が、風に吹き散らされて白い顔の半面を覆っている。
距離にしてあと二十メートルといったところで、なぜか紺野は足を止めた。ごくりと唾を飲み込み、目を閉じて呼吸を整える。
と、つぶやくような送信が頭に響いた。
【見ナイノカ?】
紺野は目を開くと、問いを返す。
「見て、……いいのか?」
うなずくような気配とともに、こんな送信が届いた。
【ソノタメニ、来タ】
紺野は思いきったように、再び一歩踏み出した。かみしめるように大地を踏みしめ、ゆっくりとその歩を進める。
紺野は彼女の傍らに立つと、瞬きもせずにその姿を見つめた。
くるくると忙しく動く、長いまつ毛に彩られた大きな目。吹き散らされた茶色い髪が、風にあおられてその目もとをサラサラとなでていく。きめの細かい透き通るような白い肌に、ほんの少し開きかけた形の良い唇。淡い色合いのワンピースは、その白い肌に映えて。とてもよく似合っているように思えた。
【コレガ……アタシダ】
自嘲めいたその送信は、寺崎に姿を見せた時と全く同じだった。
【笑イタケリャ、笑ウガイイ……】
さえぎられたかのように、突然送信が途切れた。
優子の傍らに紺野がひざまずき、彼女を、両腕で抱き上げるようにして抱きしめたのだ。
【オマエ……】
戸惑ったような優子の送信も、紺野には届いていなかった。彼は涙を流しながら、優子の細い体をきつく抱きしめた。
「今さら何を言っても、許してはもらえないと思う……」
紺野は震える声で、ささやくように語りかける。
「でも、言わせてほしい。すまなかった。本当に、すまなかった」
優子は無言だった。中空に向けたその瞳を、くるくると無表情に動かしている。
「十六年も、不自由な体で、たった一人で放置して……本当に、申し訳なかった」
紺野は声を詰まらせながらそう言うと、抱きしめる腕にさらに力をこめる。と、ようやく優子から、いくぶんうっとうしそうな送信が届いた。
【離セ、苦シイ】
紺野ははっとしたように顔を上げると、慌てて優子の体を離し、そっと地面に横たえた。
「すまなかった、つい……大丈夫?」
優子はやはり何も言わなかった。
紺野は横たわる優子を改めて眺めやってから、ため息とともにつぶやいた。
「美人だったんだね、おまえ」
紺野は、吹き散らされて目元にかかる優子の茶色い髪を、優しく指先でなでてどけてやりながら問いかけた。
「女の子だったんだね……名前を、教えてくれないか?」
しばらくの間、優子の答えはなかった。黙って、くるくると中空に視線を泳がせているだけだったが、ややあって、ぽつりと、つぶやくような送信をよこした。
【……ユウコ】
紺野はその目を大きく見張った。
「どうして……」
その問いには、優子は答えなかった。
紺野は何とも言えない表情を浮かべてそんな優子を見ていたが、やがて唇を震わせた。
「そうか。……そうだよね」
それから、吹っ切るように顔を上げると、明るい声音で問いかける。
「ゆうこって、どういう字を書くんだ?」
【優シイノ、ユウダ】
「そうか。優子か」
紺野は嬉しそうに何度もうなずくと、居住まいをただした。優子をまっすぐに見つめながら、改まった口調で問う。
「優子。今回の件が全部かたづいたら、一緒に暮らしてくれないか」
優子の答えはなかった。唐突なこの申し出に、面食らっているような雰囲気だった。
「おまえはもちろん、僕のことを許してはいないだろうから、急にそんなことを言われても受け入れられないのは当然と思う。気持ちの整理がついたらでいいんだ。僕があの高校を卒業して、何か収入の得られる職についてからでもいい。もちろん、今すぐにでも構わない。それなら僕はすぐに高校を辞めて、中卒でも収入の得られる職を探す。とにかく、僕はできるだけ長くおまえと一緒にいたい。幸い僕は、体だけは若いから、多分おまえと最期まで一緒にいられると思う。その間、おまえができるだけ楽しく生活ができるように、手助けをさせてもらいたいんだ」
優子の答えはなかった。
紺野は目線を落とすと、小さな声でこう続けた。
「答えは、ゆっくりでいいよ。いつまででも、僕は待っているから……」
と、ようやく優子から、つぶやくような送信が返ってきた。
【……勝手ダナ】
紺野は、優子の無表情な顔をじっと見つめた。
【サッキカラ聞イテイレバ、一緒ニ暮ラスダノ、助ケタイダノ、何甘イ事言ッテンダカ】
紺野は目線を落とした。確かにその通りだ。優子がこれまでに受けてきた仕打ちを思えば、甘すぎると言われても仕方のないことだった。
【言ッタハズダ。アタシハ、アンタガ憎イ。アンタノセイデ、アタシノ人生ハ、滅茶苦茶ニナッタ。今スグニデモ、殺シテヤリタイクライナンダ!】
突き刺すような送信とともに、紺野の右肩から血しぶきが上がった。思わずよろけた紺野の左の脇腹からも鮮血がほとばしる。二重の衝撃に、紺野は傷口を押さえて膝をついた。
「そうだね……その通りだ」
紺野は荒い息の間から、絞り出すように言葉を発した。
「確かに甘すぎる。申し訳なかった。おまえにとっては、くだらない話だった」
横たわっている優子に目を向けると、弱々しくほほ笑みかける。
「いいよ。僕を殺して。それでおまえの気がすむのなら、そうしてくれて構わない」
優子の攻撃を待つかのように、紺野は立膝をついた姿勢でうつむいた。
なぜだか、優子はすぐには撃ってこなかった。逡巡しているような間があいてから、ややあって、どこか思い切るような雰囲気とともに、鋭い気がナイフのように投げつけられた。
それは紺野の左腕を深く切り裂いた。鮮血が、周囲の空気を赤い霧のように染め上げる。紺野は思わず呼吸を止めたが、それ以上、優子が攻撃を続ける気配はなかった。いぶかしく思い、閉じていた目を開いた紺野は、その目を大きく見開いた。
くるくると中空を泳ぐ、優子の黒い大きな目。その目から涙があふれ、白い頬を幾筋も伝い落ちていたのだ。
【殺シタイ、ハズナノニ……】
「……優子」
【何デ、デキナインダ】
紺野は、言いかけた言葉を飲み込んだ。
【何デ、オマエヲ殺セナインダ!】
涙を止めどなくあふれさせながら、優子はせきを切ったように送信を始めた。
【アタシハ、生マレタアノ時、最大エネルギーヲ放出シタ。別ニヤリタクテヤッタワケジャナイ。アアスルシカナカッタンダ】
紺野はかける言葉も見つからず、黙って優子の言葉に耳を傾けるしかなかった。
【アノ時ハ、アノ人ガ死ンダコトモ、ヨク分カッテイナカッタ。赤ン坊ダカラナ。理解力ナンテ、アル訳モナイ。目ノ前デ自分ヲ睨ミツケテイルオマエガ、父親ダナンテコトモ分カル訳ガナイ。怖カッタ。ダカラ反撃シタ。ソレダケノ事ダ】
中空をにらんでくるくると動く優子の目からは、涙があふれ出し続けていた。
【アンタハ敵ダト思ッタ。ダカラ殺ソウトオモッタ。人ヲ殺シテ動揺シテイル事ガ分カッタカラ、モットタクサン殺サセレバ、パニックニ陥ッテ死ヌト思ッタ。ソシテソレハ、ウマクイッタ】
そこで優子は、しばらく送信を止めた。ややあって届いた送信は、まるで震えているように感じられた。
【……ナノニ、何故カアタシハ、アンタヲ生キ返ラセタ】
紺野は弾かれたようにその顔を上げ、横たわる優子をまじろぎもせず見つめた。
【殺シタイハズナノニ、ナンデダ? イツモイツモ、トドメガサセナイ。今ダッテソウダ。心臓ヲ射ヌケバ、一瞬デ片ガツクノハ分カッテルノニ】
次の瞬間、右の脇腹から鮮血がほとばしる。体勢を崩した紺野は左手で脇腹を押さえ、右手を地べたについた。
【ドウシテモ、トドメガ、サセナイ】
「優子……」
肩で息をしながら、紺野は顔を上げた。
【コンナ体ニナッテカラハ、何ノ楽シミモナカッタ。能力ヲ使エバ脳ハ活動ヲ停止スル。何ヲスルニモ人ノ手ヲ借リテ、自分ノ意志スラ表セズニ、タダ生キルコトシカデキナカッタ】
紺野の目から涙があふれ、そのやつれた頬を伝い落ちる。
【アタシハ、異父姉妹デアルアノ女ニ興味ガアッタ。ダカラ、ボランティアデアノ高校ノ生徒ガ来タトキ、滝川トカイウ男ノ意識ヲ乗ッ取ッタ。別ニ、アノ女ヲ殺ソウトカ、ソノ時ハ考エテイナカッタ。デモソノ後、アンタニ会ッテ……ソレハ殺意ニ変ワッタ】
優子は、思い出すかのように送信を切った。
【桜ノ木ノ下ニイルアンタヲ見タ時、信ジラレナカッタ。アンタガ生キテイル事ジャナイ。自分ノシタ事ガ、信ジラレナカッタ。アンタヲ、アノ時、本当ニ生キ返ラセタ事ガ分カッテ、自分ガ、信ジラレナカッタンダ!】
紺野は嗚咽に喉を震わせると、口元を手で覆ってうつむいた。
【何クワヌ顔デ高校ニ行キ始メタアンタガ、憎カッタ。アタシハコンナンデ、高校ナンテ行ケル訳モナイノニ、アタシヲコンナ目ニ遭ワセタアンタハ、楽シソウニ高校ニ通ッテ……許セナカッタ。殺シテヤリタカッタ。ソレナノニ……】
優子は送信を切った。泣いている気配だけが、ひしひしと伝わってくる。
【ソレナノニ、肝心ノ時ニ、何デトドメガ刺セナインダ!】
「じゃあ、とどめがさせるようになるまで、一緒に暮らそう」
思いがけない言葉を投げられて、優子は鼻白んだように黙り込んだ。
紺野は肩を揺らして息をしながら、途切れ途切れに言葉を継いだ。
「おまえが、僕を殺せるようになるまで、僕はずっと側にいるから……おまえの気が済むようにしてくれて構わないから。それまで、一緒に、いさせてほしい」
やっとのことでそこまで言うと、紺野はその場に座り込んだ。着衣に染みこみきれなくなった血が、周囲の地面を赤く染めている。
優子はしばらくの間何も言わなかったが、ややあって、ぽつりとこんな言葉を送信した。
【……ジャア、証拠ヲ見セロ】
紺野はいぶかしげに顔を上げて優子を見つめる。優子は無表情に目線をくるくる泳がせながら、続けた。
【オマエガアタシヲ信用シテイル証拠ヲ見セロ】
「信用している、……証拠?」
【ソウダ。オマエノ能力ヲ、百パーセント解放シロ】
微かににじむ、含み笑いの気配。
【デモ、アタシハ遮断スルカドウカハ分カラナイ。アタシハオマエヲ殺シタインダ。アノ時ト同ジヨウニ、普通ノ人間ヲ殺サセテ、オマエヲ自殺サセルツモリカモシレナイ】
紺野は何も言わず、じっと優子を見つめている。
【アタシト一緒ニイタインナラ、百パーセント解放シテミセロ。本当ニアタシノ事ヲ信用シテイルカ、ソレデ試シテヤル】
それから、まるでせせら笑うように付け足す。
【モシアタシガ遮断ヲ解ケバ、北アメリカハ確実ニ消滅スルナ。地球ノ地軸モ傾キヲ変エルダロウ。異常気象デ、世界中ノ人間ガ沢山死ヌダロウナ】
優子は紺野の反応をうかがうようにいったん送信を切る。
【……ソレデモ、アタシヲ信用シテ、解放デキルッテ言ウノカ?】
肩で息をしながらうつむいていた紺野は、その問いに、苦笑めいた笑みを浮かべた。
「何だ、そんなことか」
優子はいぶかしげに黙り込む。
「分かった。それでおまえの気がすむのなら」
紺野はそう言うと、よろよろと立ちあがった。脇腹を押さえていた血だらけの手を下ろし、顔を上げると、まっすぐに遊休地の果てを見つめる。
「神代さんたちは、シールドの外なんだね」
【ア、アア】
紺野の問いに、優子は気圧されたように答える。と、紺野が優子を振り返った。いつもと全く変わらない、あの優しいほほ笑みを投げる。
「頼むよ、優子」
優子が息をのんだ、瞬間。
紺野の体は燦然と光り輝いた。
その神々しいまでに白く、圧倒的なエネルギーを内包した光は、瞬時に遊休地を隅々まで満たし、シールドされていない上空を目がけて一気に駆け上がった。
一本の大きな光の柱が、天に向かって伸びていくかのようだった。
光の柱は大気圏を突き抜け、月の脇を駆け抜け、はるか宇宙のかなた目指して果てしなく伸びていった。
☆☆☆
「百パーセント……」
荒い息の間から、亨也がつぶやいた。亨也のトレースを傍受している寺崎も、ぼうぜんとその光景を感受していた。
「このエネルギーは、予想を、はるかに上回る」
寺崎は目の前のシールドを見やる。エネルギーのぶつかり合う気配は感じられるが、その赤いシールドはしっかりと張り巡らされたまま、解かれる気配はない。
「優子……」
寺崎は、優子の言葉を思い出していた。
【アタシト一緒ニイタインナラ、百パーセント解放シテミセロ】
寺崎は何となく、優子がそのためにここに来たような気がしていた。
このエネルギーを抑えるには、相当の力を出さなければならない。いかに優子でも、そう簡単な話ではないだろう。ただでさえ彼女は、力を使い続けると脳が活動を休止してしまう。紺野の力を百パーセント解放させる、そのために彼女は、ずっと自分の力を温存していたのではないだろうか。
亨也も荒い呼吸を繰り返しながら、寺崎と同じようなことを感じていた。
あの河原で、優子が紺野を再生させた可能性について話した時。彼女は何も言わなかった。震える拳を握りしめ、足元を見つめながら動かなかった。あの時彼女は、覚悟を決めていたのかもしれない。紺野の力を解放させる、その覚悟を。
――やっぱり、彼女は紺野の娘だったんだな。
亨也は優しい、でも何とも悲しげな目で、赤く輝くシールドをじっと見つめていた。
☆☆☆
優子は、めくるめく光の洪水に押し流されそうな気がしていた。
訳も分からずただ本能の赴くままに力を解放したあの時。このまま死んでしまうような気がして、優子はもがいていた。
必死で暗い膜を突き破って、明るい光が見えた瞬間。優子は心底ほっとしたのだ。これでもう大丈夫だ、そう思った。だが次の瞬間、彼女が見たのは、恐怖と憎しみに満ちたこの男の目だった。
鋭い感知能力が、敵意と殺意を優子に知らせる。恐怖にとらわれ、優子は夢中で衝撃波を放った。だが、男は攻撃をことごとく防御し、自分の首に手をかけた。
苦しかった。悲しかった。ただ自分は、生きようと思って出てきただけだったのに、どうしてそんな目にあうのか理解できなかった。
だから、生きてやろうと思った。その時、最高潮だった魁然の血の力で再生を果たし、あの暗い病院から逃げ出した。そして、自分を追ってきたあの男を、殺そうと思った。殺されるくらいなら、殺してやろうと思った。
そう思っていたはずだった。
だが、あの時。上空から落下するあの男の意識に同調して、あの男が自分の父親だと知った時。自分は無意識に、あの男の体細胞を転移していた。自宅に戻る途中の、見知らぬ女の腹に。
何でそんなことをしたのか、いまだに彼女自身にも分からない。
あの時、そんなことをしなければ、こんなに苦しまなくて済んだのに。
――寂しかった。
彼女は、ずっと一人で生きてきた。
高熱が出てこんな体になったことで、確かにいろいろな人の世話にはなったが、誰に心を開く訳でもなく、精神的にはずっと一人ぼっちだった。
佐久間だけは、何となく自分のことを分かってくれている気がしていた。必要以上に主張しなくても、自分のいいように事を運んでくれる、ただ一人の人間。佐久間のおかげで、ここ数年は優子もある程度、安定して過ごせるようになっていた。
だが、それでも孤独だった。佐久間とて、出生の秘密や能力のことを本当に理解しているわけではない。意思疎通ができるわけでもない。誰かに分かってほしかった。全てを分かった上で、自分の存在を認めてくれる相手がほしかったのだ。
優子は光の洪水の中で、もがいた。意識世界なら、自由に手足を動かすことができる。でも、意識世界にまで入り込んできてくれる存在など、この世にいるわけがない。
その時。もがく彼女の手を、誰かの手がしっかりとつかんだ。
――誰?
優子の意識は目の前に立つその男の姿を、まるで見ているかのようにはっきりととらえた。優子を見つめているその男の、包み込むように優しい、穏やかなまなざしを。
【ずっと、側にいるよ】
男は優子の体を自分の方に引き寄せて、愛おしそうに抱き寄せる。
【長い間一人にして、本当に、ごめん。これからはもう、一人にしないから。ずっと、側にいるから……】
ここは意識世界。意識体なら、自分の意思で動かすことができる。優子は顔を上げ、じっと目の前の男を見つめた。
自分を見つめる優しいまなざし。優子は体が温かくなるような気がした。こんなに優しく他人から見つめられたことは、これまでなかった。
――他人?
自分の背中に添えられている、温かい手。この手に流れている血が、自分の体にも流れている。この男と同じ遺伝子を持った血が。
――父親?
男の手が、優子の乱れた髪をそっとなでる。前髪をかき上げる、温かく優しい手。
【オマエハ……】
優子は紺野の顔を見つめながら、つぶやくように送信する。
【オマエハ、アタシノ……】
紺野も穏やかな表情で、そんな優子のまなざしを受け止める。
【アタシノ、……父親?】
紺野はゆっくりとうなずいた。
【おまえがそう、認めてくれるのなら……】
優子の目から、せきを切ったように涙があふれた。あとからあとから、その白い頬を伝い落ちていく。
泣き崩れる優子を抱きしめながら、紺野は万感の思いを込めてささやきかけた。
【これからは、ずっと一緒だよ】
優子は震える手を、おずおずと紺野の背に回した。その手に、そっと力を込める。
めくるめく光の洪水の中、一組の親子は互いの存在を確かめ合うように、しっかりと抱き合っていた。