4月12日
4月12日(金)
始業のチャイムが鳴り響くと、一年B組の生徒たちも、出っぱなしのカバンの中身を机にしまったり、喋っていた友だちに手を振って着席したりと、あわただしく授業準備を始める。
チャイムが鳴る一分ほど前に教室に滑り込んだ寺崎は、カバンの中身を机の中にしまいながら、ちらりと紺野の席に目をやった。
空席だった。
――休み?
同時に、誰かの視線を感じた寺崎は、気づかれない程度に振り返り、後方に座る視線の主――宮野に目をやる。
宮野は紺野の席にちらちらと目をやりながら、前の席の山根と何かこそこそ話をしている。周囲が騒がしいのでさすがの寺崎も話の内容までは聞き取れないが、表情から察するに、あまり喜ばしい話はしていないようだ。
寺崎は昨日の帰り、紺野が教室を出た直後、二人が怪しいそぶりで教室を出たことを思い出した。
――……あいつら、まさか。
思わず問いただしてみようかと寺崎が席を立ち上がりかけたとき、前扉が開いて担任教諭が入ってきた。寺崎は上げかけた腰を仕方なく座席に落ち着ける。
ホームルームが始まり、出欠席の確認が始まった。
「ええと、今日の欠席は……紺野さんね。風邪でお休みするとの連絡が先ほどありました。あとは……」
――風邪か。
そういえば昨日咳もしていた。風邪ならば目くじらを立てる必要もない。寺崎はほっとして小さく息をついた。
ただ、それにしては宮野達の様子が気になる。風邪と担任教諭が言った途端、二人は目線を交わし、ガッツポーズのようなしぐさまでしていた。とはいえ、問いただす材料がない以上、紺野が学校に出てきてから注意して様子を見るしかない。寺崎は鼻でため息をつくと、一校時目の準備を始めた。