二人の今までと家族のこれから
この度小説を初めて書いてみました。
拙いところもあるかと思いますが楽しんでいただけたら幸いです。
「子どもが欲しいです」
「……ぶふぁ!?なっ……なん……!?」
何時切り出そうかと機会を窺いつつもこんなことを言うのは気恥ずかしくてなかなか言えず、食事もお風呂も終わり、後はもう寝るだけとなってようやく覚悟を決めて言ったというのに返ってきたのはそんな反応だった。……むう。
「……だから、子どもが欲しいって言ってるんだよ?」
まったく、何度も言わせないでほしい。さすがにこんなセリフを何度も言うのは……くっ、急に恥ずかしさがこみ上げてきたじゃないか。今鏡を見たら真っ赤になっている自身があるよ?
「いや聞こえなかったという意味ではなくてだな……まあいいか、唐突にどうした?」
「いやぁほら、僕達結婚して暫く経つじゃない?お金も貯まってるしそろそろいいかなぁって」
「……なんかそれ微妙に答えになってなくないか?」
「うっ……」
くそう、納得しなかった……ワンチャン行けるかなと思ったけど無理だったか……
「えーっとぉ……そのぉ……」
「そんなに言いたくないことなら無理して言わなくてもいいんだが……」
「いえ単に言うのが恥ずかしいだけです……」
うう、なんで子どもが欲しいと思ったのかを説明するのかなり恥ずかしいんだけど……よし!言う!言うぞ!
「えーっとね?今日親戚の集まりに顔を出しに行ったんだけど……」
そう言って少し頬を赤らめながら旦那様の子どもが欲しいと思った出来事を話し始めるのだった。
◇ ◇ ◇
「あぅ、あう……だぁー!」
「おーよしよし、いい子いい子」
こちらに向かってその小さい手を伸ばしてくる赤ん坊を落とさないようにしっかりと抱きかかえる。
まだ体は小さいのにずっしりとかかえる腕に重さが感じられて少しびっくりした。
内心落としてしまわないかとひやひやしながらあやす。
「きゃっ!きゃっ!」
「おお、笑った、笑った。あやすの上手いじゃん」
「そ、そう……?」
そう言われるとなんだか自身が出てくるなぁ。実際はどうだか知らないけど。でも楽しそうに笑っている赤ん坊を見つめているとこっちもほわほわした温かい気持ちになってくるね。
あんまり長い間やっていると落としそうで怖いしこの子の母親である姉ちゃんに赤ん坊を渡す。
「はい、赤ちゃん触らせてくれてありがとう」 「いえいえ、この子も喜んでたし」
姉ちゃんの腕に抱かれていると笑い疲れたのかしばらくするとスヤスヤと寝息を立て始める赤ん坊。
「やっぱり赤ちゃんっていいなぁ……」
そんな赤ん坊を見ていると自然とそう言葉がこぼれるのだった。
◇ ◇ ◇
「……と、いうようなことがありましてぇ……僕も赤ちゃん欲しいなって思いましたはい!」
言った……言ってやった……最後はもう恥ずかしくて恥ずかしくて一気に言い切った……ねぇこれいったいどんな羞恥プレイ?
「な、なるほど……」
「わかった!?」
「ええはいそれはもう!」
「よろしい!」
よかった……これ以上詳細に説明をもとめられようものならいいから黙って子作りさせろとベッドに押し倒すところだった……
「でもいいのか?」
「ん?何が?」
「いや、まぁ結構貯金貯貯まってるし暫く俺だけ働くことになっても問題ないとは思うけどさ、その……翔昔言ってたじゃん?子ども産むの怖いとかどうとかって」
「あー……そういえばそんなこと言ってたねぇ……」
言った。昔確かに言った。女になって初めて生理が来て生理痛が辛くていろいろ愚痴を零してた時に「生理痛でこれでしょ?出産とか絶対無理、怖すぎる……」とか言った。
……もう何年も前のことなのに覚えてくれてたんだ……そっかぁ……へへ。
「覚えててくれたんだ?」
「う、その……、お前が嫌がりそうな話題や行動はしないようにお前が言ってたことは覚えるようにしてたんだよ……」
「ふぅ~ん?そっかそっか~」
友人の性別が急に変わって自分も戸惑っていただろうに僕のことを思って行動してくれていた彼の気遣いが嬉しくて顔がにやけているのを自覚しながら彼の顔をのぞき込むと僕に知られたのが恥ずかしくなったのかそれとも照れてるのか今度は彼が赤くなりながら話を戻した。
「と、ともかく!そんなこと言ってたけど大丈夫なのかもちろん?」
「まあ自分から子ども欲しいって言ったんだし?その辺はもう大丈夫ですよ。そりゃあ全く怖くないかと言われたら違うけどさ。それでも僕は君との子どもが欲しいんだ」
「翔……」
「だからお願いします、パパになってもらえませんか?」
「可愛い奥さんにそんなことを言われたらこう言うしかないな……ああ、いいとも」
その言葉を聞いた僕は返事の変わりに彼の首にそっと手を回し……唇を交わした。
「ん……ぁ……」
舌を入れ、絡ませる。ピチャピチャと部屋に響く水音を聞いているとなんだか体が火照ってきて……そして、そのまま僕たちはベッドへと倒れ込んだ。
──翌朝、一足早く目が覚めた僕は隣の愛しい旦那様の寝顔を眺めていた。
しばらく寝顔を楽しんでいるとゆっくりと彼が目を開けた。……まだ眠そうだな……今更だけど昨日いろいろ言っちゃって恥ずかしいし紛らわせるために少しびっくりさせてみようか?
「……やあ、おはよう旦那様?昨夜は凄かったね?」
「ああ……おはよう……ところでそのエロ本みたいな台詞はなんなんですかね?」
「えっ?好きでしょこういうの?そういうエロ本持ってたよね?」
「いや確かにエロ本は見せたけどな?お前が男の時に見せてたけどな?お前が女になってからは見せてないだろ!?そういうのお前が女になった後に買ったやつなんだけど何で知ってんの!?」
「遊びに行った時にチェックしてたからだけど?」
「マジかよ初耳だぞ……」
「ふふ、目は覚めた?」
「めっちゃ覚めたよ……」
旦那様のびっくりした顔を見られて満足したのでそろそろ布団から出ようかな
……なんて思っていたら思わぬ反撃を受けた。
「ところでいつもはした後もそんなことは言わなかったのに今日はこんなことを言ったのは内心恥ずかしがってるのかな?」
「なっ……!?」
「ふふ、寝起きにびっくりさせられたお返しだ」
……どうやらバレてたらしい。全てお見通しだったみたいだ。
僕は苦笑してニヤリと笑いながら屋を出て行った旦那様の後を追うのだった。
◇ ◇ ◇
「ただい……」
玄関から旦那様の声が聞こえてきた瞬間急いで駆け出しバン!と勢いよく扉を開け驚いた顔をこちらに向けている旦那様の元へ駆け寄る。
「ねっ、ねぇねぇ!できた!」
「ど、どうした?」
くそ、鈍いな!……いや、僕の説明が足りなかったか……はやる気持ちを落ち着け、持っているものを彼の目の前に出しよく見させる。
「これ!これ見て!妊娠検査の結果!赤ちゃんできたよ!」
「なにっ!?ほんとか!?やったな!!!」
「うん、うんっ……!今月生理来なかったからさ、もしかしてと思って妊娠検査薬使ったら陽性だったんだ!」
「ん?でもたしかこの検査って確実にわかる奴じゃなかっただろ?まだ本当に妊娠したのかはわからないんじゃないか?」
それを聞いて舞い上がっていた気分から一気に冷静になった。た、たしかに……しまった……病院に行ってから伝えた方がよかったかもしれない……
「あっ……そういえばそうだ……明日病院行って検査してくるね……ごめん、もしかしたらぬか喜びになっちゃうかも……」
「なに、だとしても気にするな。直ぐ伝えたくなった気持ちはわかるさ」
「うん……へへ、ありがとう」
「あ、そうだ、ところで病院って俺も付いていった方がいい?」
「うーん、どうしようか?ほんとに妊娠してるかわからないから別に来なくてもいいよ?」
しかしそうは言ったもののもし妊娠してなかったらそのときの空気に耐えられる気がしない。旦那様の事だから慰めてくれるとは思うんだけどその場の空気に僕が耐えられない。そんなことを思ってたらどうやら顔に出てたらしい。
「……なんか俺は行かない方がよさそうだな。」
「あ、わかった?…ごめんね、気遣わせちゃって」
「なに、いいってことさ。それじゃあ気を付けてな、気にするなというのは無理かもしれないが妊娠してなくてもあんまり気を落とすなよ?」
「……ありがとう!」
旦那様の気遣いへのせめてものお返しとして笑顔でそう返すのだった。
「ただい……」
玄関から旦那様の声が聞こえてきた瞬間急いで駆け出しバン!と勢いよく扉を開け驚いた顔をこちらに向けている旦那様の元へ駆け寄る。
「ねっ、ねぇねぇ!できた!できてたよ!!!」
「……なあなんかこの流れ見たことあるんだけど……?」
「気のせい気のせい、それよりも!」
そう、そんなことよりも今はもっと大事なことがあるのだ。昨日見たようなやりとりとかは今はどうでもいいのだ。
「ああうん、……そのはしゃぎようはもしかして?」
「そう!今日病院行って検査したらね!赤ちゃん出来たって!!!ほらこれ!母子手帳!!!」
「そうか……そうかぁ……!」
顔を綻ばせて赤ちゃんができたという事実を噛み締めるように笑っている旦那様
。そんな旦那様を見てると胸にポカポカとした気持ちが溢れてくる。
「男の子!?女の子!?名前はどうする!?」
「それはちょっと気が早くない?」
「ははっ……それもそうだな……でも嬉しいなぁ……!今日はお祝いだ!!!」
おおっと思ったよりも凄い浮かれようだなぁ。気持ちはわかるけどね。
「だね!お祝いしよっか!……ところで、旦那様は妊婦になった奥さんにいろいろやらせる気かな?」
「ふっ、まさか!今日は俺が振る舞おう!もちろん体にいいやつをな!翔はゆっくりしていていいよ」
「おおう嬉しいことを言ってくれるねぇ」
「もうお腹に赤ちゃんがいるからな、そこらへんは気を付けないと。これから出産までの生活とか手伝いとか仕事のこととかいろいろ話し合わないといけないことはあるがまずは祝おうじゃないか」
「そうだね!……これからいろいろ大変だろうけどよろしく頼むよ?旦那様?」
「おう、任せろ!」
それからその日はもうたっくさんお祝いをした。……幸せだなぁ……女になっていろいろ大変だったけど今はとっても幸せだ……僕女になってよかったよ……
そう、今の幸せを噛み締めるのだった。