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第9話 ダブルクロス

「注意力散漫……死角注意」


蜘蛛の牙がクレールへと届く寸前、クレールの傍から飛び出るように弓矢が走り蜘蛛の目を射抜く。


「キシッ……キシイイイイィ‼︎?」


「クレール、バトンタッチ……」


「トンディ‼︎」


蜘蛛は悲鳴をあげるかのように体をのけぞらせて暴れまわり、その隙にトンディはクレールを追い越しアラクネの懐に入り込む。


「接近戦は得意じゃないけど……これぐらいなら」


ブーツに仕込んだナイフを抜き取ると、トンディはのけぞった体を支えている後ろ足を切り落とす。


「キシャアアアアアア‼︎?」


体を支える足を切り落とされ、悲鳴をあげるアラクネ。


その隙を狙い、クレールはここぞとばかりに横腹に銃弾を注ぎ込む。


「これでもくらええぇ‼︎」


撃鉄が打ち鳴らされたのは四度。

両手に握られた二丁拳銃から二発ずつ放たれた四つの弾丸は、巨大に膨れ上がった蜘蛛の腹を貫き緑色の体液を噴出させる。


「ギギいいイィいぃ‼︎?」


致命傷を与えることはできないものの、その一撃が有効であったことは明らかであり、アラクネは苦痛に悶えるように悲鳴をあげながら、横倒しになる。


「好機……クレール、ナイス援護」


倒れたアラクネに対し、トンディはナイフを手に頭にナイフを突き立てようと迫る。


だが。


「きしゃああぁ‼︎」


その行動は読まれていたのか、悶えながらも放たれた前脚の一撃により、トンディのナイフは弾き飛ばされてしまう。


「……しまった」


無防備になった小さな体。

気がつけば蜘蛛は既に体勢を立て直しており。

回避するまもなく巨大な槍のような前脚がトンディを貫かんと迫る。



「っ‼︎ 仕方ない……」


「‼︎?」



だが……その攻撃は外れた。



誰かが邪魔をしたわけでも、トンディが回避したわけでもない。


ただただ大蜘蛛は、銃弾を見切り、弓矢を弾く前足で、身動き一つ取らない獲物への攻撃を外したのだ。



【ファンブル……不幸だったね】



赤く光る瞳と、計画通りと言わんばかりに唇を歪ませてトンディはそんな言葉を送る。


「キ……キシィ?」


――――何もかもが息をひそめる静まり返った森の中、蜘蛛はたしかに、どこかでカラカラとサイコロが回る音を聞いたーーーー


「せーの‼︎」



攻撃を外した後、不自然に動かなくなったアラクネに、クレールは掛け声とともに皮袋を投げつける。


ベシャリという音と同時に森に漂うコーヒーの匂い。


その香りに、アラクネの巨大な体はぐらりと揺れて前のめりに倒れこむ。


「いくぞトンディ‼︎」


掛け声とともに、クレールは両手に持った銃を交差させて構え。


トンディは大地を蹴って上空へと飛ぶ。


森の木々の間には無数の蜘蛛の糸が張り巡らされてはいるものの、最初に飛ばした光る綿毛を目印にトンディは巧みに糸を交わし蜘蛛の真上へと到達する。


高さ約7メートルほどの大跳躍、ラヴィーナ族に与えられた脚力は、一足でトンディを弓の間合いへと誘い、そのまま二本の弓矢を番い……撃鉄の落ちる音とともに指を離す。


八つある蜘蛛の瞳に、綺麗に四つずつ映る弓矢と弾丸の軌跡は、アラクネの頭を撃ち抜き交差する。


「「ダブルクロス‼︎」」


酩酊し、正常な判断を取れない蜘蛛は……銃弾と矢そのどちらも弾く事叶わず正面と頭上から貫かれ運命を潰えさせた。



「よいしょっと……戦闘終了、怪我はない? クレール」


着地をすると同時にトンディはそう呟くと、クレールは緊張の糸が切れたかのように大きく息を吐き、薬莢を捨てる。


「怪我はないけど久々の大物で疲れたよ……トンディの方こそ怪我は?」


疲れた……と言いながらもクレールは息一つ乱しておらず。

トンディは流石と心の中で呟きながら額の汗を拭い、アラクネに弾き飛ばされたブーツナイフを拾い上げる。


「おかげさまで。だけどホイールオブフォーチュンを一回使っちゃった」



「まだ今月1回しか使ってないからいいじゃないか」


「まぁね、半月で回復するし……まだあと4回使えるから問題はない」


「頼りにしてるよ。 さて、それよりもトンディ、ゴブたちはこいつの腹の中ってことだけど、今助け出せばまだ間に合うかな」


大きく膨らんだアラクネのお腹を叩き、不安げにクレールは呟くが。

トンディは首をふるふると左右に振ってその言葉を否定する。


「……アラクネは獲物を基本生かしたまま保存する。 だからゴブたちはまだ巣に捕まってるはず」


「そうなの? それは良かった……だけどそうなると今度は山探しか?」


「心配しないで、アラクネが居なくなって、もう森がお話してくれるようになったから」


「お話?」


「見てて」


トンディはそういうと瞳を閉じて耳をすませる。


すると、今まで怯えるように沈黙を守っていた森たちは、その身を震わせ始め。

虫の声や動物たちの鳴き声が歌うように夜の森に響き渡り、トンディはその音を機敏に耳を動かし聞き入る。


何を聞き取っているのか、それとも本当に会話をしているのか。


クレールにはどちらなのか結局分からなかったが森と会話をするトンディの姿は美しく。

ただただその姿に見とれていた。


と。


「いた、こっち」


不意に目を開き、案内をするように歩き出すトンディ。


「はいよ……」


そんな彼女に。

(もう少しだけ会話してくれてても良かったのに……)

なんて心の中で呟きながらクレールはトンディについていくのであった。



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