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第6話 ダイク遺物店

「まったく……撫ですぎ」


「へへへーごめんごめんー」


頬を赤らめてむすっとするトンディとニヤつきながら心の一切こもらない謝罪をするク

レール。

二人は誰がどう見ても仲睦まじく商店街を抜け、大きな広場へと出る。


商店街の華やかさに比べ、人の少ない大広場。


冒険者広場と呼ばれるこの場所は、運命の女神【アリアンロッド】の像を中心に円を描くように鍛冶屋やアイテムショップ、魔導書店、錬金術工房等が立ち並び、この広場のみで冒険者達が旅支度を整えられるようにと配慮された作りとなっている。


冒険者業がさかんな昨今、どの街でもこのような広場は昼も夜も問わず活気にあふれているはずなのだが、この平和な田舎町ではその例に漏れるようで、人がいないわけではないが商店街に比べれば閑散としている印象だ。


「相変わらず平和……」


そんな冒険者広場の様子に、トンディは一つ鼻を鳴らす。


「まぁ、魔物も少ないし、魔王達との戦いもこんな内陸じゃ無縁だからね。本気で魔王を倒そうと思ってるような奴らや、稼ぎたいって思ってる奴らにとっちゃ居心地は悪いだろうけど、 冒険者見習いや、私たちみたいな兼業冒険者にはこれぐらい平和な方が助かるだろ?」


「確かにそうだけど……お店、潰れないかな」


「そこは別に大丈夫なんじゃないかな……平和といっても、田舎だからハイイロオオカミとかクマは出るし、作物を荒らす大モグラや鹿狩りの依頼は尽きないだろうからね……あーでも、若干一軒潰れそうな場所はあるか」


「……」


苦笑いを浮かべながら、クレールとトンディはその潰れそうな店を見る。

田舎ながらに凝った装飾の建物が多いエリンディアナの街で、おそらく唯一の掘っ建て小屋のような正方形の木造建築。

屋根すらないボロボロの建物には、継ぎ接ぎだらけの板金で作られた扉があり、その上には大きくお世辞にも綺麗とは言えない文字で【ダイク遺物店】と書かれている。


「品揃えも腕もいいんだけど……店で損してるよなダイクのやつは」


「いつも思う……まるで廃墟」


好き勝手なことを言いながら二人はため息をつき、板金で作られた錆びついた扉を開ける。


こもった鉄の匂いに強いカビの匂い。

誰しも初めて入った時はここは本当に店か? と疑問を持つであろうが、二人はもう慣れたという表情でズカズカとくず鉄を掻き分けるように奥へと向かう。


と。


「かっ、珍しくもねえ客が来やがったな」


悪態を吐くような声が部屋に響き、同時にキセルを叩く、カン、という音が店の中に一つ響く。


音の方に振り返ると、そこには不機嫌そうな仏頂面のドワーフが、煙を吹かしながらカウンターで鉄を磨いていた。


「よー、ダイク。 昨日ぶり……キセル片手に歯車磨きなんて、珍しいことしてるじゃないか」


「あぁ、領主んとこの柱時計のゼンマイが壊れたってんで依頼があってな。 二百年は壊れねえパーツを拵えてやったら、あれもこれもと要求して来やがってよ。 おかげさまで潰れて廃墟になる心配はなさそうだ。 残念だったな」


「聞こえてたのか……」


「けっ。お前のアホみたいなでけえ声は毎日のように聞かされてるからな。 いい加減聞き飽きたぜ」


「常連を捕まえていうセリフかそれ? よくまぁそんな愛想のなさで領主の仕事任されたもんだね」


「それだけまともな技術者がいねえってこったな。 お陰で鉄屑あさりに行く暇さえありゃしねえ」


「忙しいんだ……珍しいこと、ある」


目にも止まらぬ速さで錆が落とされていく歯車を物珍しそうに眺めながらトンディはそう呟くと、ダイクは肩をすくめて「珍しいは余計だ」と呟く。


「なんだよダイク、水臭いな。忙しいなら手伝おうか?」


「結構だ。 二流の仕事をされて評判が落ちたらかなわねえからな」


「失礼だなー……半端な仕事はしないぞー私」


ダイクの言葉にクレールは頬を膨らませて抗議をするが、撤回をするつもりはないと言わんばかりにダイクは大げさにかぶりを振る。


「言ってるだろうクレール。 遺物技師、其は平穏と豊かさのために……。いくら腕が良かろうが、人を傷つける銃なんて道具しか作らねえガンスミスを俺は一流とは認めねえんだよ……」


鋭い眼光に突き放すような冷たい言動を投げかけるダイク。

しかしクレールはその言葉にキョトンとした表情をつくる。


「と、いう割には何だかんだいつも素材とか部品とかの面倒見てくれるよな?」


「別に一流なのを認めねえってだけで、お前の生き方自体を否定するつもりはねえ、それだけだ」


「その言い方だと、本当は一流って事を認めてるみたいに聞こえるけど」


「認めてない、断じて認めてねえからな」


「素直じゃない……」


いつものダイクとクレールのやりとりにトンディは呆れたようにため息が店に響き、ダイクはそれになにか抗議しようと口を一度開くが、らちがあかないと言わんばかりに大きなため息だけを口から漏らし、話題を変える。


「はぁ……まぁいい。それで今日は何の用だクレール。まさか俺をおちょくるためだけに来たわけじゃねえんだろ?」


「おちょくったわけじゃないけど……まぁいいや。 実は修理したいものがあってさ。 ちなみにタングステンなんかこの店に置いてる?」


「わきゃねーだろうが。 鉱物の皇女様だぜ? お前はガラクタ屋でダイヤの指輪を探すのか?」


「だよなぁ」


「だいたいなんだってそんなものが必要なんだよ」


「実はこいつを直すのに必要でさ」


そう言うと、クレールはポケットからレガシーを取り出すとダイクへと手渡す。

見慣れないレガシーにダイクは訝しげな表情を浮かべるが、手渡されたレガシーを見ると嬉しげに「ほぅ」と呟いた。


「……ヘッドライトか。 随分と珍しいもん手に入れたな。 普通はかなりダンジョンの奥深く、埋もれた旧世界まで行かねえと手に入らないもんだぞ?」


「偶然手に入れてね……自力で直せはしそうなんだけど、どうにもフィラメントのパーツが足りなくて」


「なるほどそれでタングステンか。 銅線ならいくらでもあるが、フィラメントの部分は自分で探せ、うちにゃそんな大層なもんは置いてねえよ。取り寄せてやってもいいが時間かかる」


「だよねぇ」


やっぱりな、と肩を落とすクレールに、トンディは首を傾げて問いかける。


「タングステン? とかいうやつじゃないと、絶対ダメなの?」


「ダメってわけじゃないが質が落ちる。 俺の知る限り、鉱物や植物でタングステンよりも熱に強い物を俺は知らねえな」


「熱に強ければ良いの?」


「いや、フィラメントってのは電気抵抗を利用して発光をさせるから……」


「?」


なにいってんだこいつという表情を見せるトンディに、ダイクは一度眉間にしわを寄せて考えるそぶりを見せた後。


「……とりあえずは、熱に強くて電気を通しにくいものじゃねーとダメってことだ」


そうわかりやすく説明をしなおした。


「熱に強くて……電気を通さない……あー」


「なんだ? 思い当たるものでもあったのか」


トンディのつぶやきにダイクは興味深げに問いかける。

しかしトンディは一拍間を開けると。


「いいや、なんにも」


ケロリとした表情で首を左右にふった。


「ダメかぁ……となるとやっぱ、時間がかかるよ、ごめんなトンディ」


「別に、すぐ必要な物でもないし。あったら便利ってだけだから。気にしないでクレール。それよりもダイク……」


落ち込むように項垂れるクレールの頭を、トンディは仕返しとばかりにーーー当人にはご褒美になっているがーーー撫でながら、ダイクへと声をかける。


「あん? なんだトンディ」


「お金できた、頼んでたものよろしく」


「なんだ、金貨5,000枚もう溜まっちまったのか?」


「私、やりくり上手」


驚くダイクにトンディは胸を張って鼻を鳴らす。


むっふー! という鼻息が可愛らしい。


「そうかそうか、偉いなートンディは」


「子供扱いしない! 私、クレールよりお姉さん‼︎」


「がはは……そうだったな、悪い悪い。 お前さんを信じてある程度準備は進めておいたからな。 明日には準備が出来ると思うぜ?」


「本当!? ありがとうダイク」


「いいってことよ、お前にはいくつも借りがある」


「気にしなくていいのに」


律儀な大工に呆れるようにトンディは苦笑を漏らすと、そんな二人の間にクレールが割って入ってくる。


「なぁトンディー、一体何を買ったんだよー? 頑なに教えてくれなかったけど、そろそろ教えてくれてもいいんじゃねーのー?」


「だめ、内緒」


「ぶー。いいじゃんかケチー。 別に教えてくれたって減るもんじゃないだろー」


「やだ、クレールに言うと減りそうな気がする。 というかきっと減る」


「減るの⁉︎ なんだよそれー、余計気になるじゃーん‼︎」


頑として断るトンディと子供のようにごねるクレール。

仲良くじゃれる二人を口元をゆるめながらダイクは仕事を再開する。


静まり返った工房の中、じゃれるように喧嘩をする二人の声に拍子を取るように、キセルを叩く音が響き渡る。


そんな音を聞いて、また工房が歌いだしたと誰かが言った。


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