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31話 襲撃のホムンクルス‼︎

「キシャアァアア‼︎」


ギルドの窓ガラスが割れ、同時に中に侵入する黒い塊は、躊躇なくアイシャめがけて突進をする。

「危ない‼︎」


動きが素早いため、その全容を確認することはできなかったが。

その体に光るものがナイフであることは確かであり、ヤッコは咄嗟に体を投げ出して狂刃からアイシャを守った。


「ぐぅっ……」


ざくり、という鈍い音が室内に響き、同時にその黒い塊の動きが止まり全容を表す。


球体の黒いゴムのようなボディに、とってつけられたように人間の手が伸びた、人のパーツで作られた怪物のような存在。


「ホムンクルス‼︎?」


悲鳴の代わりに絞り出されたヤッコの言葉。

その言葉にホムンクルスは、「正解」とでも言うように胴体につけられた口を歪めると、えぐるようにもう片方の手に握られたナイフをヤッコへと突き立てる。


「きしゃあああ‼︎」


「調子に、乗らないでいただけますか‼︎」


だが、そのナイフをヤッコは手のひらで受け止めると、そのまま腕を掴み地面へと投げ飛ばす。


「ぎしゃ‼︎?」


勢いよく叩きつけられたホムンクルスは、短い悲鳴をあげるとピクピクと痙攣し動かなくなる。


「なんだって、こんなところにホムンクルスが‼︎? というかホムンクルスって作るの違法じゃ……」


「話はあと‼︎ 今はこいつらを……ぶっ壊します‼︎」


状況が飲み込めずに困惑するクレールに、ヤッコは叫ぶとホムンクルスの胴体を踏み潰す。


「えげつねぇ」


クレールはちょっと引いた。


「まだ来ます‼︎ 油断しないで‼︎」


感心したように呟くクレールに対しヤッコはそう叫ぶと。

それを合図にしたかのようにさらに数匹のホムンクルスが窓から飛び込んでくる。



「きゃあああぁ‼︎」


「くっこの‼︎ か弱い女の子に寄ってたかって……恥をお知りなさい‼︎」


悲鳴をあげるアイシャの前でヤッコは盾になるようにメイスを振るいホムンクルスを粉砕。


「なっ‼︎? なんだってんだよこいつら‼︎」


状況が理解できないというように、クレールは【スミス】を引き抜き、自らに飛びかかるホムンクルスのナイフをいなし、もう片方の銃で胴体を撃ち抜いた。


【ガンパレード・クロスバトル】


クレールが操る銃技と柔術を合わせた技であり、この技によりクレールは本来中〜遠距離で戦うことを想定された銃での近接戦闘や室内での戦闘が可能となっており、遠距離からの射撃が苦手なクレールの弱点を補っている。


「ヤッコ‼︎ アイシャの安全優先‼︎ 裏口から表に、私とクレールで囮になる‼︎」


「ですが‼︎ ここでの戦闘じゃお二人は不利では……」


すでにヤッコとクレールで五匹のホムンクルスが迎撃されるも。

虫のように、ホムンクルスは次々に窓よりクレールたちを襲撃する。


その手にはナイフしか持っていないものの、一度まとわりつかれればあっという間に血祭りになってしまうのは確かだろう。


この密室での戦いは自殺行為。


だが。


「問題ない‼︎ クレールがいる‼︎」


その言葉と同時に、クレールは背中に背負ったショットガンを抜くと、窓に群がるホムンクルスに向かい放つ。


「吹っ飛べ‼︎」


放たれたのはスラッグ弾ではなく、拡散するように放たれる正真正銘の散弾であり、

放たれた無数の鉛玉は拡散し、窓に群がる魔物を一度にまとめて吹き飛ばす。


「すごい……あんないっぺんに」


その威力にヤッコは息を飲む。


「よし、ヤッコ、そしたらアイシャを頼む‼︎」


一時的にホムンクルスが消えた窓に足をかけ、トンディとクレールは窓から外へ飛びだしヤッコへとアイシャを託す。


「ええ‼︎ すぐに合流します‼︎」


その言葉にヤッコは強く頷くと、アイシャを連れてギルドの裏口へ飛び出したのであった。



「まったく、なんだってんだこのホムンクルスの大群は‼︎」


ギルドから冒険者通りへと飛び出したクレール達であったが。

白昼だというにもかかわらず、街のいたるところからホムンクルスが現れ、二人を追い立てる。


「くっ‼︎? なんだ、なんだこいつらは‼︎ くるな、くるなあ‼︎」

「きゃああぁ‼︎? た、助け、助けてぇ‼︎」


ここが普通の街であれば、冒険者総出でこのホムンクルスを迎撃するのだろうが。

新米冒険者しか集まらないこのエリンディアナでは、突然の襲撃に冒険者達はなすすべもなく追い立てられるのみであり、一部の冒険者が奮戦を見せるものの、ホムンクルスなどという見たこともない敵に殆どが翻弄されている。


「ちっ‼︎? なんだってんだよ本当に」


片手にショットガン、片手にスミスを交互に連写しながらクレールは悪態を吐く。


ショットガンにより次々に吹き飛ばされていくホムンクルスではあるが、それでもぞろぞろとアリの大群のように湧いてくるホムンクルス全てを撃ち落とすにはどう考えても銃弾が足りない。


「ホムンクルスは錬金術師の使い魔……だけどこれだけの数を潜伏させてあやつるなんて、相当な手練れ」


「感心してる場合かよトンディ……このままじゃ‼︎?」


「落ち着いて、ホムンクルスは使い魔と違って自立して行動をするものじゃない。必ず術者が糸を引いている。数が多ければ多いほど、術者はそう遠くにはいられない」


「となると? この近くにこのホムンクルスを操ってる奴がいるってことか?」


「そういうこと……クレール、探すの手伝って」


背中合わせの状態でトンディはそういうと、ブーツナイフで飛びかかるホムンクルスを両断しクレールにそういう。


「……手伝うのはもちろんだけど、一体どうやって?」


「難しいことしなくていい……クレールはとりあえず、出来るだけ大きな音を出してくれればいい」


「大きな音?」


「なんでもいい、とにかく大きな音だして。できればこの前の【ダネル】ぐらい大きな音」


「大きな音って言われても……爆発ぐらいしか起こせないぞ?」


トンディの言葉に、クレールはそう呟くと。 腰からパイナップルのような形をした球状のものを取り出す。


「それは?」


初めて見る物珍しい形のものにトンディは思わず問うと。


「……テルミット爆弾」


クレールはなんでもないと言ったようにそう呟いた。


「テルミット?」


「えーと、まあこれも化学反応なんだけど、アルミの粉末と酸化させた銅の粉末を混ぜ合わせて火をつけると爆発するんだ。 で、それを爆弾の形に加工したのがこれなんだけど」


「よくわからないけどそれでいい……タイミングで爆発させて、しばらく無防備になるから私を守って」


「いいんだな? すごい音出るぞ‼︎」


「構わない‼︎ やっちゃえクレール‼︎」


トンディの言葉を合図に、クレールは導火線に火をつけてホムンクルスの群れに投げつける。


「やったぞトンディ‼︎」

その言葉にトンディは弓を杖のように地面に立てて自らの耳を弓の先にくっつける。


そして。


【ドゴオオオオォン‼︎】


強い光を放ちホムンクルスを吹き飛ばしながら、クレールの放った爆弾は爆発し、あたりが振動する。


空気が震え、建物が震え……トンディは大地から弓を伝って聞こえてくる音を視る。


音の反射で宝箱の罠の構造を知ることができるトンディは、耳の良いラヴィーナ族でも珍しい【音を視覚で捉えることができる能力】を持つ。


コウモリと同じように、音の反射やわずかな振動により視界を確保できる。


問題があるとすれば、トンディの耳が良すぎるという点。


「広場、ちがう……路地裏、ちがう……屋根の上……見つけたけど……うっ」


目で見えている情報に加え、聴覚から映像として流れ込む情報は、容易にトンディの頭を麻痺させる。

主観映像と俯瞰映像の双方がいっぺんに目の前に流れる光景は脳への【負荷】以外のなにものでもなく、この広場全体という広範囲の情報量に、トンディは一瞬意識を失いそうになる。


だが。


「トンディ‼︎? 大丈夫か‼︎」


頭を埋め尽くす映像は、その言葉でたった一つに絞られ、トンディは崩れそうになった体を踏みとどまらせる。


「ナイスタイミング……クレール」


口元を緩め、トンディは術者に向かい跳躍をし、ギルドの屋根の上へと一足で到達する。


「なっ‼︎? ばかな、なぜここが‼︎」


地上からの死角になっている場所で潜伏していた術者は、突然自らの眼前に現れたトンディに驚くように慌てて迎撃呪文を唱えようとするが。


「遅い」


「いぎいいぃ‼︎?」


それよりも早く両足を弓で射抜かれ、屋根の上に転がる。


「……術者としては手練れでも、狩人としては三流。 獣に見つかったら、まず逃げないと」


冷ややかな視線を送りながらゆっくりと近くトンディ。


「なっ……なっ……なにもんだてめぇ‼︎?」


足を射抜かれ動けなくなりながらも凄む、錬金術師の男。

ギロリと睨む瞳からは未だ殺気は衰えていない。


だが。


「……それを聞くのは私の方。後でゆっくり喋ってもらう」


そんなこと御構い無し、というようにトンディは弓を振り下ろし、男の意識を刈り取った。



「……ふぅ。一見落着」


男を気絶させ、アラクネの糸で縛り上げたのち、トンディは一人広場に着地をする。


見ればそこには術者を失い動かなくなったホムンクルスの大群があり、襲われていた冒険者たちが協力しあって片付けを行なっている最中であった。


「術者は?」


「屋根の上で熟睡中。 起きたら尋問」

口元を緩め、楽しげに語るトンディにクレールは背筋に悪寒が走るのを感じた。


「な、なるほどね……そしたら捕まえたそいつが目を覚ましたら。 アイシャのお父さんがどこにいるのかを吐かせればいいだけだな。 案外簡単に終わりそうだ」


「だといいけど」


楽観的に語るクレールに対し、トンディはどこか不安げにそう呟くと。


【ドッゴオオオオオン‼︎‼︎】


なにかが破裂するような音とともに、ギルドの正門が破壊され、地面に血を付着させながらゴロゴロと人間が転がってくる。


「なななっ‼︎? 今度はなんだぁ‼︎?」


突然の出来事に、クレールは声を上げ転がってきた人間に視線を向ける。


「……ヤッコ‼︎?――――――」


悲鳴に近いクレールの声。

しかしそれは、アリアン教会の宣誓文が落ちる音にかき消された。




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