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第3話 宝箱を開けよう

――― 1年後


「なぁー……まだおわんないのかよートンディー」


赤土色のレンガに覆われた人工の洞窟の中に、退屈そうな声が反響する。

声の主はさして大きな声を出したつもりはなかったのだろうが、壁にかけられた燭台の明かりが揺れ、洞窟全体がゆらりと揺れたように見える。

まるで洞窟に抗議をされているようだとクロノア・トンディ・ハネールは思いながらも、目の前で暇そうに口を尖らせる少女に返事を返した。


「もう少しで終わる。 大人しくしててクレール」


「さっきからもうちょっともうちょっとって言ってるけどさー。 ずーっと宝箱とにらめっこしたまんまでもう30分以上たってるよー? お腹減ったよー」


「罠の解除は複雑で時間がかかる。 おまけにランタンの明かりじゃ、ほとんど手探り状態。せめてもっと光源があれば……。 というかお腹減ったの?」


「すっごく」


「じゃあ、私のジャムサンド食べ……」


「やったー、いっただっきまーす」


「早いな……まぁいいんだけど」


トンディはやれやれとため息を漏らしたのち、ハットから飛び出た白いウサギ耳を近づけて宝箱を手に持ったトンカチで軽く二、三度叩く。


「何してるんだ?」


「振動で反応するような罠がないことは確かめたから、今度は反響音で罠の確認中。 音の具合でだいたい中の構造が理解できる」


「すっごいなーラヴィーナ族。 そのウサギ耳は伊達じゃないってわけだ」


「ラヴィーナ族がすごいわけじゃない。 すごいのは私」


「そっか、さすがトンディ!!」


「それほどでもある」


まんざらでもない様子でトンディは自慢げに胸を張り、再びトンカチで宝箱を叩く。


「ふむふむ。 筒状の何かに、かすかに弦を弾くような音。 よくある蓋に紐を引っ掛けて開けたらズドンのやつ……そしたら弦を切っちゃえばいいから」


独り言で情報を整理。


次に一つ深呼吸をして、宝箱の蓋に手をかける。


罠の鑑定を間違えていたら……そんな不安が汗となって額を伝うが。

己の経験と自信でその不安を上塗りしてわずかに宝箱を開ける。


――――――ぎぃ。


かすかに宝箱の軋む音が響き、同時にまた静寂が訪れる。


「鑑定成功……」


ホッと一息を着き、隙間からブーツに仕込んだナイフを差し込む。

何度か空洞の中でナイフを動かすと、糸に触れるような感触がナイフから伝わり、同時に今度ははっきりとしたプツンという音が洞窟内に響く。


「お、行けたみたいだね。 お疲れ様」


その音に、罠の解除の終了を察したのか、クレールは立ち上がりひょこひょこと宝箱の元へとやってきて、トンディに水筒を渡す。


「ありがとう……とりあえず誤作動をしない限りはこれで安心なはず……疲れた」


「やっぱり持つべきものはシーフの友ってやつだねぇ」


「クレールも手先は器用なんだから、やろうと思えばできるはず。興味があるなら教える」


「そうかな………あ、いや、やっぱり無理だよ。私その……短気でガサツだし……迷惑かけちゃうから」


「短気なのはそうだけど……まぁいいや。 仕事もこれで終わりだし、帰る準備する」


無理に明るく笑うクレール。

その様子にトンディは気づきはするものの、一つ首をかしげるのみでそれ以上は追求をしないことにする。

言いたくないことを無理に聞き出さない。

それが彼女なりのクレールへの心遣いであった。


宝箱の中身に目もくれず、水筒に入った水を口に含みながら道具の片付けをトンディは開始する。


「あれ? せっかく罠解除したのに、開けないのトンディ」


「後でいい。 別に宝箱の中身は逃げない」


「そう言う問題じゃなくて。宝箱だよ? 中身を確認したいーとか、なにが入ってるんだろう? とかいうワクワクはないの?」


「それはクレールの方でしょ。 いいよ、開けたいなら開けて」


「え、本当に? いいのか?」


「誰が開けても中身は変わらない」


正気か? というような表情をするクレールに対し、眉ひとつ動かさずに道具を片付けるトンディ。


冒険者、しかもシーフである彼女が宝箱に興味がないという発言はにわかには信じがたい話であるが、宝箱に見向きもせずにあくびすら漏らしている姿から、本当に彼女が宝箱に興味がないことはうかがい知れた。


「いいんだなー? 本当に開けちゃうからなー」


とうとうしつこいとばかりにトンディは返事すら返さず、代わりに片手をひらひらと降って返事をする。


その様子に変わってるなぁとクレールは思案しながら、宝箱を開いた。


―――ギィ。


宝箱にとっては数百年ぶりの呼吸。


箱の中に閉じ込められた空気は洞窟内に吐き出され、錆の匂いがしみこんだ空気に一瞬クレールは目を細め。


同時に眼科に広がる財宝に目を輝かせる。


「うっわ! す、すごいよトンディ! やった、やった! 大当たりだ!」


酒樽ほどの宝箱の中に入っていたのは、箱の半分くらいまで敷き詰められた金の延べ棒やや銀器、それにネックレスなどの装飾品。

それは冒険の報酬としては十分すぎるものであり、クレールはその場で声を上げてぴょんぴょんと飛び跳ねる。

そのはしゃぎように、片付けを終えたトンディはひょっこり宝箱の中を覗き込み、感心したように声を漏らした。


「おぉ、本当だ。 ざっと金貨500枚くらい?」


「もっとあるかも……袋の大きさ足りるかな」


「問題ない、麻袋三つは必ず常備してる」


「相変わらず用意がいいね」


「戦いは、準備の時点で決まっているもの。Byトンディ」


「あんたじゃん」


「私だー」



自慢げに胸を張り鼻を鳴らすトンディに。 クレールは可愛いなぁと口元をゆるめながら、2人で麻袋にお宝を入れ始める。


「だけど、今回もトンディのお父さんの手がかりになりそうなものはなかったね」


「そう簡単に見つかるとは思ってなかったけど、探し始めてはや三年……流石にヒントが少なすぎる」


そう言うと、トンディは一つため息を漏らして寂しそうな表情で胸元のペンダントを手に取る。

父親と並び立つ幼き日のトンディが描かれたそのペンダントの蓋の裏側には、彫り込まれたかのように。


【アリアンロッドを探せ、俺はそこに居る】と書かれている。


「アリアンロッド……この世全ての歴史と、これから起こる全ての未来が記された女神と同じ名を持つ伝説の予言書……トンディのお父さんがずっと探してたっていうおとぎ話に出てくるようなそんな本を一体全体どうやって探せって言うのかねぇ」


「それがわからないからこうやってお父さんの足取りを追ってる。ギルドの記録から、この地域にあるどこかのダンジョンを探索したのは確か……アリアンロッドがダンジョンにあるのか、それともただダンジョンでのたれ死んでるかは分からないけど、何か手がかりは残ってるはず」


「まぁ、それがどこか分からないからしらみつぶしに探すしかないんだけれどねぇ」


「本当……いなくなるならせめてもっと情報残して欲しかった……お父さんのバカ」


「まぁまぁ」


ボソリと怒りを込めて呟くトンディ。

それをクレールは苦笑しながらなだめ、作業を再開する。


ダンジョンに響く金と銀の奏でる調べ。

ただ身をこすり合わせ、触れ合わせているだけだというのに、その音色はどこか上品に響く。


「んっ……金も銀も、結構重いものが多い」


「いいことじゃないか、それだけ純度の高い物を使ってるってことだから、換金所も割り増しで買い取ってくれるんじゃないか?」


「うん、でも重くなる……クレール大丈夫? 1人で持てる?」


トンディは申し訳なさそうに背中に背負ったリュックを見やる。

洞窟のマッピング用の測量器具や、罠解除用の道具のせいでパンパンになったリュックサックは誰がどう見ても財宝を入れるスペースは存在していない。


しかしクレールは口角を、く、とあげると。

力こぶを作る動作を見せた。



「職人の腕力なめるなよトンディ。 この三倍までは全然余裕さ。罠解除やマッピングを全部任せちゃってるんだ。荷物運びぐらいは役に立たせてよ」


ニコニコと笑うクレールに、トンディはしばらくほうっとクレールの顔を眺めると。


「クレール、頼りになる。 いつもありがとう」


はにかみながら感謝の言葉を伝える。


「そ、そんな荷物運びなんて大したことじゃないって! あはは、大げさだなートンディー」


そう言いながらも、お宝を袋につめる動作が早まるクレール。

表情はニヤつくのを必死に抑えているようで、ランプの灯と言い訳できないほどに頬は赤く染まり始めている。


「大袈裟じゃない。 魔物から守ってくれるし、いろんな道具作ってくれる。 好き」


「好きって……ほ、褒めすぎだって! それにそんなこと言ったらトンディこそ……ん?」


頭から煙が出そうなほど赤面するクレール。

しかしそんなクレールの手にコツンと何かが当たり、会話が一度途切れる。


「どしたの? もしかして罠?」


「いや、罠じゃないんだけど……なんだこれ?」


不安げな問いに、クレールはううんと首を左右に振り宝箱からその気になるものを引っこ抜く。


砂のように溢れていく財宝。

その中から姿を現したのは、おおよそ金財宝と同じ場所に入れておく必要のあるものには見えないボロボロに錆びたお椀型の、しかしお椀よりもふた周りほど小さななにか。


時に忘れ去られたようなその残骸に、血管のようにだらんと伸びる錆びついた銅線。


それは過去に栄えた失われた世界。


人々が鉄の時代と呼ぶ神話の時代の遺物、レガシーと呼ばれるものであった。



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