24話 ヤッコが 仲間になった‼︎
「というか。なんで私たちがやる流れになってるの?」
「いやーそれは彼女が聖女様だからさ。 護衛はマスターが選んだ最高の人材をっていうのが条件でさー。 わたしここの街で知ってる冒険者クーちゃんとトンディちゃんだけだし? まぁ、君たちのところにいるのは偶然だけど、拾ってくれたのが君たちでラッキーだったよ」
「なんかさもう私たちが受けるみたいな口ぶりだけど」
「わたし達、うけるとはいってない」
「まぁ特に危険な依頼でもないしいいじゃんいいじゃーん‼︎ うちもスポンサーには逆らえないし? 断ろうものなら冒険者ライセンス剥奪しちゃうよ? 主に私の権限で」
ぺろりと舌を出して可愛らしくアキはそういうが。
その行動とは裏腹に発言は横暴そのものであり、トンディは顔をしかめた。
「なんという横暴」
「あの……わたし聖女として恩人であるお二人にそこまで迷惑をおかけするわけには……」
「そうなの? もう教会の監視の目もないし、何より聖女としての身の上を隠してもらうことになるから人の目気にしないでお酒がのめるよ?」
「お世話になります‼︎ トンちゃん‼︎ クーちゃん‼︎」
「おい聖女」
瞳を輝かせながら勢いよく頭を下げるヤッコにクレールはツッコミを入れる。
「むぅ……護衛と保護って、冒険者は依頼を二つ掛け持ちはできない。 お父さんの手がかり、探せなくなる」
真剣な面持ちでそうトンディは呟くが、それにたいしてアキは「大丈夫大丈夫―」と気軽に笑う。
「そこは流石に特例にするよー。 こっちも人手は足りないし、あっちもいきなりの依頼なんだ。 それぐらいの条件は飲んでもらうから安心してー。まぁ、聖女様とは常に動向をしてもらうことになると思うけど、聖女っていうのは教会随一の加護と戦闘力を持つ者のみに与えられる称号だし? 戦力に関しては問題はないとおもうよ?」
アキの紹介に、ヤッコは力こぶを作りながら鼻を鳴らす。
「わたし、腕には覚えがありますのでご安心ください‼︎」
「そこはまぁ……心配はしてないけれど」
顔を見合わせるクレールとトンディであったが、冒険者ライセンスを人質に取られてはなすすべもなく。
「はぁ、しかたない。 自分の酒代は自分で稼いでね。 ヤッコ」
ため息を一つもらして、トンディは家の鍵のスペアをポケットから取り出して投げ渡す。
「いいのか?」
「選択肢ない。部屋も余ってるし」
「酔って襲ってきたら?」
「射殺」
「ひえっ……」
トンディの目は笑っていない。
その瞳はその状況になったら必ずヤル。という冷徹さを秘めていた。
「まぁいいんじゃない〜? ねえ聖女様?」
「ええ、構いませんよ」
しかしその条件に対し、ギルドマスターも聖女自身も笑って認める。
「いいのかよ」
「ええ、酔って恩人に斬りかかるようならば聖女として生きていく価値はありません。 容赦なくズドンしてくださいませ」
「ストイックに生きてるなぁ」
「でも、そこまで言うなら大丈夫でしょ。 いざとなればクレールがいるし」
「まぁ……トンディがそういうなら構わないけど」
「トンちゃん‼︎ クーちゃん‼︎ ありがとうございま、ひっく‼︎」
「……やっぱ心配だなぁ」
しゃっくりをしながら感謝の言葉を述べる酔っ払い聖女。
それに一抹の不安を覚えながらクレールはやれやれと頭を抱える。
「うんうん、それじゃあ頑張ってくれたまえー」
「そっちは気楽でいいよなー」
「まぁまぁ、こっちでも出来るだけサポートはするからさぁ……あ、食べる?」
カラカラと笑いながらワッフルを差し出してくるギルドマスター。
その様子に「ほんとかぁ?」と呟きながらクレールはワッフルを受け取る。
「はむ……一緒に行動するなら、ヤッコのギルドカード発行しないとな……あれ時間かかるんだよなぁ」
「マゾ子がやるから尚更」
「いやいや、そこはちゃんとキリサメから預かっていますってお二人さん‼︎ 聖女ちゃんはいこれ、ギルドカードねー。 大事だから無くさないように」
そういうとギルドマスターは胸元からカードを取り出すとヤッコへと渡す。
「あらあら、ギルドカードというのは初めて拝見しますが。 金色で随分と派手ですねぇ」
「ちょっ‼︎? あんたそれ、Sランクギルドカードだぞ‼︎? 普通初心者は銅色のDランクからスタートするもんだろ‼︎」
「固いこと気にしない気にしないー。聖女ちゃんの実力もちゃーんと考えた上でわたしてるから安心してって。 いや本当に。 ちみたちもDランククエストしか受けられなくなったら困るだろう? 私なりの気遣いだよ気遣い……わからないかなぁー?」
偉そうにため息を漏らしながら語るアキ。
しかしトンディは鼻をふんと鳴らすと。
「別に困らない。 困るのはそっちの方なんじゃないの? Sランククエスト押し付けられなくなるからね」
そう鋭い言葉を投げつけると、一瞬アキは硬直をし。
「さーて、わたしはそろそろ帰らないと。 それじゃ、あとはよろしくねー」
そそくさとワッフルを机の上に置いた後、回れ右をしてトンディの家をギルドマスターは後にした。
「……逃げた」
「都合が悪くなると逃げんだな」
「随分と、独特なお方でしたね」
「私たちもつい最近知り合ったんだけどね」
「しかし、あの場ではついお酒に流されちゃいましたが、本当にいいのですか? ギルドマスターさんはああ言って脅してきましたが、私からの申し出であればあなた方を咎めることはできませんし、やはりお断りした方が」
「もう別にいい。 一回ひろったら最後まで面倒を見る。一人も二人も似たようなもん」
「ふふっ。そうですか。 そんなに小さな体で、とても心が広いのですねトンちゃんは」
嬉しそうに笑うと、ヤッコは優しくトンディの頭を撫でる。
「んむーーー‼︎ 頭、撫でない‼︎」
それに対し怒るように地団駄を踏んで抗議をするトンディだが、いつものようにその表情は嬉しそうに緩んでいる。
「あらあら可愛らしい。 お顔がほころんでますよ?」
「子供扱いしない‼︎ 私、これでも18歳‼︎」
「え、うそ……私よりも年上‼︎?」
「ふふんっ‼︎ 私、一番お姉さん‼︎」
ドヤッという音が背後で響きそうなほど自慢げに胸を張るトンディ。
「なんで、嬉しそうなんですか?」
「察してやってくれ」
そんなトンディの様子に疑問符を浮かべるヤッコに、クレールはそう耳打ちをする。
と。
ゴーン……ゴーン。
いつのまにか時間が経っていたのか、街に昼を告げる鐘の音が響き渡る。
「あ、もうこんな時間」
「どうする? 昨日のうちに準備は済ませてあるけど、今日はやめとくか?」
「ううん、ヤッコの力も見ておきたいし、行くつもり」
クレールとトンディはそういうと、冒険用のバックパックを背負い準備を始める。
その様子に一人ヤッコは首をかしげる。
「えと、あの。 行くとはどちらに? それにその大きなバックは一体何に?」
大きな荷物を持つトンディに対する素朴な疑問。
その質問に対しトンディはキョトンとした表情を向け。
「もちろん、冒険」
そう当たり前のように呟いたのだった。