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21話 聖女の護衛

「これまた随分と面白い物拾ってきたねー……二人とも」


酒瓶を片手に干物をかじりながらギルドマスターアキハバラ・カリンは人の家だというのに我が物顔でソファを陣取り、赤ら顔でそんなことをつぶやいた。


「好きで拾ったわけじゃないっての、というかなんでお前らまで来るんだよ。わたしが呼んだのは医療術の魔法が使えるマゾ子だけなはずだけど?」


「そう硬いこと言いなさんなって、私だって一応アリアン教会にお世話になってる身だし、聖女さまがエリンディアナの街で倒れてたとあっちゃ、馳せ参じないわけにはいかないんだって」


「少なくとも、酒瓶持ちながらいうセリフではないと思いますよ、マスター」


ニコニコと笑いながら我が物顔で酒をラッパ飲みするアキに対し、側近であるキリサメは呆れたように息をついて苦言を呈す。


「あんだよキリサメー‼︎ お前どっちの味方だよー‼︎」


酒が回っているのか、アキは反省するどころか頬を膨らませて猛抗議を開始し、その様子にキリサメの眉間のシワがより一層深くなる。


「まったく……すまんな、うちのギルドマスターが……アリアン教会に身を置くものとして、聖女の保護にこの酔っ払いに変わって深く感謝する」


「いや、感謝するのはこっち。 医術の心得をもっていないから、医療術が使えるマゾ子を頼るしかなかっただけ……手遅れになってないといいけど」


そう不安げにトンディは呟くと。

その嘆きを聞いていたかのようにクレールとトンディの寝室が開かれ。


「おわりましたー」


中から白衣を身にまとった姿のマゾ子が現れる。

その目の下には、深夜に叩き起こされたということもあって大きなクマが浮かんでおり、足取りもどこかふらついている。


「マゾ子、調子はどうだった?」


「マゾ子って呼ばないでください〜‼︎ 深夜に叩き起こしておいて酷くないですかクーちゃん‼︎」

「あっはは、悪い悪い。 で、どうだった?」


「まったくもぅ……特に命に別状はありません。 どうしてこの街にいるのかは不明ですけれども、状況から察するにバルチカンの町から逃げてきたのだと思います」



「逃げてきた? どうしてそうわかるマゾ子……あっ」


ハッとした様子で口を抑えるキリサメ。

その言葉にマゾ子はショックを受けたように目に涙を浮かべて口を膨らませる。


「き、キリサメさんまで〜‼︎?」


「すまん、つい……」


「もーマゾ子でいいんじゃないー? ミドリコって発音難しいんだよねぇ〜」


「よくないですよー‼︎」


怒りながら手を振り上げるマゾ子。

それと同時に怒りを表すように豊満な胸が激しくたゆんと揺れ、トンディの表情に黒い影のようなものが差し込み口を尖らせる。


「……話が前に進まない、なんで逃げてきたってわかるの?」


「な、なんかトンちゃんの顔が怖い……。 え、えっと、外傷はないんだけど、もっていたメイスに血が付いていました。 乾き具合と変色具合から、だいたい行方不明の日にと重なります」


「なるほどね……つまりは刺客に襲われて戦闘になって、ここまで逃げてきたって推測が経つ……となるとこの街に聖女を狙った刺客が侵入してくる可能性があるということか?」


「そういうことになりますねぇ。もう入り込まれてるかも」


クレールの推測に、マゾ子は顔を青くしながら肯定をする。


「それは困りましたね、マスター……バルチカンの司祭といえば、音に聞こえた戦闘集団です。その司祭が6人倒されたということは、刺客は相当な手練れのはず」


「あらら〜、困ったなー、平和ボケボケーなこの街じゃ、侵入潜伏はきっとたやすいだろうねぇ〜」


深刻そうなキリサメの言葉とは反対に、どこかわざとらしい語感で語るアキはちらりと目線だけでクレールとトンディを見るが。


二人は気づかないフリをしてそっぽをむいた。


「領主様の私兵を、たのんで動かしてもらいましょうか?」


「いやいやー、こんな田舎町でいきなり領主様の私兵が動こうものなら、それこそ刺客にエリンディアナで聖女を匿っているって言っているようなものだろ〜? 私兵を動かすのだって、秘密裏にってわけにはいかないんだ。 バルチカンからこの街まで馬で二日。 その間に無傷でここまでたどり着いたっていうなら、聖女様が追っ手を振り切ったって可能性も高いし。 そうしたら下手に動かさないで、街で一番実力のある人間に身柄を一旦預けるというのが正しい選択だと思うんだよねぇ〜」


ちらりと、キリサメとアキの視線がトンディとクレールへと刺さるが、二人は空を覆い尽くす満点の星空を眺めていたせいで気がつかなかった。


「えー‼︎ でも、そんな実力のある人間が簡単に見つかる訳……あ痛っ‼︎? トンちゃんツボ‼︎? ツボグリグリしないで‼︎ 痛いから‼︎? すごい痛いからぁ‼︎ というかなんで私だけ‼︎? 私以外もやったじゃん‼︎」


「マゾ子だけムカついた」


「絶対おっぱいでしょ‼︎ 貧乳なの僻んでるんでしょ‼︎」


「ソンナコトナイヨ」


ごりっという音がし、マゾ子の体にトンディの鋭い指が突き刺さる。


「痛ああああああああ‼︎?」


「まぁまぁトンディちゃん。 悪ノリが過ぎたことは謝るよ……だけどこれは国際問題にも発展しかねない重大な案件なんだ」


殺意を向けてマゾ子のツボを押すトンディに、アキはニヤリと悪辣な笑みを浮かべる。


「それならなおさら、私たち受けたくない」


「頼むよぉ〜二人とも、ほかに頼める人なんていないし、差別をするわけじゃないが、男性比率が多い冒険者のなかで、女性だけのパーティーなんてそうそういないんだ。 聖女様に万が一のことがあっても困るし何より……困ってる人を助けるのは冒険者なら当たり前……だろう?」


「うぐっ……」


「違う?」


まるであらかじめ用意していたかのようにクルクルと回る舌に、トンディは何か反論を考えようと思案するが、月光を背に微笑むその表情は、舌戦を制する準備は十分ということを示しており。


「……この悪魔」


トンディはそんな諦めの言葉とともに、聖女の護衛を引き受けることになるのであった。



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