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第2話 少女は勇者パーティーを追放される

――――クレールのお話――――


「……単刀直入に言おう。クレール、君にはギルドをやめてもらう」


勇者率いるギルド【クロノス】をクレーヌが追放されたのは。 冷たい雪の降る永久凍土の街ルシアーナ領主の館。

復活した怠惰の魔王・コキュートスを打ち倒した祝賀会の最中であった。


「ギルドをやめる? 私が? ちょ、ちょっとグレイグ何言ってるのよ」


「君とは長い付き合いだ。俺だって悩んださ……だけどもう、仲間の不満を抑えられない」


「不満? なんの冗談よ。私の何が不満だっていうの?」


「残酷かもしれないが君は実力不足だ。 今日だってコキュートスに一度もダメージを与えられていなかったじゃないか。 その上シーフみたいに宝箱を開けられるスキルもない、罠の発見もできない……今までは俺がカバーできていたけれど。これから俺たちはコキュートスと同じかそれ以上の魔物と戦わなきゃいけなくなる」


「それはわかるけど、そんなの当たり前だろ? 私は【遺物技師レガシーマスター】だ、直接戦闘じゃなくて武器の整備やダンジョン攻略のためのアイテムを作るのが……」


「マジックアイテムなら錬金術師がいる。魔法の力もない滅んだ時代の鉄屑なんて今はもう必要ないんだよ‼︎ そんなもの全部魔法でなんとかなる。君はただ俺たちの名前を借りて鉄屑をいじってるだけ……みんなはそう思ってる」


「みんなって……アリサもそう言ったのか?」


「君をやめさせるのはアリサの提案だ」


「そんな……」


その言葉に、クレールの瞳から表情が消える。


遺物技師レガシーマスターのクレール、魔術師ウイザードのアリサ、そして剣士ウオーリアーのグレイグ。

同じ村の幼馴染三人で作り上げた彼らにとって最初のギルド、それが【クロノス】。

だからこそ、ギルドをやめろと言われたことよりも、ずっと一緒にいた2人に足手まといだと思われていたという事実に、クレールは目眩に似た何かを覚える。


遺物技師レガシーマスターは滅んでしまった過去の時代……鉄の時代に存在した様々なアイテムや武器を修理・創作することができる職業である。


魔力を使用しないため創作されるアイテムは当然マジックアイテムよりかは見劣りするものの、魔王と人間との戦いが激化し、魔法のアイテムが高騰する現在……駆け出しの剣士ウオーリアーや使える魔法の少ない魔術師ウイザードいにとって機工術師の存在はとても重宝される。


例えば機工術師の作る【望遠鏡】は、冒険を安全にするために重宝し。


【抗生物質】は習得の難しい治癒魔法を覚えるまでの間、襲いかかる病魔のことごとくを退ける。


戦闘面においても、古代の遺失物【古代銃】は携帯に便利な中遠距離武器であり、弱い魔物相手ならば無類の強さを発揮し、機工術師が作る【火炎瓶】や【パイプボム】は魔法使いが範囲魔法攻撃を覚えるまでの間魔物の集団を相手するのに大いに役に立つ。


冒険者の命を落としやすいと言われている初級冒険者までの間。

短いようで、一握りの人間しか突破することができない道のりを、遺物術師レガシーマスターは比較的平坦にしてくれる。


しかし、それはすべて駆け出し冒険者、少なくとも中級冒険者までの話である。


上級冒険者となれば、その全てが魔法で代用可能になる。


ただの剣士だったグレイグは今や聖騎士パラディン。 アリサは上級魔術師ハイウイザードの職につき……ギルド【クロノス】は王国一のギルドとして国をあげての資金援助が行われている。


潤沢に資金を得た上に強力な魔法を操ることができるようになったグレイグたちにはもはや、機工術師は不要と言われても仕方のないことであり、クレールも薄々とギルド内に自分の居場所がなくなっていることに気づき始めてはいた。


錬金術師でも、シーフでも、魔法騎士でも竜騎士でも誰でも良かった。

誰かに「足手まといだ」と言われれば、クレールは素直に身を引こうと考えていた。


だが最後までクレールはその言葉を親友である2人から投げかけられるとは思ってはいなかった。


だからこそ、クレールは自分でもみっともないと思うほどの悪あがきをしてしまったのだ。


「グレイグ、考え直してよ……ずっと、ずっと一緒にやってきたじゃないか。 誰が敗血症になったあんたの命を救ったのさ。ゴブリンの群れやギガントゴーレムだって私が倒したし、これからだって……」


「いつの話をしてるんだよクレール。 たしかにあの時のことは感謝している。だけど、それとこれとは別の問題だ。君がこれ以上僕たちと一緒に戦うのは不可能だって言ってるんだ」


クレールの視界の端に……ギルドの仲間たちが映る。

その表情は誰もがすがりつくようなクレールを嘲笑するような笑みを浮かべている。

もう居場所はない。そのゆるぎようのない事実の中……それでもクレールは懇願した。


「待ってくれグレイグ‼︎ あと少しなんだ‼︎ 最後、あれが手に入れば私だって……私だってみんな以上に……」


戦えるはず……。

その言葉を聞くより早く、グレイグはクレールの腕を振り払う。


「もう決まったことなんだクレール‼︎ 分かれよ……君がいると、迷惑なんだ」


「……」


なにかが割れるような音がクレールの心の中で響き渡る。

砕けたのは自信か、あるいは彼女が親友達と過ごしてきた思い出か。

それはクレールすらわからない。

だが確実にわかることがあるとすれば、その言葉にクレールは諦めてしまった。


ただ、雪よりも視界は白く染まり。

心は灰のようにボロボロと崩れ落ちる。


「そう……わかった。抜けるよギルド」


その言葉を最後にクレールは祝勝会の会場を後にした。

グレイグもアリサも誰一人彼女を追ってくるものはない。


冷たいルシアーナ地方の雪が彼女をあざ笑うかのように頬を叩き。

クレールは逃げるように荷物をまとめて領地を後にした。



それからどれだけの時間をクレールは彷徨ったのだろう。

いくあてもなく、どこをどう歩いてきたかは記憶もない。


気がつけばクレールは小さな家の軒下で膝を抱えてうずくまっていた。


カチカチと震え、動かなくなった体。

何もする気はおきず……道行く人々から目をそらすように瞳を閉じる。


目を閉じればまだそこには、楽しかった頃の親友の姿があり。

頬を冷たい雨が叩くたびに、「迷惑なんだ」という言葉が思い出をひび割れさせる。


頬を伝う雫は止まることはない。

きっと声を上げて泣いてしまえれば楽だったのに。

そうすると楽しかった思い出すらも消えてしまいそうで。

何もできず、前にも進めず……クレールは一人雨に打たれていた。


そんな中。


「子犬を捨てないでとは張り紙したけど、まさか人を捨てていくとは……トンチか」


鈴を転がすような声が響き、クレールを叩く雨がやむ。


顔を上げると、白銀の髪にウサギ耳の少女がなんとも言えない表情をしながら傘をさしてくれている。


「張り紙?」


「うん、張り紙」


ほら、と指を指す少女にクレールは家の壁を見上げると、たしかに【子犬をここに捨てないで】という張り紙が貼ってあった。


「あ、ご、ごめんなさ……」


慌てて謝罪を仕掛けるクレールだったが、その言葉は差し伸べられた小さな手によってかき消される。


「まぁ、捨てられたのはしょうがない。 甘いもの、好き?」


「え? す、好きだけど」


「じゃあパンケーキ食べよう。 ここ、私の家だから……ほら立って」


「え、あの、えっと……」


脈絡のない唐突な質問にしどろもどろになるクレール。

しかし少女はそんなこと御構い無しに冷たくなったクレールの手を取り立ち上がらせる。


普通の人よりも少し高い体温に、クレールの半分ほどしかない小さな体

そして、ほのかな百合の香り。


「あぁ、そういえば自己紹介がまだだった……私トンディ、あなたは?」


「え、あ……く、クレール……です」


「いい名前……よろしくね、クレール」





それがクロノア・トンディ・ハネールとクレール・アルバス・クラリオーネの最初の出会い。

この出会いが文字通り、世界の運命を変えてしまったことを……二人はまだ知らない。


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