17話 ヘッドライトとショットガン
「明るい♪」
灯りひとつない闇に覆われたダンジョン。
その闇を照らすヘッドライトの白い光に、感動をするようにトンディはこぼす。
「トンディの言う通り魔物がいる気配はないね。使われてるのもレンガじゃなくてコンクリートがほとんど……鉄の時代後期のダンジョンってところかな、トンディ?」
「明るい♪」
「って、聞いてないか」
瞳を輝かせながらキョロキョロと視線を動かすトンディ。
その首の動きに合わせて頭に着いたヘッドライトは持ち主の見たい場所を明るく照らし、トンディは嬉しそうにぴょんぴょんと小さく跳ねる。
その様子は新しいおもちゃを買ってもらった子供……という表現がぴたりと当てはまる。
「見たいところがすぐ明るくなる。 すごい便利だよクレール」
「まぁ、そりゃヘッドライトだからなぁ」
「魔法が使えない私達にとっては、すごい便利」
「魔法使いの仲間がいればこんなもの使わなくてもいいんだろうけどね。 杖振るだけでなんでも解決さ」
「そんな便利なものなのかな、魔法って……よくわからないけれど」
「だから栄えてるし、私も追い出されたんだろ?」
そうクレールは冗談めかして笑い、追放されたことを冗談めかして語れるくらいには自信を取り戻したクレールに、トンディも嬉しそうに「それもそっか」と頷いて奥へと進んでいく。
コンクリートで覆われたダンジョンは、ところどころ腐食したガラスの破片や鉄屑が散乱し、独特なサビの匂いが充満している。
崩れた棚や、錆びついて壁と同化してしまっているなにかの装置だったものはもはや面影もなく。
クレールは時折落ちた鉄くずを拾い、バックパックへとしまっていく。心なしかその表情は楽しそうだ。
「……クレール楽しそう」
「そうだな、このダンジョンは結構色々な金属が落ちてるからね。 アルミなんかは今の技術じゃ生成は難しいから、こういったアルミがゴロゴロ転がってるダンジョンは気分が踊るよ」
「アルミ? 聞いたことない鉱石」
「まぁ、自然には存在しない金属だからな。銀に似てるけど、銀よりはるかに軽くて錆びにくい人工の金属さ。しってたトンディ、鉄の時代の人間ってのは、金属すらも自分たちで生み出すことが出来たし、金属に命を与えることも出来たらしいよ」
「金属に命? 本当?」
トンディはそういうと錆びついた鉄の塊を拾い上げ「こんにちは」なんて声をかけてみるが、当然のことながら返事はなく、じとっとした目でクレールを睨む。
「いや、流石にそこらへんに転がってるのは普通の金属だろうし、あくまで本で読んだだけだから……。まぁでも、ダンジョン深くまで潜っていったら、そんな命のある金属にもいつか会えるかもしれないな」
クレールはそういうと、金属の回収に満足したのか立ち上がり奥へと進んでいき。
トンディも命のある金属という言葉に思いを馳せながらも、クレールの隣をついていく。
「……金属って、何食べるんだろう。 人参かな」
「何かは食べるだろうけど、人参だけはないだろうなぁ」
トンディの呑気な質問に苦笑を漏らしながら、二人は突き当たりにある扉に手をかけると。
「あれ? この扉……開かない」
少したわんだ扉は変形したせいか、扉は空間に固定されたかのようにビクともしない。
「きっと、ミノタウロスが力任せに使ったからだな……困るんだよなあいつら、中途半端に知恵があるせいで扉とかは使えるくせに、乱暴に使うから中途半端に壊すんだもん」
「どうしよう……」
困ったように耳を垂れさせるトンディ。
「まっ、こういう扉は私に任せろって‼︎ 危ないから離れてて耳塞いでトンディ」
「クレール?」
しかしクレールはニコリと笑い背中に担いでいた銃口の二つある銃を引き抜くと、ドアに
向かって引き金を引く。
「よっこら、ショット‼︎」
ダンジョンに響く巨大な発砲音は二つ、密室であるために体に振動が伝わるほど巨大な音を響かせ、少し遅れてなにかが倒れるような音を反響させる。
見れば行く手を塞いでいた巨大な扉は、大穴を開けて床に倒れトンディたちに道を譲っている。
「その銃……なに? クレール」
「うん? あぁ、この前トンディに銃を当てられないって言われたから接近戦用の持ってきたんだ。 ショットガンって言うんだけど、おっきな弾を打ち出したり、細かい弾をばらまくように打つこともできて応用がいろいろ聞くから便利なんだよね……本来は50メートルぐらいは射程はあるんだけど、これはソードオフって言って銃身をあえて短くして接近戦を……」
「よくわかんないけどショットガン……すごい威力」
「わかんないかー。 わかんないよねー」
「とりあえず、威力の高い銃だってことはわかった」
「ゴーレムとか、鉄みたいに硬い鱗もったドラゴンとかだとあんまり効果は期待できないけどね」
「そんなのはAランク以上の魔物……偶発的に出会うなんて滅多にないから問題ない」
トンディの言葉に「それもそっか」とクレールは呟くと、倒れた扉を踏みつけて部屋の中へと入る。
中は広い空間になっており、腐食した金属片や瓦礫があちらこちらに散らばっている。
ほかに扉はなく、ここがダンジョンの行き止まりであるようだ。
「ここが最後の部屋みたいだな……」
「うん……罠もなさそうだし、入って大丈夫」
トンディの言葉に、クレールは中に侵入する。
広い部屋は瓦礫や鉄屑が転がるのみで、宝箱や何か役に立ちそうなものが転がっている気配はない。
足元を見ると、そこには魔物の骨が無数に転がっており、数からして、ここをミノタウロスは住処にしていたことが伺えた。