エピローグ ウサギと宴とガンスミス
まだ続きますよ。 第1話 完 です。
「かんぱーい‼︎」
打ち鳴らされるグラスの音は太鼓のように、飛び跳ねる麦種の泡はダンスを踊るように、【違いの解るゴブリン亭】を舞う。
そんな様子を眺めながら、料理を運ぶペコリーナは二人にむかって苦笑を漏らす。
「やけに機嫌がいいじゃないお二人さん、何かいいことでもあったのかい?」
ゴクゴクと喉を鳴らして麦酒を飲みほす二人は、口に泡をつけながらニヤリと口を緩ませて微笑むと。
「「なーいしょ」」
なんて意地悪な笑みをこぼして口を合わせ、そんな様子にぺコリーナは肩を竦める。
「やれやれ、よっぽどいいことがあったんだねぇ」
「それもあるけど、ここの料理をただで好きなだけ食べられるのも理由の一つ」
「ごぶごぶー‼︎ トンディさんは褒め上手ゴブ‼︎ やる気万倍ゴブ‼︎」
「あっはは、この前のお礼も満足にできていなかったからね。 個人間での報酬のやりとりは禁止されているけれど、これぐらいのサービスは問題ないだろ? 材料はお前たちに仕入れてもらったようなもんだからな‼︎ 次は何食べたい?」
「んー、アップリュパイ‼︎」
「私もそれで」
「あいよ任せな‼︎ 行くよゴブたち‼︎」
「ゴブたちが最高の料理を振る舞うゴブ‼︎」
「もっちろん、頼んだものがちゃんと出てくる保証はないけどね‼︎」
冗談交じりにそんなウインクを飛ばしながら、ペコリーナはぴょんぴょん飛び跳ねるゴブリンとともに厨房へと戻っていく。
「頑張るゴブよー‼︎ ほっぺたこそぎ落としてやるごぶー‼︎」
「「「ゴブゴブおー」」」
楽しげに体を揺らし、歌いながら料理をするペコリーナとゴブリンたち。
やがてその拍子に合わせ、酔った客も机やグラスを打ち鳴らして歌い出す。
「「ごぶごぶオー♪ ごぶごぶオー♪」」
気がつけば店は大合唱。テーブルを動かしてスペースを作り、踊り出す人もいれば。
リュートや楽器を持ち出して弦をはじき出す吟遊詩人も現れる。
「あっちの方が数倍楽しそうだよな」
「騒がしいのは嫌いだけど……賑やかなのは好き」
そんな光景を見ながら、トンディとクレールはお互いに笑い合う。
「お金も手に入ったし……なんだかすごいスッキリした気もするし。 文句なしの最高の1日だよ」
「ふふっ……よかった」
「色々と付き合ってくれてありがとね。 トンディ」
「気にしないで、これでも拾ったペットは最後まで面倒見るタイプ」
「ペット‼︎? 私ペット扱いだったのか‼︎?」
「冗談。 わたしにもちゃんとメリットがあったから依頼を受けただけ」
「なんだぁ。焦ったよ……でも残念だよなぁ、 あの巨人を倒したのは私たちなのに、手柄は勇者のもんになっちゃったんだろ?」
「まぁ、私たちあくまで倒しただけだからね……依頼は交易路が使えるようにすること。あの巨体の処理は勇者に任せちゃったから……勇者の手柄で間違いない」
「まぁそりゃそうだけど、そのくせギルドマスター報酬倍近くくれたよな? あの性格上そういうところケチりそうだったのに」
「さぁ、わからないけれど、何かあったんじゃない?」
「何かって?」
「わからないけど……あの人、一筋縄じゃいかないような人だったから」
「……?」
よくわからないとクレールは首をかしげると。
トンディは微笑んでクレールの手を取り立ち上がる。
「ま、そんなこと考えても仕方ないってこと。そんなことより、私たちも踊ろうクレール」
「はぁ‼︎? ちょ、ちょっとまてトンディ‼︎ わたしダンスなんてやったこと」
「大丈夫、私もないけどクレールならできる。 信じて‼︎」
「そればっかりは信じられねーよー‼︎」
音楽とゴブたちの歌に合わせ、壇上に躍り出るトンディとクレール。
二人の踊る初々しいダンスに店は今宵最大の賑わいを見せる。
―――偶然と運命の戦いの到来を喝采するかのごとく。
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