第10話 帰還
「ゴーーーブーーーー‼︎? 怖かったゴブ、もうダメかと思ったごぶーーー‼︎? お姉さんは命の恩人ゴブよー‼︎」
その後ゴブたちは、森の奥にある洞窟の中で発見をされた。
洞窟内には動物たちが体を糸でぐるぐる巻きにされた状態で捕まっていた。
足元には無数の骨が転がっていたが。
ゴブたちは体が小さいため捕食は最後に回されたのだろう、誰一人欠けることなく無事に救出される。
「お姉さん……クレール。 私、お姉さん‼︎」
「はいはい……よかったね」
わらわらとトンディの周りに集まりお礼をいうゴブたちに、トンディは得意げに胸を張るが、クレールはそれを無視してあたりを松明で見回す。
「しっかし、どれだけ森の獲物食い漁ってたんだあの蜘蛛……鹿に狼までいるぞ?」
「アラクネは糸でからめ取れる存在ならなんでも食べる……。ドラゴンの力でも切れないし、炎でも切れない糸はとても厄介。 切るのだって、私のダマスカスナイフでやっと……ん? 丈夫な糸……」
「そんなにすごい糸だったのか……でも確かに、これだけ細い糸にあれだけでかい巨体が乗っかってたんだもんな……」
「お陰でどれだけあばれようが食材が逃げないゴブ。 明日は鹿鍋に狼の肉のステーキゴブね。 狼の肉だってゴブリンの手にかかれば絶品ゴブ。いやぁ、捕まってラッキーだったゴブね」
「前向きだなぁ……」
「もちろん、いつでも元気がゴブリンの取り柄ゴブ。 さあみんなで食材を運ぶゴブ‼︎」
「ゴブゴブおー‼︎ ゴブゴブおー‼︎」
掛け声とともに、ゴブたちは独特な歌を歌いながら糸でぐるぐる巻きになった鹿や狼をみんなで運び出す。
楽しげに森に響く歌から、怪我をしたゴブはいないようであり、クレールは微笑ましいその様子に一つ胸をなでおろす。
「とりあえず、一件落着だな、トンディ……てあれ? トンディ?」
気がつけば、先程まで一緒にいたトンディの姿は洞窟の外にはなく、クレールは振り返ると、トンディは一人洞窟の中でうずくまっていた。
「電気を通さなくて、ドラゴンの吐息でも燃えないもの……」
「なにしてんの?」
近づいて様子を伺うと。トンディは一人洞窟内でなにかをを拾っており、
クレールは訝しげになにをしているのかと問うと。
「クレール……これなんて、使えるんじゃない?」
そう言って差し出された手には白く光る蜘蛛の糸が数本握られていた。
◇
「ただいまゴブーー」
その後、ゴブたちとともにクレールとトンディは何事もなくギルドに到着をした。
途中クレールが森の中に仕掛けられた蜘蛛の罠に引っかかるというハプニングはあったものの。
それ以外は特に問題もなく、日付の変わるより早く二人は無事にゴブ達をギルドに送り届ける。
心配もつゆ知らずといったように、扉を開くと同時にギルドに響くゴブの呑気な声。
しかし、ゴブの無事を願っていたペコリーナにとって、その呑気さはこれ以上のない吉報であったことには違いない。
「ゴブ達いいぃ………無事で、無事で良かったああぁ‼︎トンディ、クレール……本当に、本当にありがとう‼︎‼︎」
元気なゴブの姿を見たペコリーナは、目から大粒の涙を流してゴブ達を抱きしめ。
クレールとトンディに対し感謝の言葉を述べる。
「無事で良かった」
「これからはちゃんと、依頼の内容確認してからクエストに行けよ? ゴブ達」
「ゴブ? クエスト間違ってたゴブか? どうりで山菜ないわけゴブ」
「……気づいてなかったのか」
呑気なやつだとクレールは苦笑を漏らすと、ゴブ達を叱りつけるようにペコリーナの声がギルドに響く。
「もう、バカゴブ達‼︎? どれだけ心配したと思ってるのよ……本当に、あんた達になにかあったら、私……私」
ポロポロと涙を流すペコリーナ。
その様子につられ、ゴブ達の瞳からもポロポロと涙がこぼれだす。
「ご、ごぶーーー‼︎? 姉御―‼︎ なんだかよくわからないけど感動ゴブ‼︎」
「な、涙出てきたゴブーー‼︎」
互いに抱きしめ合い涙を流すゴブとペコリーナ。
恐らくペコリーナの涙の理由などゴブ達は一ミリも理解していないのだろうが。
涙とともに溢れ出る互いの絆の深さが……理解というものすら瑣末にさえ感じられる。
「みんな無事。良かった良かった」
「あぁ……あとはこっちの処遇だけど」
ゴブ達を見守る微笑ましい表情を、険しいものに変え、二人は吊るされたマゾ子へと視線を移す。
「ぴいいいぃ……お、下ろしてくださいい‼︎ ごめんなさいいぃ‼︎」
簀巻きで吊るされたマゾ子は、半泣きで助けを二人に求める。
ペコリーナに散々責め苦を受けたのだろう。 その頬や足には罵詈雑言が油性の筆で書かれていた。
「と、言ってますがどうする? トンディ」
「お、お願いトンちゃん‼︎ 別に悪気があったわけじゃないの‼︎ 本当に、本当にミスしちゃっただけなのぉ‼︎? ごめんなさいぃ、お願いだから許してぇ‼︎」
懇願をするように暴れて許しを請うマゾ子。
ミノムシのように体をよじるたびに、その豊満な胸は振動でぷるんと揺れる。
「……むぅ……」
トンディはしばらく、揺れるマゾ子の胸と自分のものを見比べると。
「放置」
そう判決を下した。
「ぴいいいぃぃぃ‼︎? なんでですかあぁ‼︎? トンちゃん今、絶対におっぱいで決めたでしょ‼︎?」
「………そ、そんなことないよ」
「図星かよおおぉ‼︎?」
三日月の空の下、静まり返ったエリンディアナの街の中で、マゾ子のそんな叫びが夜に溶けていくのであった。