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少女は黒い檻に囚われる

作者: フェイリー

大幅にキャラ暴走しました。メインが入れ替わる程に…。

(6/27誤字修正しました。報告ありがとうございました!)


私にはとっても大好きな幼馴染がいます。



「ハルトちゃん!私、ハルトちゃんの事がだーい好きよ!」


そう言ってハルトちゃんの手を握るのが小さい頃からの私の習慣。今日もベンチで横に座るハルトちゃんに愛情を告げる。そうするとハルトちゃんも私の頭をナデナデしてくれる。


「俺も可愛いイリアが大好きだよ。ほら、おいで。」


「うにゃ!?」


ひょいっと膝の上に座らされた。


「ハルトちゃん……膝抱っこは人前ではやめてって言ったよね……?」


「そうだった?イリアは小さいなぁ。ふふっ、こうすると俺の腕の中にすっぽりと納まるよ。」


わたわた慌てる私を無視してギュッとしてくる。髪に顔を埋めて匂いを嗅がないで!?

ここは魔法学校の中庭です。つまり、人の目がちらほらと!

うにゅうぅ、恥ずかしいっ。

ただいつもの事なので、皆さんほとんどの人がスルーされてます……。一部の人達は羨ま妬ましいという視線を送ってますが。



ハルトちゃんは私より2つ年上の、すごーく優しくて素敵なお兄さんです。

射貫くような鋭い金色の瞳は、私には飴玉みたいに甘い色を見せてくれる。いつも束ねてる黒くて長い髪は、まるで星空のようにキラキラして綺麗。細身だけど意外と力もあって、15歳になった私の身体も軽々とお姫様抱っこ出来ちゃう。

ギュッとされるといつも爽やかなお日様の良い匂いがするし、逆に声はまるで夜の月のように艶のある声で、耳元で囁かれると腰砕けになりそう。


ハルトちゃんは幼馴染みの私には甘々だけど、他の人には素っ気なくクールで愛想も良くない。

それでもすごくモテるんだよね。いつも女の子たちに「付き合ってるの?」と聞かれるけど……むしろ私が訊きたい……。

女の子として見てくれてるのか妹みたいに思ってるのか。訊きたいけども訊く勇気はありません。


それでも傍からみたら付き合ってるように見えるから、大抵の女の子は近づかない。もちろん例外もいるんだけど。


あ。噂をすれば例外さんだ。



「ハルト先輩ー!」


長い金髪をサラサラと靡かせた美少女がハルトちゃんの後方からこっちに駆けてくる。私の同級生のキャメル・エルドラさんだ。

キャメルさんは私達と同じ平民だけど、この魔法学校でもたった一人しかいない光の魔法資質を持ってる有名人。見た目は凄く可愛い女の子。この学校に入学して半年、既に何度か声をかけられてる。


「……えっ!?なんで!?なんでそんな子をハルト先輩が膝抱っこなんてしてるんですか!?」


ハルトちゃんの身体で隠されて見えなかったんだね。お膝の上に乗せられた私を見つけた途端、眦を吊り上げて睨んでくる。性格の悪さが顔に出ちゃってるよー。


「私が誰と何をしていようが君には関係ないだろう、キャメル嬢。」


「関係あります!ハルト先輩が恋するのは私だって運命で決まってるんだから!」


「君は確か王太子殿下を始め、複数の男に同じ事を言っていたと聞いたが?」


「そ、れはその、お、お友達なの。一番好きなのはハルト先輩よ。」


ふぅ、とハルトちゃんが深いため息をつく。

その顔は心底呆れてる顔だね。気持ちはわかるよ。


「話す時間が勿体ないな。行こうか、イリア。」


ハルトちゃんは今度は子供のように私を縦抱きにし、校舎の方へ歩き出す。行くのはいいけど自分で歩かせて、と訴えても却下された。やっぱり恥ずかしいぃぃぃ!




ハルトちゃんは凄い魔法の才能を持ってる。その実力は将来は筆頭魔術師だって言われてる程すごい。魔法学校のテストでは筆記も実技もいつも1位!いつもハルトちゃんに勉強を教わってるけど、先生よりわかりやすいんだよ。


キャメルさんがこの半年で媚を売ってるのはそんなハルトちゃんを含め、この国の王太子様、騎士団長子息様、宰相子息様、教師の5人。全員イリアさんと恋する運命なんだって彼女は言ってるとか。凄いよね。


「相変わらず訳の分からない女だな。虫唾が走る。」


……ハルトちゃんが恋をしているようには到底見えないけども。


「ハルトちゃん、ハルトちゃんの好きな甘いモノ食べに行こう?甘いモノ食べて幸せ気分になって、さっさと忘れちゃおう!」


「そうだね。あぁ、今日は俺の部屋においで。ケーキがあるし、とっておきの魔法が完成したから。」


「本当!?いくいくっ!」


わぁーい!ハルトちゃんの新作魔法だ!

ハルトちゃんはよく綺麗な幻影魔法を創っては私に見せてくれる。これが凄いの!妖精や天使が舞い魚や動物が行きかい、水中や空の上で光が弾ける幻想風景は物語の挿絵が現実に出てきたような素晴らしさ!

でも明かりを完全に遮断したり道具が必要だったりで、ハルトちゃんの部屋じゃないと見せれないって前に説明された。

本当はこの年齢で男の子の部屋に入るなんて駄目な事だけど、キラキラ魔法の誘惑には勝てません!


男子寮のハルトちゃんの部屋にこっそり入れてもらった私は、ハルトちゃんに後ろから抱き締められながら幻想の世界を満喫しました。

いや、その……一応拒否はしてるんだけど「俺も癒されたいから」って離してくれないんですよ…。

ハルトちゃんは気軽に私を抱き締め過ぎだと思うの。私も女の子なのに…。




さて、私は見た目も成績も平々凡々な女です。背はちんちくりんで栗色の髪の毛はぴょこぴょこ跳ねちゃうし、榛色の目は子供っぽいクリクリしたドングリ目。あと1年で成人なのに、実年齢の15歳より2、3歳は幼く見られちゃう。

そんな私がハルトちゃんと一緒にいるのがキャメルさんは気に喰わないらしくて、よく絡まれる。


「なんでアンタが、いつもハルト先輩といるのよ!?」


今日も休み時間に力いっぱい絡んできた。怖いなぁ。

でもチャンスだ。


「なんでと言われても。幼馴染みで仲が良いから?」


「それがおかしいのよ!ハルト先輩は小さい頃に精神の不安定さから魔力を暴走させて以来、孤独な人のはずでしょ!?それに幼馴染みなんて居なかったわよ!」


居なかったと言われても、実際いますし。

確かに小さい頃、ハルトちゃんのお母さんが亡くなって精神不安定になった時もあったよ?でも魔力を暴走させた事なんてないよ。ハルトちゃんのお父さんやご近所の人、少ないけどお友達もいるし、何より私がいるから孤独でもないよ。


「わかってるのよ、あなた転生者なんでしょ。ヒロインの私の邪魔をして、代わりに攻略するつもりなんでしょ!」


「はい?キャメルさん?何言ってるの?」


「惚けても無駄よ。いい、私がヒロインなの!私は逆ハーレムエンドを迎えて幸せになるんだから邪魔しないでよ。」


「逆ハーレム?それってメンバーは王太子殿下達ですか?」


「当たり前でしょう?特にハルト先輩は私の推しなんだから、絶対に外せないわ。」


「えぇぇー……。無理ですよ、それ。やめときましょうよ。王太子殿下は婚約者のナタリエ様にベタ惚れなんですから、手だしすると殺されますよ?幸せになんてなれませんよ。悪い事いいませんからよしましょう?」


「私はヒロインよ。殺されるだなんてある訳ないでしょ?」


うわ、自信満々に言い切った!その自信はどこから来るんですか?


「いいですか?ここは現実なんです。キャメルさんの都合の良いようになるなんて幻想です。実際に王太子殿下もハルトちゃんも他の皆さんも、全然キャメルさんに靡いていないでしょう?それに婚約者のいる貴族にすり寄るなんて、平民なんて下手したら消されますよ。危険です!」


「煩いわね!!なんとかなるわよ、そんなの!とにかく邪魔するなら容赦しないわよ!!」


言うだけ言うと足音荒く自分の教室に帰って行っちゃうキャメルさん。

自分の都合の悪い事は全部スルーされちゃいましたか…ハァ。後で考え直して思いとどまってくれるといいんだけどなぁ。


「イリア。」


「あ、ハルトちゃん。」


「昼食の迎えに来たんだが……、やはりあの女、邪魔だな。」


うわっとぉー!?ハルトちゃんの瞳から光が消えて、闇のハルトちゃんがご降臨されてるぅ!?まずい、このままじゃキャメルさんが人知れず行方不明者になってしまう!!


「だだだ大丈夫だよハルトちゃん!!まだ何もされてないから!?」


「何かされてからじゃ遅い。」


「いいから!!ハルトちゃんは犯罪犯しちゃダメ──ッ!!」






*********************************


その会話を魔法で盗み聞いていた3人が、同時に溜息を吐いた。


「ありゃあ。イリアさんの説得も聞く耳持たずかぁ。」


一人は豪奢な金髪を背まで伸ばした美女だ。いかにも気位の高いお嬢様といった容姿は異なり、平民のような口調で頬杖までついている。


「ありゃ未だにゲームのつもりでいるな。ここが現実だってわかっちゃいねぇ。」


腕組みをして顔を顰めているのは体のがっしりした男性。佇まいから気品を感じる割に、口調は下町の住人のように粗雑。


「困りますねぇ。我が家は王太子殿下の婚約者ナタリエ様の家と親密にさせていただいていますからね。ゲームのように婚約者がナタリエ様から平民のヒロインになるなんて、不都合もよいところです。」


この中で一番口調が丁寧なのは、黒髪をばっさり肩までで揃えている眼鏡の少女だろう。ただし貴族の子女ならば髪を短くすることはない。


「俺の家も困るな。王太子妃教育もされてない平民を婚約者にするとか、ゲームの王太子は何考えてたんだろうな。」


「所詮ゲームです。実際にそんな判断を下すようなら廃嫡まったなしです。」


「まったく、逆ハーなんて実際にやったら昼ドラ並みのドロドロ展開になるのは間違いないのに。元の世界でもあった正妃と側妃のいざこざやら、後宮とか大奥のドロドロ事情とか知らなかったのかしら。」


「ゲームみたいに皆から愛されてハッピーエンド、とか思ってるんだろ。一人の平民の小娘に国の次代のトップ連中が挙って熱を上げてるなんて、実際やられたら他国に馬鹿にされてただろうなー、きっと。」


違いない、と3人は頷く。


「これで説得は4連敗。王太子妃教育がいかに厳しいかと、妃同士の実際にあった諍いを語ってみたけど。」


「俺は高位貴族を含め、王族がいかに狙われてるかを実例あげてみた。」


「私は平民が王太子妃となった場合の国民の予想される反応と、他国の反応。国の受ける損失についてを。」


今度は3人揃って又ため息を吐いた。


「まぁヤンデレハルトはあの調子だし、私のダーリンも毛嫌いしてるから大丈夫だろうけどね。それよりも問題はあの子の身よ。3日前、あの子が「私に虐められてる!」って訴えてきた時……、ダーリンがすんごい怖い笑顔してたの。」


「……。」


「先程のハルトさんの反応といい、やはりこれ以上の説得は諦め、早急に作戦を実行した方が良さそうですね。」



*********************************






キャメルは呆然と目の前の光景を眺めていた。


「ここ、どこ……?」


確か自分は魔法学校の裏庭にいたはずだ。なのに今いるのはどうみても森の中だ。近くにはログハウスのような小さな家が見えるけど、それだけ。

どうしてこんな所にいるの?


───そうだ!

放課後、ハルト先輩に呼び出されて裏庭にいた私に、誰かが唐突に魔法をかけてきたんだ。

闇の触手のような魔法が自分の視界を遮り意識を失った。きっと拘束されたんだ。それでこんな所に連れてこられたんだ!


「お目覚めですか。」


唐突に響いた男の声に慌てて振り向くと、全身黒ずくめの怪しい奴がいつの間にか傍に立っていた。

なんで?さっきまで誰もいなかったよね!?


「だ、誰よアンタ、誘拐犯!?こんな事してタダで済むと思ってるの!?」


「貴女はただ珍しい魔法を使えるだけのただの平民。それを弁えないからこのような事になっているのですよ。」


「んな……っ」


「主から手紙を預かっております。荷物はここに。───それでは私は失礼します。」


「ちょっと、待ちなさいよ!?」


追いかけるも、黒ずくめは振り返ることもなくさっさとその身を消してしまった。こんな森の中で、たった一人……?

初めて身に迫る危険を感じて背筋が凍る。もし獣に襲われたら?

まるで絶望が迫ってくるかのよう。


無意識に、男がおいていった手紙を握りしめた。

……明らかに貴族が使う高級な紙だ。一体誰がこんなことを?

封筒から取り出して目にした文面に、キャメルは固まる。


「日本語!?」


これは、他の転生者の仕業なの!?やっぱりあのイリアとかいう女!?

怒りを露わに手紙を読み進めていって……、手紙がパサリと地面に舞う。


「うそ……、嘘よ………。」


彼女は蒼褪めた顔で、震えていた。

頭の中では過去に受けた忠告がグルグルと───………。








放課後の人もまばらな校舎で。教室には今度は4人の男女が集まっていた。


「危なかった…、まさか作戦実行する前に暗殺されかかってたなんて。」


3人から自分がいない間に起きた事件を聞き、重い重いため息がでる。もう少し猶予があると思ってたのに、まさか早々に殺しにかかるとか予想外だ。


「ギリギリで彼女の身柄は確保しました。今頃はナタリエ様の配下の者が領内の小さな村付近の森まで連れて行ってる筈です。」


「あそこなら殿下も下手に手出しは出来ないでしょうし、距離があるからハルトさんも手出しはしないでしょう。危険な獣もいないから大丈夫だとは思うわ。」


「まったく。王太子殿下もハルトも恋人に関する事には切れやすすぎだな。」


裏庭にいたキャメルを襲ったのはハルト本人の魔法と、王太子殿下が放った刺客だった。キャメルを見張っていたナタリエの配下が止めなければ、今頃は刺客の剣がキャメルの命を絶っていただろう。


「最初の計画では、ゲーム終了の卒業式後までお屋敷に見張り付きで保護するはずだったのに……、森の小屋で一人暮らしなんてキャメルさん大丈夫かな。」


そう。計画ではゲーム攻略を諦めないキャメルを違う街の屋敷まで連れていき、見張り付きで保護する予定だったのだ。

王太子もハルトも明らかにキャメルを鬱陶しく思っているのが明白だったのだが、溺愛しすぎている恋人を侮辱された事で近頃は2人から本気の殺意が感じられていた。キャメルはただの平民だ。ここにいる女子3名は『ゲーム』で王太子とハルトの性格と行動を知っていた為、このままではキャメルの命が危ない、これ以上怒らせる前に保護を、と計画してたのに……まさか十分手遅れだったとは。


「一応手紙で、私達の事とこれまでの経緯、殿下達に殺されそうだったこと。私とイリアさんがお二人の怒りを収めるまで、森の家で過ごすようにと書いておいたわ。公爵家から援助をするし、近くの村にも様子を見るよう頼んであるから大丈夫だとは思うけど。」


「殺されそうになったんだ。今度こそ大人しくなるかねぇ。」


「そればかりはわかりませんね。まぁ自力で戻るのは難しいでしょうし、大丈夫ではないでしょうか。」


なら後処理があるとはいえ、一応はヒロイン対策はここで一区切りだろうか。


「色々ありがとうね、ナタリエちゃん。二人も。」


「あら、お気になさらず。私達もそれぞれ理由があって協力していたのですし、何より私達は数少ない同郷の仲間なのですから。」





**********************************************





えーと。私は只今、非常事態に陥っています。

現在地はハルトちゃんの部屋です。キラキラ魔法に釣られました。


「……ねぇハルトちゃん。なんで私、ハルトちゃんに押し倒されてるのかなぁ?」


私は出来るだけ無邪気に笑いかけた。

ハルトちゃんは私を彼のベッドに縫い付けたまま、やっぱりニッコリと笑う。


「イリア。あのキャメルとかいう女を隠したでしょう。」


「へ?なんの事?」


「惚けても無駄だよ。王太子も甘いよね……あんな女消した方が面倒がなくて良いのに。」


後半の声、低っ!本気でそう思ってるっぽいねハルトちゃん!

そんな危険思考はやめとこう!?


「ねぇイリア、なんであんな女を庇うの?」


「えっと、だから何のことかな?」


正直逃げ出したいけど両手はハルトちゃんによってベッドに縫い付けられてるので、せめて顔を背ける。ふーん、と無感動に呟いたハルトちゃんが、ポツリと呟く。


「───王太子殿下の婚約者。」


ん?


「大商人の娘。」


え。


「騎士団長の次男。」


げっ!!


「ななななななんの事かなー?」


「イリア、どもりすぎ。本気で俺が気づいてないと思った?入学して間もない頃、イリアが彼らを集めたことは知ってるよ。」


なんですとー!!


「嘘!?(たま)に集まる時もハルトちゃんがいない時にしたよね!?連絡に使った文字だってハルトちゃん達には読めない筈よ!?」


えぇそうですよ、転生者をこっそり探し集めたのは私ですよ!

私も日本からの転生者ですよ!!


でも転生者を探す時はヒロインにもハルトちゃんにもバレないよう、イベントで怪我したヒロインをハルトちゃんに頼んで家まで送ってもらってる間とかにしてたのに!

その間にヒロイン・攻略対象周りの人間に絞って日本語の手紙を忍ばせておいたり(殆どが落書きとして捨てられた)地道に探してたんだよ。


「イリアには内緒だったけど、イリアのことは常に魔法で見張ってるんだ。」


「それってストーカーだよハルトちゃん!?」


「すとーかー?」


首を傾げるハルトちゃん。その拍子にハルトちゃんの普段は束ねてる髪がサラサラと滝のように私の顔の周りに流れてくる。私の真っ赤な顔を覗き込んで、ニィっと唇が弧を描く。

ッ! い、色気が半端ない!!顔を覗き込まないで……っ

どこを見てもハルトちゃんしか見えなくて、こんなのまるで黒い檻に閉じ込められたみたいだ…っ!


「ねぇイリア。イリアが面倒見が良いのは知ってるけど、あの女にはやけに構ってたよね?あの女はイリアにとって何?」


「それは、その、」


「それに他の奴らも。どうしてイリアと仲良くしてるの?今まで接点はなかった筈なのに。イリアと仲が良いのは俺だけでいいのに。」


「……。」


それを話そうと思ったら、前世の記憶がある事から話さないといけないんですが。


「話せないの?」


「は、ハルトちゃん?」


なんか背筋がゾクゾクする。いつもは優しい飴玉のような瞳が、まるで肉食動物みたいに光って…。

あれ、もしかしてこれってマズイ?

完全にヤンデレモード入ってる?


「話せないんだ…。じゃあ仕方ないよね。本当はイリアがちゃんと成人するまで待つつもりだったんだけど。」


ちょっと待てぇぇぇぇ!!

この体勢で意味が分からない程、子供じゃないからぁ!!


慌てて本気で逃げ出そうとする私を、易々とハルトちゃんは封じて

それはそれは綺麗に、微笑んだ。


「大丈夫。イリアが素直になれるようにしてあげるから。イリアは俺だけを見ててくれたらいいんだよ。」


重なってきた唇に、私は悟った。


……まるで、じゃなくて。

私はがっつり、黒い檻に閉じ込められてたんだ───。






私は前世の記憶を持ったまま生まれた。

幼馴染みで一つ年上のハルトちゃんは5歳の時にお母さんを亡くして、情緒不安定になったハルトちゃんを少しでも慰められたらと私は「大好きだよ」と言い続けた。だって放っておけないじゃない。


ここが乙女ゲームに似た世界だと気づいたのは8歳の時。

魔導士ハルトは私の前世の推し。ヤンデレで執着心の強い彼が、まさかの幼馴染みのハルトちゃんだった。しかも彼の人嫌いになるフラグは「大好き」と言い続けた結果、知らずにへし折ってた。


やがて入学した魔法学校ではヒロインを発見。最悪だ、完全にゲームだと思って逆ハーを狙ってる。

冗談じゃない。そんな奴にハルトちゃんを渡せない。あと王太子殿下の婚約者が王太子妃教育も受けてないヒロインになるのも国民として大反対だ。

でも平民の私にできることなんて少ない。でもゲームと違うナタリエ様を思い出し「もしや」と思った。更に探せば転生者が他にもいるかもと探し、見つけた3人。でも、調べてみればまさかのヒロインの方が危機の事態で、そして───



「ふ、ふふふ……。一体、いつの間に囲われたのかな。」


ベッドに倒れ伏したまま、乾いた笑いをもらす。もうそうするしかないじゃないか。

前世のことも含めてハルトちゃんに色々素直に(・・・・・)話させられた私は疲労困憊だった。そんな私の頭を撫でながらハルトちゃんがこう言い放ったのだ。


『大丈夫。イリアの両親には何年も前から話は通してあるし、16歳になったら婚姻届けを出そうね?卒業後は宮廷魔導士になる事は決まってるし、家も小さいけど用意出来てるから、二人で新しい家に引っ越そう。あぁ、学校には暫く休むって届けてあるから。本当はもう行かないで欲しいけど、イリアの両親の手前仕方ないね。』


なんだそれ。一体いつの間に。

こっちが「これって付き合ってるのかな」と悩んでる間に、結婚準備バッチリとか。さすがハルトちゃん……。

それから本当に引っ越して、家に閉じ込められてる。このベッドだって『私の』じゃなくて『私とハルトちゃんの』なんだからお察し。

あとこの家に来て発覚した事実。ハルトちゃんの幻想の魔法。『ハルトちゃんの部屋じゃないと見せれない』って嘘だった。悪びれなくネタ晴らしされて膨れてたら「膨れた顔も可愛い」ってキスされて誤魔化されたよ。


『イリアさん、大丈夫?学校休みだして随分経つけど、もしかしてヤンデレハルトに捕まった?だとしたらご愁傷様ー!』

『婚礼衣装から新婚に必要な物まで、必要とあらばうちの店で用意させていただきますよー!』

『おーい生きてるかー?ハルトから現状聞いたぞー。だから言ったじゃん、ありゃ妹じゃなく女として狙われてるぞって。』


転生者仲間から魔法で届いた温かいメッセージに涙が出るよ。

悪役令嬢にサポートキャラ、攻略対象の弟。誰一人助ける気ねぇ…っ!!

だが悪役令嬢ナタリエ様よっ!貴女だって溺愛されてる王太子殿下にいつか似たような目に合わされるでしょうよ、ご愁傷様……っ!



ただ彼らから、ちょっと嬉しいニュースも届いた。

私達がヒロインの身を案じたというのは信じてくれたらしく、物資を届けに行った使者にキャメルさんがお礼の伝言を頼んだらしい。近くの村の人とも交流し、案外たくましくやってるとも。

これからは手紙を頻繁にやり取りして、親交を深めよう。それを証拠にして、機を見て私とナタリエ様が友人になったから許して欲しいとお願いすれば、私達に甘い王太子殿下もハルトちゃんもなんとかなるだろう。




差し当たって今、取り組むべき問題は。


「イリア、ただいま。」


「ハルトちゃん。いい加減に結界を解いてここから出してください。」


この軟禁状態をなんとかすることだね……っ!




最後までお読みいただきありがとうございました。


最初は「転生者たちが自分達の生活を護る為、ヒロインを排除する」お話のはずでした。恋愛要素は薄めの筈だったんです。

が、ハルトちゃんが登場からいきなり暴走……。話を大幅に変えざるを得なくなり、メインが「ハルトちゃんのヤンデレ溺愛について」にとって変わられてしまいました。転生者複数の意味ないじゃん、と涙目です……。


宜しければ評価・コメントなどをよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 途中まではハルト君に好感をもててましたが、軟禁したらアウトですな。 それやった時点でヤンデレじゃなくただ独占欲が強いだけの病気なので。 恋人の行動の自由は奪わないのがヤンデレです。本当のヤン…
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