3/4
~戸惑い~
「ねぇ、奏太、ようやく気づいたわ」
「あぁ、かなで、俺も何となくわかった」
ふたりは声を合わせて言った。
「ここは、こえ、がないんだ」
見かける人影は数少なかったし、声をかけたらすぐどこかへ消えてしまう。そして皆メガネのシャッターを閉じている。それなのに器用にささっと消えるのだ。
誰一人として、こえ、を発さないのだ。
それを頭で考えるわけではなかったが、奏太、と、かなで、は声に出すことにして理解していた。いや、こえ、に出すことで、考えていた、思っていた、感情をのみ込んでいた。
考えたり、思いを描いたり、感情を司るばかりだった、奏太、と、かなで、は、こえ、だけが頼りになっていた。
そして。
「ねぇ、選べるならどちらを?」