〜産声の感動〜
ポトリ、と指の先からこぼれては第3講義室のベランダのアスファルトを焦がす。
あっという間。
初めて叫んだのは、そう、きっと、かなで、も俺も一緒だ。何故かって?
「ここは!?」かなで、と、奏太、同時に。
「こえ、が!!」奏太、と、かなで、被さる。
きゃー、うぉー、とりあえずふたりして叫びまくる。
「奏太、の、こえ、初めて聞いた!嬉しい!こえ、がでる。ひたすら言葉が続く」
「かなで、の、こえ、耳にしたのは初めてだ。俺、自分の、こえ、初めて出した!かなて、もだろ?なんでだ!?」
「わからない、て、ここどこ?レンガ造りの家が多いけど学校の外にこんなところあったかしら!?」
「そういえばそうだな、あれ、俺さっきからなにも考えてない。口からすらすら言葉ばかりが出てく。」
「そうなの?へぇ、て、私も今初めて気づいたわ。なにかがおかしい。だってなにも考えてないもの」
バザァ!空から1羽の黒羽の翼が舞ってくる。ふたりを見ると、まるで、にたぁ、と笑うようになにかを落とす。
「カァァ!!」
そう叫びたかったであろう翼はくちばしを大きく開けて何も音を出さずに空へ戻っていった。
「眼鏡、かしら?これ。ふたつあるわ。1つずつどうぞってことかしら?」
「俺、眼、悪くないけど。それにしてもなんなんだこの眼鏡は。レンズの上からスライドがついてるじゃねえか」
「なんだか色々わからないわ、とりあえず町の人を探しましょ」
「そうだな、どうやらこの辺りに俺たちの学校はなさそうだ」
眼鏡を手にふたりは歩き出した。そっとその反対の手の小指は繋がれていた。ただひたすら、こえ、が飛び交っていた、たったふたりだけの。
先の方に見えた人影に気づくふたり。
「やぁとみつけたー!」
「あれ?あの人、眼鏡のスライドかけたままだ。なんでだ!?このスライドってなんの意味があるんだ!?」
奏太が眼鏡を持っていた方の指でレンズの上のスライドをレンズに被せたり外したり手の上で器用にしてみる。ルンルルン、なんて鼻声で歌いながら。
ふたりはうきうきしていた。だって初めて、こえ、が出せたのだから。そして。
「すみませーん、ちょっとお尋ねしたいんですがー!?」
奏太が叫ぶと、ギョッ、とした顔でその人は振り向いた。