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4-09 レムレスト観光

◆4-09 レムレスト観光


 レムレスト王国。国土や人口などを含めた国の規模は、バルシャイン王国の八分の一ほどと言われている。僅かな海岸線と三つの国に囲まれた小国だ。

 彼らを取り囲む三国、一つはバルシャイン王国、後の二つもバルシャイン並の力を持つ大国だ。

 そんな四方を格上の国に囲まれたレムレストが生き残っているのは、運の要素が大きいと言える。

 バルシャインを含めた大国がレムレストに手を出した場合、他の大国が黙ってそれを見過ごすはずがない。大国同士の緩衝地帯になることで、今日まで侵略の危機を乗り越えてきた。

 武力的にはそんな感じ。


 それとこの国、経済的には結構頑張っている。もちろん周辺の大国には及ばないが、人口比などを加味すれば一番進んでいる国と言えるだろう。

 レムレストの魔道具と言えば、大陸全土で有名だ。我が家にある照明はレムレスト製だし、他もレムレストの割合は多かったはずだ。

 一般に普及している魔道具はもちろん、研究開発も進んでいる。ダンジョンから産出された希少な魔道具を研究して、生産まで漕ぎ着けたものもあったはずだ。

 学園にいた頃に少し調べたのだけれど、魔物呼びの笛の研究は手つかずだと分かり、以降は興味を失ってしまったのだった。


 ということで、来たぞ技術先進国。

 馬車は自動で動き、謎の透明な筒の中を進む電車のようなものがあり、小型の飛行機がびゅんびゅん飛んでいて、これまた謎のカラフル全身タイツに身を包んだ人の姿が……。

 ……無かった。正直、言われなければ外国だと分からない。建築様式も一緒、道行く人の服装も一緒、使う言語も一緒。


 がっかりだ。前世で学園都市に行ったときくらいガッカリだ。

 学園都市と言われて想像した近未来の都市などなく、自然あふれる住宅街と無駄に敷地面積のある研究施設しかない。研究施設も外観は普通の大学施設って感じだ。

 ただ、見学させてもらえた粒子加速器はすごかった。地下にドーナッツ状の筒と大きな観測装置がある。小さな粒子を衝突させて、さらに小さな素粒子を観測するのだ。


 ……と、そんながっかりな町並みだった。我がドルクネス領よりはずっと栄えているけれど、バルシャインの王都にはだいぶ見劣りする。

 外国観光だと内心はしゃいだは良いものの、飛行機に乗ってないし言葉が通じるしで、外国感がゼロだった。

 パスポートを持っていない不法入国だと考えれば、少しばかりテンションが上がるけれど……そこまでだな。この世界、パスポートとか無いし。



 せっかく技術国に来たのだから、魔道具店を見てみたい。お金を持ち合わせていないのが悔やまれる。お土産は諦めて、ウインドウショッピングを楽しもう。


 魔道具は整備などが必要なので専門店が存在する。大きな商会では専門家を抱えていたりするのだけれど、基本は魔道具オンリーのお店があるものだ。

 レムレストも例に漏れず、魔道具店を見つけるのに苦労はしなかった。


 魔道具店と看板が出されている店舗には、ドアに貼られた紙には「照明の修理、請け負います」の文字がある。わざわざ張り出すくらいだから、照明修理の需要が一番あるのだろう。流石は魔道具生産の国、魔道具の灯りが相当に普及しているようだ。


 しかしながら、小さいお店だ。街の電器屋さんって感じ。家電量販店を見たいのだけれど……。

 魔道具をメインに扱う大きな商会に行かないと駄目かな。でもそういう所って入り口で身分確認されたりするんだよね。身バレを避けるためには、この小さな店で我慢するしかあるまい。

 お店の人にすごい失礼なことを考えながら入店する。


 店番をしていたのはお婆さんだった。髪は一本残らず白くなっているが、椅子に座る姿勢ピンと伸びていて若々しく見える。

 奥で机に向かっていた彼女は、分厚い眼鏡をずらして私を一瞥する。


「いらっしゃい」

「こんにちは」


 お婆さんはすぐに眼鏡を掛け直して作業に戻ってしまった。魔道具を分解しているようだ。手で摘んだ小さなパーツを目から遠ざけて見ている。

 私は店内に乱雑に置かれた魔道具を見回す。値札や商品説明が付いていないので、用途の分からない魔道具も多い。やっぱり対面販売の個人商店だったか。ウインドウショッピングにはとことん向かない。


「冷やかしなら出ていきな」

「すみません、お騒がせしました」


 作業から目を離さないままの店主さんに怒られた。

 うん、出ていこう。買う物も無いし、これからここで商品を買う機会もないだろう。客でない人がいたら邪魔だよね。

 私は頭を下げて退店しようとしたが、とある物が目に入って立ち止まる。


「何だい? 用があるんだったらさっさと言いな」

「あの、これを持ってみてもいいですか?」

「……重いから気をつけな」


 老婆は私の指差した物を確認すると、触る許可を出してくれた。

 私が気になった物は、お店の隅に立てかけられた金属の筒だ。どこか見覚えのある形状をしている。

 金属の細長い筒、丸い穴は片側にだけ空いている。木製の持ち手らしき部分があり、引き金のような金属細工も存在した。

 これは完全に銃だ。テンション上がってきた。見た目的にはマスケット銃が一番近いかな。ただし結構太くて、銃口の大きさが金貨くらいある。大砲とまではいかないけれど、普通の人間が撃ったら反動で怪我をしそうだ。


 右手で持ち手を掴み、左手で銃身を支える。ストック部分を肩に当てて射撃体勢だ。


「ばーん」


 私は銃の扱いに多少の心得がある。かつては大尉と一緒に特殊作戦を完遂したこともあったし、無人島にパラシュート降下して最後の一人になるまで戦い抜いたこともある。もちろんゲームの話だ。


「ダダダダダ…………フルオートなはずないか。単発の銃って苦手」


 単発で許容できるのはショットガンだけだ。

 しかも、手元に弾倉や弾込めの機構が見当たらないことから、前装式の銃だとうかがえる。一回撃つごと、先っぽから火薬と弾丸を入れてやらねばならない。

 うーん、レバーをガッチャンコするボルトアクション式はかっこいいと思うけれど、火縄銃みたいに弾込めをするのはイマイチだ。


 一回しか撃てないのならば、スナイパー運用が現実的かな。

 私は銃をがっちりと固定して、銃身に頬をくっつけるようにして狙いをつける。


「距離900メートル、無風……ファイア」


 ワンショットワンキル。…………いい歳して、私は何をしているんだ?

 こんなマスケット銃もどき、鉄の棒として振り回した方がずっと強いだろうに……あ、初めから接近戦を想定すればいいんだ。銃剣を付けたらかっこいい。

 一瞬、自分の年齢を思い出して冷静になりかけたが、銃剣への熱量が上回った。


「総員、構え……てー! 突撃!」


 向かってくる敵に一斉射を食らわせて、後は銃の先についた剣での白兵戦。燃える展開だ。

 銃とは別にちゃんとした剣を持った方が良いとか、求められる技能が違うから兵科を分けた方が良いとか、そんな野暮を言っては駄目だ。

 銃が剣に変形したりも好きだけど、直線的でスマートな銃のフォルムが先端の剣で崩れる感じが大好きなんだ。銃剣はいいぞ。


「こうして……ドンっ! 刺してから撃つのも乙なものね」


 実際に体を動かしてやってみると、剣術とも勝手が違って面白い。

 ブツブツ一人で呟きながら、私はひとしきり遊んだのだった。


 まあ、でもこれ、銃じゃないんだろうな。この世界は魔法があるせいか、火薬の技術が発達していない。火薬自体はあって、元寇に出てくるてつはうのような簡易な爆弾はあるようだけど、あまり広まらない。火薬の製造コストを考えると、魔法使いを育成した方が良いらしい。

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― 新着の感想 ―
[一言] 相変わらずバカだなあwww
[一言] これは、あれだな。 他人の振り案件w
[一言] 中学の修学旅行で木刀買う男子みたいに盛り上がってる
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