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18 2号の行く末は……

 その後は特に会話もなく、早々に食事を取り終えたユミエラ2号は疲れたと言って客間に引っ込んでしまった。


 私の部屋、パトリックと二人で彼女について語る。


「はあ……思ってたのと違うなあ。もっと、極悪な感じだったらやりやすかったんだけど」

「そうだな。彼女はあまりに……」

「もういっそのこと、こっちに移住してもらうとか……うーん、何かダメな気がする」


 ユミエラ2号に同情はするが、彼女が許されて良いのかは分からない。世界滅亡、もう済んだことで片付けるにはあまりに大きすぎる。

 彼女が何をどう償えば良いのかも想像がつかない。


「彼女は、初めて会ったときのユミエラに似ていると思った。自分も含め世界の全てを客観視しているような、当事者意識の欠如とでも言うか……」

「あー、昔の私ってそんな感じだったかも。いざとなったら国外に逃げればいいやって思ってたから」


 昔はそうだったが、今の私は違う。大事なものも守るべきものも随分と増えてしまったから。

 あの頃は何も持っていなかった。現状の人間関係を断ち切って、この国から逃げ出しても何も失わない。

 彼女も同じだろう。何も無いからこそ、いつだってどこだって行ける。


「あれ? 改めてそう考えると、ユミエラ2号って反省してない? 自分は悪くないと思っていたりする?」

「それはない」


 パトリックは間を置かずに断言する。憶測の部分はそう明言するタイプだから意外だった。そして続ける。


「それはあり得ない。彼女はユミエラを見た、自分の別な可能性を見てしまったから……」

「違う人生になったのは、私は前世の記憶があったからで」

「彼女からすれば関係の無いことだ。ユミエラ・ドルクネスが幸せそうに暮らしている。その事実だけで十分だ」


 そうか。私の存在は、彼女の人生の全てが間違いだと証明してしまう。お前の努力は無意味だったと、お前の選択は誤りだらけだったと、意図せずともそう突きつけることになる。

 彼女がほんの少しだけ別な選択をしていれば、最悪の結末だけは避けられただろう。私よりも成功していたかもしれない。ああ、ほんの小さな違いなのに。


「私が、私が2号より少しだけ……頭が良くて女子力が高くて人付き合いも上手くて。そして何より、私の方が強いだけなのに……」

「……真面目な話じゃなかったか?」

「え? 真面目な話でしょ。2号が世界を滅ぼしたことを今までどう思っていたかはさておき、私と出会って否応なしに間違いだと突きつけられた。そういうことよね?」


 何故かパトリックは気の抜けた顔をしていた。すごいシリアスな話をしているはずなのに、どうしたの?

 彼は気を取り直すように咳払いをしてから言う。


「まあ、今はユミエラと彼女の違いは置いておいて。俺は2号が逃げるかもしれないと思ったんだ」

「逃げるって……私から逃げるってこと? 元の世界に帰るの?」

「違う」


 過ちを犯し、全てを諦め、大切なものを持たない彼女は一体どこに逃げると言うのか。

 発言を躊躇っているパトリックに問いかける。


「じゃあ、2号は何から逃げるって言うの?」

「……生きることから」

「そんな、まさか……ね」

「彼女は今にも消えてしまいそうだと感じた。昔のユミエラと似た雰囲気だが、どこか違う。自分から死を選んでも何ら不思議ではない」


 そんな……。全部パトリックの想像だが、あり得ないと一蹴はできなかった。

 世界を滅ぼして、自分も死んで、そんな全人類と心中するような真似、馬鹿みたいじゃないか。


 最後に見た彼女の姿を思い出す。食事を終えて、どこか満足そうな彼女の顔を。

 私はいてもたってもいられなくなり、自室を飛び出した。


「2号の様子を見てくる!」


 駄目だ、ユミエラ2号。方法は分からないけれど、為すべきことは思いつかないけれど、何も助言はできないけれど、それでも自分で死を選ぶなんて間違っている。


 屋敷の廊下を走る。彼女の通された客間は分かっている。誰も来ないのに掃除だけされていた一番広い部屋だ。


 嫌な予感がする。有無を言わさずドアを破るように開けた。


「生きてる!?」

「……びっくりした。何よアンタ」


 ユミエラ2号は窓から外を眺めていたようだ。

 こちらを見る彼女の黒い髪と、背後の闇夜が同化して……。本当に彼女が闇の中に消えてしまう錯覚を覚えた。

 まさか……窓から飛び降りる気では!?


「だめ!」

「は? は? アンタ何するつもりよ?」


 私は2号の元まで駆け寄り、飛べないように羽交い締めにした。

 背後を取ってグイグイ締め上げる。

 すると彼女も全力で抵抗してきた。私の絞め技から逃れようともがく。どうしても投身する気だな、させないぞ。

 2号を締め上げたまま引っ張り、窓から離れた安全な場所まで移動したのを確認して解放する。


「はぁはぁ…………死ぬかと思ったわ」

「やっぱり死ぬつもりだったんだ」

「はあ? アンタに殺されそうになったのよ」

「へ? 生きることに疲れて身投げするんじゃないの?」


 あれ? 私の勘違い? というかパトリックの勘違いか。

 恥ずかしさ半分、安心半分の気分でいると彼女はわざとらしくため息をついて言う。


「あのねえ、私がこの程度の高さで死ねるわけ無いじゃない」

「あー」


 確かに。なんだ、慌てて損した。彼女に自殺願望が無いならそれでいいけれど。


「あとね、私が死ぬときは、いけ好かないヤツを道連れにするって決めてるの。愉快だと思わない?」


 彼女は心の底から愉快そうに笑う。コイツやっぱり悪者だ。

 しかしそうは言っても、道連れにする人がそもそもいないんじゃないのかな? 彼女の世界で生きている人間はいないはずだ。


「もう道連れにする人いないでしょ」

「私、アンタのこと嫌いよ?」


 そんなことも分からないの? と、彼女は可愛らしく小首を傾げる。

 思わぬ宣戦布告に絶句していると、ユミエラ2号は服の首元を緩めながら言う。


「ねえ、お風呂入りたいんだけど」

「……ああ、うん、用意してもらうね」


 これが裏ボスの厚かましさか。この図々しさを早くに手に入れていれば、もう少し生きやすかっただろうにな。


 入浴がそんなに楽しみなのか、彼女は上機嫌に鼻歌を歌い出す。私はいないものと扱われていた。

 何だか釈然としないまま、客間を後にする。


 部屋を出てすぐ、壁際にパトリックが寄りかかっていた。彼も2号が心配で来たのだろう。

 廊下を並んで歩きながら会話する。


「話、聞こえてた?」

「途中からだ」

「勘違いだったみたい。アイツ簡単に死ぬ気無いよ」


 隣を見上げる。隠そうとしてるようだが、彼は嬉しさを滲ませていた。

 素直に喜んで良いのか分からないけれど、私も悪い気はしない。


 するとそこに、水を差す声が。ユミエラ2号との邂逅以来、私の影に引きこもってだんまりを決めていた彼が言葉を発する。


「残念だね。並行世界のお姉さんが自分で死んでくれたら楽だったのに」

「……レムン君って悪い神様ですよね」

「どうして? 彼女は一つの世界を滅ぼした危険人物なんだよ? この世界を守るため、彼女に消えて欲しいって思うのは当然でしょ」


 闇の神様はどうにも全体主義が過ぎるところがある。世界を管理する神という立場上、仕方ないのかもしれないが、あまりにも人の感情が分かっていない。


「ユミエラ2号は危険ですか?」

「もちろん、当たり前だよ」

「もし、これからずっと、彼女が人を害することが無いとしたら?」

「それでも危険因子であることに変わりは無い。彼女は一人で世界を終わらせる力がある、そんな人間を生かしておくなんて冗談じゃないよ」


 レムンは人の感情が分かっていないし、人とのやり取りも慣れていないようだ。

 彼の失言を、パトリックが指摘する。


「世界を滅ぼす力がある危険因子、こちらのユミエラも当てはまるな」

「あっ…………。でもお姉さんは味方だよね? 世界が無くなったら困るもんね?」


 ようやく彼の考え方が分かってきた。世界を守るための徹底した全体主義。全のためなら個がいくら犠牲になろうと構わない。

 今はユミエラ2号の脅威があるから友好的に接しているだけなのだろうな。

 頑として人を名前で呼ばないのも、個人を個人として見ていない内面の現れかもしれない。


「私は世界を守りたいとか、そういう大それた身の丈に合わないことは考えないです」

「お姉さんには、彼女と戦う意思があったんじゃないの?」

「2号が私や私の周りの人たちを傷つけるようなら戦いますよ。守るのは、私の手が届く範囲だけです」


 いくら世界を滅ぼす力があっても、世界中の人々を幸せにすることはできない。

 だからこそ、守るのは私の力が及ぶ範囲だけと割り切っている。


「……まあ、今のところ利害は一致するからいっか」

「あと、できることなら2号も助けたいとも思ってます」

「無理だから諦めた方がいいよ。いくらお姉さんの手が長くても、絶対に届かない」


 2号の今後についての良い方策を、彼に尋ねるつもりだったが無理っぽい。

 でもレムンの言うことも、もっともだ。並行世界の自分を、世界を滅ぼした人を助けたいなんて無謀過ぎる。

 どうしたものか。彼女のために私や私の周りが犠牲になっては本末転倒だし……。

 影の中とそんな会話をしながら歩いているうちに自室前に戻ってきた。


「あ。レムン君、どうして今まで会話すらしなかったんですか? 2号から隠れる理由が? …………あれ?」


 私の影から返答は来なかった。いなくなったようだ。影ならどこからでも出入り可能みたいだけれど、詳しいシステムがいまいち分からない。

 少し困ってパトリックの顔を見ると、彼は私の足元を睨みつけていた。


「そんな怖い顔しないでよ。パトリックを怖がっていなくなったんじゃないの?」

「ああ、すまん。しかし闇の神は食えない奴だな。敵か味方か曖昧すぎる」

「2号も曖昧だしね」


 敵と味方の二元論的に物事が運べばこんなに悩む必要も無いのに。どちらとも敵対したくないのが本音だが、そう簡単にはいかない。

 最終的には2号と本気で戦うことになるのだろうか。嫌だな、私の方が強いのに。


「少し一人になって色々考えたいかな」

「分かった。一人が嫌になったらすぐ呼んでくれ」


親愛なる読者の皆様、ネット上での不安を煽るデマにご注意ください。

わたくしも先日、悪質なデマを発見いたしました……。


某、Yah●●知恵袋より

Q悪役令嬢レベル99という小説は2巻で完結ですか?

A完結です(ベストアンサー)


……ということで3巻出ます。カテゴリーマスターに騙されるな!

はい。3巻は一ヶ月後、2020/05/09に発売予定。

書籍化範囲は3章です。ユミエラ2号のゴタゴタが解決するとこまで。WEBは追いついていませんが、今月中に最後まで投稿します。

WEB版を全部読んでから購入するか否かを決めて頂ければと思います。


書き下ろしポイントや店舗特典などは、追って活動報告などでご報告します。

色々とアレなんで、無理に買いに行かないでください。

通販とか電子とかもありますし。挿絵が無いですけど、なろう版で大半は読めちゃいますし。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 謎のアンサー「完結ですドヤァ」 こういうのの真偽を見極められる人間にならないとですね。 インターネットには嘘つきがたくさんいるんですから
[気になる点] ちょっとびっくりしたんですけど、三巻出るのに二巻で完結ですって嘘、ついてどうなるんですかね。売れ上げ向上のお手伝いをしてるつもりとか?よくわかんないですね。犯人は別世界のユミエラとか?…
[一言] 自分の手の届く範囲で救う 某メダルライダーを思い出しました( ̄▽ ̄;)
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