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09 並行世界のユミエラ

お待たせしました。本当に申し訳ありません。


久々なので新キャラおさらい

・レムン 闇の神 自分の信仰が復活したとかでユミエラに接触してきたが、どうも怪しい。

・サノン 光の神 ユミエラとエレノーラが結婚すると勘違いしている。ユミエラに向けておでこからビームを放つ。


あとコミカライズ始まりました! ニコニコ漫画やComicWalkerでも無料公開中です!(活動報告にリンクが貼ってあります) 小さいユミエラが本当に可愛い!!!

 理由は不明だがサノンは、私とエレノーラが結婚すると信じ込んでいる。

 そんなトンチンカンなことを言い出すなんて、頭が大丈夫か心配だ。勘違いにしろ誰かのでまかせにしろ、そんな発想が出てくる時点でおかしい。


 取り敢えず否定しておくかと口を開く。


「あの……しませんよ?」

「え?」

「私とエレノーラ様が結婚するとかあり得ないです。女同士ですよ? いや、そういう人がいてもいいとは思いますけどね」

「本当……ですか?」

「本当ですわ。わたくしとユミエラさんは普通の親友ですもの」


 揃って結婚を否定すると、サノンの涙はピタリと止まった。

 表情にも生気が戻ってきて、光が溢れるような笑顔になる。

 額からも文字通りに光が溢れ出したので、慌ててエレノーラの後ろに隠れて縮こまった。


「そうですか、そうでしたか。エレノーラは憎き貴女に手篭めにされたわけではないのですか」


 このやり取り、どこかでやった気がする。その前のエレノーラを取り合うアレコレにも既視感があった。

 デコビームが収まったのを確認してから、勘違いの真相を尋ねる。


「なぜ私たちが結婚すると思ったのですか?」

「貴女が言ったではないですか」

「え? いつです?」

「昨日です。忘れたとは言わせませんよ」


 昨日、昨日ねえ。今日は朝から色々とあったので随分昔のことのように感じる。

 確か朝に、エレノーラが神の声が聞こえたとか言い出したのだ。それは私に警戒しろという内容の、サノンの言葉だと判明している。

 そんなこと知るはずもない私は精神が不安定になって幻聴が聞こえたのだと考えて……いい子すぎるエレノーラに心打たれて……一生養うために結婚すると……。

 ああ、言ったわ。エレノーラと結婚するって言ってました。そうか、昨日エレノーラ父に会いに行ったのはアレが発端だったのか。今思い出した。


「……言いましたね」

「確かに聞きました。それでワタシは駆けつけたのです。エレノーラを守るため」

「私もエレノーラ様を守るためです。あのときは彼女に幻聴が聞こえていると思っていましたから。元はと言えば、サノン様が悪いですね」

「そ、そんな……いえ、そんなことは無いでしょう。結婚を持ち出す貴女がおかしい」


 先ほどのエレノーラ落下事件のように、勢いに押されて納得するかと思ったが、サノンは私の非を断定する。私も私がおかしいと思う。昨日の私は珍しくどうかしてた。


 蓋を開けてみれば、何ともくだらない出来事だった。まさか最大級のピンチの原因が昨日のアレだと思ってもみなかった。

 そのくだらなさはサノンも感じているようだ。少し前まで敵対していた私たちは視線を合わせ、お互いにため息をついた。


 ……このまま終わりで良いのだろうか。空からエレノーラで有耶無耶になったが、戦局はサノン有利だったように思える。良くても引き分け。

 この私、ユミエラ・ドルクネスがやられてやられっぱなしで良いはずがない。


「じゃあ第二ラウンド開始で」

「はい?」


 前とは違い、私たちの距離はとても近い。一歩前進して手を伸ばせば相手に届く間合いだ。

 デコビームを始めとする遠距離攻撃にいいようにやられたが、今は接近戦の距離。

 サノンはエレノーラを受け止めきれないと言っていた。身体能力の低さをさらけ出すとは不用心だったな。近接格闘なら間違いなく勝てる。


 地面を蹴る。おでこのある正面は避けたい。サノンの横をすり抜け、背後に回り込む。


「消えたっ!?」

「後ろです」

「きゃっ」


 私の動きを視認できなかったサノンは隙だらけだった。

 彼女の両手首を掴み、私は後ろに倒れ込む。当然、サノンも一緒に体勢を崩した。

 一足先に地面に背中をついた私は、自由になった両足をサノンの膝の裏に持っていき、足を絡めた。

 決まった。仰向けで両手足を天に向ける私。ブリッジのような状態で空中に持ち上げられるサノン。日本名、吊り天井固め。またの名を――


「おおっとー! ここでユミエラさんのロメロ・スペシャルが決まりましたわ!」


 エレノーラ様、ナイス実況。目が合ったので頷いて偉いぞと伝える。

 いつの間に移動していたのか、実況の隣には解説のパトリックがいた。彼は驚き顔でエレノーラを見る。


「エレノーラ嬢、今のは?」

「実況ですわ! 技名もユミエラさんに教えていだきましたの」

「……ユミエラが悪影響というのは、あながち間違いではない気がする」


 パトリックが解説をサボっている。

 抗議の声を上げようとすると、私の真上でサノンが暴れるが力が弱すぎだ。自慢のデコビームも天空に放たれるのみで私はノーダメージ。

 力で拘束から逃れることを諦めたサノンが、今度は騒ぎ出す。


「こらっ! ユミエラ・ドルクネス! 下ろしなさい!」

「どうですか? ロメロ・スペシャルって痛いんですか?」

「痛さよりも恥ずかしさが大きくて……ではありません! 今すぐ止めなさい!」

「本当は相手をうつ伏せにして、膝に乗ってからひっくり返るんですけどね……あ、私が解説しちゃった」


 解説をクビにするぞとパトリックを見ると、彼の顔がすごいことになっていた。悲壮、憤怒、諦観、自嘲、悲哀、後悔、不安、憂慮、沈痛、動揺……そんな感情をゴチャまぜにしたような表情。

 あー、ちょっとだけやりすぎたかも。筋肉バスターじゃないだけ配慮したのだが、ロメロ・スペシャルも駄目っぽい。今度はジャーマンスープレックスくらいにしておこう。


 何だか居たたまれなくなったので、横に放るようにしてサノンを解放する。

 涙ぐみながら立ち上がる彼女を見ていると、不思議と悪いことをした気分になってくる。喧嘩を吹っかけてきたのは向こうなのだ。今のは正当防衛だった。


「私は勘違いで殺されかけたので、これくらいは許されます……よね?」

「ワタシの非が発端であることは認めますし謝ります。でも、あそこまでの辱めを受けるなんて……」

「……そこまで恥ずかしかったですか?」

「言わせないでください! それに貴女は殺されかけたと言いますが、ワタシに殺意はありませんでした」


 えぇ……例の光の柱は殺意が高すぎる代物だと思うのだが。あれで殺意が無かったは無理がないか?


「アレに直撃したら私でも危ないですよ」

「ただ、エレノーラを誑かす貴女が痛い目を見ればいいと思って……。ワタシは特定の人間に特別な感情を抱くことを自戒しています。別に、エレノーラを特別好いているわけでも、ユミエラ・ドルクネスを嫌っているわけでもないのです」


 サノンは真顔でそう言うが、とても信じられない。私は完全に嫌われているし、エレノーラは絶対的に好かれている。

 既視感の正体がやっと分かった。サノンとの会話はエレノーラ父との会話にそっくりなのだ。


「なぜ好意を隠すのかは知りませんけど、バレバレですからね」

「本当に違います。ワタシは光の神サノン、太陽は全ての人々に平等に降り注ぐのです」


 ああ、本当にくだらない事件だった。エレノーラちゃんファンクラブの会員が一人増えただけか。


 今思い返せば、手がかりは幾つかあった。結婚どうこうのやり取りの直後、エレノーラは「私は認めない、今すぐそちらに行く」との声を聞いていたはずだ。

 しかし、時間がかかりすぎなような?


「エレノーラ様に今すぐ行くと言ってから、こちらに来るまで丸一日空いたのは何故ですか?」

「……ワタシは太陽の出ている場所ならばどこへでも自由に行き来できます。昨日は曇っていましたので――」

「昨日は晴れてませんでしたっけ?」


 間違いない。雲ひとつ無いとまでは行かないまでも、昨日は太陽が出ていたはずだ。

 彼女は何かを隠すように視線を逸らす。

 そこで、横から現れたのはレムンだった。生きてたんだ。てっきりデコビームにやられて消えちゃったと思ってた。


「どうせサノンのことだから、何を着ていくか悩んでいたら一日経っていたとかでしょ?」

「ちっ、違います!」


 彼の推測をサノンは必死に否定する。

 デコちゃんって嘘つくの下手だな。人好きのする笑みを浮かべながら平気で人を騙しそうなレムンとは対象的だ。

 その闇の神レムンを見て、エレノーラは驚きの声を上げる。


「えっ!? 誰ですの!? ユミエラさんの……弟?」

「私に弟はいません」

「じゃあ……お子さんですの!?」


 レムンの髪が黒いというだけで、エレノーラの思考はとんでもない方向にぶっ飛んでいった。こうなることが予想できたから、この二人を会わせたくなかったんだ。

 レムンはレムンで、否定せずに小首を傾げて私を見上げる。


「お母さん?」

「やっぱり! やっぱりそうでしたのね!」

「違いますから」


 私の訂正の声はエレノーラの耳に入っていない。彼女の妄想は更に加速する。私とパトリックを交互に見て顔を赤らめて言った。


「でもお子さんが出来たということは……」

「違いますから」

「でも今朝……」


 朝、エレノーラを部屋から追っ払うために放置した勘違いが逆目に出た。パトリックが言ったように余計に面倒くさくなってしまった。


 レムンの外見年齢は十歳前後、その段階で親子関係はあり得ないことに気が付いてもいいと思う。

 エレノーラは、ふと何かに気が付いたように首を傾げる。あ、気が付いたかな。


「あれ? ユミエラさんとパトリック様はまだ結婚してませんわよね? はっ! もしかして……赤ちゃんって結婚していなくても、ちゅーするだけでできちゃいますの!?」


 彼女は世界の真実に辿り着いたかのような調子で言った。

 ああ、そうか。知らなかったのか。今朝も私たちが部屋に籠もってキスしていると思っていたのか。


「あの可愛い子、私の大親友なんですよ」

「あの可愛い子、ワタシの信徒なのですよ」


 私とサノンの声が重なる。そして互いを牽制するように睨み合った。

 第三ラウンドを始めるかと身構えると、パトリックがポツリと呟いた。


「おかしい」

「え? 何が?」

「ユミエラの結婚発言を聞いて、サノン様はすぐ行くと言った。ではなぜ、ユミエラはそんな突拍子もないことを言った?」

「だからデコちゃんの声を幻聴だと思って……」


 あれ? 確かにおかしい。

 この騒動の始まりは、エレノーラが聞いた「ユミエラに注意しろ」というサノンの言葉。今まで不干渉を貫き通した彼女が、なぜこのタイミングで行動を起こしたのか。


 サノンに理由を尋ねようとするが、その前にレムンが発言した。


「サノンは堪え性が無いからね。お姉さんの非常識さ加減に耐えかねて、大事な大事な彼女に注意を促したんでしょ」

「そうだな。俺は光の神を深く知らない。その説明でも納得はできる」

「……お兄さんは何に引っかかっているの?」

「今、この場にいるのがサノン様だけなら極めて自然な流れだろう。不自然なのはレムンだ。なぜ今日になって、ユミエラに接触した?」


 レムンは笑った表情のまま無言で固まる。

 サノンの乱入で有耶無耶になっていたが、彼はとても怪しい存在なのだった。闇の神の信仰が復活したというのは与太話だと判明した。


 全く別件で登場したと思われた二柱の神。私たちと彼らのファーストコンタクトはどちらも昨朝だ。レムンは私の夢の中に現れ、サノンはエレノーラに声を届けた。

 全ての始まりは一体何だ?


 問いただすべきは嘘をつけない方の神だ。私はサノンの目を見て言う。


「光の神サノン様にお尋ねします。昨日の朝、今まで不干渉を貫いたエレノーラ様に話しかけたのはなぜですか?」


 私の真面目な問いかけに、サノンは平坦な声で答える。まるで好きな食べ物を聞かれたときのような、取り留めのないことであるかのような調子で。


「平行世界のユミエラ・ドルクネスが人類を滅ぼしたからです」


コミカライズ始まりました! ニコニコ漫画やComicWalkerでも無料公開中です!(活動報告にリンクが貼ってあります) 小さいユミエラが本当に可愛い!!!


Web版、小説版、コミカライズ版と少しずつストーリーが違います。小説版よりもコメディよりでマイルド(?)になる予定です。アリシアとかも若干いい子になる予定ですので、フラットな目で見ていただけたらと思います。


テンポが良くてスルスル読める最高のコミカライズです。のこみ先生、ありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 無くなった [一言] 第二章までガンマして読んだ。 文才が無くなったのかと思うくらいつまらない。 キャラクターの性格が変わりすぎてついていけない。 第一章で終わっておけばよかったのにと思っ…
[一言] あの、パトリックさん、どうやったら10個の感情を混ぜた表情を作れるんですか・・・? しかも全部負の感情だし・・・。 とりあえず、久々のユミエラが通常営業で面白かったです。
[一言] そっちのユミエラ何しとん!?
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