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08 晴れ、時々エレノーラ

前回のあらすじ。

突如現れた光の神サノン(通称デコちゃん)と戦っていたらエレノーラが降ってきた。

「ユミエラ・ドルクネス! 何としてでも受け止めなさい! エレノーラが降ってきました」

「はい? エレノーラ様が? 降ってきた?」


 あまりに必死なサノンの言葉を聞いて、つい空を見上げてしまう。

 天から聞こえる悲鳴の主を視認。長い金髪でドレスを着た少女だ。トレードマークの縦ロールは風圧でほどけている。

 どう見てもエレノーラ。なぜ降ってきた。


「きゃあああああ」

「あー、ホントにエレノーラ様ですね」

「感心している場合ですか! ワタシの身体能力では彼女を受け止めきれません。急ぎなさい!」

「そんなこと言って、そこを攻撃する気では――」

「しません!」


 サノンが叫ぶと同時におでこも光る。記録更新の輝きだった。

 不意を突かれた私は、当然デコビームに射抜かれる。


「痛い痛い痛い」

「ああっ! ごめんなさいごめんなさい」


 サノンは手で額を覆い隠しながら謝る。

 無駄なやり取りをしている間にもエレノーラは地面と接近中。

 なぜ光の神が彼女の無事を気にかけるのかは分からないが、このままでは誰もが望まぬ展開になる。


 サノンは懇願するような目で私を見るが、私はまだ動かない。エレノーラを救う適任は彼女でもなければ私でもないのだ。


「パトリック!」

「分かっている」


 パトリックが空に片手をかざすと同時に、エレノーラの落下速度が緩やかになった。

 あれは彼の風属性魔法。目には見えないが、彼女は上向きの風に包み込まれている。このまま少し離れた場所に軟着陸するはずだ。

 これで安心だと私は心の中で一息つくが、どうやらサノンの内心は穏やかではないらしい。


「パトリック・アッシュバトン、良くやりました! ユミエラ・ドルクネス、早くエレノーラを受け止めなさい!」

「もう大丈夫ですよ。フワッと着地して怪我一つないはずです」

「何を悠長なことを! ゆっくりとはいえ、地面に叩きつけられるのですよ!?」


 あれ? おかしいのって私の方?

 少し不安になったのでパトリックに目を向けるが、彼も首を捻っていた。だよね、大丈夫だよね。

 しかし、サノンは額を両手で隠しながら懇願する。


「お願いです。エレノーラを救えるのは貴女しかいないのです」

「だから……はあ、分かりましたよ」


 世界を救って欲しいくらいの勢いに押されて、私はエレノーラを受け止めるために動き出す。

 数歩の助走を付けてジャンプ。建物の二階ほどの高さまで来ていたエレノーラを抱きとめた。

 そのまま自由落下。両足で大地に着地する。


 エレノーラは無事だ。今も元気に悲鳴を上げ続けている。両手が塞がっているので耳を塞げないのが辛い。


「きゃああああ! 落ちますわああああ!」

「あの、もう地面ですよ」

「……あら? ユミエラさん? わたくし、助かりましたの?」


 エレノーラは周囲を確認し、だいぶ遅れて自分が助かったことに気がついた。

 空から降ってきたお姫様に文句を言いつつ、地面にそっと立たせる。


「何がどうなったら空から落ちてくるんですか」

「……死ぬかと思いましたわ」


 エレノーラの両足は子鹿のようにガクガクになっていた。ふらついたところを慌てて支える。

 彼女の身に何が起こったのかは分からないが、本当に怖い思いをしたのだろう。大気圏突入にも耐えられそうな体になった私でも、落ちるのが怖いという感覚は覚えている。

 もう安全だよと、危機が訪れても私が守るよと、そんな意味を込めてエレノーラをギュッと抱きしめた。


「いやっほうっ! 生きてるって最高ですわ!」

「……結構、余裕あります?」

「しかも何故か、ユミエラさんにハグしていただけましたわ。空から落ちるのも悪くないかもしれませんわ!」

「あ、大丈夫そうですね」


 この人、肉体は弱くともメンタルがやたら強いんだよな。失念していた。

 同性とはいえ過剰にくっついているのも恥ずかしい。離れようとしたところで、横から声をかけられる。


「エレノーラとくっつき過ぎです! 早く離れなさい!」


 横を向くと、未だに額を両手で隠したサノンが至近距離にいた。

 エレノーラを助けろと言ったり、離れろと言ったりと注文が多い。まあ、丁度そうしようと思っていたところなので、素直に離れた。

 エレノーラは残念そうな顔をしつつも足取りは確かだ。そしてサノンを見て言った。


「あら? あなた、どこかでお会いしたことがあるような……?」

「実際に会うのはこれが初めてですね。御機嫌よう、エレノーラ」

「あっ! その声は神様ですわ! 本当に来てくださいましたのね!」

「今までは会話だけでしたが、こうして顔を見られることを嬉しく思います」


 エレノーラはこちらに来てからも教会に通うのは欠かさないほど信心深い。……信心深い? それはさておき、彼女がサノン教の熱心な信徒であることは間違いないだろう。

 とはいえ、神と会話したことがあるとは思わなかった。神の声が聞こえるなんて、今朝まではありえないことだと思っていたし。


 そうだ思い出した。昨日エレノーラは神様の声が聞こえたと言っていた。ユミエラを警戒しろとの声が聞こえたとか。幻聴じゃなかったんだ。


 エレノーラと会話するサノンはどこか嬉しそうだった。喜びの感情が抑えられないのか、額を抑える指の隙間から光が漏れ出ている。

 割って入ったらまたデコビームを食らいそうだなと思いつつも、私は彼女に話しかけた。


「天啓の話は昨日聞きましたよ。エレノーラ様に、私に気をつけるように伝えたとか」

「その通りです。ユミエラ・ドルクネス、貴女はエレノーラと距離を置きなさい」


 私の方を向くと同時に、サノンは厳しい表情に一変する。

 素直に「はい」とは答えられないな。エレノーラは私が一生養っていくと決めたのだ。


「理由をお聞かせください。エレノーラ様は私の大親友ですよ」

「理由は……色々あります。まず貴女はエレノーラに悪い影響を与えます。あと、エレノーラは貴女の親友である以前に、ワタシの大事な信徒です」

「悪影響なんて与えませんよ。サノン様、どこかの過保護な父親みたいなこと言いますね。あと、親友じゃなくて大親友です」

「今こうやってエレノーラが落ちてきたのも、貴女が原因ではないのですか? あと、エレノーラとの付き合いはワタシの方が長いです。話しかけたのは昨日ですが」


 冤罪をふっかけられた。私がエレノーラを空から突き落とすような真似をするわけ無いだろう。

 本人に聞けばハッキリすると考えエレノーラを見ると、言い争いを尻目に嬉しそうにしていた。なぜだろうかと彼女の呟きに耳を傾ける。


「えへへ、大親友……。それに神様とお話が出来るなんて夢みたいですわ……」

「かわいい。彼女、私の友達なんですよ」

「かわいい。彼女、ワタシの信徒なんですよ」


 いやいや、神様と親友なら親友が上でしょと優越感に浸る。

 悔しがっている様を眺めようと確認すると、サノンも勝ち誇ったような顔をしていた。

 どちらがエレノーラを手にするか決着を付けねば……その前に冤罪を晴らしておくか。


「エレノーラ様、どうして空から?」

「リューに乗って空を飛んでいましたの、そしたら――」

「ほらっ! あのドラゴンが原因ではないですか。ユミエラ・ドルクネスが悪いです」


 エレノーラが喋り終える前に、サノンが鬼の首取ったりと口を挟む。

 そうかだったのか、エレノーラはリュー君から落ちて……。ここはリューの保護者である私が責任を取らねばいけないかな。


「飛んでいたら突然、光の柱が現れましたの! すぐ近くでしたわ! その光を浴びたリューは痛そうに暴れだしまして……それで振り落とされてしまいましたの」


 光の柱というのは、私を攻撃するためにサノンが出したアレだろう。

 こいつがエレノーラ落下事件の黒幕か。しかもリューにも痛い思いをさせやがって。


 私と同じ闇属性のリューはさぞ痛かったことだろう。余波とはいえ、あの光の柱はとんでもない威力だ。

 無事だろうかと、空を見回すと……いた。

 離れた空からこちらを伺っている。普通に飛べているし、痛くてビックリしただけで体は大丈夫そうだな。

 目が合ったので、エレノーラは無事だと、怖いなら離れていて大丈夫だと、そんな意味を込めて手を軽く振った。


 そして真犯人のサノンに向き直り言う。


「光の柱を出した人が一番悪いですね」

「いや、それは……そもそもエレノーラがドラゴンに乗らなければ……」

「言い訳するんですか? 光の神を名乗っておきながら、恥ずかしくないんですか?」

「でも、ワタシは……」


 私がヤクザのように凄んでみせると、サノンはしゅんと落ち込んだようだ。

 更に問い詰めてやろうと一歩詰め寄ると、間にエレノーラが入ってきた。


「ユミエラさん! 神様をイジメるのは駄目ですわ!」

「いや、イジメているわけではなくてですね」

「エレノーラ! 流石ワタシの信徒!」


 エレノーラが味方と分かった途端に強気になったサノン。彼女は攻守交代とばかりに私に詰め寄る。額を光らせながら。


「だから何度も言っているでしょう。貴女はエレノーラと距離を置きなさい。ワタシの光に勝てるとお思いですか?」

「神様、ユミエラさんと離れる気はありませんわ!」

「エレノーラ様! 流石私の親友!」


 エレノーラは回れ右してサノンと向き合っている。やはり彼女は私の味方だったのだ。しかも上手いこと陰になってデコビームから守ってくれている。

 光の神は途端にしおらしい様子になり、おでこの光も萎むように消えていった。そして悲しげな声色で言った。


「ワタシはエレノーラのためを思って……」

「いくら神様のお言葉でも、お友達とお別れするのは嫌ですわ」

「そんな、貴女もなのですか、エレノーラ……。ワタシは、また……」


 サノンは目が虚ろになり様子がおかしい。

 危機感を覚えた私はエレノーラの前に出る。

 そしてパトリックの位置を確認。彼はサノンの後方にいた。いつでも挟み撃ちできる場所取りだ。

 いざとなったら私がエレノーラを退避させ、パトリックが足止めかな。

 彼と目でやり取りをしていると、サノンは突然涙を流し始めた。大粒の涙が頬を流れる。


「エレノーラはユミエラ・ドルクネスを選ぶのですね……。ユミエラ・ドルクネスと結婚して一生を添い遂げるのですね……。認めません、ワタシは認めませんよ……」


 は? 私とエレノーラが結婚? しないよ?


書籍2巻、おかげさまで好調のようです。ありがとうございます!


なろうのポイントも気が付いたら3万を越えていました。こちらで読んでいただけるのも嬉しいです。いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] すごく面白いです! 続きをよろしくお願いいたします!
[一言] エレノーラ様が♂であると神様が認めた!? ユミエラが実は♂かもしれない疑惑発生!! パトリックに明日はどっちだ… どんな平行世界線と混線してるのか駄女神デコちゃん
[一言] 生身で大気圏突入出来るような主人公が少女漫画に出ていいの
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