表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/170

03 世界の仕組み

 レムンは生きていた。人殺し、ではなく神殺しになってたまるか。神様は殺しちゃ駄目でしょ。

 気絶していたレムンが目覚めた後、影に出入りするところをパトリックに見せて貰い、情報共有が出来たところで私たちは彼から話を聞くことにした。


「うーん、どこから話せばいいかなあ」

「決まっています、影に入る方法です。私にも出来ますか? コツとかありますか?」

「それはボク個人の権能だから。お姉さんはいくら頑張っても無理だよ」

「……そうですか。もう聞きたいことは無いので、帰って頂いて構いませんよ」


 私は自分の足元を指差して言う。影に入れないと分かった途端、レムンに対する興味が急激に薄れていった。

 冷めた目でレムンを見ていると、彼は上目遣いで見つめ返してくる。


「お姉さんはボクの正体、気にならないの? 神っていうのは疑ってるでしょ?」

「神か神じゃないかで対応は変わらないので」

「お姉さんはボクの巫女さんなんだよ?」

「お姉さんか巫女さんか統一してください」


 もうどうでもいい。私は影に入れない、その事実が分かれば十分なのだ。

 若干涙目になったレムンを見かねて、パトリックが尋ねる。


「闇の神レムンという名前を聞いたことがないのだが、君は本当に神なのだろうか?」

「だよね、だよね、怪しいよね?」

「影に入れるのだから、ただの子供でないことは分かるのだが……疑って申し訳ない」

「……お兄さんは優しいね」


 レムンはパトリックに儚げな笑顔を向けながら言った。

 二人とも美形だから絵になる。じゃあ私は黙っていよう。私は観葉植物だ。


「お兄さんがボクの名前を知らないのも無理は無いよ。ボクへの信仰は既に失われているから……いや、失われていたから、が正しいのかな」

「今は闇の神の信仰が復活しているということだろうか。ユミエラを巫女と呼ぶことと関係が?」

「鋭いね、その通りだよ。えっと、どう言語化したらいいのかな……信仰パワー? みたいなのは、お姉さんを通してボクに流れてきているんだ」


 二人は揃って私を見る。いや、そんな教祖様みたいなことしてないから。観葉植物タイム終了。


「私、昨日まで神様とか信じてなかったんですけど」

「ボクの信仰が盛んなのはこの近くだし、間違いないと思うよ」

「その信仰が盛んな場所とやらの正確な位置は分かります?」

「もちろん、ここから歩いても行ける距離かな」


 間違いなくドルクネス領だ。私の身近に知らない宗教ができているのは嫌だなあ。私自身も何らかの形で巻き込まれているみたいだし。

 失われた信仰がなぜ我が領で蘇ったのか。そもそも、闇の神信仰が途絶えた理由とは? 美少年ぶりで失念していたが、彼が悪い神である可能性もある。


「私からも質問です。闇の神、というのは何なのかを具体的に教えてください」

「抽象的すぎない? まあいいや。ボクはこの世界が出来たと同時に生まれた六柱の神の一人。闇、夜、月、夢、幻、魔物、ダンジョン……他にも色々あるけど、そこら辺を司る神で――」

「待ってください。魔物の神様ってことですか? それってもう人類の敵では?」


 信仰が途絶えて当然の神様だった。

 レムンへの警戒を一段階上げる。パトリックが身構える気配も隣で感じた。

 この世界の歴史と魔物は切っても切り離せない。魔物に滅ぼされた国家は数知れず、魔物の出現しない場所を求めて、戦争が起こったことも幾度と繰り返されている。


 レムンはため息をついて、違う違うと手を振る。


「違うよ。魔物とは世界の代謝活動、世界中の魔力を循環させるために必要不可欠な存在なんだ。あれは自然現象の類だよ。世界に水は必要だけど、水害で命を落とす人もいるでしょ」

「世界のために魔物を産み出したと?」

「それも違う。ボクが生まれたときには、世界の仕組みはおおよそ完成していたから。ボクが産み出したのはダンジョンと魔道具くらいかな。魔物を人の寄り付かない地下に集めて、人の手では作り出せない道具を与えて……結構、人間のために頑張ったつもりなんだけどなあ」


 レムンは口を尖らせてそっぽを向いてしまう。その子供っぽい動作も私たちを油断させるためかもしれない。

 魔道具はたしかに便利だ。人間が作った魔道具はダンジョン産の物を参考に作っているみたいだし、動力として魔物から採れる魔石が使われている。


 彼が私たちの生活を豊かにしていることは間違いない。

 しかし、前世の記憶がある私だからこそ分かる。魔道具は人の役に立っていると同時に、科学の進歩を阻害している。この世界の技術は数百年も前から停滞しているのだ。


 彼は人のために道具を与えたのだろう。子供を案じる親のように。ただ与えるだけで、子供の成長を邪魔する親は正しいのだろうか。与えるだけの神は人類の敵か味方か。


 珍しく難しいことを考えて黙り込んでしまう。パトリックも思うところがあるのか無言のままだ。

 そんな私たちを見たレムンは、拗ねたフリを止めて話を続けた。


「それにさ、魔物がいないとレベルを上げるのも難しいでしょ? 体の全てが魔力で構成された魔物を倒すからこそ、人は力を得ることができるわけだし」

「レムン君! 疑ってすみませんでした。貴方様は素晴らしい神様です。今度、神殿を建てましょう」


 そうか、彼はレベル上げの神様だったのか。それならそうと早く言ってくれれば良かったのに。レムン君マジ神。

 科学の進歩? んなこと知らない。私に関係ない。ぶっちゃけどうでもいい。

 膝をついて頭を下げると、パトリックはボソリと呟く。


「ユミエラはそれでいいのか? ……まあ、いつも通りか」

「あ、これがお姉さんの平常運転なんだ」


 私ってレベル上げしか考えてない人みたいに思われてたの? 心外です。

 いや、そんなことよりレベル上げだ。私のレベルは上限99、その制限を解除できる方法を神様なら知っているかもしれない。


「レムン君はレベル上限を解放する方法を知っていますか?」

「……お姉さんのことは今まで見てきたけれど、実際に話してみると圧倒的だね」

「レベル99より上、ありますか? ありませんか?」


 頭を上げて目線を合わせる。真摯に尋ねれば、きっと彼は答えてくれるはず。この純粋な目を見ておくれ。レベルを上げて悪事を働く人間の目じゃないだろう?


「お姉さん、目が怖いよ?」

「レベル上限解放です」

「……色々と方法はあるよ。レベルの枷はこの世界の法則、単一世界の内側にだけ作用するものだから――」


 私は具体的な方法論を聞いている。世界の法則だとか理論だとかはどうでもいい。

 私は黙ってレムンの目を見つめる。彼の黒い瞳の中には、無表情ながらも凄みのある女の顔が映っている。


「分かった、言う、言うからそんなに見ないで。でも話には順序があるから世界の仕組みから。……信じられないかもしれないけれど、この世界以外の世界、つまり平行世界が無数に存在するんだ」

「別な大陸、という意味だろうか?」


 パトリックが疑問を呈する。私は異世界があることを身をもって知っているが、彼には信じがたい話なのだろう。


「そうじゃなくて、世界の全てが複数存在するんだ。太陽も月も大陸も人々も、世界の全てが、決して交わらない場所に確かに存在する」


 異世界の話がどうレベル上限解放に関わってくるのかは未だに謎だが、パトリックを置いてけぼりにするのも忍びない。

 彼に異世界を理解してもらうため、私も補足説明をする。


「世界によって大陸の形が違ったり、文明の発達度が違ったり、魔法が無かったり……ですよね」

「違うよ?」

「あれ?」

「お姉さんが言っているのは……異なる世界、異世界ってところかな? 理論上は存在するけれど、ボクの観測範囲外だから、存在するとは断言できないかな」


 そういえば彼は異世界ではなく平行世界と言っていた。なるほど、ファンタジーなやつじゃなくてSFなやつか。パトリックを混乱させて申し訳ない。


「分かりました。平行世界、基本はこの世界と同じで、細部に差異がある世界ですね」

「それ! お姉さんって意外と頭がいいんだね!」


 数々のひみつ道具を見て育ったので、SFの基礎知識は持ち合わせている。でもアレに並行世界って出てきたっけ? もしもボックスとかは平行世界かな。

 私達の会話を聞いて、パトリックも何となくのイメージができたようだ。


「つまり……この世界とほぼ同じ世界が存在し、そこにはこの世界と変わらない人々が暮らしている……で合っているか?」

「そうそう、そんな感じ」

「その世界には俺やユミエラもいるのか?」

「世界の数だけお兄さんも存在する。もちろん、お姉さんも……ね」


 なるほど、並行世界ね。異世界があるのだからそういうのがあっても不思議じゃない。

 それで、その話がどうレベル上限解放に関わってくるのだろうか。早く、早く続きを。


「さっきも言ったけれど、レベルの枷は単一世界の内部にのみ働く法則なんだ。樹を想像してみて? 無数に分かれた枝の一つがこの世界。枝一本ごとに、お姉さんたちが一人ひとり暮らしている」

「枝一本が単一世界ですか」

「そう。一つの世界にいる間はレベルの枷が働き続ける。その縛りから逃れるには、枝の住民から樹の住民にならないと駄目ってこと」


 枝の住民から樹の住民ね。レムンの言い回しは詩的で難解なようだが、すっと頭に入ってきた。

 この世界の住民から、無数に存在する平行世界全ての住民になれば……。無理じゃない?


「それって難しくないですか?」

「方法は幾つかあるよ。自分より位階が上の存在、樹の住民を倒すとか」

「位階が上……神様とかですか? レムン君を倒せばレベル上限が解放されます?」

「ふふっ、試してみる?」


 レムンは小悪魔的な笑みを浮かべて言った。

 なるほどなるほど、では私のやることは一つだ。

次回、衝撃の展開! ユミエラがレムンに殴りかかった理由とは!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アニメ放送中!
アニメ公式サイト オンエア情報
【2024/01/10】 小説6巻発売です!
カドカワBOOKS公式サイト gw3da0i61udyjawxccgcd983iazp_12c9_is_rs_2yoo.jpg

― 新着の感想 ―
[良い点] >「決まっています、影に入る方法です。私にも出来ますか? コツとかありますか?」 >「……そうですか。もう聞きたいことは無いので、帰って頂いて構いませんよ」 >いや、そんなことよりレベル上…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ