24 幕間 ヒルローズ、出立す
ごめんなさい、短いです。
なろう版で幕間(別キャラ視点)をやるのは初めてですね。
エレノーラ・ヒルローズは王都にある公爵邸の廊下を小走りで移動していた。大好きな父に、大事な話があると呼び出されたからだ。
彼女はヒルローズ公爵の部屋にノックも無しに飛び込む。
「お父様! わたくしが! 来ましたわ!」
「……エレノーラ、部屋に入るときはノックをしなさい。あと、もう少し静かにしなさい」
「分かりましたわ!」
エレノーラが元気よく返事をすると、公爵はため息をついて座るように言う。
ワクワクとした表情でちょこんと座る娘に彼が手渡したのは、大きな封筒だ。それを両手で受け取った彼女は、不思議そうな顔で封筒を開けようとする。
しかし、ヒルローズ公爵から待ったの声がかかった。
「待ちなさい、それはエレノーラ宛の物ではない。今からそれをロナルドに届けて欲しいのだ」
「お兄様宛のお手紙ですの?」
「ああ、そうだ。それを届けた後は、ロナルドの所で世話になりなさい」
「分かりましたわ?」
世話になるの意味がイマイチ分かっていないエレノーラに、公爵は噛み砕いて説明をする。
「……しばらくはロナルドの家に住むことになる。大事な物は持って行くように」
「お泊り会ですの!?」
エレノーラは目を輝かせて喜んだ。何を準備しようかと笑いながら考えるエレノーラに、公爵は釘を刺す。
「本当に、本当に大事な物だけを持っていきなさい。もうここには帰ってこられないつもりで」
「え? 帰れないのは嫌ですわ! お父様とお会いできませんもの」
「……それくらいのつもりで、という意味だ。また会える、愛しているよエレノーラ」
「わたくしも大好きですわ!」
公爵はエレノーラを軽く抱きしめると、話は終わりだと退室を促した。
ご機嫌で部屋を出ていく彼女は、振り返らない。悲壮な顔の父に、気が付かない。大好きな公爵に会う最後の機会だとは、分かるはずもなかった。
部屋に取り残された公爵は目を瞑って涙を堪えていた。彼には使命がある。泣いている暇は無かった。
大きく深呼吸をして己を落ち着かせたヒルローズ公爵は、ニヤリと口元を歪める。
「ついに来た、公爵家の使命を果たすときが、王家に反旗を翻すときが。準備は万端、後は我らの意思を継ぐ者を用意するだけだ」
彼は百パーセントの確率で計画が成功すると確信していた。計画書を受け取った息子は上手く立ち回ると信じていた。
「行くか、ドルクネス領へ」
公爵は満を持して立ち上がる。向かうは、後継者として目を付けている者がいる場所。
実際にここまでの彼の計画は完璧だった……ある一点を除いて。
◆ ◆ ◆
公爵の部屋を後にしたエレノーラは、私室でお泊り会に必要な物を漁っていた。
そこにノックの音がする。聞こえてきたのは公爵邸の使用人の声だ。
「お嬢様宛に手紙が来ております」
「お手紙? 誰からですの?」
「ドルクネス伯爵です」
「ユミエラさん!?」
普段はエレノーラの方からユミエラに出向いてばかりで、その逆は極めて少ない。故に、エレノーラは親友からの手紙に大層喜んだ。
使用人から奪い取るように手紙を受け取り、いそいそと封を切って便箋の文字に目を走らせる。
「やりましたわ!」
「お嬢様、落ち着いてください」
エレノーラは突然にガッツポーズを取る。
手紙の内容は、ユミエラとパトリックの結婚を知らせるものだ。半年後には結婚式を執り行うことも記載されている。
使用人の制止も無視して、エレノーラはピョンピョンと跳ねながら喜ぶ。
「おめでたいですわ! ああ、早くユミエラさんにおめでとうと言いに行かないと! 馬車を用意して! ドルクネス領に行きますわ!」
エレノーラは着の身着のままで公爵邸を飛び出す。向かうは、祝わねばならない友がいる場所。
小脇には、父から受け取った大きな封筒を抱えていた。
王都で始まり王都で終わると思われた此度の騒動、決戦の地はドルクネス領となる。





