27 エピローグ
とある街の大広場は活気に満ち満ちていた。その一角に吟遊詩人の男が現れると周囲には人が集まる。
彼は歌を始めようとするが子供の声に遮られてしまう。
「吟遊詩人が来てるんだって!」
「ぎんゆうしじん? それって何?」
「歌を歌う人だよ、お話の歌を歌うの」
「子どもたちは前の方へおいで」
男は嫌な顔一つせず、子供たちを笑顔で迎え入れる。
その子どもたちは下は五歳くらいから上は十二歳くらいであった。男女と年齢、関係なしに仲良くしている様子だ。
「おや? 珍しい髪の子がいるね」
「お母さんもこの色なんだ!」
「いいなあ、私も黒い髪が良かった」
彼の言う通り、子どもたちの中に珍しい髪色の少女が一人混じっていた。少女は髪を自慢げにしており、他の少女はその髪を羨ましげに見る。
「では、魔王を打倒した王子と黒髪の乙女の話だ――」
吟遊詩人の歌が始まった。
王子と聖女、剣の天才と魔法の天才、そして黒髪の乙女が協力して魔王に立ち向かう話だ。三人は魔王によって倒されてしまうが、王子と乙女は諦めず、遂には魔王を打ち倒す。
「――ここまで。王子と乙女は一緒になりませんでしたが、二人は幸せに暮らしましたとさ」
広場に拍手が巻き起こる。子どもたちは初めて聞く歌に興奮している。
「すごい! すごい! そんな人がいるんだ!」
感激している少女に吟遊詩人は不思議そうにする。
「え? この話を知らないのかい? だって黒髪の乙女はこの街の――」
「あ、リュー君が帰ってきたよ」
一人の少年が空を指差す。その指の先には真っ黒なドラゴンが空を悠々と飛んでいた。
吟遊詩人は初めて見るドラゴンに口を大きく開けて驚くが、街の人々はさして気にする様子も無い。
子供たちはドラゴンに向かって大きく手を振る。
「リューくーん」
ドラゴンはその呼びかけに応えるように、空中でグルグルと横回転をする。
それを見た黒髪の少女はボソリと呟いた。
「あーあ、お母さんはいいけど、お父さんはかわいそう」
そのドラゴンに乗っている人物が誰かは、ここからではまだ見えない。
これで一応完結です。そもそも、この話のコンセプトは「ゲームの舞台から飛び出さない最強悪役令嬢」でした。
この後、二章で内政編も考えましたが何か違うのかなと(もしかしたらやるかも)
初めは前話で完結予定でしたが、あまりに後味が悪いのでエピローグを付け加えました。
追記、書籍版が発売されます。追加エピソード、別キャラ視点の幕間が加わりまして1.5倍以上のボリュームになっています。よろしかったら是非。
追記の追記
書籍版含め、他媒体では別の終わり方になります。ひでー終わり方だと思っても嫌いにならないでー