6-20右 右と左の最終決戦!
◆6-20右 右と左の最終決戦!
「防がれたか」
聖剣の切っ先は、左ユミエラの直前で止まっていた。彼女の周りに結界が発生しているためだ。
結界は四角錐と表現すればいいだろうか、ピラミッドみたいな形のバリアが展開されていた。本体のお前がバリア貼るんかい。
勇者の一撃は結界を貫いていた。しかし威力は削がれ、本体に届く前に動きが止まるほどだ。
バリアの裂け目はすぐさま修復が始まる。勇者の判断は早く、剣が抜けなくなる前に後退、落下して一度距離を取った。
かつてエレノーラ父が教会から盗んだ光の結界に似ている。あれには私も苦労させられた。
聖剣のあの攻撃が防がれて、すぐに穴も塞がっちゃうとなると、攻略法は限られる。それこそ空間ごと削り取るしか……。
「あれは私じゃないと――」
「もう一度だ!」
ようやく出番かと思ったが、私の加勢を待たずに再び勇者は飛び出していく。
すぐ再生するバリアは危ない。何とか穴を開けても、閉じる前に向こう側に入り込まなければならないのだ。現に私は例の結界で腕がスッパリと切り落とされたことがある。
勇者は振り返らない。前だけを向いて、各所に設置された足場を伝い加速する。
バリアが近づいても彼は動きを止めず、対処する様子が見られない。このままじゃバリアに激突しちゃう。知らないよ? 私は何もできないよ?
「ブラックホール」
バリアの平面を無視して、黒い立体球が現れる。
私が突破法としてまず思いついた、闇属性の最上位魔法ブラックホール。使用できるのは裏ボスユミエラ・ドルクネスとそして――
勇者は前を向いたまま、もう一人の使用者へと声をかけた。
「君なら合わせてくれると信じていたよ」
「何度お前の無茶振りに応じたと思っている?」
つまらなそうに鼻を鳴らす魔王は、いつの間にか勇者の背中を追っていた。
そして勇者は、ブラックホールが消えバリアが復活する僅かな時間をピンポイントで狙う。
「僕だけの力じゃない。これは僕と最高の臣下、二人の一撃だ」
勇者と魔王の息が合ったコンビネーションは、ついに左ユミエラ本体に届く。
彼らに呼応するように聖剣は輝きをさらに増した。影になった魔王により、勇者の輝きが殊更に際立つ。
ああ、すごいな勇者。闇すらも味方に付けた彼の光は、ユミエラ・ドルクネスを打倒しうるものかもしれない。
勇者の最後の一撃は、確かにユミエラに届いた。
届いて、そして……。
「……まさか無傷とは」
左ユミエラは何もしなかった。何もしなくて良い、正面から受けても傷ひとつ付いていないのだから。
彼は確かに強かった。しかし、左ユミエラが全く本気を出していなかったのも事実だろう。
「遊ばれていただけか」
勇者が自嘲する。
ごめんなさい。たぶん、ホントに遊んでただけなんです。勇者様を馬鹿にするために遊んでたとかじゃなくて、自分が楽しいから遊んでいただけなんです。子供のごっこ遊びに付き合わされたんです。
申し訳ない。勇者は確かに強かったが、左ユミエラが全く脅威と感じていなかったのも事実だ。
どれだけ攻撃を避けられようとも、仮に勇者が脅威であれば、絶対に移動できない範囲を丸ごと消し飛ばせば済む話だ。半分でも私ならできる。
しかし、意味はあった。
歯牙にかけずとも左ユミエラは勇者に意識を割いていた。
勇者の一撃が効かなかった今、左ユミエラに対抗できるのは同格の……いいや左側なんかよりずっと強い存在だけ。その世界最強の存在が、左ユミエラの上を取る隙を勇者は稼いでくれた。
黒い翼の隙間から、見上げる勇者と、見下ろす私の目が合う。
「頼む、君が世界を救ってくれ」
勇者の作った隙を利用し迂回していた私は、左ユミエラの真上まで来ている。
地の利は逆転した。それの立役者である勇者から想いを託されるが、今は世界とかどうでもいい。
「私の方が! 右側の方が強い!」
ユミエラの左側VS右側。
無意識のうちにやっていた一試合目は左が薄明の国行きで右の勝利。
これから始まる二試合目も、私が勝ってやる!