6-18右 謎の共同戦線
◆6-18右 謎の共同戦線
「今こそ皆の力を合わせるときだ。僕は王として厄災から世界を守る!」
だれぇ? 王様は王様っぽくないはずなのにすごい王様っぽい。
頭とか風体とか態度とか、残念な意味で色々と悪かった王様が死後さらに悪化したはずなのに……。これ誰? 別の方ですか?
知らない人の登場に私とパトリックが困惑していると、王様っぽい人は凛々しい顔で語りかけてくる。
「こうなっては敵も味方も関係ない。全てのしがらみを排して、今は協力しよう!」
王様っぽいなぁ……。でもバルシャイン初代国王っぽくないなぁ……。
本人確認ができる魔王を見ると、彼はあからさまに顔をしかめていた。
「お前、バルシャインを無くすという野望はどうした?」
「罪なき多くの人々が危機に瀕している。自分の都合なんて構っていられない。君もどうか協力して欲しい」
そう言って王様カッコカリは深々と頭を下げる。宿敵に下に出られた魔王様はすごい勢いで手帳に文字を書き走る。
『ユミユミ助けて! あの人ぜんぜん自分勝手じゃない! コワイ!』
薄明の国で初代国王は変わってしまったと魔王は語った。その通り、彼は完全に変わり果ててしまったのだ。
だから私は王様っぽい人が本当に王様なのか分からなかった。なんてお労しい姿に……おいたわしいか?
「まともになってるなら良くないですか?」
「良くない! あれは……おかしい!」
魔王の、手帳と現実の反応が初めて一致した。そんなに嫌なんだ。
かつての姿を知っていると受け入れがたいだろうけど、私にとっては好都合な気がする。
危険なのが二つと、危険なのプラスそれの対処に協力的な人。後者が断然いい。
パトリックにも同意を求める。
「こっちの方がいいよね?」
「……どちらかと言えば」
あれ? 左ユミエラ討伐隊が増えたのに、彼の言葉は歯切れが悪かった。
私たちのやり取りを聞いて、勇者は満足そうにうなずく。
「共に戦えて嬉しいぞ。ユミエラと……君の名を聞いていなかったね」
「パトリック・アッシュバトンです」
共闘へ向けて自己紹介を済ませるが……突如として勇者は後方に飛び退いた。剣に手もかけている。
「アッシュバトン!? な、何の用があって来た!?」
王様らしく余裕たっぷりだったのに、急に取り乱してしまった勇者に戸惑っている間に、魔王もパトリックから距離を取る。そして勇者の背中の後ろに隠れてしまった。
「どうして僕を盾にするんだ!? いくら僕でもアッシュバトンとの戦いは避けたい」
「アッシュバトンを怒らせたのは貴様ではないか! 王なら責任くらい取ってみせろ!」
勇者と魔王はお互いに背中を押し合って、自分だけが助かろうと頑張り始めた。仲良しじゃん。
しかし珍しい。私とパトリックが並んでいて、彼だけ怖がられる状況は初めてのはず。
たぶん二人は当時のアッシュバトン辺境伯を、つまりはパトリックのご先祖さまにビビっているのだろう。
大昔に亡くなった人だから怖がる必要はない。それを説明しようとしたところ、魔王が事実に気がついたようだ。
「……ん? 我輩の時代のアッシュバトン公は既にいないはずでは?」
「本当だ! 流石は僕の一番の家臣」
「お前が早合点するから我輩まで驚いたではないか。もう少し頭を使え」
王様らしい威厳溢れる見た目の勇者だったが、ちょっとキャラ崩壊しかけていた。
魔王も近い距離のまま自然体で話しているし、当時の彼らに少し寄っているのかもしれない。
ご先祖様を怖い人呼ばわりされたパトリックであったが、あまり気にした様子を見せずに勇者たちに話しかける。変な人への対応力すご。
「厄災から人々を守る……とおっしゃいましたよね? 俺たちも目的は同じですが手段によっては協力できかねます」
「君の言い分も理解できる。しかし、王は最大公約数的な民の幸せを追求するものだ。僕は手段を選んでいられない立場にある」
急にまた王様らしくなった気がする。彼がパトリックと喋りだした途端、魔王が苦虫を噛み潰したような顔になったので、先は少しだけ元の雰囲気を取り戻していたのだろう。
その間にも黒髪じゃないチーム二人の会話は続く。
「上空のアレはユミエラです。俺は力ずくで排除なんてできません」
「君にとっては大事な人でも国を脅かす存在であるのは明白なのだから――」
そういう話の流れか。私はパトリックほど私を心配していないので気づくのが遅れた。
勇者が喋っている間に「私を倒すか否か」で議論していると分かったが、彼の語りは途中から雲行きが怪しくなる。
「――上空のアレは手段を選ばずに止めるべき…………ダメだ、それじゃ一緒になる」
「一緒?」
「そうだ。僕は全てを救える完璧な王なんだ。全員を幸せにしなければ意味が無いんだ。邪悪な人外に成り果てた人でも助けなければ、僕は同じ過ちを繰り返すことに……」
まずいぞ。理屈は分からないが、パトリックだけでなく勇者までもが左ユミエラ擁護派になりそうだ。
勇者の言の通り、あんなん邪悪な人外なんだから、やっつけてでも止めないと絶対ダメじゃん。でも大丈夫、右の私の方が強いから!
「やっつけた方がいいですよ! 本人が言ってるんですから間違いありません」
「でも僕は――」
「大丈夫ですって。一発殴ったら元に戻るかもしれませんし」
「そうか……そうだね。最悪の結末になると決まっているわけじゃない。王として希望を捨てずに最後まで足掻こう!」
勇者サマ偉いぞ! 左ユミエラ撃退に燃える、元のキラキラ王様スタイルに戻ってくれた。
あと問題なのはパトリックだ。断固反対の姿勢のまま、彼は私に私の討伐反対を訴えかける。
「自分の片側なんだぞ! 対処を間違えればユミエラはずっと左半身が動かないままだ」
「パトリック。冷静に考えてみて。今ここにいる私と、上に浮かんでる私……どっちがいい?」
「どっちがいいて、そんな…………」
パトリックは今も黒い翼を広げ続けている私を見上げ、片側が動かない以外は通常通りな私を見つめ、降臨した邪神にしか見えない私を再び見上げ、見た目も人間だし普通に会話も可能な私を見つめ……。
視線を上と下に、私の左側と右側を、交互に見たパトリックはついに口を開いた。
「…………どっちもユミエラだ」
「その沈黙が答えだよね」
パトリックは巨大ロボや巨大怪獣にテンションが上がらない人間なので、タイプなのが間違いなく私の方だ。付け加えると、上空のアレを選んだ場合は世界が滅ぶというオマケが付く。
彼は散々悩んだ末、ポツリと零すように言った。
「まあ、ユミエラが簡単に死ぬとも思えないしな」
「そうだよ! 私のこと心配するだけ損だよ」
自分で言っててちょっと悲しくなったが、まごうことなき事実なので仕方ない。
パトリックの説得が完了。続いて勇者が魔王に向かって言う。
「君はどうだい? 一緒に戦ってくれるよね?」
「出来ることはやってやろう。いつも通りだ……言動には鳥肌が立つが」
勇者のやること全部に反対しそうだった魔王はすぐに了承する。バルシャイン王国滅亡以外にはあまりこだわりが無いのかもしれない。
すごい戦力の四人による共同戦線ができたぞ。
謎メンバーをぐるりと見回すと、空を見上げていたパトリックが険しい表情になっていた。
「どうしたの?」
「……落ちてきてないか?」
うっそ!? 落ちてくる!?





