【おバトル】エレノーラVSスライム【ですわ】
一・十・百……ひく1は99!
悪役令嬢レベル99の番外編ですわ~!!
エレノーラは生粋のお嬢様だ。お嬢様得点を付けるなら壱百万点は間違いない。
そんなお嬢様だからこそ、レベルを上げるべきだと思うのだ。ただのお嬢様では、怖い屋敷に潜入して生物兵器と戦うなんてできない。
さてさて、こんな具合にレベル上げ卿な私であるが、エレノーラを誘ったことはほぼ無い。レベルに関しては見境なしな自覚はあるので――
「――不思議に思われる方もいるだろう」
「突然、不思議って言い出すのが不思議ですわ」
「すみません、びっくりしましたよね」
「慣れっこですわ」
この会話だと、私がボケでエレノーラがツッコミみたいな雰囲気が出てるけど、本来は逆である。
私の話をニコニコ聞いているお嬢様は、見た目だけ見れば勝ち気で自身家で高慢なのだが、中身は元気いっぱいで純粋無垢でアホアホなお人だ。
「エレノーラ様から私の奇行には慣れました……みたいに言われるのは納得いかないんですよね。パトリックとかから言われるなら分かるんですけど」
「どうしてですの? わたくし、ユミエラさんほど変わってはいませんわよ」
変わってると思うけどな。
そんなエレノーラに負けず劣らずなのがヒルローズ元公爵、エレノーラパパだ。
彼が起こした反乱騒動のさい、なんやかんやでエレノーラにレベル上げをさせないと約束してしまったのだ。
約束はちゃんと守る方なので、今日までエレノーラをレベル上げの道に引き込むことは無かった。
そう、約束は守るんですよ。抜け道を探したり、言い訳できるラインを探るだけなんです。
この件に関してはそういうグレーなことをやるつもりもない。だって、エレノーラパパを怒らせると面倒くさいし。
そういうわけで、毎日を穏やかに過ごすお嬢様はのほほんと喋る。
「ユミエラさんの方が変わってますわ。レベル上げのことしか考えていませんもの」
「もう少し色々考えてますよ」
「レベルを上げるのの何が楽しいのか……そういえば、わたくしレベル1でしたわね」
興味あるならちょこっとだけやりません?
って言いたい。でも我慢。私から誘ってはいけない。
続くエレノーラの言葉を、私は唾を飲んで聞いた。
「レベル上げ。魔物と戦うのですわよね? ちょっとやってみようかしら」
かくして彼女は自分からレベル上げすると言い出した。パパとの約束は反故にしていない。
◇
やってきました。森。
魔物は魔力豊富な特定のエリアから外に出てこないので、戦うにはこちらから出向く必要がある。
特にドルクネス領では、ここ十五年ほどで魔物の数がだいぶ減っている。初心者向けの魔物を探すのも一苦労だったりするのだ。
エレノーラは前に私がプレゼントした短剣を腰に飾り、意気揚々と歩いている。
「何が出てきますの?」
「スライムです。それ以外が出てきたら私が処理します」
運の良いことにスライムはすぐに見つかった。
青くて小さなプニプニ生物だ。生態が気になるところではあるが、魔物は魔力だけで構成された、生物の定義から若干はずれている存在だ。生態調査も徒労に終わる。
そしてお嬢様はスライムとのバトルに移る。
「出ましたわね!」
「私は周囲を警戒しておくんで、終わったら言ってください」
「すぐに片付けますわよ!」
今回の獲物はスライムに絞っていた。
スライムとにかく弱い。子供でも余裕で勝てる。
それでも子供のスライム狩りが世間で推奨されない、それには理由がある。
スライムが出るということは魔物の領域。つまり他の魔物も出てくるのだ。普通の子供は、スライムに勝てても、野犬クラスの魔物に襲われたら危ない。だからこの世界ではレベル上げに消極的だ……とパトリックが言ってた。
今回は最強の護衛がついているので、エレノーラはスライムに専念できる。
どれだけお嬢様の戦闘力を低く見積もっても、スライムのクリティカルを考慮しても、とんでもない不運に見舞われても、危険はゼロと言い切れよう。
そんなことをのんびり考えつつ、私は周囲の警戒を怠らない。
スライムに危険が無い以上、脅威は周辺からやってくる。私はエレノーラにこてんぱんにされるスライムには目を向けず、辺り一帯を見回していた。
スライムね。そう言えば昔、スライム遊びしたな。
前世のスライムはホウ砂で作る動かないおもちゃだったので……おもちゃ? 前世の日本にある方のスライムっておもちゃに分類していいのかな? 遊び以外には使えないからおもちゃかな?
でもキーボードの掃除にスライムが使えたような……? でもスライムはそれがメインじゃない。プチプチは遊びにも使える梱包材だけど、スライムは掃除に使えるかもしれないおもちゃの域を出ない。
しかし、暇だな。警戒は怠っていないが時間を持て余す。そろそろ終わらんのか。
「エレノーラ様、どうですかスライムは?」
あ、スライム風呂って動画サイトであったな。色んな人がやってた。
色んな人がやっているで言えば、熱した鉄球とかも良く見たな。…………やるか。動画サイトに進出して、登録者数100万人を目指そうか。
「鉄球をアチアチにするのって面白そうじゃないですか?」
あつあつ鉄球について聞きたくて、エレノーラに視線を向ける。
そこそこ時間は経過したはずだが、彼女とスライムの戦闘はまだ継続中だった。
エレノーラは仰向けに寝転がり、スライムを顔の上に乗せている。
「んーんー」
「……なにしてんですか?」
スライムはお嬢様の顔全体に広がって、ふよふよと動いていた。エレノーラの手に掴まれそうになるが、持ち前のぬるぬるを活かして器用にすり抜けていた。
「んーむーんー」
「……あっ! 掴んだ!」
エレノーラはついにスライムを掴んだ。顔から引き剥がそうとするが、スライムも頑張って張り付いている。最弱と最弱の力比べだ!
勝負はすぐに決まった。
エレノーラは顔から剥がすのを諦めて、腕を力なく放り出す。
スライムの勝ち! エレノーラ様、スライムに敗北!
「惜しかったですね、エレノーラ様」
「」
「……エレノーラ様? エレノーラ様!?」
◇
窒息していたエレノーラは無事だった。
本人は二戦目に行こうとしたけど、連れて帰った。
エレノーラはスライムより弱いと分かった。
誰彼構わずレベル上げを勧めるのは辞めようって、私は思った。
書籍5巻の発売がいよいよ明日です!
書き下ろし箇所の紹介などを活動報告に書いています。興味のある方はぜひ!





