5-08 キラキラストリート毒沼
短いです。区切るとこがここしかありませんでした。
◆5-08 キラキラストリート毒沼
キラキラストリート毒沼。王都の貴族街に位置する通りだ。貴族の邸宅が集まる地域に突然、商業区画が出現する。ありとあらゆるキラキラ店が集まっているボスラッシュ的ストリート。どれも貴族をターゲットにした高級店だ。
キラキラ服飾店。ウィンドウにあるピンクのドレスにより最大HPの一割が削られる。
キラキラ喫茶店。ダサい服装で入ったら店員と客から笑われそうな雰囲気により最大HPの一割が削られる。
キラキラ宝石店。宝石の光度以上の輝きに身を貫かれ、また一割。
キラキラ香水店。店の外観を見ただけで息が苦しくなる。割合ダメージ。
キラキラ紅茶専門店。紅茶は好きだから耐えられ……あっ! 中から前述の四店舗をはしごしたとしか思えないお洒落星人が出てきた。最大HPの一割が消える。
ぐうぅ……。高濃度のキラキラ瘴気により、歩くだけで私のHPはジワジワと削られていく。毒特有の割合ダメージが累積して、私のHPはもう半分しか残っていない。黄色ゲージだ。
「ここに来ると、王都が恋しくなってきますわね」
「キラキラストリート毒沼ですよ?」
「え? 何ですのそれ?」
通りの名称が、エレノーラに通じないのも無理はない。だって、キラキラストリート毒沼は、私が勝手に名付けただけなのだから。毒沼なんて名前の通りがあってたまるか。
初めて迷い込んで、体を赤く点滅させながら脱出して以来、ここには来ていなかった。残念ながら、浄化されずに残っていたようだ。
このような場所が浄化される事案は存在する。前世で私が住んでいた街にあったお洒落なファッションビルは、数年の間にオタクビルへと変貌を遂げたのだ。アニメショップが数種類、漫画とラノベ専門の本屋、カードショップ、パソコンショップ、模型屋……というボーナスステージ状態だった。
キラキラストリート毒沼も、前述のビルのように浄化……浄化と言うより侵食? まあ、そうなっていれば良かったのだが、相変わらずのオシャレ空間のようだ。エレノーラは楽しそうに並ぶ店を眺めているけれど、私は生命力が減らされていく。
早く抜け出さないと。このままでは神経に異常をきたし、内臓も機能不全に陥り、最終的には骨だけ残して肉体が溶解してしまう……気がする。それくらい、私に似つかわしくない空間だ。分かってるよ、私が勝手に苦手意識を持って、勝手にダメージを受けていることくらい。
現にエレノーラは、継続ダメージを受けることなく歩行している。この通りに負けないくらいに輝いた笑顔で、彼女は言った。
「どこも久しぶりで、明日が楽しみですわ」
「明日ですか?」
「今日はウエディングドレスの採寸をして、明日以降は好きな場所を回りましょうって、パトリック様と計画していましたの。ユミエラさんは装備? を作りに行くのでしたわね」
聞かされていないです。初日の予定が分かった段階で、私は全行程を拒否するはずなので、パトリックたちの選択は正しい。
明日は別行動か。彼女がアーキアムの屋敷を見つける直前にも、買い物に付き合うことを私は断った。だって、長いし、興味ないし……。打ち合わせで別行動の予定を立てるあたり、エレノーラも私の性質は分かっているはずだ。それでも彼女は、一緒に回りたいって言ったんだよな……。
「私は強いです」
「……そうですわね?」
私の唐突な宣言に、エレノーラはポカンとしつつも同意してくれた。
私は強い。レベル99を超えて、レベルは測定不能だ。HP総量が関係ない割合ダメージを食らおうとも、回復魔法を使えばMPをHPに変換することができる。
「強いので……まあ、つまり、毒は効かないんです。毒沼でも平気で行動できます」
ここの毒は少しばかり眩しいけれど、私は最強だからへっちゃらだ。
分かれと言うには無理がある湾曲した表現を止めて、私はストレートに伝えた。
「これから一緒に、ショッピングをしませんか?」
「……え! 本当に!?」
そのときのエレノーラの顔は、このキラキラ毒沼なんて比ではないほどの猛毒だった。オシャレ空間で倒れる前に、彼女の笑顔にやられてしまいそうだ。
「やった! どんな順番で回りましょう? うーん……選べませんわ」
「…………一軒だけにしません?」
 





